5 / 20
約束のスイーツ三昧 3
しおりを挟む
「あの日、スイが俺の背中を押してくれたのが決定打だったけど、それまでにも、スイがうまそうに俺の作ったお菓子を食べてくれる顔を見てるだけで嬉しかったんだよ。だから、自分が作るスイーツで、他の人もスイみたいに幸せそうな顔をして欲しいって思った。いわばスイは、俺の人生を決めるきっかけになった恩人なんだよ」
高橋くんに改まってこんな風に言われると、私はなんだか気恥ずかしくなる。なので、照れ隠しの言葉が口から出てしまう。
「ホント? 私、そんなすごいことなんてしてないよ? それこそきっかけはそうなのかもだけど、それからは高橋くんの努力の賜物だからね、そんなこと言ってたら、私、調子に乗っちゃうよ?」
「おう、いくらでも調子に乗ってくれ。今日はこれだけしか取り置きできなくて悪いけど、また明日、うまい奴を作っておくよ」
「やった! ありがとう。本当に毎日通っちゃうよ?」
真剣な話も、こうして軽口でサラッと流したのは、お互いが照れ臭かったからだ。高橋くんは私のお皿をトレイに乗せ、コーヒーのお代わりを持ってくると言って席を立った。そして戻って来る時に、コーヒーサーバーを手にしていた。サーバー、ちょうど二杯分のコーヒーが入っている。高橋くんは、サーバーの中にあるコーヒーをそれぞれのカップに注ぐと、先ほどと同じく正面の席に着く。
「で、そろそろ本題に入るんだけど……昨日言ってた訳ありって、一体なんだ?」
本題に触れる高橋くんに、私は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。世間話や思い出話で花が咲いて、そのことはすっかり忘れているものだと思っていただけに、不意打ちの発言だ。私が落ち着くまで高橋くんは辛抱強く待っていた。これを聞くまでは帰さないとばかりの目力に、私は根負けしてしまう。
「しょうもない理由なんだけど……言わなきゃ、ダメ……?」
「うん。場合によっては協力するって言っただろう? ……男絡み?」
高橋くんがコーヒーカップをテーブルの上に置くと、身を乗り出して私の言葉を待っている。私も、高橋くんに釣られてコーヒーカップをテーブルの上に戻すと、咳ばらいを一つして、言葉を選ぶように口を開いた。
「あのね……」
私は感情的にならないように、頭の中でゆっくりと整理しながら高橋くんにことの顛末を語ると、高橋くんはそれを黙って聞いていた。
そして、徐ろに口を開いた。
「スイはその先輩とやらのことを好きなのか?」
全てを話し終えたあと、真っ先に高橋くんが口にしたのはこの言葉だ。そんな風に思われるなんて心外だと、私はすかさず反論する。
「そんな訳ないでしょう? 尊敬していた先輩だったからこそなんか悔しくて、それなら痩せて綺麗になって先輩がもし言い寄ってきたらこっぴどく振ってやるわよ。それこそ百年の恋も冷めるっていうの? そんな感じだよ。恋愛感情じゃないけどね」
「本当に……?」
「本当だよ。ぶっちゃけるけどさ、私、生まれて今日まで誰ともお付き合いとかしたことないし」
こんなことまでカミングアウトするつもりはなかったけれど、私の必死な言葉に、高橋くんはなにか考えている。その間少し沈黙が流れたけれど、その沈黙を破ったのも高橋くんだった。
「……わかった。じゃあ、俺が協力してやる。スイ、俺が今日からお前の彼氏だ。スイは俺のために痩せたことにしろ。で、ダイエットは今日限りで止めろ。付き合うことになったからダイエットの必要もない。ここに毎日通ってスイーツ三昧も約束通りだ。で、もしその先輩とやらが言い寄ってきたら、俺と付き合ってるって言えばいい」
高橋くんの言葉に、今度は私が目を丸くした。コノヒトナニイッテルノという眼差しを向けても、高橋くんは一向に気にしない。
「ってことだから、今日からスイは俺の彼女だな。……あ、もうスイじゃないな、彼氏になったんだから翠って呼ぶぞ」
その言葉に、私は学生時代の出来事を思い出さずにはいられなかった。
高橋くんに改まってこんな風に言われると、私はなんだか気恥ずかしくなる。なので、照れ隠しの言葉が口から出てしまう。
「ホント? 私、そんなすごいことなんてしてないよ? それこそきっかけはそうなのかもだけど、それからは高橋くんの努力の賜物だからね、そんなこと言ってたら、私、調子に乗っちゃうよ?」
「おう、いくらでも調子に乗ってくれ。今日はこれだけしか取り置きできなくて悪いけど、また明日、うまい奴を作っておくよ」
「やった! ありがとう。本当に毎日通っちゃうよ?」
真剣な話も、こうして軽口でサラッと流したのは、お互いが照れ臭かったからだ。高橋くんは私のお皿をトレイに乗せ、コーヒーのお代わりを持ってくると言って席を立った。そして戻って来る時に、コーヒーサーバーを手にしていた。サーバー、ちょうど二杯分のコーヒーが入っている。高橋くんは、サーバーの中にあるコーヒーをそれぞれのカップに注ぐと、先ほどと同じく正面の席に着く。
「で、そろそろ本題に入るんだけど……昨日言ってた訳ありって、一体なんだ?」
本題に触れる高橋くんに、私は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。世間話や思い出話で花が咲いて、そのことはすっかり忘れているものだと思っていただけに、不意打ちの発言だ。私が落ち着くまで高橋くんは辛抱強く待っていた。これを聞くまでは帰さないとばかりの目力に、私は根負けしてしまう。
「しょうもない理由なんだけど……言わなきゃ、ダメ……?」
「うん。場合によっては協力するって言っただろう? ……男絡み?」
高橋くんがコーヒーカップをテーブルの上に置くと、身を乗り出して私の言葉を待っている。私も、高橋くんに釣られてコーヒーカップをテーブルの上に戻すと、咳ばらいを一つして、言葉を選ぶように口を開いた。
「あのね……」
私は感情的にならないように、頭の中でゆっくりと整理しながら高橋くんにことの顛末を語ると、高橋くんはそれを黙って聞いていた。
そして、徐ろに口を開いた。
「スイはその先輩とやらのことを好きなのか?」
全てを話し終えたあと、真っ先に高橋くんが口にしたのはこの言葉だ。そんな風に思われるなんて心外だと、私はすかさず反論する。
「そんな訳ないでしょう? 尊敬していた先輩だったからこそなんか悔しくて、それなら痩せて綺麗になって先輩がもし言い寄ってきたらこっぴどく振ってやるわよ。それこそ百年の恋も冷めるっていうの? そんな感じだよ。恋愛感情じゃないけどね」
「本当に……?」
「本当だよ。ぶっちゃけるけどさ、私、生まれて今日まで誰ともお付き合いとかしたことないし」
こんなことまでカミングアウトするつもりはなかったけれど、私の必死な言葉に、高橋くんはなにか考えている。その間少し沈黙が流れたけれど、その沈黙を破ったのも高橋くんだった。
「……わかった。じゃあ、俺が協力してやる。スイ、俺が今日からお前の彼氏だ。スイは俺のために痩せたことにしろ。で、ダイエットは今日限りで止めろ。付き合うことになったからダイエットの必要もない。ここに毎日通ってスイーツ三昧も約束通りだ。で、もしその先輩とやらが言い寄ってきたら、俺と付き合ってるって言えばいい」
高橋くんの言葉に、今度は私が目を丸くした。コノヒトナニイッテルノという眼差しを向けても、高橋くんは一向に気にしない。
「ってことだから、今日からスイは俺の彼女だな。……あ、もうスイじゃないな、彼氏になったんだから翠って呼ぶぞ」
その言葉に、私は学生時代の出来事を思い出さずにはいられなかった。
17
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました
國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。
しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。
僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
新卒でセクハラ被害に遭い、職場を去った久遠(くおん)。
再起をかけた派遣先で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる