好きをこじらせて

神風団十郎重国

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18話

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「由季?朝だよ、起きて」

葵の声にすぐに目が覚めた。目を開けると葵は私を見下ろしていて少し驚いたように笑うと挨拶をして、朝ご飯できたよ?と離れていく。どうやら随分寝ていたようだ。それにしても葵が起きたことすら気付かないなんて、酒のせいか。それでも今日は二日酔いではない。

「おはよう、結構寝てた私?」

「ちょっとだけだよ。適当にあるものでご飯作っちゃったけど大丈夫だった?」

「あぁ、それは全然良いよ。いつもありがとう」

「いいえ、早く食べよう?」

テーブルにトーストやスープを並べてくれた葵。彼女のまめさには敵わない。私も起き上がって顔を洗ってからテーブルにつくと一緒に食べながら今日は仕事はないのか訪ねる。すると夕方から撮影が少しあるだけみたいだった。それを聞いて安堵する。テレビを見ながらすぐに食事をし終わってまた葵が皿を洗ってくれた。いつもの流れだけど落ち着かない。

私はふと昨日から鞄に携帯を入れっぱなしなことを思い出して鞄を漁る。携帯には何件か連絡が来ていたが今返さなくても大丈夫そうだしとりあえず充電器に繋いだ。そういえば昨日ホストで貰ったたくさんの名刺があった事も思い出して全部取り出してテーブルにおく。
大量に貰ったわりに全員あまり記憶にない。名刺は顔写真がついてるのもあるけど皆変わらなく見える。名前を確認してみると読みにくい漢字や英語だったりでなんだかすごいなぁと感心してしまう。

「名刺?これって…」

葵は皿洗いを終えて不思議そうに私の隣に座って見てきた。葵にこの話題はあまりよろしくないかもしれないけどここで逃げれる訳もないし私は普通に答えた。

「あぁ、うん。昨日ホスト行ってきてさ…」

「え?ホスト?!な、へ?な……なんで?ホストにはまってるの?!だ、大丈夫なの?!」

案の定心底困惑している。私は苦笑いしながら答えた。

「いや、そうじゃなくて。友達が好きでね。昨日連れて行かれたんだよ。そこまで楽しくなかったからハマったりとかはないから安心して」

「あ、あぁ、そうなんだ。……びっくりしちゃった。ど、どんな感じだったの?」

安心したのもつかの間に葵は恐る恐ると言った感じで聞いてきた。ホストなんか行きそうにないから気になるんだろう。

「んー、普通?初めてだと一時間飲み放題で代わる代わるホストがついてくれて、で話して飲むだけかな?ホストは本当に今時って感じで普通だったよ」

「そ、そうなんだ。そっか、……なんか、その、…気になる人とか……いた?」

「え?いないよ。お酒飲めたから良かったけど話すのあんまりつまんなかったし。あ、葵は誰かタイプいる?ほらいっぱい名刺貰ったから」

そういえば葵とこういう話はあまりしていない。この子のことだから照れてしまいそうだけど楽しそうだし名刺を広げながら聞いてみた。さっきから葵はたじたじで笑えてしまう。

「え、私?私は、別に……」

「ほら、ほら、誰がタイプ?教えて?」

「い、……いないよ。顔だけじゃ選べない」

真面目な返答が葵らしくて笑える。

「えー、じゃあ、マシな顔の人でも良いから」

「わ、……わかんないよ」

「わかんなくはないでしょ?ほらほら」

「わ、私のことは、いいでしょ…」

困りながら頑なに言わない葵にもしかしてと疑問が浮かぶ。私はニヤニヤ笑った。

「ねぇもしかしてさ、好きな人いるの?」

「えっ?!…い、いない!…いないよ?」

どうやら当たっていたみたいで葵は見るからに顔を赤くしてるし凄い動揺してる。なんて分かりやすいのか。分かりやす過ぎて本当に笑える。

「へー、そっかぁ。どんな人なの?」

「だ、だから!いないって言ってるでしょ?」

顔を背けてしまった葵は否定はするものの態度に隠しきれていない。年上の癖にまるで年下のような初らしい姿がおもしろくて可愛くて、思わず隣から捕まえるように強引に抱き寄せる。

「ちょっと逃がさないよ?」

「わぁ!ちょっと、離して!」

「嫌ですー。言うまで離しません」

「だ、だから、いない!」

「こら、暴れないの!」

少し暴れるけど葵は力が弱いから問題ない。背中から抱き締めるようにお腹を引き寄せて抜け出せないように力を込めると抵抗をあっさりと止めてしまった。言う気になったのか?私は葵の横から顔を近付ける。まだ顔は赤いしこっちを向かないのがなんとも笑える。

「で?教えてくれてもいーじゃん」

「……ほ、本当だもん」

「ふーん。じゃあ、離しません」

「な、なんで?」

「何でって絶対好きな人いるでしょ?」

「い、……いないよ?」

「嘘ばっかり」

笑いながら顔をかなり寄せて逃げられないようにする。葵は動けないから顔を横に向けて目線を逸らすだけだけど恥ずかしそうにしてるし明らかに戸惑ってる。気になるしここまで来たら絶対聞いてやる。いつもは優しくしちゃうけどここは引かない。

「も、もう、止めてよ」

「やだー。ねー、教えて?聞きたいなー、お願い!」

「や、……やだ」

「なんでよー、頼む!聞かせて!」

「も、もう、恥ずかしくて顔熱くなるから止めて!」

遠慮がちに私の顔を手で押し返してくるけどその手を掴んで退かす。好きな人がいるのは認めたんだ。まだめげないぞ。

「ねぇ、ダメなの?」

「……ダメ」

「えー。んー、じゃあさ、芸能人?」

「も、もう止めようよこの話」

話を終わろうと恥ずかしがりながら目線を合わせてくるけどここで止めれないのが人間だろう。好奇心は消せない。掴んでいた手をぎゅっと握って抵抗を見せたけど握り返してちょっと引き寄せる。少しずるい手に出た。

「私には話せないの?」

「え?…そうじゃないけど…恥ずかしいから、無理」

「なにそれ。じゃあ、質問するからそれに合ってるか合ってないかで答えて?」

「え?で、でも」 

「良いから!答えたくなかったら答えなくて良いから、始めるよ?」

「う、うん」

強引に説得した。良し。しめたぞ。私はニヤニヤ笑いながら改めて後ろからきゅっと抱き締めながら葵の頭に頭を軽く寄せて握っていた手に強弱を付けながら握る。顔を見ながら話したら話さないかもしれないから顔は合わせない。

「じゃあ、改めて、相手は芸能人ですか?」

「違います」

「じゃあ、一般人ですか?」

「………言えません」

「んー?じゃあ、友達とか?」

「…違う」

なるほど、好きな人は一般人の友達みたいだ。少し動揺してたし手をちょっと強く握ってきた。これでバレないと思ってるのか。笑いを堪えるのに必死だ。

「じゃあ、付き合いは長いの?」

「……普通?」

「ふーん。年上?」

「そ、それは言えない」

「ふんふん。身長高い細マッチョ?」

「わ、わかんない。普通?」

「カッコいい?」

「……うん」

「優しい?」

「うん」

ふむふむ。なるほど、普通とか言ってるけど葵の普通はこれ如何に。一般人の友達なのは分かったけど、他が分からなさ過ぎる。こんなハイパー美女なんだからハイパーイケメンではあるであろうけど。ていうか、こんな可愛い子に好かれるとか羨ましすぎない?なんか娘盗られた気分だけど仕方ないか。そもそも芸能人だし好きな人いるよね。ちょっぴり寂しい気分になる。

「なるほど。それは、……かなりイケメン高スペック野郎と見た」

「え?ど、どういうこと?」

「聞かなくても、どえらくイケメンだろうとは思ってたけどとりあえず中身も外見も良いって事だよね?」

「え、それは……うん。……凄く」

恥ずかしそうに答える葵は恋する乙女そのものでにやにやするのが止められない。

「もー、のろけやがって。で、どんな所が好きなんですかね?葵さん。白状したまえ」

「それは、……ぜ、全部……」

「全部?」

「うん。……優しくて……かっこ…良くて、私のこと…理解してくれて………気遣ってくれて……」

顔を見なくても照れているのが伝わる。全部とは葵らしいけど本当に好きなんだなぁと分かって寂しいけど嬉しい。この子にそういう人がいて安心する。

「そっかそっか。てか、それ付き合ってないの?」 

「う、……うん」

「え?なんで?そんな相思相愛そうなのに?」 

思わず顔を覗き込むと恥ずかしがりながら苦笑いをしてきた。聞く限りだともう大丈夫そうなのに。

「私じゃ、全然……その、ダメだし。そんな風に思われてない……から」

「?何がダメなの?」

「その、凄く……素敵な人だから、私じゃ、相手にされないよ。……私、そんなに、楽しい話とか…できないし、……あんまり可愛くない、から」

呆れる。言い訳するように言う葵は本当に自分をよく分かっていない。この子の自己評価の低さは筋金入りだ。私にはあれだけ言ってたくせにどうしたものか。

「あのねぇ、葵は本当に可愛いし葵と話すの楽しいよ?気にしなくて大丈夫だよ!」

「だ、だって、私…性格も内気でスタイルは、少し良いかもしれないけど……それだけだし」

「はー?いやもう性格も抜群に良いよ?確かにちょっとだけ内気だけどまめだし料理はできるし可愛いし顔もスタイルも良すぎるくらいだし。てか女の私でさえたまにドキッと来る時あるからね?本当に」

「……ゆ、由季もドキッとしたりするの?」

不思議そうに訪ねる葵。そんな恥ずかしいとこを攻められるとは。こんな美人にときめかないやついるのか。同姓でもその容姿は目を引くくらい綺麗だし可愛い。おまけに中身も良いし可愛い。私は少し照れながら言った。

「葵、葵ほど綺麗で可愛かったらいくら同姓でも少なからずするから。中身も良いし外見もモデルやってるだけあるし非の打ち所なさすぎてたまに本当に照れるから私」

「……本当に?」

恥ずかしがりながら疑うように言う葵に何度も頷いて答える。嘘なんか言はないのに。ていうかこれカップルみたいで恥ずかしいんだけど。今さら恥ずかしさがかなり込み上げてくるけど顔には出ないように気を付ける。

「もちろん!まじ!大真面目!葵なら瞬殺でしょ。葵に振り向かないやついないから。でも、私的には娘盗られた気がして寂しいけど応援するから大丈夫!」

少し必死に言い聞かせるように言うと自信なさげだったけど本当に嬉しそうに笑ってにっこり頷いてくれた。

「うん。ありがとう。嬉しい」

「良し!自信持って?はー、それにしても葵に好きな人だなんてそいつが良いやつじゃなかったらぶん殴るけど話聞く限り葵は大好きそうだし良いやつそうだし上手く行くのを願うわ。告白はしないの?」

「それは……うん。言わない。言われても困るだろうし、今の関係で満足してるから…良いの」

諦めたように笑う葵は本当にそう思っているみたいで私が握っていた手を強く握って背中を預けてきた。そんなに脈なしな相手なの?なんだか悲しくなってしまう。

「その人は誰かと付き合ってるの?」

「ううん。付き合ってないよ」

「付き合いたくないの?」

「……付き合いたいけど、……いい。もう止めよ?この話。熱くなっちゃうよ。もうおしまい」

お腹に回していた手をポンポンと叩かれて、今度こそもう終わりのような合図にそうだね。と返した。なんだか複雑そうな事情がありそうだけどまた話す機会があれば詳しく話せば良い、今はこれだけ知れて充分だ。

「なんかあったら言ってね?力になるから」

「うん」

私にできるのはそれくらいだ。
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