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史那編
春休み 2
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画面を見ているだけで私は気持ちがほっこりする。
私はスマホの画面を閉じると、父からの差し入れのプリンにスプーンを刺した。
どこか懐かしい、優しい味のプリンにいつも癒される。
そう言えば私が小さい頃、なにかあった時はこのプリンを父におねだりしていた。
母に聞くと、父と初めて住み始めた日に、私と一緒にスイーツを買って来たのがこれだったのだと言う。
そんな話を聞くと、尚更思い入れが増えてしまう。
香水をきっかけに、今日は過去を振り返ることが多い。
五感を通して、懐かしい記憶が蘇る。
私はまだ十五歳。たった十五年しか生きていないけれど、他の人とは比べられないけれど、きっとそれなりに内容のある十五年だろう。
父からの差し入れであるプリンをじっくりと味わいながらそんなことを思っていると、愛由美ちゃんからメッセージが届いた。きっと明日の件だろう。私はスマホの画面を開いた。
『史那ちゃんこんにちは、明日楽しみだね。で、明日なんだけど、パパが送迎してくれるって言ってくれたから、マンションまで迎えに行くね。行く前にまた連絡します』
かわいらしい絵文字や顔文字を織り交ぜた女の子らしいメッセージだ。
私も負けじと返事をする。
『愛由美ちゃん、こんにちは。連絡ありがとう。本当? おじさんにお礼伝えてください。私も果穂も明日楽しみにしてます』
私も絵文字と顔文字を織り交ぜて送信し、お互いスタンプで返事をしてやり取りを終わらせると、プリンの残りを頬張った。
翌日は絶好のお出掛け日和で、愛由美ちゃんと加恋ちゃんのお父さんが約束通り水族館への送迎をしてくれた。
母が恐縮してしまい、せめてお昼ごはんはこちらで用意させてくれと申し出たものの、愛由美ちゃんのお父さんの会社は飲食業を展開する会社の役員さんだ。優待チケットを使わないともったいないと言って母の申し出を断った。
ちょうど水族館のある近くのビルの中に、私たちが入っても安心価格帯のレストランがあると言う。
しかも果穂がいるから、半個室のブースも手配してくれていると言う。本当に至れり尽くせりだ。
翌日のお出掛けに、せっかく理玖からプレゼントされた香水をハンカチに一プッシュしてバッグの中に忍ばせた。
もし愛由美ちゃんや加恋ちゃんに聞かれたら、なにを貰ったかすぐに答えられるように。
果穂も一緒だから、そこまで激しい突っ込みはないと期待したい。
私達は朝一番から水族館を満喫し、サワイグループのレストランでお昼ご飯を堪能し、その後愛由美ちゃんのお父さんがドライブに連れていってくれ、丸一日遊び回った。
帰宅する頃には果穂も遊び疲れて車の中で眠ってしまった。
そんな果穂をおじさんは軽々と抱き上げて、マンションまで連れて行ってくれた。
「愛由美や加恋にもこんな時期あったよなあ……」
しみじみと呟くおじさんに、愛由美ちゃんが一言ポツリと発した。
「歳の離れた妹か弟、いてもいいよ」
加恋ちゃんも釣られて発言する。
「うん、果穂ちゃん見てると歳の離れた妹や弟もいいね」
二人の言葉に、おじさんは真剣な顔をしている。
「そうか……? でもこれは智賀子に要相談案件だな」
どうやらおじさん真剣に考えている。以前、愛由美ちゃんから聞いた話によると、おじさんにはお姉さんがいて、同じサワイグループの現場に出ているそうだ。お姉さん夫婦には子供さんがおらず、沢井家の孫は愛由美ちゃんと加恋ちゃんだけらしい。
後継ぎのことを考えたらやはり男の子を望む声が多いけど、それを智賀子おばさんの耳に入れてプレッシャーに感じて欲しくないからと、加恋ちゃんが生まれた時にこれ以上は望まないと公言したのだと、父から聞いたことがある。
実際におじさんは実力主義で、もし愛由美ちゃんや加恋ちゃんの結婚する相手が沢井の後継者としての才能を見いだせない場合、会社は一族経営から会社の実力者に経営を委ねることも考えている。だから周囲がなにを言おうが関係ない、二人とも会社のことを考えず自分の幸せを見つけなさいと常日頃から口にしているそうだ。
これを我が家に置き換えた場合、幸い父は次男で後継ぎ問題はないから良かったものの、長男である尚人伯父さんの家に理玖や蒼良がいなかったらそれこそ母も色々と言われただろう。
それに父の病気の件は公にはなっていないけれど、永らく私以外の子供に恵まれなかったことも、影では色々と言われていたに違いない。
そう考えたら、母も智賀子おばさんも、大変な家庭に嫁入りしたものだ。
父やおじさんも奥さんと家庭を大事にしてくれる人だから、今の私たちがこうしていられるのだと改めて思う。
いいなあ、こんな旦那さん。私の両親は、私の理想の夫婦だ。
きっと愛由美ちゃんと加恋ちゃんも自分の両親を理想の夫婦だと思っているだろう。
いつか私もそんな理想の家庭を築き上げることができるだろうか。
その前に、そんな相手と巡り合えるだろうか。
できることならば、その相手は理玖がいい。でもそれは私個人の考えだけで、理玖の気持ちは分からないし、もうそんなことを軽々しく口にする年齢はとうに過ぎていることも自覚している。
私はスマホの画面を閉じると、父からの差し入れのプリンにスプーンを刺した。
どこか懐かしい、優しい味のプリンにいつも癒される。
そう言えば私が小さい頃、なにかあった時はこのプリンを父におねだりしていた。
母に聞くと、父と初めて住み始めた日に、私と一緒にスイーツを買って来たのがこれだったのだと言う。
そんな話を聞くと、尚更思い入れが増えてしまう。
香水をきっかけに、今日は過去を振り返ることが多い。
五感を通して、懐かしい記憶が蘇る。
私はまだ十五歳。たった十五年しか生きていないけれど、他の人とは比べられないけれど、きっとそれなりに内容のある十五年だろう。
父からの差し入れであるプリンをじっくりと味わいながらそんなことを思っていると、愛由美ちゃんからメッセージが届いた。きっと明日の件だろう。私はスマホの画面を開いた。
『史那ちゃんこんにちは、明日楽しみだね。で、明日なんだけど、パパが送迎してくれるって言ってくれたから、マンションまで迎えに行くね。行く前にまた連絡します』
かわいらしい絵文字や顔文字を織り交ぜた女の子らしいメッセージだ。
私も負けじと返事をする。
『愛由美ちゃん、こんにちは。連絡ありがとう。本当? おじさんにお礼伝えてください。私も果穂も明日楽しみにしてます』
私も絵文字と顔文字を織り交ぜて送信し、お互いスタンプで返事をしてやり取りを終わらせると、プリンの残りを頬張った。
翌日は絶好のお出掛け日和で、愛由美ちゃんと加恋ちゃんのお父さんが約束通り水族館への送迎をしてくれた。
母が恐縮してしまい、せめてお昼ごはんはこちらで用意させてくれと申し出たものの、愛由美ちゃんのお父さんの会社は飲食業を展開する会社の役員さんだ。優待チケットを使わないともったいないと言って母の申し出を断った。
ちょうど水族館のある近くのビルの中に、私たちが入っても安心価格帯のレストランがあると言う。
しかも果穂がいるから、半個室のブースも手配してくれていると言う。本当に至れり尽くせりだ。
翌日のお出掛けに、せっかく理玖からプレゼントされた香水をハンカチに一プッシュしてバッグの中に忍ばせた。
もし愛由美ちゃんや加恋ちゃんに聞かれたら、なにを貰ったかすぐに答えられるように。
果穂も一緒だから、そこまで激しい突っ込みはないと期待したい。
私達は朝一番から水族館を満喫し、サワイグループのレストランでお昼ご飯を堪能し、その後愛由美ちゃんのお父さんがドライブに連れていってくれ、丸一日遊び回った。
帰宅する頃には果穂も遊び疲れて車の中で眠ってしまった。
そんな果穂をおじさんは軽々と抱き上げて、マンションまで連れて行ってくれた。
「愛由美や加恋にもこんな時期あったよなあ……」
しみじみと呟くおじさんに、愛由美ちゃんが一言ポツリと発した。
「歳の離れた妹か弟、いてもいいよ」
加恋ちゃんも釣られて発言する。
「うん、果穂ちゃん見てると歳の離れた妹や弟もいいね」
二人の言葉に、おじさんは真剣な顔をしている。
「そうか……? でもこれは智賀子に要相談案件だな」
どうやらおじさん真剣に考えている。以前、愛由美ちゃんから聞いた話によると、おじさんにはお姉さんがいて、同じサワイグループの現場に出ているそうだ。お姉さん夫婦には子供さんがおらず、沢井家の孫は愛由美ちゃんと加恋ちゃんだけらしい。
後継ぎのことを考えたらやはり男の子を望む声が多いけど、それを智賀子おばさんの耳に入れてプレッシャーに感じて欲しくないからと、加恋ちゃんが生まれた時にこれ以上は望まないと公言したのだと、父から聞いたことがある。
実際におじさんは実力主義で、もし愛由美ちゃんや加恋ちゃんの結婚する相手が沢井の後継者としての才能を見いだせない場合、会社は一族経営から会社の実力者に経営を委ねることも考えている。だから周囲がなにを言おうが関係ない、二人とも会社のことを考えず自分の幸せを見つけなさいと常日頃から口にしているそうだ。
これを我が家に置き換えた場合、幸い父は次男で後継ぎ問題はないから良かったものの、長男である尚人伯父さんの家に理玖や蒼良がいなかったらそれこそ母も色々と言われただろう。
それに父の病気の件は公にはなっていないけれど、永らく私以外の子供に恵まれなかったことも、影では色々と言われていたに違いない。
そう考えたら、母も智賀子おばさんも、大変な家庭に嫁入りしたものだ。
父やおじさんも奥さんと家庭を大事にしてくれる人だから、今の私たちがこうしていられるのだと改めて思う。
いいなあ、こんな旦那さん。私の両親は、私の理想の夫婦だ。
きっと愛由美ちゃんと加恋ちゃんも自分の両親を理想の夫婦だと思っているだろう。
いつか私もそんな理想の家庭を築き上げることができるだろうか。
その前に、そんな相手と巡り合えるだろうか。
できることならば、その相手は理玖がいい。でもそれは私個人の考えだけで、理玖の気持ちは分からないし、もうそんなことを軽々しく口にする年齢はとうに過ぎていることも自覚している。
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