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彼氏 4
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「お前、俺の彼女になにしやがる!!」
「はあ? 伊藤ちゃん、本当にこいつが彼氏なの? あれ……こいつ、あれだろう? 最近東京からこっちに帰ってきて、近所に店を開いたあの有名パティシエじゃんか……」
浜田が翠の手を握っていたことに怒りを覚えた幸成は、今にも浜田に殴りかかりそうなのを必死で堪えていた。浜田はそんな幸成の剣幕に圧倒されている。
「翠、大丈夫か? ……って、これ、腕の色が変わってるじゃないか! てめえ、女の子相手になにしやがるんだよ! 今からお前の上司に、俺がこの目で見たことを言いあげるぞ」
幸成の言葉に、浜田の顔色が変わった。ここは通用口だ、偶然にもちょうどこの場所は、防犯カメラの映像が映っており、今のやり取りは全て録画されている。その画像を証拠に出されたら言い逃れはできない。それに気づいた翠は、幸成に防犯カメラの位置を指差した。
「あそこに動かぬ証拠もあることだし、今からここの社長か人事部の人間にアポ取ろうかな」
幸成はそう言うと、ポケットの中からスマホを取り出した。浜田は途端に言い訳を口にするも、あまりに身勝手な言い分に幸成は聞く耳を持とうとしない。スマホのスピーカーをオンにしたのか、電話の呼び出し音が響き渡る。そして、受話器が取られた。幸成は本当に会社に電話をかけていた。
「すみません。私、伊藤翠の婚約者なんですが。たった今そちらの従業員が翠にセクハラしている現場に遭遇いたしまして、その件についてお話をさせて頂けたらと思うのですが、人事部の方に繋いでいただけますか?」
このやり取りを聞いて、先ほどまで激高して真っ赤な顔をしていた浜田の顔色は、リトマス試験紙のように真っ青になっていく。
「ああ、もしもし? 人事部の方ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、浜田は幸成を突き飛ばし、会社の外へと飛び出して行った。突き飛ばされた拍子に、幸成は手に持っていたスマホを床に落としてしまい、スマホが壊れてしまった。すかさず翠が自分のスマホを取り出して人事部へ電話をかけ直し、すぐさま二人揃って応接室へくるようにと指示を受けた。
応接に移動中、幸成は翠に耳打ちする。
「俺が全部説明するから、なにがあっても翠は絶対に口を挟むなよ。さっきの奴のことで怖い思いをしたんだ。あいつにもそれ相応の仕返ししてやらなきゃ気が済まない。それにあいつ、俺を突き飛ばした上にスマホ壊しやがったんだ。修理代、請求してやる。いや、この際新機種にやり替えてその代金も請求してやろうか」
未だショックで震えている翠は、幸成がこうしておどけて場を和ませようとしていることに気づいていても、とっさに言葉が出ない。頷くことしかできなかった。
応接室に到着し、先ほどあった出来事を、翠の代わりに幸成が説明する。退院してまだ二週間しか経っていない翠を、会社の人も気遣っている。そんな中、幸成は翠を婚約者だと堂々と嘘をつき、証拠の防犯カメラの画像をみんなで確認して貰った。
音声録音はされていないものの、その画像と浜田に掴まれた腕の跡が証拠となり、浜田のセクハラは認定された。浜田の処分は追って決めるとのことで、ひとまず翠と幸成は帰された。その際、幸成は翠を先に廊下で待つように言うと、人事部の人と少しの間話をしていた。廊下にいる翠にその内容までは聞き取れなかったけれど、話が終わり、応接室から出てきた幸成の表情は晴れやかだった。
「はあ? 伊藤ちゃん、本当にこいつが彼氏なの? あれ……こいつ、あれだろう? 最近東京からこっちに帰ってきて、近所に店を開いたあの有名パティシエじゃんか……」
浜田が翠の手を握っていたことに怒りを覚えた幸成は、今にも浜田に殴りかかりそうなのを必死で堪えていた。浜田はそんな幸成の剣幕に圧倒されている。
「翠、大丈夫か? ……って、これ、腕の色が変わってるじゃないか! てめえ、女の子相手になにしやがるんだよ! 今からお前の上司に、俺がこの目で見たことを言いあげるぞ」
幸成の言葉に、浜田の顔色が変わった。ここは通用口だ、偶然にもちょうどこの場所は、防犯カメラの映像が映っており、今のやり取りは全て録画されている。その画像を証拠に出されたら言い逃れはできない。それに気づいた翠は、幸成に防犯カメラの位置を指差した。
「あそこに動かぬ証拠もあることだし、今からここの社長か人事部の人間にアポ取ろうかな」
幸成はそう言うと、ポケットの中からスマホを取り出した。浜田は途端に言い訳を口にするも、あまりに身勝手な言い分に幸成は聞く耳を持とうとしない。スマホのスピーカーをオンにしたのか、電話の呼び出し音が響き渡る。そして、受話器が取られた。幸成は本当に会社に電話をかけていた。
「すみません。私、伊藤翠の婚約者なんですが。たった今そちらの従業員が翠にセクハラしている現場に遭遇いたしまして、その件についてお話をさせて頂けたらと思うのですが、人事部の方に繋いでいただけますか?」
このやり取りを聞いて、先ほどまで激高して真っ赤な顔をしていた浜田の顔色は、リトマス試験紙のように真っ青になっていく。
「ああ、もしもし? 人事部の方ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、浜田は幸成を突き飛ばし、会社の外へと飛び出して行った。突き飛ばされた拍子に、幸成は手に持っていたスマホを床に落としてしまい、スマホが壊れてしまった。すかさず翠が自分のスマホを取り出して人事部へ電話をかけ直し、すぐさま二人揃って応接室へくるようにと指示を受けた。
応接に移動中、幸成は翠に耳打ちする。
「俺が全部説明するから、なにがあっても翠は絶対に口を挟むなよ。さっきの奴のことで怖い思いをしたんだ。あいつにもそれ相応の仕返ししてやらなきゃ気が済まない。それにあいつ、俺を突き飛ばした上にスマホ壊しやがったんだ。修理代、請求してやる。いや、この際新機種にやり替えてその代金も請求してやろうか」
未だショックで震えている翠は、幸成がこうしておどけて場を和ませようとしていることに気づいていても、とっさに言葉が出ない。頷くことしかできなかった。
応接室に到着し、先ほどあった出来事を、翠の代わりに幸成が説明する。退院してまだ二週間しか経っていない翠を、会社の人も気遣っている。そんな中、幸成は翠を婚約者だと堂々と嘘をつき、証拠の防犯カメラの画像をみんなで確認して貰った。
音声録音はされていないものの、その画像と浜田に掴まれた腕の跡が証拠となり、浜田のセクハラは認定された。浜田の処分は追って決めるとのことで、ひとまず翠と幸成は帰された。その際、幸成は翠を先に廊下で待つように言うと、人事部の人と少しの間話をしていた。廊下にいる翠にその内容までは聞き取れなかったけれど、話が終わり、応接室から出てきた幸成の表情は晴れやかだった。
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