涙のあとに咲く約束

小田恒子

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第三章

家族の真実 1

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 藤堂さんと真一くんの三人でお出掛けしてから次の週の金曜日。
 その日、藤堂さんの家を訪ねる予定はなかった。
 
 仕事終わりに『このあと、ちょっと寄ってもいいですか?』とメッセージを送ったのは、昼間、彼が少し疲れた顔をしていたのが気になったからだ。藤堂さんは真一くんと二人で暮らしているから、もしかして、今度は藤堂さんが体調を崩しているのかもしれない。

 会社では普通を装っているけれど、今日は金曜日。明日が休みだから気が緩んで疲れが出たのではないかと心配になった。
 私が押しかけていって、逆に迷惑になるのではないか、訪問は控えたほうがいいのではないかとメッセージを送ってから後悔したけれど……
 返ってきたのは、短い『いいよ』の一文。それだけなのに、胸がじんわりと温かくなった。

 夕方の街は、梅雨の切れ間の湿った風が吹いていた。
 藤堂さんの家の前に着くと、玄関先に見知らぬ女性が立っていた。落ち着いた雰囲気で、目元は藤堂さんによく似ている。
 
「あら……どなたかしら?」
 
 声をかけられ、思わず姿勢を正す。
 
「松下と申します。藤堂さんと同じ会社のものです」
 
 女性はふっと柔らかく微笑んだ。
 
「ああ、そうなのね。息子がお世話になっております」

 藤堂さんのお母さんがそう言って私に頭を下げるので、私もつられて「こちらこそお世話になっております」と頭を下げた。
 
 鞄の中から家の合鍵を取り出すと、藤堂さんのお母さんが玄関の鍵を開ける。玄関の扉が開くと、奥から小さな足音が駆けてきた。
 
「あ、ばあば!」
 
 元気いっぱいの声とともに、真一くんが彼女の足に飛びつく。
 
「真一、久しぶりね。また背が伸びたんじゃない?」

 祖母と孫の会話に、私は微笑ましく思えた。

「うん、ぼく、おおきくなったよ!」

「今日はお土産もあるわよ、これ、晩ごはんの後に食べましょう?」

 藤堂さんのお母さんはそう言うと、手に持っていた紙袋を見せた。どうやらそこには菓子折りが入っているようだ。

 紙袋の外側に印刷されているお店のロゴを見て、真一くんは目を輝かせる。
 どうやら真一くんの大好きなお店のお菓子のようだ。

「やったー! ばあば、ありがとう。けんじにいちゃんはいま、かいものにいってるんだ」

 真一くんはそう言って私たちを玄関の中に引き入れると、藤堂さんのお母さんに私を家に上がるよう促された。

 私の姿を確認した真一くんが「あ、おねえちゃん、いらっしゃい!」と歓迎してくれたので、私も「真一くん、こんにちは」とあいさつを交わした。
 
 藤堂さんのお母さんは、私を客間に案内し、お茶を出してくれた。

「可愛いお孫さんですね」

 私が話を振ると、藤堂さんのお母さんは麦茶の入ったグラスを前に、静かに語り始めた。
 
「真一のこと、息子から聞いてるかしら? ーーあの子は、兄夫婦の子なのよ」

 そう言って、客間に飾られている一枚の写真を手に取った。
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