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第3章
もしかして、この婚約はカモフラージュ? 1
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「はあ? 結婚だぁ?」
「ちょ、ちょっと弘樹、声が大きいよ」
一夜明けた月曜日、仕事が終わった私は、久しぶりに友人の白石弘樹を呼び出した。
フランス語で“羅針盤”を意味するカフェバー『boussole(ブッソール)』。
この店は駅の近くにあり、待ち合わせなどの利用客も多く、タウン誌に紹介される流行りのお店だ。私たちは、カウンター席に二人並んで座っている。
大きな声をあげる弘樹に、周囲からの視線が集まっている。そのことに本人は気づいていないようだ。
私は小声で弘樹に注意をしたけれど、火に油を注ぐ行為となってしまった。
「声がでかくなるのはしょうがないだろう? そんな話、俺は何一つ聞いてないよ!?」
「うん。だって直接会って話がしたかったから、ずっと我慢してたんだもん。……って弘樹、ちょっと私たち目立ってるかも」
弘樹を宥めながら周囲に視線を走らせると、何ごとかとこちらを見ていた人たちと目線が合った。
あちら側も私と視線が合ったことで、バツが悪そうに顔を背けている。
よかった、あとは弘樹を落ち着かせるだけだ。私はあっけらかんと事実を語った。
「『我慢してたんだもん』って、……あのさぁ、俺がきちんと状況を理解できるように、最初から説明してくれる?」
私の返答に呆れたのか、弘樹は大げさに溜め息を吐きながらわざとらしく肩を落とした。
目の前には、店に入ったときにオーダーした生ビールと焼酎のロックが置かれている。
私がジョッキグラスに手を伸ばしたタイミングで、目の前に大きな影が差し掛かった。
「はい、お待たせ。二人とも何をそんなに盛り上がってるの? ほら、ポテトが温かいうちに食べな」
オーダーしたフライドポテトがカウンター席に運ばれてきた。しかもそれを持ってきてくれたのが、この店のオーナーシェフである武志さん本人で、その武志さんから話しかけられたものだから、弘樹は緊張で固まっている。
武志さんは見た感じ四十代後半くらいだろうか、落ち着いた大人の魅力溢れるイケオジだ。実は弘樹は今、この武志さんに絶賛片思い中で、私は弘樹の気持ちを応援するために、時間が合えばこうして一緒にお店へ足を運んでいる。
武志さんの登場に、ようやく弘樹は自分が注目を浴びていたことに気づいたのか、気まずい空気を払拭しようと咳ばらいをした。
「ちょ、ちょっと弘樹、声が大きいよ」
一夜明けた月曜日、仕事が終わった私は、久しぶりに友人の白石弘樹を呼び出した。
フランス語で“羅針盤”を意味するカフェバー『boussole(ブッソール)』。
この店は駅の近くにあり、待ち合わせなどの利用客も多く、タウン誌に紹介される流行りのお店だ。私たちは、カウンター席に二人並んで座っている。
大きな声をあげる弘樹に、周囲からの視線が集まっている。そのことに本人は気づいていないようだ。
私は小声で弘樹に注意をしたけれど、火に油を注ぐ行為となってしまった。
「声がでかくなるのはしょうがないだろう? そんな話、俺は何一つ聞いてないよ!?」
「うん。だって直接会って話がしたかったから、ずっと我慢してたんだもん。……って弘樹、ちょっと私たち目立ってるかも」
弘樹を宥めながら周囲に視線を走らせると、何ごとかとこちらを見ていた人たちと目線が合った。
あちら側も私と視線が合ったことで、バツが悪そうに顔を背けている。
よかった、あとは弘樹を落ち着かせるだけだ。私はあっけらかんと事実を語った。
「『我慢してたんだもん』って、……あのさぁ、俺がきちんと状況を理解できるように、最初から説明してくれる?」
私の返答に呆れたのか、弘樹は大げさに溜め息を吐きながらわざとらしく肩を落とした。
目の前には、店に入ったときにオーダーした生ビールと焼酎のロックが置かれている。
私がジョッキグラスに手を伸ばしたタイミングで、目の前に大きな影が差し掛かった。
「はい、お待たせ。二人とも何をそんなに盛り上がってるの? ほら、ポテトが温かいうちに食べな」
オーダーしたフライドポテトがカウンター席に運ばれてきた。しかもそれを持ってきてくれたのが、この店のオーナーシェフである武志さん本人で、その武志さんから話しかけられたものだから、弘樹は緊張で固まっている。
武志さんは見た感じ四十代後半くらいだろうか、落ち着いた大人の魅力溢れるイケオジだ。実は弘樹は今、この武志さんに絶賛片思い中で、私は弘樹の気持ちを応援するために、時間が合えばこうして一緒にお店へ足を運んでいる。
武志さんの登場に、ようやく弘樹は自分が注目を浴びていたことに気づいたのか、気まずい空気を払拭しようと咳ばらいをした。
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