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第三章
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「ああ、少し酔いが抜けたわ」
タオルを首にかけたまま、瑠璃が部屋に戻ってきた。
ドライヤーで髪を乾かした時に使っていたものだろう。
「昨日、結構飲んだよね。瑠璃が二日酔いなんて珍しくない?」
瑠璃は「やった、ごはんがある!」と喜んで席に着く。二人並んでいただきますと言うと、熱々の雑炊に箸をつけた。
「飲むのが久しぶりすぎて、酔いの回りが早かったわ……。二日酔いだなんて、失敗した……」
瑠璃はそう言って雑炊を口に運ぶ。
「あちち、でもこれ、身体に泌みるわ……」
「落ち着いてゆっくり食べなよ。食べられるようだったら、おかわりもあるからね」
瑠璃が雑炊を頬張る姿に、私は苦笑いしか浮かばない。
「食べたいけど、お腹の中に入るかな……」
そう言いながらも、しっかりと箸は進んでいる。
二日酔いの割に、食欲はありそうで一安心だ。この調子なら、午後には復活するだろう。
私は席に着くと、昨日買っておいた菓子パンの封を切り、それを口にした。
食事が終わり、片付けを済ませると、瑠璃が改まって私名前を呼んだ。
「ねえ、真冬。昨日の話のことなんだけど……」
昨日は色々な話をしたので、どの話のことだろうと私は首を傾げた。
「え、どの話のこと?」
私はお湯を沸かして緑茶を淹れる。二日酔いの時は、コーヒーよりもこっちの方が飲みやすいだろう。
お茶受けのお菓子なんて用意はないので、お茶だけと素っ気ないけれど、私たちはそんなことを気にするような間柄ではない。
瑠璃の前にマグカップを置く。来客用の湯呑みがないため、これくらいは大目に見てもらおう。私は自分の湯呑みを両手で持って、瑠璃の話を聞く体制を取る。
「玲央のことだよ」
そう言って瑠璃は居住まいを正す。それに釣られて私も背筋を伸ばした。
「昨日はお酒の場だったし、外でだれが話を聞いているかわからないからきちんと話ができなかったんだけど……」
瑠璃はそこで一旦言葉を切ると、深呼吸して次の言葉を口にする。
「玲央と、どうなってる?」
瑠璃は真剣な表情を浮かべている。そういえば最近、瑠璃は玲央とまた連絡を取り合っているようだ。もしかして、また二人は付き合いを再開させようとしているのだろうか。……いや、玲央のお見合い話があるから、それはないとしても、再び私の仲良くしている友人と交流するなんて、玲央は一体どこまで私の周りに現れるつもりだろう。
「どうって言われても……。職場の同僚であり、上司……?」
セフレに成り下がっただなんて、口が裂けても言いたくない。と言うよりも、玲央への気持ちすら、他の人に気取られたくない。
あやふやな関係の私たちだけど、はっきりと言えるのは職場の同僚、これに尽きる。
そう答えるわたしに、瑠璃は揶揄い気味の口調で再び口を開いた。
「隠さなくてもいいよ。二人、付き合い始めたんでしょう? 真冬ってば照れちゃって可愛い」
思ってもいない言葉に、私は間髪を入れず返答する。
「は、何それ? そんなことあるわけないでしょう?」
冗談も休み休み言ってほしい。そんなこと、あるはずがない。玲央は今まで、私に対してそのような態度を見せたことなんて一度もないし、付き合う彼女は、決まって私の友人ばかりで、私なんて眼中にないはずだ。
そんな私の様子を見て、瑠璃はおかしいなと独言る。
「……玲央からね、今週に入ってから、真冬と付き合い始めたって連絡が来たんだけど……」
そう言って、瑠璃は私に玲央とのやり取り画面を見せた。そこにはたしかにそう書かれている。
玲央から文言に『瑠璃! 聞いて!! 真冬とやっと付き合えることになった!!』とある。そして、瑠璃も『まじか!! ここまで本当に長かったね、おめでとう! 今度真冬とご飯食べに行く約束してるから、惚気聞いてくるよ』とメッセージも残っていた。
タオルを首にかけたまま、瑠璃が部屋に戻ってきた。
ドライヤーで髪を乾かした時に使っていたものだろう。
「昨日、結構飲んだよね。瑠璃が二日酔いなんて珍しくない?」
瑠璃は「やった、ごはんがある!」と喜んで席に着く。二人並んでいただきますと言うと、熱々の雑炊に箸をつけた。
「飲むのが久しぶりすぎて、酔いの回りが早かったわ……。二日酔いだなんて、失敗した……」
瑠璃はそう言って雑炊を口に運ぶ。
「あちち、でもこれ、身体に泌みるわ……」
「落ち着いてゆっくり食べなよ。食べられるようだったら、おかわりもあるからね」
瑠璃が雑炊を頬張る姿に、私は苦笑いしか浮かばない。
「食べたいけど、お腹の中に入るかな……」
そう言いながらも、しっかりと箸は進んでいる。
二日酔いの割に、食欲はありそうで一安心だ。この調子なら、午後には復活するだろう。
私は席に着くと、昨日買っておいた菓子パンの封を切り、それを口にした。
食事が終わり、片付けを済ませると、瑠璃が改まって私名前を呼んだ。
「ねえ、真冬。昨日の話のことなんだけど……」
昨日は色々な話をしたので、どの話のことだろうと私は首を傾げた。
「え、どの話のこと?」
私はお湯を沸かして緑茶を淹れる。二日酔いの時は、コーヒーよりもこっちの方が飲みやすいだろう。
お茶受けのお菓子なんて用意はないので、お茶だけと素っ気ないけれど、私たちはそんなことを気にするような間柄ではない。
瑠璃の前にマグカップを置く。来客用の湯呑みがないため、これくらいは大目に見てもらおう。私は自分の湯呑みを両手で持って、瑠璃の話を聞く体制を取る。
「玲央のことだよ」
そう言って瑠璃は居住まいを正す。それに釣られて私も背筋を伸ばした。
「昨日はお酒の場だったし、外でだれが話を聞いているかわからないからきちんと話ができなかったんだけど……」
瑠璃はそこで一旦言葉を切ると、深呼吸して次の言葉を口にする。
「玲央と、どうなってる?」
瑠璃は真剣な表情を浮かべている。そういえば最近、瑠璃は玲央とまた連絡を取り合っているようだ。もしかして、また二人は付き合いを再開させようとしているのだろうか。……いや、玲央のお見合い話があるから、それはないとしても、再び私の仲良くしている友人と交流するなんて、玲央は一体どこまで私の周りに現れるつもりだろう。
「どうって言われても……。職場の同僚であり、上司……?」
セフレに成り下がっただなんて、口が裂けても言いたくない。と言うよりも、玲央への気持ちすら、他の人に気取られたくない。
あやふやな関係の私たちだけど、はっきりと言えるのは職場の同僚、これに尽きる。
そう答えるわたしに、瑠璃は揶揄い気味の口調で再び口を開いた。
「隠さなくてもいいよ。二人、付き合い始めたんでしょう? 真冬ってば照れちゃって可愛い」
思ってもいない言葉に、私は間髪を入れず返答する。
「は、何それ? そんなことあるわけないでしょう?」
冗談も休み休み言ってほしい。そんなこと、あるはずがない。玲央は今まで、私に対してそのような態度を見せたことなんて一度もないし、付き合う彼女は、決まって私の友人ばかりで、私なんて眼中にないはずだ。
そんな私の様子を見て、瑠璃はおかしいなと独言る。
「……玲央からね、今週に入ってから、真冬と付き合い始めたって連絡が来たんだけど……」
そう言って、瑠璃は私に玲央とのやり取り画面を見せた。そこにはたしかにそう書かれている。
玲央から文言に『瑠璃! 聞いて!! 真冬とやっと付き合えることになった!!』とある。そして、瑠璃も『まじか!! ここまで本当に長かったね、おめでとう! 今度真冬とご飯食べに行く約束してるから、惚気聞いてくるよ』とメッセージも残っていた。
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