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第二章
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浴室で化粧も落とし、シャワーでスッキリすると、酔いも段々冷めてきた。
髪の毛を乾かしスキンケアもきちんとして、部屋着に着替え寝室へと向かう。
自分のベッドに潜り込み、今日瑠璃が言っていた言葉の意味を考えた。『敢えて真冬の友達を選ぶって辺りは、あいつの涙ぐましい努力よね』。これって、どういう意味だろう。
そして玲央の、私に対する最近の態度……
実は先週、私と玲央は身体の関係を持ったばかりだった。
一週間前、玲央はなぜか私に同行を頼み、一緒に出張することになった。
日帰りの出張だと思っていたし、本人もそのつもりだったので同行を承諾したけれど、その日はあいにくの悪天候で公共交通機関のダイヤが乱れに乱れ、その日に帰ってくることが不可能になった。
ネット検索で宿を探しても見つかるわけもない。
結局私たちは一夜を過ごすため、ラブホテルで宿泊する羽目になったのだ。
部屋は広いし綺麗だし、普通のホテルに宿泊するよりも断然快適に過ごせるけれど……
若い男女が一晩同じ部屋で一緒に過ごすのだ。何かないわけがない。
私も拒絶しようとすれば、いくらでもできるはずだった。
玲央にしたって、学生時代から食指が進まない相手に手を出すほど女性関係に困っているはずもない。
そうたかを括っていた私の完全な判断ミスだった。
この男と一緒にいてはいけない。
最初からわかっていたことなのに、それを拒否できなかったのは、私の心の甘えだった。
一夜だけでもいい。私の勘違いでもいいから、玲央が私のことを好きだと思えるような思い出がほしい。彼女になんてなれなくても、ワンナイトだと割り切ってもらえたら、それでいい。
私たちは、言葉を交わすこともなく、身体を繋げた。
翌日、玲央に家まで送ってもらったけれど、玲央はそのまま部屋に上がり込み、再び身体を繋げることとなった。
行為をするのに、肝心な言葉はない。
私は『セフレ』に成り下がったのだ。
玲央は私の気持ちを知ってか知らずかわからない。
言葉はないけれど、私に触れる手は、まるで宝物に触れるかのようにすごく優しかった。
その日のうちに玲央は帰宅したけれど、日曜日、私は抜け殻のようになり、何も考えられなかった。
月曜日からは、いつもと変わらないように振る舞っていた。
でも、私の仕事が終わる頃にいきなり呼び出され、食事に連れていかれたりと、まるで彼女のように扱われた。
そんな時、玲央にお見合いの話があることを噂で聞いた。
ああ、やっぱり私は選ばれない。先週のあの一件は、単なる事故だったんだ。土曜日のアレは、金曜日のおまけだと思えばいい。
大好きだった人と、自分の気持ちを告げることなく最高の一夜を過ごすことができたんだ。それだけで幸せだと思うことにすればいい。
もし、私が玲央に気持ちを伝えたとして、玲央に勘違い女だと思われたくない。高校時代から今日この日まで、ずっと好きだっただなんて、言えるはずがない。
それなら、私は自分の気持ちを封印して、あの夜のことは初めてを捧げた思い出として、別の道へと歩んでいこう。
そう思ったからこそ、私は今まで以上に資格を取得して、転職しようと心に決めたのだ。
そもそも、この職場を紹介してくれたのは玲央だ。
内定が決まっていた会社に辞退を申し出てもなお、ここで働きたいと思ったのは、玲央がこの会社に就職することが決まっていたからだ。
玲央のそばに、いたかった。
邪な理由で自分の進路を決めてしまったけれど、私もここらでそろそろ軌道修正しなければ……
私は布団の中で、転職するならどこにしようか考えながら眠りに就いた。
髪の毛を乾かしスキンケアもきちんとして、部屋着に着替え寝室へと向かう。
自分のベッドに潜り込み、今日瑠璃が言っていた言葉の意味を考えた。『敢えて真冬の友達を選ぶって辺りは、あいつの涙ぐましい努力よね』。これって、どういう意味だろう。
そして玲央の、私に対する最近の態度……
実は先週、私と玲央は身体の関係を持ったばかりだった。
一週間前、玲央はなぜか私に同行を頼み、一緒に出張することになった。
日帰りの出張だと思っていたし、本人もそのつもりだったので同行を承諾したけれど、その日はあいにくの悪天候で公共交通機関のダイヤが乱れに乱れ、その日に帰ってくることが不可能になった。
ネット検索で宿を探しても見つかるわけもない。
結局私たちは一夜を過ごすため、ラブホテルで宿泊する羽目になったのだ。
部屋は広いし綺麗だし、普通のホテルに宿泊するよりも断然快適に過ごせるけれど……
若い男女が一晩同じ部屋で一緒に過ごすのだ。何かないわけがない。
私も拒絶しようとすれば、いくらでもできるはずだった。
玲央にしたって、学生時代から食指が進まない相手に手を出すほど女性関係に困っているはずもない。
そうたかを括っていた私の完全な判断ミスだった。
この男と一緒にいてはいけない。
最初からわかっていたことなのに、それを拒否できなかったのは、私の心の甘えだった。
一夜だけでもいい。私の勘違いでもいいから、玲央が私のことを好きだと思えるような思い出がほしい。彼女になんてなれなくても、ワンナイトだと割り切ってもらえたら、それでいい。
私たちは、言葉を交わすこともなく、身体を繋げた。
翌日、玲央に家まで送ってもらったけれど、玲央はそのまま部屋に上がり込み、再び身体を繋げることとなった。
行為をするのに、肝心な言葉はない。
私は『セフレ』に成り下がったのだ。
玲央は私の気持ちを知ってか知らずかわからない。
言葉はないけれど、私に触れる手は、まるで宝物に触れるかのようにすごく優しかった。
その日のうちに玲央は帰宅したけれど、日曜日、私は抜け殻のようになり、何も考えられなかった。
月曜日からは、いつもと変わらないように振る舞っていた。
でも、私の仕事が終わる頃にいきなり呼び出され、食事に連れていかれたりと、まるで彼女のように扱われた。
そんな時、玲央にお見合いの話があることを噂で聞いた。
ああ、やっぱり私は選ばれない。先週のあの一件は、単なる事故だったんだ。土曜日のアレは、金曜日のおまけだと思えばいい。
大好きだった人と、自分の気持ちを告げることなく最高の一夜を過ごすことができたんだ。それだけで幸せだと思うことにすればいい。
もし、私が玲央に気持ちを伝えたとして、玲央に勘違い女だと思われたくない。高校時代から今日この日まで、ずっと好きだっただなんて、言えるはずがない。
それなら、私は自分の気持ちを封印して、あの夜のことは初めてを捧げた思い出として、別の道へと歩んでいこう。
そう思ったからこそ、私は今まで以上に資格を取得して、転職しようと心に決めたのだ。
そもそも、この職場を紹介してくれたのは玲央だ。
内定が決まっていた会社に辞退を申し出てもなお、ここで働きたいと思ったのは、玲央がこの会社に就職することが決まっていたからだ。
玲央のそばに、いたかった。
邪な理由で自分の進路を決めてしまったけれど、私もここらでそろそろ軌道修正しなければ……
私は布団の中で、転職するならどこにしようか考えながら眠りに就いた。
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