仮面夫婦のはずが、エリート専務に子どもごと溺愛されています

小田恒子

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史那編

公開告白 3

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 最上階まで吹き抜けになっているので、きっと各階のロビーからの見晴らしはいいだろう。
 理玖と尚人伯父さんは、エントランスから二階へと続く緩やかな螺旋階段から降りて来た。

「雅人、史那ちゃん」

 直人伯父さんの声に、父が反応する。

「三島社長はもう来られてるのか?」

 挨拶も早々に父が直人伯父さんに声を掛ける。
 直人伯父さんもそれに反応し、二人が会話をしているのを横目に私は理玖の姿に目を奪われた。
 制服姿や普段着の理玖しか見たことがない私は、このように畏まった場所できちんとした格好をしている理玖に目線も心も奪われる。
 イケメンでスタイルのいい理玖は、なにを着てもサマになる。従業員やホテル利用者の女性陣の視線を一身に集めていることに気づいているだろうか。

「今日は俺の傍から離れるな。それから、俺が言う事を否定せずにニコニコして頷いてろよ」

 理玖の言葉に頷くしかない。
 このような場は初めてだから緊張するし、実際のところ私はなにをしていいのか分からない。理玖が傍にいてくれるならそれだけで心強い。
 ちょうど父と伯父さんの話が一段落ついた頃、直人伯父さんが私をまじまじと見つめた後、急に私に話を振って来た。

「史那ちゃん、大人っぽくなったな。なあ、理玖?」

 直人伯父さんのお世辞に理玖は私の想像と違う反応を見せた。

「うん、よく似合ってるよ」

 まさか褒めてくれるとは思ってもいなかった私は、思考が止まってしまい固まってしまった。
 そんな私を父が頭を軽くポンと触れて解してくれた。

「よかったな、史那」

 父の行動で我に返った私は、伯父さんと理玖にお礼を言った。
 その時だった。

「ああ、高宮社長に専務、今日はお世話になります」

 三島建設の社長と思しき人物が目の前に現れた。
 年の頃は、祖父より少し若い位だろうか、白髪で恰幅のいいおじさんと、部下らしき人数名を引き連れている。
 会社の創設パーティーだから、会社の従業員さんは会場でそれぞれが持ち場を任されているのだろう。ホテルのスタッフとはまた別でパーティー会場での来客者の接待に当たるそうで、今日は昼から会場は貸し切り状態との事だった。

 三島社長に気づいた父と伯父さん、理玖は途端に背筋を伸ばして歓迎の笑顔を見せる。

「ああ。三島社長、今日はこちらこそ当ホテルをご利用いただきありがとうございます。今日はホテルスタッフ一同、パーティーの成功を陰ながらお手伝いさせて頂きます」

 社長である伯父さんの言葉に、三島社長が笑顔で応えている。そして視線が私たちに向いた。

「ところで、こちらのお美しいお嬢さんは……」

 三島社長の声に、父が答える。

「ああ、ご紹介が遅れましたが私の娘で史那と言います。理玖の従妹に当たります」
「そうなんです、それでもってうちの理玖の婚約者でして」

 父の返事に続き、直人伯父さんの爆弾発言が飛び出した。私は驚きのあまり理玖に視線を向けるも、理玖も頷いている。但し目力が半端じゃない。黙って調子を合わせろと言うことらしい。
 三島社長は瞠目して私をまじまじと見つめながらも、私に向かって手を差し出して来た。

「ほう……そうですか。これはまた高宮社長も将来が安心ですな。初めまして、三島です」
「初めまして、高宮史那と申します」

 差し出された手に私も手を伸ばし、軽い握手を交わした。

「これだけの美貌の持ち主だ、悪い虫がつく前に婚約者がいればもう安心ですな。理玖くんも素敵な婚約者を持てて羨ましい限りだ」

 社交辞令的な挨拶も終わり、三島社長は会場に行って最終段取りを確認すると言って私たちから離れて行った。
 父と伯父さんも会場の手伝いに向かうと言って、二人揃って会場のフロアへと向かっていく。この場には、私と理玖が残された。

「今日は史那も社交の場のデビューだし、変な輩に目をつけられないためにも俺の婚約者で通すんだ」

 突然の爆弾発言に反応しない私に向かって、理玖がぼぞっと声にした。
 理玖の顔は、心なしか不機嫌だ。これはきっと理玖にとって不本意なことなのだろう。
 また、こうやって理玖に迷惑を掛けてしまっている……
 俯いて返事をしない私に、理玖は私の腕を引いてラウンジへと連れて行く。
 ラウンジのスタッフも理玖の顔を覚えているのか、観葉植物で顔が見えないように仕切られているスペースへと案内してくれた。
 スタッフが私たちの前に紅茶を出して、席を外したタイミングで理玖は口を開いた。

「なあ、史那。なにかまた勘違いしてるかも知れないけど、史那は俺の婚約者で間違いないんだよ」

 促されて座った席の正面に座った理玖が、私が返事をする前に言葉を続ける。

「だって、小さい頃俺にプロポーズしてくれただろう? 『理玖くんのお嫁さんになる』って。その時、俺も約束したよ。その時に『史那ちゃんのことが好きだよ』って言ったよな」

 驚きで返事ができない私の様子を見ながら、再び理玖が言葉を続けた。

「子供の頃の戯言でも、俺は本当に嬉しかったんだよ。史那がそんな風に思ってくれていたことが」
 

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