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スイはスイーツのスイだから 1
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高校二年の春──
私と高橋くんは、席替えで隣同士になったことがきっかけで話をするようになった。私たちの通う学校は、生徒数が少ないおかげで、三年間クラス替えがない。だからこそ男女交際なんてすると、付き合っている間はいいけれど別れた時が気まずくて、クラスの子たちは同じ学年、同じクラスの異性相手の恋バナを口にすることはない。その代わり、他校の生徒との恋愛には男女問わずみんな積極的だ。
決してクラスの男子に魅力がない訳ではない。逆に、女子だってかなりかわいいし、レベルが高い。そんなイケメンや美女が揃っているのに、みんなもしものことを考えて、好きだと思う人に思いを伝えられずに他校の生徒に目を向けていた。
そんな中、私と高橋くんが仲良くしているのを見て、みんなは私たちが付き合っていると思われていた。友人の中には、噂に動じない私はチャレンジャーだとか、ガリガリな高橋くんととぽっちゃりの私が並ぶと、デコボコだけど見ていて和むだの、このままずっと付き合いを続けて結婚まで行ってほしいとか、好き勝手なことを言われていた。
「なあ、スイ、英語の宿題やってきた?」
話をするようになって、高橋くんは登校して席に着くなり、先に登校して友達と雑談していた私を見つけると食い気味に問いかけた。英語の先生は授業中、全員に必ず一回は発言させるように当てていく。宿題の答えを黒板に書かせたり、教科書の音読を当てていったりと、ランダムにくるからきちんと宿題をしていないと咄嗟に答えられないのだ。
「うん、もちろんやってるよ」
「ああ、女神がここにいた! スイちゃん頼む、ノート写させて」
高橋くんは調子のいいことを言って、なんとか私からノートを借りようとする。これは親しくなってからいつものお約束だ。周囲の席の友達も、このようなやり取りをこれまで何度も見ているだけに誰も反応しない。
「えー、どうしよっかな……って、なんか甘い匂いしない?」
鞄を机の横に掛けるために身体を動かした高橋くんから、甘い匂いがした。香水や柔軟剤のような人工的な匂いではなく、甘い焼き菓子のような優しい匂い……私は思わず動物のように鼻をクンクンとひくつかせて高橋くんの匂いを嗅いだ。私のその行動に、高橋くんはもちろんのこと周囲にいたクラスメイトもびっくりして一同がフリーズしている中、私ただ一人が我が道で匂いを嗅ぎ続けている。
「やっぱ高橋くんから匂うんだけど……ねえ、なんかお菓子持ってる?」
動物並みに優れた私の嗅覚に、高橋くんは未だ固まったままだ。
周囲のクラスメイトは、私たちに構っている暇があれば英語の宿題を片づけようと、各自自分の席でノートを開いている。なぜか私のクラスの面々は、自宅で宿題をする人間がほとんどいない。それだけに、授業終了後の十分間、いつもみんな必死だった。私はなぜ自宅で宿題をきちんとしてくるか、それはたった十分の間に宿題を片づけられないからだ。それに休憩時間はなにげにあっという間に過ぎてしまう。私はその貴重な短時間を宿題に追われるのが嫌だった。
「よく分かったな。そんなに匂うか? 今朝、早起きしてクッキー焼いてみたんだ。腹が減ったらなにもできないから。あとで分けてやるからノート貸して」
「え、クッキー? 食べる食べる! いいよ、間違えてたらごめんだけど」
こうして交換条件が成立し、私はノートを貸す代わりに、高橋くんお手製のお菓子に在りつくようになった。
お菓子を渡されるのは朝のホームルームが終わったタイミングや昼休みなど、特に決まってはいない。けれど高橋くんは、ほぼ毎日手作りのお菓子を持ってきて、それを私に分けてくれた。
周囲の友人は、餌付けされている私を見て、ますます二人は付き合っているものだと誤解している。高橋くんもそのことについてなにも触れないし、二人の仲の良さを友人たちから羨望の眼差しで見られているなんて、この時の私はこれっぽっちも気づかないでいた。
私と高橋くんは、席替えで隣同士になったことがきっかけで話をするようになった。私たちの通う学校は、生徒数が少ないおかげで、三年間クラス替えがない。だからこそ男女交際なんてすると、付き合っている間はいいけれど別れた時が気まずくて、クラスの子たちは同じ学年、同じクラスの異性相手の恋バナを口にすることはない。その代わり、他校の生徒との恋愛には男女問わずみんな積極的だ。
決してクラスの男子に魅力がない訳ではない。逆に、女子だってかなりかわいいし、レベルが高い。そんなイケメンや美女が揃っているのに、みんなもしものことを考えて、好きだと思う人に思いを伝えられずに他校の生徒に目を向けていた。
そんな中、私と高橋くんが仲良くしているのを見て、みんなは私たちが付き合っていると思われていた。友人の中には、噂に動じない私はチャレンジャーだとか、ガリガリな高橋くんととぽっちゃりの私が並ぶと、デコボコだけど見ていて和むだの、このままずっと付き合いを続けて結婚まで行ってほしいとか、好き勝手なことを言われていた。
「なあ、スイ、英語の宿題やってきた?」
話をするようになって、高橋くんは登校して席に着くなり、先に登校して友達と雑談していた私を見つけると食い気味に問いかけた。英語の先生は授業中、全員に必ず一回は発言させるように当てていく。宿題の答えを黒板に書かせたり、教科書の音読を当てていったりと、ランダムにくるからきちんと宿題をしていないと咄嗟に答えられないのだ。
「うん、もちろんやってるよ」
「ああ、女神がここにいた! スイちゃん頼む、ノート写させて」
高橋くんは調子のいいことを言って、なんとか私からノートを借りようとする。これは親しくなってからいつものお約束だ。周囲の席の友達も、このようなやり取りをこれまで何度も見ているだけに誰も反応しない。
「えー、どうしよっかな……って、なんか甘い匂いしない?」
鞄を机の横に掛けるために身体を動かした高橋くんから、甘い匂いがした。香水や柔軟剤のような人工的な匂いではなく、甘い焼き菓子のような優しい匂い……私は思わず動物のように鼻をクンクンとひくつかせて高橋くんの匂いを嗅いだ。私のその行動に、高橋くんはもちろんのこと周囲にいたクラスメイトもびっくりして一同がフリーズしている中、私ただ一人が我が道で匂いを嗅ぎ続けている。
「やっぱ高橋くんから匂うんだけど……ねえ、なんかお菓子持ってる?」
動物並みに優れた私の嗅覚に、高橋くんは未だ固まったままだ。
周囲のクラスメイトは、私たちに構っている暇があれば英語の宿題を片づけようと、各自自分の席でノートを開いている。なぜか私のクラスの面々は、自宅で宿題をする人間がほとんどいない。それだけに、授業終了後の十分間、いつもみんな必死だった。私はなぜ自宅で宿題をきちんとしてくるか、それはたった十分の間に宿題を片づけられないからだ。それに休憩時間はなにげにあっという間に過ぎてしまう。私はその貴重な短時間を宿題に追われるのが嫌だった。
「よく分かったな。そんなに匂うか? 今朝、早起きしてクッキー焼いてみたんだ。腹が減ったらなにもできないから。あとで分けてやるからノート貸して」
「え、クッキー? 食べる食べる! いいよ、間違えてたらごめんだけど」
こうして交換条件が成立し、私はノートを貸す代わりに、高橋くんお手製のお菓子に在りつくようになった。
お菓子を渡されるのは朝のホームルームが終わったタイミングや昼休みなど、特に決まってはいない。けれど高橋くんは、ほぼ毎日手作りのお菓子を持ってきて、それを私に分けてくれた。
周囲の友人は、餌付けされている私を見て、ますます二人は付き合っているものだと誤解している。高橋くんもそのことについてなにも触れないし、二人の仲の良さを友人たちから羨望の眼差しで見られているなんて、この時の私はこれっぽっちも気づかないでいた。
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