14 / 33
第一章
第13話 漆黒×管理者
しおりを挟む
突如として現れた漆黒の女性。
顔も、背丈も、髪色も、服装も、すべてが純白の管理者と瓜二つ。唯一違うのは、着ている服の色が漆黒ということ。それ以外に違いがないにもかかわらず、受ける印象はまったく異なる。
漆黒の女性は、余裕を浮かべるかのように微笑み、纏う雰囲気に妖艶さがあった。
「さっきの声は、アンタか?」
漆黒の女性に目を向け、刺々しい声で尋ねる。
「ええ、そう。美しい子にとってはとてもつまらない話ではあるのだけれど、どうしてもこの女の話を聞いて欲しいの。ダメかしら?」
漆黒の女性は、こちらを見つめながら小首を傾げる。
囁くような甘い吐息交じりの声が、彼女の妖女らしさを際立ていた。が――、
「断る。どうして、俺が話を聞かないといけないんだ」
五人が生き返ることはないと、純白の管理者に断言された。
希望を抱いたことは、勝手に先走った自分が悪い。未練を断ち切り、改めて罪を背負って歩んでいくと決意を固める。しかし――、
「そもそも、人間の話は聞かず、自分の話は聞いてくださいってか? ずいぶん、都合の良い神様もいたもんだな。もう一度言うぞ、断る。わかったら、さっさと俺を元の場所に戻せ」
決意とは別に、どうしても五人の命をぞんざいに扱った純白の管理者のことを赦すことができない。
純白の管理者は、口を固く結び、神妙な面持ちをこちらに向けていた。
「おい、黙ってないで何か言ったらどうだ!」
漆黒の女性が現れてから黙りこくっている純白の管理者に、語気を強めて声を掛ける。すると、純白の管理者は小さな声で話し出す。
「貴方の怒りは分かります。ですが、どうか、まず私の話を――」
「ッ! アンタに分かるわけねぇだろ! 人間の真似事だけをしてるアンタに! それとも何か、本当に理解してるって言うのか? なら、言ってみろよッ!」
純白の管理者の軽はずみな発言に、頭に血を昇らせる。
「それは……」
純白の管理者は弁明しようとしたが、言葉を紡ぐことが出来ずに黙ってしまう。
ただ、縋る様な表情だけは向け続けていた。
こんな状況になっても、純白の管理者の瞳には感情や生気が宿っていない。その瞳を目にしていると、次第に人間の猿真似をしているように感じ、怒りが込み上がってくる。
「ちッ」
頭を冷やすために、出口がないか周囲を見回す。しかし、出口と思しきものは見当たらない。
頭に妥協という文字が浮かぶ。
話を聞きさえすれば、純白の管理者は元の場所に戻すだろう。
それが最善の選択だと、頭では理解している。
ただ、意地を張っているだけということも。
黙って話を聞くだけで、元の場所に戻れる。
約束を果たせるのだ。
だが、頭が合理的に考えれば考えるほど、心が反発する。
「ふふ」
漆黒の管理者が、突然笑みを零した。
目だけを、漆黒の女性に向ける。
「素敵。本当ならもっと眺めていたいのだけれど、それは楽しみに残しておくわ。だから、こういうのはどうかしら? この女の話を聞いてくれたのなら、美しい子が知りたいことを私が教えるわ」
「……俺の知りたいこと?」
「ええ、そう」
漆黒の女性の唐突な提案に、気味の悪い猜疑心を抱く。
(何を考えてる……?)
純白の管理者を後押しするような提案。所感だが、漆黒の女性は純白の管理者に対して好感を持っていないように見えた。
(罠? 本当は裏で繋がってて、そう見えるようにしてた? なら、やっぱり話は聞かない方がいいのか?)
話を聞くか、聞かないか、思考が堂々巡りをし出す。そのため、漆黒の女性の思惑や真意を探るために追及する。
「なんだ? 出口でも教えてくれるのか?」
「いいえ」
間を置いた悠長な話し方をする漆黒の管理者に対し、燻っていた怒りが再燃していく。
「なら、なんだ?」
先を促すが、漆黒の管理者は微笑むだけで何も答えない。
「おいッ!」
とうとう怒りが弾け、大声を上げてしまう。
「あァ、やっぱり素敵……」
漆黒の女性は、大声に動じるどころか、頬を赤らめ、愉悦の表情を浮かべる。
「ッ!」
漆黒の女性の態度に、我慢できず、一歩詰め寄る。
すると漆黒の女性は、顔に手を当て、惚けた表情のまま口を開く。
「ホリィの居場所を教えるわ」
「……なッ」
漆黒の女性の予想外の発言に、足を止めてしまう。
硬直した体とは裏腹に、頭の中で目まぐるしく思考が巡る。
漆黒の女性は、全てを知っているのか。
見ていたのか。
違う。
全てを見通せるのだ。
純白の管理者と瓜二つということは、漆黒の女性も神なのだ。
(――……待て、そういえば、なんでコイツから力を感じない……?)
純白の管理者は、太陽の如き力を感じ取った。
ところが、漆黒の管理者からは何も感じ取れない。
その訳は……。
とある考えが浮かび、体に寒気が走った。
「ふふ……」
漆黒の管理者が、また笑った。
数秒の空白が流れた後、ある考えに至り、息を呑む。
心を読まれている。
「どうかしら?」
漆黒の管理者は、再び尋ねてきた。
相手は、神。
初めから、選択肢は無かったのだと悟る。
「話を聞いたら、必ず居場所を教えるって約束しろ」
「ええ、約束するわ。それと、私はこの女が嫌いよ。だから、繋がってなんかないわ」
「心を読んでるのを隠す気もないのか……」
心を読んだことを、悪びれる様子もなく口にする漆黒の管理者。
「さっさと話せ」
純白の管理者に顔を向けず、話を促す。
「ありがとうございます。まず、私たちのことを――」
「どうでもいい。大方、白が人間を、黒が魔族を管理してんだろ?」
「その通りよ。より正確に言えば、正天と逆天を、だけれど」
「関係ないことを聞く気はない。本題だけ話せ」
「分かりました。では――」
純白の管理者は、静かに語り始めた。
◇◇◇◇◇
「ってことは、皇女の話は嘘なのか?」
純白の管理者の話を聞き終え、最初に出た言葉。
「そうなります」
頭の中に浮かぶ、皇女の顔。
何度目か分からない怒りに、体を震わせる。
「クソがッ」
浮かんだ皇女の顔を、悪態と共に吐き捨てる。
「このままでは、多くの命が死に絶えてしまいます。どうか、お力をお貸しください」
胸の前で手を組み、悲痛な面持ちでこちらを見つめてくる純白の管理者。
「……仮にアンタの言ってる状況になったら、人類が滅んだり、滅ばなくても、今まで通りの生活が出来なくなる可能性はあるのか?」
頼み込んでくる純白の管理者には答えず、己の疑問を解消すべく淡々と尋ねる。
純白の管理者は一瞬だけ逡巡した表情を浮かべたが、ゆっくりと口を開く。
「……人類が滅ぶことはありません。ですが、それ以外の多くの種族が命を失います。ですから――」
「なら、俺には関係ない」
深く、冷たい声で言い放つ。
「待ってください!」
純白の管理者が、咄嗟に声を張り上げた。だが、純白の管理者を相手にはせず、漆黒の管理者に話かける。
「約束通り、話を全部聞いたぞ。居場所を教えろ」
「ええ」
話し掛けられた漆黒の管理者も十分だと判断したのか、何も言わずに了承した。
漆黒の管理者が口を開くと、純白の管理者は表情を歪めながらも口を閉じる。
(逆らえないのか?)
思い返してみれば、漆黒の管理者が姿を見せた時のそうだった。漆黒の管理者が話している時もそう、決して純白の管理者は口を挟まずにいた。
(神にも、上下関係があんのか?)
「下を見て」
両者の関係性について思いを巡らせていると、漆黒の管理者が足元の青い星を指差す。関係性なのどうでもいいと思考を中断し、促されるまま下を向く。
「下に見えている大陸は、レオガルドよ。そして――」
漆黒の管理者が、指を小さく振る。すると、都市や街道などが見れるほどに拡大した。その後、南西部沿岸から大陸東にある都市を結ぶ、蛇行する一本の白線が記される。
「この道を辿って行けば、ホリィに会えるわ」
「辿る? なんで、辿るんだ? 居場所が分かってるなら、真っ直ぐ向かえばいいだろ?」
「そう思うなら、そうすればいいわ」
「ふざけるな! 話は全部聞いただろ。はぐらかさずに、ちゃんと説明しろ!」
睨みつけながら怒鳴るが、漆黒の管理者は微笑むだけ。それどころか、こちらが感情的になればなるほど、漆黒の管理者は頬を赤らめていった。
(落ち着け、落ち着け……)
拳を握りしめる。目を閉じ、鼻から息を吸って、脳を冷やす。
「本当に、道を辿れば会えるんだな?」
「ええ」
信用していい相手だとは思っていない。ただ、情報が無い現状、漆黒の管理者を信用する他ないのだ。
色々と思うところはあるが、それらを一緒くたに飲み込む。
全ては、約束を果たすために。
「ん?」
タイミングを見計らったかのように、鮮明だった意識がぼやけ出す。
「お別れの時間ね」
漆黒の管理者が、静かに告げる。
「……」
薄れゆく意識の中、純白の管理者と漆黒の管理者を見つめる。
純白と漆黒も、こちらを見つめていた。
純白の管理者は頭を下げ、漆黒の管理者は小さく手を振ってくる。
意識が途絶えた。
◇◇◇◇◇
「あの方で、何をするつもりですか?」
純白の管理者が、漆黒の管理者に問い質す。
「人聞きの悪い事を言わないで欲しいわ。それに、それを言うならアナタの方でしょ?」
漆黒の管理者は、純白の管理者に体すら向けずに答える。
「私は、そんなことは……」
言い淀む、純白の管理者。
「本当につまらない女」
先ほどまでの楽しげな雰囲気が嘘のように、冷淡な雰囲気を漂わせる漆黒の管理者。
「まぁ、アナタがどう思おうが、掟は掟よ」
漆黒の管理者は、静かに歩み出す。
「アナタは、正天の者達の願い聞き届けた。なら今度は、逆天の者達の願いを聞き届けなければならない」
足場のない空の上を、漆黒の管理者は足音も鳴らさずに歩く。
「それは、貴方が魔族を放置していたから……」
「わたしのせいにしないで欲しいわ。それにどうであれ、アナタが介入した事実は変わらない」
遠ざかっていく漆黒の管理者の背中を、食い入るように見つめる純白の管理者。だが、言い返すことができないのか、純白の管理者の表情は徐々に険しいものに変わっていく。
「逆天の者たちの願い。それがなんなのか、分かってるわよね?」
純白の管理者が言葉を返さずとも、漆黒の管理者は一人で淡々と喋り続ける。
まるで、見たくない現実を突きつけるように。
「魔族が望むこと、それは人類への復讐」
漆黒の管理者が、歩を止める。
そして、ゆっくりと振り返った。
「――ッ」
純白の管理者は、思わず目を見開く。
――漆黒の管理者が、微笑んでいるのだ。
自分といる時には、決して笑う事のない漆黒の管理者が。
純白の管理者の胸中に、急速に不安が膨れ上がっていく。
「ねぇ、人間の最も優れているものは何だと思う?」
突然の問いかけに、純白の管理者は訝しげな眼差しを漆黒の管理者に向ける。
「本当につまらない女ね。だから、アナタと話すのは嫌なのよ」
言葉とは裏腹に、漆黒の管理者はどこか楽しげだった。
「人間の最も優れているところ、それは弱さ。人間は、弱いから考え生み出し、弱いから学び蓄え、弱いから群がり紛らわす。ねぇ? そんな弱い人間が、人間の姿をした人ならざる存在を知ったらどうすると思う?」
「――ッ!? まさか……」
漆黒の管理者は、頬を染め、己の体を抱きしめる。
「人間は必ず、美しい子を拒絶する。美しい子が何を語ろうが、たとえ、何もせずとも人間は大義名分を掲げ、正義の旗のもとに美しい子を殺そうとする。美しい子は、大切なものを守るために火の粉を払うわ。一体、どれ程の人間が死ぬのかしら? どれだけの恨みを買うの? どんな顔を、感情を私に見せてくれるの?」
漆黒の管理者は、身悶えし、熱い喘ぎ声を漏らす。
「あぁ……、この世で最も美しい子。願わくば、千年前を越える絶望を見せて欲しいわ……」
顔も、背丈も、髪色も、服装も、すべてが純白の管理者と瓜二つ。唯一違うのは、着ている服の色が漆黒ということ。それ以外に違いがないにもかかわらず、受ける印象はまったく異なる。
漆黒の女性は、余裕を浮かべるかのように微笑み、纏う雰囲気に妖艶さがあった。
「さっきの声は、アンタか?」
漆黒の女性に目を向け、刺々しい声で尋ねる。
「ええ、そう。美しい子にとってはとてもつまらない話ではあるのだけれど、どうしてもこの女の話を聞いて欲しいの。ダメかしら?」
漆黒の女性は、こちらを見つめながら小首を傾げる。
囁くような甘い吐息交じりの声が、彼女の妖女らしさを際立ていた。が――、
「断る。どうして、俺が話を聞かないといけないんだ」
五人が生き返ることはないと、純白の管理者に断言された。
希望を抱いたことは、勝手に先走った自分が悪い。未練を断ち切り、改めて罪を背負って歩んでいくと決意を固める。しかし――、
「そもそも、人間の話は聞かず、自分の話は聞いてくださいってか? ずいぶん、都合の良い神様もいたもんだな。もう一度言うぞ、断る。わかったら、さっさと俺を元の場所に戻せ」
決意とは別に、どうしても五人の命をぞんざいに扱った純白の管理者のことを赦すことができない。
純白の管理者は、口を固く結び、神妙な面持ちをこちらに向けていた。
「おい、黙ってないで何か言ったらどうだ!」
漆黒の女性が現れてから黙りこくっている純白の管理者に、語気を強めて声を掛ける。すると、純白の管理者は小さな声で話し出す。
「貴方の怒りは分かります。ですが、どうか、まず私の話を――」
「ッ! アンタに分かるわけねぇだろ! 人間の真似事だけをしてるアンタに! それとも何か、本当に理解してるって言うのか? なら、言ってみろよッ!」
純白の管理者の軽はずみな発言に、頭に血を昇らせる。
「それは……」
純白の管理者は弁明しようとしたが、言葉を紡ぐことが出来ずに黙ってしまう。
ただ、縋る様な表情だけは向け続けていた。
こんな状況になっても、純白の管理者の瞳には感情や生気が宿っていない。その瞳を目にしていると、次第に人間の猿真似をしているように感じ、怒りが込み上がってくる。
「ちッ」
頭を冷やすために、出口がないか周囲を見回す。しかし、出口と思しきものは見当たらない。
頭に妥協という文字が浮かぶ。
話を聞きさえすれば、純白の管理者は元の場所に戻すだろう。
それが最善の選択だと、頭では理解している。
ただ、意地を張っているだけということも。
黙って話を聞くだけで、元の場所に戻れる。
約束を果たせるのだ。
だが、頭が合理的に考えれば考えるほど、心が反発する。
「ふふ」
漆黒の管理者が、突然笑みを零した。
目だけを、漆黒の女性に向ける。
「素敵。本当ならもっと眺めていたいのだけれど、それは楽しみに残しておくわ。だから、こういうのはどうかしら? この女の話を聞いてくれたのなら、美しい子が知りたいことを私が教えるわ」
「……俺の知りたいこと?」
「ええ、そう」
漆黒の女性の唐突な提案に、気味の悪い猜疑心を抱く。
(何を考えてる……?)
純白の管理者を後押しするような提案。所感だが、漆黒の女性は純白の管理者に対して好感を持っていないように見えた。
(罠? 本当は裏で繋がってて、そう見えるようにしてた? なら、やっぱり話は聞かない方がいいのか?)
話を聞くか、聞かないか、思考が堂々巡りをし出す。そのため、漆黒の女性の思惑や真意を探るために追及する。
「なんだ? 出口でも教えてくれるのか?」
「いいえ」
間を置いた悠長な話し方をする漆黒の管理者に対し、燻っていた怒りが再燃していく。
「なら、なんだ?」
先を促すが、漆黒の管理者は微笑むだけで何も答えない。
「おいッ!」
とうとう怒りが弾け、大声を上げてしまう。
「あァ、やっぱり素敵……」
漆黒の女性は、大声に動じるどころか、頬を赤らめ、愉悦の表情を浮かべる。
「ッ!」
漆黒の女性の態度に、我慢できず、一歩詰め寄る。
すると漆黒の女性は、顔に手を当て、惚けた表情のまま口を開く。
「ホリィの居場所を教えるわ」
「……なッ」
漆黒の女性の予想外の発言に、足を止めてしまう。
硬直した体とは裏腹に、頭の中で目まぐるしく思考が巡る。
漆黒の女性は、全てを知っているのか。
見ていたのか。
違う。
全てを見通せるのだ。
純白の管理者と瓜二つということは、漆黒の女性も神なのだ。
(――……待て、そういえば、なんでコイツから力を感じない……?)
純白の管理者は、太陽の如き力を感じ取った。
ところが、漆黒の管理者からは何も感じ取れない。
その訳は……。
とある考えが浮かび、体に寒気が走った。
「ふふ……」
漆黒の管理者が、また笑った。
数秒の空白が流れた後、ある考えに至り、息を呑む。
心を読まれている。
「どうかしら?」
漆黒の管理者は、再び尋ねてきた。
相手は、神。
初めから、選択肢は無かったのだと悟る。
「話を聞いたら、必ず居場所を教えるって約束しろ」
「ええ、約束するわ。それと、私はこの女が嫌いよ。だから、繋がってなんかないわ」
「心を読んでるのを隠す気もないのか……」
心を読んだことを、悪びれる様子もなく口にする漆黒の管理者。
「さっさと話せ」
純白の管理者に顔を向けず、話を促す。
「ありがとうございます。まず、私たちのことを――」
「どうでもいい。大方、白が人間を、黒が魔族を管理してんだろ?」
「その通りよ。より正確に言えば、正天と逆天を、だけれど」
「関係ないことを聞く気はない。本題だけ話せ」
「分かりました。では――」
純白の管理者は、静かに語り始めた。
◇◇◇◇◇
「ってことは、皇女の話は嘘なのか?」
純白の管理者の話を聞き終え、最初に出た言葉。
「そうなります」
頭の中に浮かぶ、皇女の顔。
何度目か分からない怒りに、体を震わせる。
「クソがッ」
浮かんだ皇女の顔を、悪態と共に吐き捨てる。
「このままでは、多くの命が死に絶えてしまいます。どうか、お力をお貸しください」
胸の前で手を組み、悲痛な面持ちでこちらを見つめてくる純白の管理者。
「……仮にアンタの言ってる状況になったら、人類が滅んだり、滅ばなくても、今まで通りの生活が出来なくなる可能性はあるのか?」
頼み込んでくる純白の管理者には答えず、己の疑問を解消すべく淡々と尋ねる。
純白の管理者は一瞬だけ逡巡した表情を浮かべたが、ゆっくりと口を開く。
「……人類が滅ぶことはありません。ですが、それ以外の多くの種族が命を失います。ですから――」
「なら、俺には関係ない」
深く、冷たい声で言い放つ。
「待ってください!」
純白の管理者が、咄嗟に声を張り上げた。だが、純白の管理者を相手にはせず、漆黒の管理者に話かける。
「約束通り、話を全部聞いたぞ。居場所を教えろ」
「ええ」
話し掛けられた漆黒の管理者も十分だと判断したのか、何も言わずに了承した。
漆黒の管理者が口を開くと、純白の管理者は表情を歪めながらも口を閉じる。
(逆らえないのか?)
思い返してみれば、漆黒の管理者が姿を見せた時のそうだった。漆黒の管理者が話している時もそう、決して純白の管理者は口を挟まずにいた。
(神にも、上下関係があんのか?)
「下を見て」
両者の関係性について思いを巡らせていると、漆黒の管理者が足元の青い星を指差す。関係性なのどうでもいいと思考を中断し、促されるまま下を向く。
「下に見えている大陸は、レオガルドよ。そして――」
漆黒の管理者が、指を小さく振る。すると、都市や街道などが見れるほどに拡大した。その後、南西部沿岸から大陸東にある都市を結ぶ、蛇行する一本の白線が記される。
「この道を辿って行けば、ホリィに会えるわ」
「辿る? なんで、辿るんだ? 居場所が分かってるなら、真っ直ぐ向かえばいいだろ?」
「そう思うなら、そうすればいいわ」
「ふざけるな! 話は全部聞いただろ。はぐらかさずに、ちゃんと説明しろ!」
睨みつけながら怒鳴るが、漆黒の管理者は微笑むだけ。それどころか、こちらが感情的になればなるほど、漆黒の管理者は頬を赤らめていった。
(落ち着け、落ち着け……)
拳を握りしめる。目を閉じ、鼻から息を吸って、脳を冷やす。
「本当に、道を辿れば会えるんだな?」
「ええ」
信用していい相手だとは思っていない。ただ、情報が無い現状、漆黒の管理者を信用する他ないのだ。
色々と思うところはあるが、それらを一緒くたに飲み込む。
全ては、約束を果たすために。
「ん?」
タイミングを見計らったかのように、鮮明だった意識がぼやけ出す。
「お別れの時間ね」
漆黒の管理者が、静かに告げる。
「……」
薄れゆく意識の中、純白の管理者と漆黒の管理者を見つめる。
純白と漆黒も、こちらを見つめていた。
純白の管理者は頭を下げ、漆黒の管理者は小さく手を振ってくる。
意識が途絶えた。
◇◇◇◇◇
「あの方で、何をするつもりですか?」
純白の管理者が、漆黒の管理者に問い質す。
「人聞きの悪い事を言わないで欲しいわ。それに、それを言うならアナタの方でしょ?」
漆黒の管理者は、純白の管理者に体すら向けずに答える。
「私は、そんなことは……」
言い淀む、純白の管理者。
「本当につまらない女」
先ほどまでの楽しげな雰囲気が嘘のように、冷淡な雰囲気を漂わせる漆黒の管理者。
「まぁ、アナタがどう思おうが、掟は掟よ」
漆黒の管理者は、静かに歩み出す。
「アナタは、正天の者達の願い聞き届けた。なら今度は、逆天の者達の願いを聞き届けなければならない」
足場のない空の上を、漆黒の管理者は足音も鳴らさずに歩く。
「それは、貴方が魔族を放置していたから……」
「わたしのせいにしないで欲しいわ。それにどうであれ、アナタが介入した事実は変わらない」
遠ざかっていく漆黒の管理者の背中を、食い入るように見つめる純白の管理者。だが、言い返すことができないのか、純白の管理者の表情は徐々に険しいものに変わっていく。
「逆天の者たちの願い。それがなんなのか、分かってるわよね?」
純白の管理者が言葉を返さずとも、漆黒の管理者は一人で淡々と喋り続ける。
まるで、見たくない現実を突きつけるように。
「魔族が望むこと、それは人類への復讐」
漆黒の管理者が、歩を止める。
そして、ゆっくりと振り返った。
「――ッ」
純白の管理者は、思わず目を見開く。
――漆黒の管理者が、微笑んでいるのだ。
自分といる時には、決して笑う事のない漆黒の管理者が。
純白の管理者の胸中に、急速に不安が膨れ上がっていく。
「ねぇ、人間の最も優れているものは何だと思う?」
突然の問いかけに、純白の管理者は訝しげな眼差しを漆黒の管理者に向ける。
「本当につまらない女ね。だから、アナタと話すのは嫌なのよ」
言葉とは裏腹に、漆黒の管理者はどこか楽しげだった。
「人間の最も優れているところ、それは弱さ。人間は、弱いから考え生み出し、弱いから学び蓄え、弱いから群がり紛らわす。ねぇ? そんな弱い人間が、人間の姿をした人ならざる存在を知ったらどうすると思う?」
「――ッ!? まさか……」
漆黒の管理者は、頬を染め、己の体を抱きしめる。
「人間は必ず、美しい子を拒絶する。美しい子が何を語ろうが、たとえ、何もせずとも人間は大義名分を掲げ、正義の旗のもとに美しい子を殺そうとする。美しい子は、大切なものを守るために火の粉を払うわ。一体、どれ程の人間が死ぬのかしら? どれだけの恨みを買うの? どんな顔を、感情を私に見せてくれるの?」
漆黒の管理者は、身悶えし、熱い喘ぎ声を漏らす。
「あぁ……、この世で最も美しい子。願わくば、千年前を越える絶望を見せて欲しいわ……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!
神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。
そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。
これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる