これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子

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第4章

その女性、誰ですか? 2

 弘樹はそう言いながら、フライドポテトに手を伸ばした。
 私も釣られてポテトに手を伸ばす。

 弘樹が塩を大量に振りかけたから、いつもよりかなりしょっぱくビールを飲むペースが早い。
 私はジョッキのビールを口に運ぶと、モヤモヤした気持ちを一緒に流し込んだ。

「あの人……徳井さんの顔って、晶紀が持ってるBL本のお気に入りキャラに顔が似てるな」

「でしょう? 私もずっと徹也くんに似てると思ってたんだ。だからもしあの本が実写化するなら、攻めは徹也くんに決まりだね」

「お前、どこまでもBL脳だな……」

 弘樹はそう言うと、頭を抱え込んでしまった。私の発言のどこがおかしかったんだろう。

 私は、三次元の男性に興味はない。
 徹也くんは幼馴染だから別だけど、仮に他の人とお見合いをしたとしても、こんな調子じゃ上手くいくことはないだろう。

 婚約まで話が進んだこの状態は奇跡に近い。だからこそ、徹也くんにBL好きをカミングアウトせずに結婚していいのか……
 しばらくの間沈黙していたけれど、それを破ったのは弘樹だった。

「話が逸れたな、元に戻すぞ。連れの女、見た?」

 私は、弘樹が何について『見た?』と聞いているか分からず、言葉の続きを促した。
 
「あの女も指輪してただろ、右手だったけど」

 焼酎を飲みながら爆弾を投下した。
 徹也くんが女性と一緒だったことが衝撃でそこまで見る余裕なんてなかったのに、第三者の弘樹はどこまでも冷静だ。

「デザインまでは見えなかったけど、ぱっと見似たような感じのやつだったから、もしかしたらあれ、ペアリング……」

 その言葉に、私は固まった。
 さっきまで、弘樹が私に言った『現在進行形でほかに女がいるかも知れないんだよ』の言葉が、急に現実味を帯びてきた。
 弘樹も私が動揺していることに気づいたようで、咳ばらいをした。空気を変えたかったのだろうけど、私は言葉が出てこないし、弘樹も気まずくて黙ったままだ。

「まあ、結婚するまでまだ時間はあるし。それまでに怪しいところがあれば話し合って、それで納得いかないなら婚約破棄すればいい。最悪バツイチになったとしても、最近はそういう人多いから、誰も何も言わないって。それに晶紀には非がないんだから、堂々としてればいいよ。なるようになる。……まあ飲め! 今日の分は俺が奢るから」

 いつも弘樹から恋バナの相談をされていたから、今日は完全に立場が逆転だ。

 弘樹は恋愛(片思い)しているときは、いつもこんなふうに不安を私に晒し、それを私が『なるようになるから』と励ましていた。
 でも一つだけ、細かいようだけど『奢るから』と言われても、ここの支払いはさっき徹也くんが済ませているから、そこだけは訂正させないと。

「うん、そうだね……って、ここの支払い、さっき徹也くんが済ませてたじゃない。弘樹の奢りじゃないじゃん」

「ううっ、まあ細かいことは気にするなって。ビールのあと何飲む? それ、奢るからさ」

 この適当さに呆れながらも、場の空気を変えようと気遣ってくれる弘樹に甘えて私はジョッキの中に残っているビールを飲み干した。

「よしっ、じゃあ遠慮なく弘樹に奢ってもらおう。次、何飲もうかな」

「そうこなきゃ! いくらでも飲め……その代わり二日酔いになるなよ」

「まだ今日は月曜日だから、そこまで飲まないってば」

 私は空になったジョッキをカウンターの上に置くと、目の前にあるメニューへと目を走らせた。
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