エゴイスト

神風団十郎重国

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20話

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「……あのね……私……」

「……どうかしたの綾乃」

「……」

綾乃は何か悩んでいるようだった。いつもなら促せば言うのに綾乃は少し顔を下げて黙ってしまった。
何だろう。何を考えているかは読めないがこれが不利に働くとは思えない。とりあえず何かあったのは確かだろうから啓太を使ってみるか?あいつを上手くそそのかせばさっさと話が進むだろう。

まだ時間がかかるのが歯痒いが、綾乃を好きにできるのはそれからだ。
こんな顔をするのを望んで今までいろいろやってたんだし、あと一押しまで来ている。
私は黙ってしまった綾乃に笑いかけた。

「綾乃?話したくなったらでいいよ?悩んでるんだったらそんな無理に話さなくていいし、私はいつでも話し聞くから」

「……ナギちゃん」

軽く手を握ってやって綾乃の幻想に近い私を演じた。
幼馴染みで親友なんだからこんなの造作もない。綾乃の中では元に戻ったみたいだし、私は優しいからちゃんと演じてあげるよ綾乃。
綾乃は小さく笑った。

「ありがとう。なんか、どう言えばいいか分からなかったから……頭の中でまとまったら話すね」

「うん。それより服買いに行こうよ?いつものショッピングモールで見よっか?」

「うん……!」

「じゃあ、飲み終わったらすぐ行こう。あ、そういえばさ……」


一応そう言って私はまた違う話をした。
正直話す内容も服もどうでもよかった。もう私は先の事ばかり考えてしまっていた。
綾乃を手に入れたら私の好みに躾をしたいから準備をしておきたい。でも、まず一番は綾乃をじっくり味わいながら自分を満たしたい。
あの快感を味わって、あれを上回る快感を築きたい。
上手く優しい私を演じながら強引に調教して私の私物のように扱いたい。

これの所有権は私にあるんだから。


先の事を考えていると適当に笑っているだけだったのが本当の笑みになってくる。
そんな事には気付いてすらない綾乃に私は優しく声をかけた。

「綾乃、それ可愛いじゃん」

「本当?」

「うん。下はスカートでもパンツでも何でも合うんじゃない?」

綾乃が持っていた袖がフレアになっているブラウスは夏らしく涼しげで綾乃の好きそうな服だった。

「うん。でも、シャツもありかなって思ってるんだけど……、これとかどうかな?」

「え、いいじゃん。可愛いよ?綾乃あんまりシャツ着ないけどシャツも似合うよ」

綾乃が持ってきた白っぽいシャツもまた何にでも合いそうな物だった。薄手で首回りが丸くなってるのが可愛らしいが綾乃はブラウスをよく着ているのにシャツに行くとは思わなかった。

「じゃあ、……シャツにしようかな?」

「うん。シャツなんか珍しいね綾乃」

「うん……。たまには、……こういうのも良いかなって……。本当に変じゃないかな?」

「変じゃないよ。待ってるから買ってきな?」

「うん…!」

嬉しそうにレジに行ってしまった綾乃。あれは啓太のためだろうか?聞いてみたかったがこの話題は今は私から聞けない。綾乃から言ってくれるのを待たないと。
私はそれからも綾乃と無難な話をしながらショッピングモールを回っていろいろと見てから帰った。


そして表面上はその日から今までのように仲良くした。
私は優しい幼馴染みを演じて、綾乃は私のそれを信じて疑わない。バカみたいに嬉しそうにする綾乃は昔と変わらなくて嘲笑っていた。
もう直せないくらい変わってしまっているのをまだ理解していないバカな綾乃が私には可愛く見えた。

正常な感覚じゃないバカな綾乃が可愛くて可愛くて……、欲が溢れそうだよ……。
あれからキスもしてなければ体にも触れられていない。近くにいるのに手を出せないこの現状が焦れったかった。綾乃からのアクションがないから啓太とはそれほど話が進んでいないだろうし、私も早く啓太に接触したいのに回りに皆がいるから中々機会がない。
あいつを煽ればもう手に入るはずなのに……。
綾乃の気持ちを大切にしているのだろうが結局ヤるのなら早くヤればいいのに……、いい人ぶっているのだろうか?くだらない。綾乃に触れられないこの期間はどうしてもイライラするし、待つのはもうそろそろ限界だ。


そうこうしていたら期末テストは無事終わって皆赤点を取らなくて済んだので遊園地の話がすぐに決まった。
夏休みに入ってすぐに最後だからお揃いでTシャツを買って行く事になった遊園地は絶好のチャンスだった。これで啓太を唆せられる。
直接綾乃の幼馴染みで親友の私が言えばあいつだって動くだろう。ヤれそうな話を聞いて動かない男なんかいない。


私は皆が楽しみにしている遊園地が本当に楽しみだった。あと少しだ。あと少しで、私のものになる。
私のものになったらしたい事が山程ある。
早く可愛がりながら綾乃で遊びたくてしょうがない。
私はいつものように笑う綾乃が愛らしくて仕方なかった。啓太の話題を一切出さない綾乃と親友のように過ごしていたら楽しみな遊園地の日がついにやってきた。


現地集合だから綾乃と一緒に向かうと皆がもう先に着いていて、入園してからも皆テンションが高かった。

「うわー!!来れて本当に嬉しい!!まじテンション上がるわ!」

「富田まずサングラス買いに行こうよ?早くアトラクション乗りたいけど日焼け問題まず」

日焼け止めを塗り直している真奈はここでも変わりはない。だけど綾乃も今日は楽しそうだった。

「私も欲しい。ナギちゃん同じやつにしよう?」

「うん。サングラスもありだけどカチューシャか帽子みたいに被るやつもよくない?」

「あっ!それあり!じゃ、とりあえず店行こう店!」

「ちょっと富田早いよ」

駆け出す富田を追って皆でグッズやお土産が売っている店に入るとキャラクターの被り物やサングラスを買った。それだけで非現実的な感じがあって楽しかったがその後のアトラクションも楽しかった。ジェットコースターや船に乗るアトラクションとかフリーフォールは途中で写真を撮られていて、その顔に皆で笑ったりしていた。

それに富田が写真を撮ってくれて皆で変なポーズをしたりして思い出に残した。

全部が全部楽しかったが、アトラクションに乗る時も写真を撮る時も綾乃は啓太の隣に行くかなと思ったのに殆ど私の隣にいた。皆立ち位置を変えたりしているのに綾乃はまるで私から離れないように隣にいる。
本人は分かってないが、依存はこんな所でも強くなっているようだった。

「ナギちゃん、さっきのジェットコースター楽しかったね?真奈の落ちる時の驚いた顔も面白かったし」

嬉しそうに笑う綾乃は本当に楽しそうだった。
それに私はいつもより機嫌が良かった。

「ちょっと、綾乃笑わないでよ。あれは記憶から消してマジで。さっきのは啓太の方が笑えたじゃん」

前で大樹と話していた真奈はすぐに振り向いてきた。ついさっき乗ったジェットコースターは啓太の驚いた顔が面白くて主に笑っていたが真奈も同じような顔をしていた。

「いや、あんなレアな真奈忘れられない」

「ナギも忘れて本当に~。啓太の笑える顔だけにして」

「俺は驚いてただけだし、俺も忘れてよ。あれはマジで笑えたけど恥ずかしいわ」

「いや、あんなん忘れらんねぇだろ。おまえだけ幽霊見たみたいだったじゃん」

笑う大樹の言う通り、啓太はなぜかとても驚いた顔をしていた。啓太はさっきと同じ言い訳をした。

「だから下が見えなかったからマジで落ちると思ってビビったんだよ」

「いや、あれは絶対なんか見ただろ」

「それね。啓太本当ウケるわ。ジェットコースターで霊視とか突然のホラー展開に笑える」

クスクス笑う真奈に啓太の隣にいた富田も笑い出した。

「本当だよね~。もう、怖いから塩まくか。富田が清めてあげるよ啓太。霊感ないけど豆撒きみたいに塩まいてあげる」

「痛そうだなそれ。そっちの方が怖いわ」

啓太の話しになったのに綾乃は話しには混ざらなかった。それに皆で笑っていたのに少し表情が暗くなっていた。私を気にしているのだろうか、綾乃は私と目が合うと無理したように笑う。いつまで取り繕うのが下手なんだよ綾乃は。
下手くそな笑顔に鼻で笑いそうになりながら私は自然に違う話題を振った。



そうやって皆で笑って楽しんでいたら待ちに待ったチャンスがやって来た。綾乃と真奈と富田が一緒にトイレに行った時だった。私はトイレの近くで皆を見送ってから早速行動に移した。やるなら今しかない。

「ねぇ、ちょっとお腹減ったからさ、私皆の分のチュロスとか買ってくるから荷物持ちに啓太来てよ?大樹は皆の事待っててあげて?」

「おっ!いいな!大樹なんか食いたいのある?」

「いや、俺チュロスでいい。二人ともよろしくな」

「うん。じゃ、大樹ちょっと待ってて」

適当に理由を言ってやっと二人きりになれた。
こうなれば話しは早い。私は啓太とチュロスが売っていた売店に歩きながら向かった。

「今日案外空いててラッキーだったね」

「そうだな。あんま並ばなかったし」

「それね。私かなり並ぶと思ってた」

「俺も」

最初は無難に話をしてから私は笑いながら本題を話した。

「それよりさ、啓太綾乃とはどうなの?」

「え?……ナギもしかして知ってたの?」

驚いている啓太に私は笑みを深める。
全部知ってるに決まってんだろ。

「当たり前じゃん。私綾乃の幼馴染みだよ?」

「まぁ、そうだよな。……その、最近やっと付き合えたけど……それだけだよ今は」

「なんだー。本当に何にもしてないの?」

さっきのあれはこういう事か。要らない気遣いに笑いそう。こっちは付き合ったくらい想定内だ。しかし、話が進んでないのは事実だ。啓太は照れたように言った。

「だって、綾乃ちゃんおとなしい感じの子だしさ……」

「もう…。啓太綾乃に言ったら怒るけど綾乃はずっと啓太が好きだったから平気だよ。綾乃自分から行く方じゃないし、啓太がちょっと強引にでもリードしてあげないと綾乃が可哀想なんだけど」

ちょっと大袈裟に焚き付ける。今ここで啓太をその気にさせてやる。早く私の綾乃に触れよ。最初に触れた私が躾たんだから、その躾の成果を見せてやるよ。


「やっぱ俺がリードしてかないとだよなぁ…。それより綾乃ちゃん俺の事なんか言ってた?秘密にするから教えてよナギ」

「え~、そうだなぁ……」

良い感じに話が進んでいる。
こいつも本当にバカだなぁ…。
私はわざとらしく考えながら言ってやった。

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