涙のあとに咲く約束

小田恒子

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第五章

涙のあとに咲く約束 1

 私の逆プロポーズとも取れる告白から半年が経つ。
 
 冬の公園は空気が澄んでいて、吐く息が白く揺れた。
 砂場で夢中になって遊ぶ真一くんの横で、私もしゃがみ込み、小さなバケツを逆さにして、砂のケーキを作る。
 
「ほら、できた!」

「わぁ、すごい! ちゃんとかたちになってる」

「つぎはもっとおおきいのつくるね!」
 
 小さな笑顔に、私も自然と笑顔になる。

 ふと視線を上げると、少し離れたベンチに藤堂さんが座っていて、じっとこちらを見ていた。

 真一くんを見るようでいて、どこか私にも視線を向けている気がする。

 その瞳は、いつもの落ち着いた色に、淡い光が差していた。
 

 最近、彼の目の奥が少しずつ変わってきている気がする。
 最初は、静かで、近寄ることをためらわせるような深い湖みたいだった。でも今は、冬の陽だまりのように、あたたかさが滲んでいる。

 彼が真一くんをひとりで育てているのは、兄夫婦を事故で亡くし、その原因が彼自身にあると思っているからだ。
 事故当日、残業を断って自分が真一くんの迎えに行けば、兄夫婦は事故に遭わずに済んだのではという思いに囚われている。

 そのせいで、十字架を背負った彼は「自分には恋愛はできない」と、どこかで決めてしまっているーーそんな空気を、私は何度も感じた。

 けれど、こうして三人で過ごす時間が増えるたび、その決意の輪郭が少しずつ薄れているように感じる。


 その日の夕方、私は藤堂さんの家でハンバーグを作った。
 真一くんのリクエストだ。
 玉ねぎを炒めていると、背中越しに低く落ち着いた声がした。
 
「本当に、助かってるよ」

「助けるっていうより……私も楽しいんです。真一くんと、藤堂さんと過ごす時間」
 
 そう振り返って言うと、彼がわずかに目を見開き、それから照れくさそうに視線を外した。
 
 ーーあ、少し耳が赤い。
 その反応に、胸の奥が温かくなる。

 
 夕食後、真一くんはあっという間に眠ってしまった。
 リビングで紅茶を飲みながら、静かな時間が流れる。
 
「……こういうの、いいですね」

「こういうの?」

「何でもない、ただ一緒にいるだけの時間」
 
 私の言葉に、彼は湯気の向こうで小さく笑った。でもその笑みの奥に、何かを堪えているような影が見えた。

 ーーきっと、心の中で何かが揺れている。
 そのことを思うと、なぜだか鼓動が少し早くなった。


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