好きをこじらせて

神風団十郎重国

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24話

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葵の家に向かう途中に私の家に寄って服を着替えて持ち物を整理した。さすがに血だらけのボロボロで歩けないし葵も手伝ってくれた。
山下さんは明日、葵を家に迎えに来ると言っていたからまたタクシーに乗り込む。タクシーの中では無言で腕にくっついていた葵は葵の家につくと部屋に入るなり抱きついて来た。少し体が痛いけど優しく受け止める。

「どうしたの?もう、大丈夫だよ。もう平気だから」

「……」

首に強く抱きついて離れない。安心させたくていつもより優しく話しかけて髪を撫でた。葵の良い匂いより私の体からの医薬品等の匂いの方が強くて鼻を刺激する。

「由季に何かあったらどうしようって不安で……でも、本当に良かった。本当に、本当に良かった。守ってくれてありがとう。でも、本当にごめんなさい」

「葵?だから、葵のせいじゃないって」

本当に葵のせいじゃない。私は葵を優しく離すと腰に手を回してベッドまで行く。そのまま座って悲しそうにする葵の頬を撫でてから溢れそうな涙を拭う。気に病まなくて良いのに。私はいつものように話した。

「葵は怪我してない?私が突き飛ばしちゃったの大丈夫だった?」

「……うん」

「そっか。良かった良かった。あの時はごめんね。それにしても、あいつ捕まって良かったね。もうひと安心だよ。これからもう怖がることもないし」

「……」

黙ってしまう葵。

「…葵?気にしないで?役に立てて良かったから」

「…………」

黙って視線を下げて私の手を握る。また何か考えているのか。もう終わったことだし私も気にしていないから良いのに、今回のことを自分のせいだと気にしているみたいだ。

「葵に何もなくて良かったよ。私もそこまで大事にはならなかったし。気にしなくて大丈夫だよ。そんな暗い顔しないで?」

「……うん、でも」

また謝りそうな葵に私は先に手を打った。

「あー、謝んなくて良いから。本当に大丈夫。……あ、そうだ、私安心したらお腹減ったから何か作ってくんない?あぁ、でも葵も疲れてるからやっぱコンビニに…」

「だ、大丈夫!そのくらい私がやるから!少し待ってて」

思った通り食い付いてきた。話をどうにか逸らせたようだ。顔をあげて必死そうに言う葵の頭を撫でた。

「ありがとう」

葵は軽く夜食を作ってくれて美味しく頂いた。その後も私は明るく話しかけて葵の気を逸らしていた。葵は暗い顔をして黙るばかりで私はどうにかそれをなくしたかったから。でもそれはベッドに入っても変わらない。それでもいつも通り擦り寄ってくるから優しく抱き締めて背中を撫でていると葵は控えめに手を伸ばして私の頬に触れた。殴られたせいで腫れているから顔は相当酷いことになっている。見せられたものじゃないけど葵はじっと私を見てきた。

「痛いよね……。助けようとしたのに、…私、怖くて、不安で、動けなくて…考えられなくて結局助けられてばっかり。……助けたかったのに…何もできなかった。傷…残っちゃうかな……?……本当にごめんなさい。……由季を危ない目に合わせて…こんなことになるなら…言わなきゃ良かった……!」

小さい声でぽつぽつと呟いた葵。後悔しているのか、葵の声が胸に響く。

「葵。そんなこと言わないで?平気だから。葵が責任感じることないよ?結果的には私も葵も無事だったんだから。腕の傷は、……まぁ少し痕が残るって言われたけど良いよ。葵になにもなくて良かったから。本当にボロボロにやられちゃったけど葵が怪我するより安い出費だよ。ちょっと痛いけどね」

頬を優しく労るように触る手を私は握った。これは本心だ。それが伝わるようにと思った。本当に後悔したように言う葵の表情は悲しみに満ちていて今にもまた泣き出しそうだけど堪えているようで私は苦しくなる。葵は手を握り返してからおもむろに首に抱きついてきた。

「由季は……優しすぎるよ。…私のせいなのに…私のことばっかり。守ってくれて嬉しかったけど、怖くて不安過ぎて……どうにかなりそうだった。…由季が殴られて、血だらけで……血だらけの由季見たら頭…真っ白になっちゃって……怖かった」

「葵…」

声を震わす葵の背中を優しく撫でる。普通に生きてたらあんなことまず起きない。それが今日起きてしまった。動揺して怖がって、当たり前だ。それなのによく助けに来てくれた。必死だったんだろう。葵のあんな声は初めて聞いた。ぎゅっと抱きついてくる葵は少し泣いているようだった。

「あの人に色々…訳分かんないこと言われたのも怖かったけど、由季が殴られて……血だらけなのが、一番怖かった。本当に、死んじゃうかと思った。…由季がいなくなったら…私、耐えられない。……怖い。由季……怖い。頭から離れないの。由季?いなくならないで、そばにいて……お願い…」

不安が抑えられない葵はひゃくりあげながら泣き出してしまった。首元で泣く彼女に胸が痛んで言葉に詰まる。あれは相当な心の傷になってトラウマとして残ったんだ。助かったもののあの出来事が鮮明に目に焼き付いて頭から離れないんだろう。それは簡単には剥がせそうにないけど葵をどうにか安心させたい。頭に顔を寄せて優しく話した。

「いなくならないよ。ここにいるでしょ?ずっと一緒だよ。今まで通り、変わらない。大丈夫だから」

葵の細い体をぎゅっと強く抱き締めた。温かくて柔らかい感触が伝わる。体が少し痛むけどそんなの気にならない。

「…怖い。…由季…怖い…」

それでも葵は泣き続けた。すがるようなそれは本当に苦しくて、私は葵を優しく少し離すと顔に手を添えた。涙で濡れた顔を片手で優しく撫でながら安心できるように目を見つめる。

「大丈夫だよ、大丈夫。怖くない。怖くないから。いなくならないよ。泣かないで?」

言い聞かせるように言っても頷くだけで泣き止まない葵。さっきよりは落ち着いたけどまだまだだめだ。おでこを合わせて大丈夫と何度か呟いてみる。泣かないで。葵が泣くとこっちまで悲しくなってしまう。

「由季、ずっと、…そばにいてくれる?」

少しおでこを離した時に葵は泣きながら呟いた。私は安心できるように笑いかける。

「いるよ。ずっといてあげる」

「離れない?」

「うん、離れない」

「本当に?」

「本当だよ」

不安がる葵に私は全て頷いて答えた。

「由季……」

「うん?」

葵は少し泣き止んで涙目で私を見てから私の顔を両手で挟んできた。何をするのかよく分からないままそのまま顔を寄せて来た葵。葵の綺麗で可愛い顔が近付いてきて目が離せない。キスをするのか、冷静にそう思うと同時に顔が逸れておでこに柔らかい唇が触れた。

「…ありがとう。ずっと、そばにいて」

いきなりの行動に驚いて胸が高鳴るも、消え入りそうな小さな声と悲しそうな表情に葵なりのお礼を、気持ちを、表現したのだと思った。葵はいなくなるのを本当に恐れている。恐怖に泣いてすがるほどに。前から距離が近い葵は態度や行動で示すことが多いから私はそれに応えてあげようと手を優しく握って手の甲に口付けた。

「うん。そばにいるから大丈夫」

少し驚いたような反応をするも小さく笑う葵はまたおでこに控えめにキスをした。なんだかその行動が可愛くて私はおとなしくしていた。触れるように何度かキスをすると私と目線を合わせてから腫れて傷がある頬に優しく本当に触れるだけのキスをする。それがくすぐったくて愛おしかった。私も相当葵に入れ込んでいるみたいだ。

「由季、抱き締めて…?」

「いいよ」

応えるように頬に私も軽くキスをして葵の体を優しく抱き寄せた。胸元に顔を埋めて私の服をぎゅっと掴んでくる。これで不安がなくなるならお安い御用だ。

「…怖いから……離さないでね?…」

「うん。いいよ」

背中を撫でてから頭を優しく撫でているとモゾモゾ動き出した葵は下から私を見上げてきた。目は赤くなっているけど表情は穏やかだ。不安が和らいだようで安心するけどなんだか照れているのか頬は少し赤い。

「どうしたの?」

「もっと、……もっと、……その」

言い淀む葵。なんだろう。分からなくて、思い付いたことを言ってみる。

「ん?強く抱き締めた方が良い?」

「そ、そうじゃなくて。……き、……キス……して……ほしい…」

「え?キス?」

予想外な返答にどぎまぎする。確かにさっきしたしされたけど、驚き過ぎて頭が理解できない。なんでキスなの?可愛らしく言う葵に動揺していると控えめに葵は小さく言った。

「あの、その、そういうんじゃなくて。さっきの…すごい……安心したから。き、気持ち悪かったら…いいから。変なこと言って…ごめん」

それだけ言うと顔を下げてしまう。自分からしてきたくせに今さら何を言ってるのやら。葵がそうやって望むなら私は構わない。驚いてはいるけどしてあげたいと思った。安心できるならできることは全部したい。心の傷は大きいのだ。私はつくづく葵に甘い。この子のお願いは本当に何でも聞いてしまう。笑いながら名前を呼び掛けて片手を頬に寄せる。

「大丈夫だよ。してあげるから」

囁いてこめかみにキスをした。触れるだけのそれに安心したように笑う葵。私も笑いかけて目の上や鼻、おでこにキスをすると嬉しい、と呟いてまた胸に擦り寄ってきた。どうやら満足したようだ。不安にならないように頭を軽く撫でながら大丈夫だからね、と言い聞かせて葵が眠るまで頭を撫でてあげた。

いつもよりも不安がって甘えてくる葵をさらに甘やかしてしまったけど仕方ない。
今日は色々ありすぎた。でも本当に何もなくて良かった。私はボロボロになったけど葵に傷一つないならもうそれで良い。最終的には葵を守れて本当に、本当に良かった。そばにいる葵の体温に私は心底安心して葵の無事を噛み締めた。
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