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約束のスイーツ三昧 3
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「あの日、スイが俺の背中を押してくれたのが決定打だったけど、それまでにも、スイがうまそうに俺の作ったお菓子を食べてくれる顔を見てるだけで嬉しかったんだよ。だから、自分が作るスイーツで、他の人もスイみたいに幸せそうな顔をして欲しいって思った。いわばスイは、俺の人生を決めるきっかけになった恩人なんだよ」
高橋くんに改まってこんな風に言われると、私はなんだか気恥ずかしくなる。なので、照れ隠しの言葉が口から出てしまう。
「ホント? 私、そんなすごいことなんてしてないよ? それこそきっかけはそうなのかもだけど、それからは高橋くんの努力の賜物だからね、そんなこと言ってたら、私、調子に乗っちゃうよ?」
「おう、いくらでも調子に乗ってくれ。今日はこれだけしか取り置きできなくて悪いけど、また明日、うまい奴を作っておくよ」
「やった! ありがとう。本当に毎日通っちゃうよ?」
真剣な話も、こうして軽口でサラッと流したのは、お互いが照れ臭かったからだ。高橋くんは私のお皿をトレイに乗せ、コーヒーのお代わりを持ってくると言って席を立った。そして戻って来る時に、コーヒーサーバーを手にしていた。サーバー、ちょうど二杯分のコーヒーが入っている。高橋くんは、サーバーの中にあるコーヒーをそれぞれのカップに注ぐと、先ほどと同じく正面の席に着く。
「で、そろそろ本題に入るんだけど……昨日言ってた訳ありって、一体なんだ?」
本題に触れる高橋くんに、私は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。世間話や思い出話で花が咲いて、そのことはすっかり忘れているものだと思っていただけに、不意打ちの発言だ。私が落ち着くまで高橋くんは辛抱強く待っていた。これを聞くまでは帰さないとばかりの目力に、私は根負けしてしまう。
「しょうもない理由なんだけど……言わなきゃ、ダメ……?」
「うん。場合によっては協力するって言っただろう? ……男絡み?」
高橋くんがコーヒーカップをテーブルの上に置くと、身を乗り出して私の言葉を待っている。私も、高橋くんに釣られてコーヒーカップをテーブルの上に戻すと、咳ばらいを一つして、言葉を選ぶように口を開いた。
「あのね……」
私は感情的にならないように、頭の中でゆっくりと整理しながら高橋くんにことの顛末を語ると、高橋くんはそれを黙って聞いていた。
そして、徐ろに口を開いた。
「スイはその先輩とやらのことを好きなのか?」
全てを話し終えたあと、真っ先に高橋くんが口にしたのはこの言葉だ。そんな風に思われるなんて心外だと、私はすかさず反論する。
「そんな訳ないでしょう? 尊敬していた先輩だったからこそなんか悔しくて、それなら痩せて綺麗になって先輩がもし言い寄ってきたらこっぴどく振ってやるわよ。それこそ百年の恋も冷めるっていうの? そんな感じだよ。恋愛感情じゃないけどね」
「本当に……?」
「本当だよ。ぶっちゃけるけどさ、私、生まれて今日まで誰ともお付き合いとかしたことないし」
こんなことまでカミングアウトするつもりはなかったけれど、私の必死な言葉に、高橋くんはなにか考えている。その間少し沈黙が流れたけれど、その沈黙を破ったのも高橋くんだった。
「……わかった。じゃあ、俺が協力してやる。スイ、俺が今日からお前の彼氏だ。スイは俺のために痩せたことにしろ。で、ダイエットは今日限りで止めろ。付き合うことになったからダイエットの必要もない。ここに毎日通ってスイーツ三昧も約束通りだ。で、もしその先輩とやらが言い寄ってきたら、俺と付き合ってるって言えばいい」
高橋くんの言葉に、今度は私が目を丸くした。コノヒトナニイッテルノという眼差しを向けても、高橋くんは一向に気にしない。
「ってことだから、今日からスイは俺の彼女だな。……あ、もうスイじゃないな、彼氏になったんだから翠って呼ぶぞ」
その言葉に、私は学生時代の出来事を思い出さずにはいられなかった。
高橋くんに改まってこんな風に言われると、私はなんだか気恥ずかしくなる。なので、照れ隠しの言葉が口から出てしまう。
「ホント? 私、そんなすごいことなんてしてないよ? それこそきっかけはそうなのかもだけど、それからは高橋くんの努力の賜物だからね、そんなこと言ってたら、私、調子に乗っちゃうよ?」
「おう、いくらでも調子に乗ってくれ。今日はこれだけしか取り置きできなくて悪いけど、また明日、うまい奴を作っておくよ」
「やった! ありがとう。本当に毎日通っちゃうよ?」
真剣な話も、こうして軽口でサラッと流したのは、お互いが照れ臭かったからだ。高橋くんは私のお皿をトレイに乗せ、コーヒーのお代わりを持ってくると言って席を立った。そして戻って来る時に、コーヒーサーバーを手にしていた。サーバー、ちょうど二杯分のコーヒーが入っている。高橋くんは、サーバーの中にあるコーヒーをそれぞれのカップに注ぐと、先ほどと同じく正面の席に着く。
「で、そろそろ本題に入るんだけど……昨日言ってた訳ありって、一体なんだ?」
本題に触れる高橋くんに、私は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。世間話や思い出話で花が咲いて、そのことはすっかり忘れているものだと思っていただけに、不意打ちの発言だ。私が落ち着くまで高橋くんは辛抱強く待っていた。これを聞くまでは帰さないとばかりの目力に、私は根負けしてしまう。
「しょうもない理由なんだけど……言わなきゃ、ダメ……?」
「うん。場合によっては協力するって言っただろう? ……男絡み?」
高橋くんがコーヒーカップをテーブルの上に置くと、身を乗り出して私の言葉を待っている。私も、高橋くんに釣られてコーヒーカップをテーブルの上に戻すと、咳ばらいを一つして、言葉を選ぶように口を開いた。
「あのね……」
私は感情的にならないように、頭の中でゆっくりと整理しながら高橋くんにことの顛末を語ると、高橋くんはそれを黙って聞いていた。
そして、徐ろに口を開いた。
「スイはその先輩とやらのことを好きなのか?」
全てを話し終えたあと、真っ先に高橋くんが口にしたのはこの言葉だ。そんな風に思われるなんて心外だと、私はすかさず反論する。
「そんな訳ないでしょう? 尊敬していた先輩だったからこそなんか悔しくて、それなら痩せて綺麗になって先輩がもし言い寄ってきたらこっぴどく振ってやるわよ。それこそ百年の恋も冷めるっていうの? そんな感じだよ。恋愛感情じゃないけどね」
「本当に……?」
「本当だよ。ぶっちゃけるけどさ、私、生まれて今日まで誰ともお付き合いとかしたことないし」
こんなことまでカミングアウトするつもりはなかったけれど、私の必死な言葉に、高橋くんはなにか考えている。その間少し沈黙が流れたけれど、その沈黙を破ったのも高橋くんだった。
「……わかった。じゃあ、俺が協力してやる。スイ、俺が今日からお前の彼氏だ。スイは俺のために痩せたことにしろ。で、ダイエットは今日限りで止めろ。付き合うことになったからダイエットの必要もない。ここに毎日通ってスイーツ三昧も約束通りだ。で、もしその先輩とやらが言い寄ってきたら、俺と付き合ってるって言えばいい」
高橋くんの言葉に、今度は私が目を丸くした。コノヒトナニイッテルノという眼差しを向けても、高橋くんは一向に気にしない。
「ってことだから、今日からスイは俺の彼女だな。……あ、もうスイじゃないな、彼氏になったんだから翠って呼ぶぞ」
その言葉に、私は学生時代の出来事を思い出さずにはいられなかった。
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