好きをこじらせて

神風団十郎重国

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25話

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翌日、ふと目が覚める。時計を確認すると七時だ。いつも起きてる時間にこんな時でも目覚めるなんて皮肉なものだ。
葵は珍しくまだ眠っていた。いつも葵の方が早く目覚めているのに、昨日のことが本当に堪えたんだろう。胸元に規則正しい本当に小さな吐息を感じる。起こさないように慎重に起き上がろうとしたら葵がこちらに体を無意識に寄せてきた。そんなところも可愛らしくて私は起きるのを止めて葵の髪を撫でる。手触りの良い髪は柔くてさらさらで気持ち良かった。

「葵、朝だよ?起きて?」

「うぅん、んぅ、……」

唸って身を捩るも起きる気配がない。こんな葵は初めてで本当に可愛らしかった。意外な一面が見れて顔が思わずにやけてしまった私は耳元で囁いた。

「ほら、起きて?起きないとマネージャーさん来るでしょ?間に合わないよ」

「んぅ、…くすぐったい…」

「ふふふ。可愛いなぁ。早く起きて?」

「う……ん、わかったぁ」

もぞもぞ動いて目を擦りながら顔を上げた葵は眠そうでボーッとしている。寝起きは悪い方なのか?そう思うも葵は私にいきなり抱きついてくる。

「どうしたの?」

「……何でも、ない」

「何でもないの?」

「由季が……暖かくて……気持ちいい」

寝ぼけているような葵が子供みたいで私はくすくす笑って、おもむろにおでこにキスをした。葵はそれだけで完全に目が覚めたのか眠そうだったのにいきなり驚いたように顔を引いておでこに手を当てた。

「なっ!……いきなり…なに?!」

「え?可愛かったからしちゃった。昨日もしたじゃん。嫌だった?」

「い、嫌じゃ……ない。嫌じゃないけど……びっ、ビックリしたっていうか…は、恥ずかしすぎるよ…」

あからさまな態度に昨日はキスをねだってたくせに笑ってしまう。こんなの別に友達でもやるだろうし今さら恥ずかしがるなんて。朝だから?可愛らしくて意地悪したくなる。

「昨日あんなにしたのに?」

「え?…それは、……そうだけど」

「最初は葵からしてきたくせに」

「そ、……そうだけど。だって…」

「じゃあ、もうしない方がいっか」

「え?」

いたっていつもの顔で答えて葵を弄ぶ。明らかに残念そうな嫌そうな顔をしている。心の中ではにやにやしながら私は上体を起こしてベッドから出ようとすると葵が服を掴んで阻止してきた。

「ね、ねぇ、………や、やだ」

いつもなら汲み取るけど焦ったような顔をする葵に私はあえて聞いた。

「なにが?」

「え?……あの、…えっと……さっきの……その、……キス…やめないで」

「ん?だってビックリして恥ずかしいんでしょ」

「それは、…そうだけど。……でも…」

「じゃあそうだなぁ…、葵からキスして?そしたら止めないから」

良い考えが思い付いた。いつも通り笑うと顔を赤くして驚いている葵。さっきまで頑なに嫌がっていたのに。それにしてもたかがキスで、本当に可愛いらしくて楽しくなってしまう。

「え?!……む、無理、だよ。……恥ずかしいし、できない」

「えー、じゃあ本当にしないよもう」

「それは、…………」

「じゃあ、早く?おでこで良いから。本当に止めちゃうよ?」

「……うん。分かったから、するから。待って」

顔をさらに赤くして少し呼吸を整えている。私が意地悪をしてるなんて夢にも思ってないんだろう。その顔は緊張しているようだ。葵は素直だから私の言うことは絶対信じるし裏があるなんて考えないでほぼ従う。少し罪悪感がわくも今さら止められない。

「まだ?」

「も、もう少し待って…」

一向に動かない葵。

「やんないの?」

「や、やる!やるから…待って」

それでも動かない葵。私は痺れを切らして自分から距離を詰めた。目の前まで顔を近づける。もう目と鼻の先だけど葵はぎゅっと目を瞑ってしまう。本当にやる気はあるのか。その態度に吹き出してしまいそうになるが我慢する。

「これならできる?」

「う、うん。……するから、待って」

目を開けて照れたようにこちらを見つめる葵は恥ずかしがってまた目を瞑るのを繰り返している。

「葵?いつまでやってんの?」

「だって、…恥ずかしくて……ち、近すぎて、……緊張しちゃう」

「はぁ、じゃあ……手にする?それならできるでしょ?」

「え?……う、うん。それならできる…と思う」

このままではもうできなさそうなのを察知して妥協案を出した。これなら大丈夫だろう。葵の手に自分の手を重ねる。おずおずと握って顔に近付ける葵に顔がにやけるのを堪えて優しく見守る。

「ほら、早く早く」

「う、うん。……あんまり、見ないでね?恥ずかしいから……」

「はいはい」

返事をするも目をぎゅっと瞑るから見ててもバレないだろう。そのまま見ていると目を瞑りながら手の甲にゆっくりキスをしてそのまま両手で顔を隠してしまった。昨日の積極性はどこに行ったんだ。昨日はこんなに照れていなかったのに。にやにやしながらそのまま抱き締めて誉めてあげた。

「よしよし。よく頑張りました」

「……私、…顔、熱すぎて……見せられない……」

本当に照れているのか耳まで真っ赤だ。もう少しからかってみよう。葵の反応は私には蜜のようだ。

「えー、見たいのになぁ?」

「だっ、だめ!本当に…」

「だって見ないとキスできないよ?」

「それは、……そうだけど、今はだめ」

「今したいのになぁ?」

「今?!今は、本当に、…あ、やだ、離して…ちょっと待ってよ!本当に、だめだから」

頑なに顔を隠している葵に正面から手首を掴んで顔から引き剥がす。悪戯心には勝てない。昨日の今日で少し腕が痛かったけど抵抗も呆気なくすぐに顔を見ることができた。赤面した顔で必死に目を逸らしている葵。この子は本当に見ていて飽きない。

「やだって言ったのに……バカ」

「ふふ、可愛いからキスしたくなったの」

羞恥で泣きそうな葵の頬に優しくキスをしてそのまま答えた。私の行動に葵は少し体を強張らせていてそれが愛らしくてこめかみにキスをするとやっと私の方に視線を向ける。

「ずるい」

「なにが?」

「…ずるいことばっかり」

「嫌なの?」

「……嫌じゃない……」

抗議するような目線に私は分からないふりをして答えない。言うことは本心だし可愛いから仕方ないのだ。代わりに目元に優しく口付けてから抱き締めると抗議していたくせに強く抱きついてきた。


それからしばらくしてから葵は朝ご飯を作り出した。私は職場に昨日暴漢に襲われたことを葵のことは言わずに説明して休みを貰った。昨日病院でも仕事は少し休むように釘を刺されていたし痛みはまだあるし検査もしないとならない。今日は病院に精密検査を受けに行くつもりだ。職場への電話を切ってテーブルで待っていると葵はできたご飯を並べてきた。
トーストにジャムとオニオンスープ、サラダに目玉焼きと綺麗に剥いて切られた色とりどりのフルーツがあって相変わらず美味しそうだ。
お礼を言ってから二人で食べ始めて今日の予定を確認した。

「葵は今日はマネージャーさんが迎えに来て色々あるんだよね?」

「うん。今日の仕事はキャンセルだけど事務所でも色々あるだろうし警察も行かないとならないかな。由季は病院でしょ?一人で大丈夫?付き合ってあげたいけど…」

「私は大丈夫だよ。病院で検査して少し傷の具合を確認するだけだから。そしたら警察に行くよ。何時になるか分からないけど長くなりそうだなぁ。葵は早く帰れるの?」

「分かんないけど山下さんは早く帰すって、言ってた」

「そっか。それなら安心だ」

「うん。それで……あの、今日の夜なんだけど、えっと、そのね、…良かったらでいいんだけど…」

さすがに今日は帰ろうとしたけどこの様子だと帰ってほしくはなさそうだ。不安そうに目を泳がせている。まぁでも昨日の今日だ。昨日の様子だと一人にしておくのは良いとも思えない。言いづらそうな葵より先に言った。

「今日もさ、心配だから葵の家に泊まりたいんだけど良い?」

「…う、うん!…ありがとう…そうしてくれると嬉しい。あ、あのね?そのことなんだけど…」

葵は嬉しそうに笑ってから鞄から何かを探りだした。疑問に思うも直ぐに鞄から何かを取り出した。それはキーケースだった。キーケースから一つ鍵を取り出す。決意したように見つめてきた。

「あのね、今日は私も由季も何時になるか分からないし…前から、渡そうと思ってたんだけど。その、色々あったし、由季なら…あの、いつ来ても良いから。…鍵、持っててほしいの」

「私が持ってて良いの?」

まさか鍵を渡されるとは、驚いてしまう。借りるのではなく持っててほしいなんて。葵は頷いて手に握らせてきた。

「由季に持っててほしいの。め、迷惑かな…?」

「いや、そんなことないけど…本当に良いの?」

「うん。昨日のこともあったし、……また何かあったら怖いから。由季が持っててくれるなら……安心する」

「それならいいけど。分かった」

葵の鍵を握って受けとる。こう言われては受け取らない訳にもいかないし今回のこともあった。心配だし持っておいても良いだろう。葵は安心したように笑った。
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