これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子

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第8章

見た目に騙されてはいけません 4

「びっくりさせてごめんね。私、単に女装が趣味なの。早く着替えておいで」

 驚いて固まる私を個室に押し込んだ。
 言われるがまま、スカートを穿き替えて洗面所に戻ると、入れ替わりで今度は坂下さんが個室に入った。

 汚れが目立たなくなるくらいまでスカートを洗っていると、個室から坂下さんが出てきた。
 その出で立ちは、さっきまでの綺麗なお姉さんとはガラリと変わっている。

 服装はカジュアルな装いで、長かった髪の毛は見る影もない。当たり前だけど、カツラをかぶっていたようだ。

「スカートの染み、取れた?」

 咄嗟のことに、私は頷くことしかできない。
 女装を解いた坂下さんは、さっきと雰囲気が全然違い、どこからどう見ても綺麗な男の人だ。
 あまりの変わりように、二度見どころか三度見四度見してしまう。

「そんなにマジマジ見られると、なんか恥ずかしいな。そんなに違う?」

「全然別人みたいです。てっきり女の人だと思ってたから……」

 私の言葉に満更でもなさそうだ。

「女の子からそう言ってもらえたら、女装は合格点だな。晶紀ちゃんありがとう」

 坂下さんはそう言うと、鏡の前でカツラでぺったんこになった自身の髪型を手櫛で直し始めた。
 その右手には、先ほどまであった指輪がない。

「あのっ、指輪……」

 私の言葉に、坂下さんは自身の右手を見て、何が言いたいかを察したようだ。

「ああ、アレね。一応虫除け。女装が趣味とはいえ、僕は男よりも女の子のほうが好きだからね。変な男に近寄られないようにって、徹也からもアドバイス受けてたんだ」

「徹也くんから……?」

「徹也の指輪も気になってるんでしょう?」

 私が指輪の話をしたせいか、坂下さんには私の考えなんてお見通しのようだ。

「あとで本人から聞くといいよ。僕が余計なこと言ってもアレだからな。まぁ、晶紀ちゃんが心配することは何もないから安心しなよ。あ、濡れたスカートはこれに入れて。あ、スカート、サイズ合わないのは我慢してね」

 そう言って、ビニール袋とそれを入れる紙袋を手渡された。それは自身のカツラを入れていたであろうものだった。
 着替えたときに、靴も履き替えている。用意周到すぎて、驚きを通り越してしまう。

「お気遣いありがとうございます。ウエストが紐で調整できるから助かりました。ではこちら、遠慮なくお借りしますね」

 坂下さんは私の返事に頷くと、一緒に化粧室を出て席に戻った。坂下さんの姿を見て、弘樹は驚きを隠せない。

「あんた……そっち側の人間だったのか?」

「失礼な。僕は女装が趣味なだけで好きなのは女性だし」

「だよな……ビビった……」

 弘樹の呟きに、坂下さんは当たり前のように返事をする。多分いつも同じようなことを言われていたのだろう。坂下さんの言葉は少し投げやりに聞こえた。

 私の姿を見て、徹也くんは坂下さんに詰め寄った。

「おまっ……」

「何も言ってないから。僕の格好は趣味ってことしか話してない。きちんと二人で話をしろよ。ってことで、ここはお前の奢りな。白石くんだっけ、あとは若い二人に任せようか。それじゃあ晶紀ちゃん、こいつに聞きたいこと、きちんと聞くようにね」

 マイペースな坂下さんは、そう言うと弘樹を連れて店を後にした。

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