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28話
しおりを挟む何度も何度も唇を重ねてから離すと至近距離で私達は見つめあった。顔を紅潮させて興奮したような葵に私は、はっとして我に返った。
「もうだめだよ。だめ」
自分に言い聞かせるように呟く。いくら葵に言われて流されたからってこれはだめだ。冷静になって顔を逸らすもそれは無駄だった。
「由季…」
「葵、っん」
強引に私の顔を両手で抑えてキスをしてきた。葵の積極性にこの現状に驚いて動けない。唇を離されると思い詰めたように言った。
「いま、だけで良いから…」
「葵?」
「今日だけ、今だけで良いから……して?」
「でも…」
「由季、して…?」
さっきとは変わってすがるように不安げに見てくる葵。その催促に葵の表情を見ると否定できなくて私はまたキスをした。
何度かまた唇を重ねて離して、唇が触れそうな距離で見つめあう。またこの雰囲気に葵に刺激されて流されてしまうけど葵が求めるなら応えてあげても良いと思ってしまった。気付けば手を頭に回して強引にキスをしていた。
「んっ!はぁっ、んんぅ、はぁっ、んん!」
いきなりのことに葵は小さく声をあげるも舌で唇をこじ開けて葵の口の中に侵入する。逃げられないように強く頭を押さえながら片手を腰に回した。卑猥な音をたてながら堪能するように舌を絡めて貪る。気持ちが良くてもっと欲しくなって唾液が垂れることさえ気にならない。葵は小さく呻きながら抵抗もせずに私にされるがままだった。体を少しビクつかせる葵が愛らしくて角度を変えながら葵とのキスを味わった。私が大切にしていた葵とのキスを。
「んっ、はぁ、はぁ、はぁ…」
やっと唇を離すと苦しそうに私の服をキツく握って荒く呼吸を繰り返す。葵はそのまま肩に凭れ掛かってきた。そこでようやく私はやり過ぎたことを冷静に自覚して眉間にシワを寄せる。取り返しのつかないようなことをした気がした。
「…これで、終わり」
また流されてしまった。だめなのにやってしまった。後悔しながら呟くも荒い呼吸を繰り返す葵はそのまま頷いた。
「もう、だめだからね」
あんなことしといて、こんなことを言うけど罪悪感が湧く。普通なら軽蔑してもおかしくないのにいつもと変わらない笑みを見せる葵。葵から求めてきたとはいえこれはどうかと思う。乗ってしまった私も私だが。だけど葵は少し落ち着いてからおもむろに首に抱きついてきた。控えめなそれに動揺する。
「由季、……本当にもうだめ?」
それはさらに私を動揺させた。
「…なに言ってんの?さっき今だけって言ったでしょ?…こんなの…だめだよ。私もちょっとやり過ぎたし、ごめんね?」
「…謝るなら、またして……ほしい」
葵の小さく言う願いに動揺が隠せない。このしてほしいは唇へのキスなんだろう。なんで葵がキスを求めてくるのかよく分からないけど安心を求めているのか?それとも、私がすることを大抵受け入れてしまうから嫌でも言えないのか?頭が混乱する。でも否定をしないといけないのは決まっている。
「だ、だめだよ?葵は好きな人いるし、好きな人としかだめ。さっきは私がしちゃったけど、やっぱり良くないよ。唇以外ならまたしてあげるから」
葵に触れるのを躊躇って手を足の横に置く。好きな人がいるのにこんなのは良くない。私は好きな人はいないけどこの子の恋は応援すると言ったし、できるなら実らせてあげたい。私は葵の気持ちを考えて否定はしたけど妥協もした。
「由季なら……良いから……」
「だ、ダメだって、好きな人いるでしょ?」
「でも、……でも…たまにで良いから…」
「葵」
葵はたまに強情になる。強く抱きついて離れない葵に引く気がないのが伝わる。好きな人がいるのに私に強く依存し心の安らぎを求めている葵は、愛情や安心を感じやすい行為に魅了されたようだった。でも、葵から求められたそれは葵を汚したみたいで罪悪感と後悔が襲ってくる。大切なこの子に私は何てことをしたんだ。体を離そうと肩を少し押すも強く抱きつくだけだった。
「葵?」
「…由季……やだ」
「でも、葵」
「……」
終いには黙ってしまった。こんな葵は珍しくてここまで意地になる葵に困ってしまう。強引に強く私が否定したりすれば絶対に葵は従うだろうけどそんなこと私ができるはずもなく、色々と考える。そして一つの提案が浮かんだ。あまりよろしくはないけど私が気を付けていれば良さそうな案に妥協した。このくらいしか今は思い浮かばない。
「分かった、分かったから。じゃあ、葵が好きな人と付き合うまでは…その、たまにやってあげるから。それで良い?」
「……うん」
やっと頷いた葵は体を離して嬉しそうに笑った。複雑だけど仕方ないのか。私はこうしてまた言うことを聞いてしまった。
その日から私達は以前よりも距離がはるかに近くなりさらに葵は私に強く依存するように離れなくなった。
私の体の傷が治るまで葵はよく私の家に来た。葵の仕事が増えたから、ほとんど電話や文面のやり取りが多かったけど時間を見つけてお見舞いも兼ねて世話を焼きに来て、料理を振る舞って傷を消毒したり包帯を巻いたり、献身的に尽くしてくれて夜になるとべったりと甘えた。ストーカーの件もあって怯えたり怖がったりすることがあったけれど、それも徐々に落ち着いていったがそれと同時に前よりも本当に私に依存的に好意を向けるようになった。
私はこの頃から少し困っていた。なぜなら最近、頻繁に葵がよくキスをねだるようになったからだ。明らかにねだるような仕草や態度をする葵ははっきり言うのは恥ずかしいみたいで言い淀んだり黙ってしまうことがよくあったけどそれでも熱い視線を向けてくる。私は私でそれに気付かないふりを決め込んで、はっきり言われたら唇にキスをしてあげるけどその他は唇に触れないキスをして今まで通り抱き締めてあげたりしていた。
正直、葵のことは好きだけど恋愛のそれかと聞かれるとよく分からない。求められて応えてしまったくせに私は自分が分からないのだ。可愛い大事な手の掛かる妹のように思っていたし、たまに胸が高鳴る時もあったけど容姿端麗な彼女だから同姓でもそれは少なからずあり得る。葵は相変わらず可愛いし甘やかしてしまうけど葵を見て胸が苦しくなったり恋い焦がれるようなことはなくて、好きな気持ちはあるけど本当によく分からない。
それに、葵の好きな人のことを考えると後ろめたくなる。キスをする時は複雑だった。私は女だし友達だ。同姓同士がおかしいという訳ではないけど相手は芸能人だし想い人がいるのだ。
そして、最近もう一つ気になることができた。傷が良くなってから葵の家に泊まった時だ。明らかに私を目で追って見つめていることが多くなった。しかも目が合うとすぐに逸らされるし話しかけてもなんだか上の空で悩み事があるのか不信に思いつつ訪ねるも何でもないと慌てて誤魔化される。暗い表情ではないから心配はなさそうだけど葵のことだから心配になってしまう。何回か聞いたけど大丈夫と言い張るから一応頷いたけどどうなのか。不信がる私を他所にその日もキスをねだってきた葵を上手くかわした。
だけど、今日はさすがに逃げられなさそうだった。最近は休みが合えばお互いに泊まりに行くことが多くて丁度今日は休みが合ったからいつも通り葵の家に泊まっていた。ベッドに入ってすぐのことだ、私がいつもみたいに言いたいことを汲み取らないしキスを上手くかわすから、葵は痺れを切らしたように恥ずかしそうに唇にキスをしてほしいと言ってきた。
「…こないだしたでしょ?」
「そうだけど……」
最近私がやらないから拗ねることが多くなっていて、思わず頭を撫でる。私は一応友達なんだけどなと苦笑いしながら分かりきっていることを聞いた。
「何でしたいの?」
「……あ、安心…する……から」
「好きな人いるでしょ?」
「……由季は……特別……だもん」
嬉しいことを言うけど内心少し複雑だった。その特別に葵は盲目的でこの子が前言った通り私が思っているよりもはるかに私を想っている。それは好きな人を差し置いてさえ。それに、葵の気持ちはとてもとても重いのだ。丁寧に扱わないと壊れやすくて傷がつく。私はどうしても傷をつけたくなくて結局、笑って受け入れてしまった。
「じゃあ、目、瞑って?」
黙って従う葵。頬に手を添えてただ触れるだけのキスをした。傷つけるよりはマシかと諦める。それにこれは葵が好きな人と付き合うまでの期間限定なんだ。時期が来れば終わる。そのことが私を安心させる。
「これでいい?安心した?」
頬を赤くして小さく頷く。求めるのに毎回照れている。恥ずかしいならしなければ良いのに葵は本当によくねだってくる。
「安心……した。けど……」
何が言いたいかなんてすぐに分かったけど可愛いくて初な反応をするから、いじらしくてついつい意地悪をしてしまう。かわいそうだとは思うけど可愛いくてこれは止められない。
「じゃあ、葵からする?」
「え?で、できない……」
「えー?じゃあ、今日は反対向いて寝ようかな?」
「な、なんで?!」
いつも寝る時は向き合っているし抱き締めているのが多いから、たぶん嫌がるかなと思ったけど当たっていた。言わないけど不安そうな顔をしてる。葵は分かりやすい。
「なんでも。ほらほら、早く」
適当に流して私は葵を急かした。距離は近い。少し顔を動かせば簡単な行為に案の定動揺して動かない葵。どうせできないとは踏んでいたから笑って見つめていた。
「恥ずかしいよ、顔が……熱くなっちゃう」
「私しか見てないから、ほら?」
目の前まで顔を寄せると心底恥ずかしがって目線を逸らす葵。
「ち、近いから!」
「えぇ?さっきキスしてたじゃん」
「それとは、別なの!」
少し強く言うわりに顔は赤い。本当に恥ずかしがりな葵に笑える。
「はいはい。それよりしないの?もう本当にあっち向いて寝るよ?」
「それは……だめ。…でも……で、できない。き、緊張……し過ぎちゃう…」
「何で?こないだは妥協したけど、今日はしないからね?ほら」
恥ずかしがる葵に顔を擦り寄せようと近付こうとするも寸前で葵の小さな手が顔に触れて動きを止められる。催促するのも恥ずかしがりながらやっていたのに、この恥ずかしがりようは本当に謎だ。
「ゆ、由季!」
私の顔を抑えながら抵抗するように言うから妥協しないとは言ったもののあっさり身を引いた。それなら私にも考えがある。葵は私が引かないと思っていたらしく不思議そうにしている。
「はいはい、もう分かったよ。分かりました。じゃあ、もう寝るよ。おやすみ」
笑顔で言って反対を向いて壁に近寄る。葵に背中を向けるのは初めてだ。今頃焦っていそうだけどもう少し意地悪してみるかと思っていたら控えめに服を引っ張って呼んできた。
「なに?」
「…本当に、このまま…寝ちゃうの?」
何を今さらと思いながらそのまま返事をする。
「うん、もう眠いし。少しこっちに寄ったからそっちは広いし寝やすいでしょ?」
「それは、そうかもしれないけど…」
「早く寝な?もう遅いから」
「……」
正論に何も言い返すことなく黙ってしまった葵。それでもさっきより強く服を掴んで引っ張ってきた。せめてもの主張に私は敢えて答えないでいるとまた何度か引っ張って小さく呟いた。
「こっち、……向いて…?」
「んー?もう眠いから、寝よう」
「……やだ。…ねぇ、由季」
「なあに?そっち広いから寝やすいでしょ?」
「……寝やすくない……」
「そんなことないでしょ?もういいから寝るよ」
可愛らしい駄々をこねる葵の話を流しながら強引に切って大きく息を吸う。これで本当に寝るかもしれないと思ったけど寂しいから嫌なんだろう。話を切って少しすると私の名前を頻りに呼んできた。
「由季、ねぇ、…由季」
「……」
「由季……由季、」
「……」
「ねぇ、ゆき?ゆき」
「……もー、なに?そんなに呼んで…」
あまりにしつこく呼んでくるから根負けした私はやっと体ごと振り向くと涙目の葵がいた。それに思わず面食らってしまう。少々やり過ぎたみたいだ。
「なに泣いてんの?」
「だって……」
「本当に泣き虫なんだから。ごめんね」
いつも通り優しく抱き締めて慰めるとすぐにすがるように抱き付いてきた。本当に甘やかし過ぎているけどたぶん止められそうにない。
「寂しいから…背中向けないで」
「うん、分かったから。葵が渋るから背中向けたのに…」
甘えたがりで寂しがりな葵はそんなことすら嫌なことに私は苦笑いする。
「それは、…恥ずかしいもん」
「はいはい、そうですか。ごめんね?葵こっち向いて?」
仕方ないが頭を撫でて顔を上げさせる。涙は引いたけど少し不安そうだからお詫びも込めて笑ってキスをしてあげた。ただそれだけの行為に安心したように笑った葵。本当に敵わないなぁと実感する。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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