好きをこじらせて

神風団十郎重国

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29話

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数日が経ったある日、良い知らせが届いた。それは、葵が前に出てたドラマが反響を呼んで続編が作られるらしい。喜ばしいことにお祝いをするけど、電話越しで伝えてきた葵はあまり嬉しそうではなかった。疑問に思って問い掛けると予想外な答えが返ってきた。

「嬉しいは嬉しいけど、あんまり……遊べなくなっちゃうよ」

「ん?」

遊ぶ?仕事には真面目な葵が遊べなくなることを気にするなんて理解できない。どうしたのか驚いている私に言い訳するように葵は言った。

「だって、撮影始まったら‥また忙しくなっちゃうから由季とも会えないし、連絡も遅くなっちゃう」

「まぁ、まぁ、それは確かにそうだけど」

「こないだ話してたエスニックのランチ、食べ行きたかった…」

落ち込んだような声に苦笑いしてしまう。ストーカーの件が落ち着いてから葵とはまた食事に行ったりするが、前遊んだ時に葵が行きたがっていたから次に行こうと約束していたのだ。

「撮影終わったら行けるでしょ?」

「…うん…。でも早く一緒に行きたかったのに。それに、また、……和也君と…一緒だし。……なんか…やだ」

和也くんとは確か葵の元カレのしつこく付きまとってたやつだ。そういえばそいつが主役だったのを思い出す。

「あぁ、そうだったね。そりゃ、ちょっと嫌だね。まぁ、前に私が言ったから大丈夫だとは思うけどなんかあったら言うんだよ?」

「うん。ありがとう」

明らかに声が暗い葵。確かにあの男と一緒なのは嫌だろう、仕事だから仕方ないけど少し不安でもある。釘は刺したけど頭悪そうだったし大丈夫かなと心配に思う。すると、珍しくため息まで溢した葵は思い出したように呟いた。

「あのね、レイラちゃん…じゃなかった、遥ちゃんと旅行に夏休みかその前に行こうかって話しててね。絶対休み貰うから…絶対…行こうね?」

「うん、分かってるよ。それは私も楽しみにしてるから。私は有給あるから大丈夫だよ。それにしても、遥と仲良くなったんだね?しかも旅行まで色々話してるみたいだし」

遥の源氏名じゃなくて本名で呼んでるし旅行の計画をちゃっかり建ててる感じだ。旅行は遥のことだから本当に実行するみたいだけど、葵は遥とはタイプが真逆なのに仲良くなったのが意外でなんだか嬉しかった。

「え?うん。連絡はよくするけど、たまにね、遊びに行くんだよ?遥ちゃん、美味しいものとか遊ぶスポットとか色々知ってて楽しかったよ。旅行の計画も今話してるんだ」

「そっか。良かった良かった。遥なんにも言わないから知らなかったよ。まぁでも、そこら辺はお任せするよ、文句は言わないから」

「うん!楽しみにしててね?まだそこまで計画できてないけどいっぱい楽しめるように考えてるから」

葵が嬉しそうで少し安心する。さっきとはがらりと変わって明るく話す葵に返事をしてまだ先の旅行について少し話すと電話を切った。

それからすぐに撮影が始まったのか葵は連絡が途絶えるようになった。前もこんなことがあったなと懐かしく思いながら私は変わらずに仕事をして友達と遊んだりしていた。
そんな日々が続いて今日は久しぶりに看護師の同期の友達と夕ご飯を食べた。土曜の夜なので多少の混雑はあるけど居酒屋に入って業界トークを本当にたくさん話した。お互いに苦労はあるらしいけど久々に話せて楽しかったし刺激になった。多少お酒を飲んで早めに解散して帰ろうとした時に電話がかかってきた。それは最近会わなくなった透だった。

「もしもし」

「お、由季?おまえ今どこ?」

「え、今は▲▲駅の近くだけど」

「じゃあ、こないだのミックスバーに来い」

いきなりなのは昔からだから特に動揺もせずに少し嫌そうに答えた。こいつもう飲んでるな。

「今から?それ、絶対朝までじゃん」

「良いから来い!ここは奢ってやるから!久しぶりだろ?」

「んー、…はいはい。ちょっと待ってて」

「おう!早く来いよ!」

断っても透はしつこく電話をかけてくるから明日は予定もないしとりあえず承諾した。ここからミックスバーは近い。今日は長丁場になりそうだ。でも透と飲むのも久々だからなんだかんだ楽しみでもあった。
以前透としこたま飲んで潰れたミックスバーに到着すると中ではカラオケをしていて既に盛り上がっていた。

「おぉ!やっと来たな!おせーよ本当によぉ」

透は奥のボックス席にレイラと知らない客と座っていた。もう知らないやつと仲良くなったのか、この二人の社交性には本当に驚く。透はこちらに手招きをした。

「ごめんごめん、久しぶり。レイラもいたんだ?」

「うん!こないだぶりだね!全然会えなくて寂しかったー!今日はいっぱい飲もうね!」

レイラの隣に座ると透はもう準備をしていたらしいテキーラを私の前に出してきた。慣れてはいるけど、女にこういうことをするこいつの神経は本当に終わっていると思う。

「とりあえずおまえはウェルカムテキーラな!」

「あぁ、はいはい」

「頑張ってね、由季!」

嬉しそうに笑う二人に呆れながら一気に飲み干した。刺激が喉に伝わるし味は最悪だ。すぐにレモンを噛んで吸う。

「あぁ、不味い」

「だと思って、もうお酒用意しといたよ!」

用意周到なレイラに皮肉のようにお礼を言うも全く分かっていないのかにこにこ笑っている。この二人にこういうことは無意味なのを思い出してお茶割りを飲んだ。

「おまえ、最近全然飲んでないだろ?翔太のとこにも行ってないみたいだし」

透は酒を飲みながら話し出した。私は葵のストーカーの件で怪我をしてから治るまでは葵としか会ってないし誰にも言ってない。言うつもりもなかったから適当に返事をした。

「最近は飲まないで友達と遊んでるのが多かったし色々あってね。透は?まぁ、あんたは相変わらずだろうけど」

「俺は、まぁそうだな。飲んでフィリピンパブに行って楽しむくらいかな」

ニヤニヤする透にくだらないと思っていたら、透のどうでも良い情報にレイラが呆れたように口を挟んできた。

「フィリピンパブまだ行ってんの?どうせ飲ませてヤれたらヤりたいって魂胆なんじゃないの?浅はか過ぎ、股間蹴っ飛ばすよ?はー、キモ。…あ!それより由季、最近葵ちゃんと遊んでたんでしょ?」

遠慮のないレイラのストレートな言い分に透は言い訳することなくシュンとしていた。言わなきゃ良かったものの本当にバカなやつだ。レイラは暴言まで吐いたのにもう透に興味がなくて少し笑えてしまう。

「あぁ、そうだけど。なんで知ってんの?」

にやにやしながらレイラは聞いてきた。

「だって葵ちゃん、すっごく嬉しそうに由季の話ばっかりするもん」

これは、根掘り葉掘り葵に聞いたのか。考えなくても分かることに呆れた。

「どうせ、レイラがしつこく聞いたんじゃないの?それより最近仲良くなったって葵から聞いたけど、ちゃんと外歩く時とかは気を付けてあげてよ?」

「え?なんで分かるの?由季って本当エスパーだよね。超粘ったのバレるなんて……。あ、でも葵ちゃんと遊ぶ時はちゃんとしてるから大丈夫だよ!」

エスパーではないけどレイラのことはもう大体分かる。胸を張るレイラに少し不安が募るがなんとかなってはいるんだろう。

「葵って?新しい飲み友達?」

透が口を挟んだ。この顔は反省をちゃんとしたようだ。

「こないだ会ったでしょ?私が友達連れてた時の…」

「あぁ、あの子か!あの子超可愛かったな!おまえが背景みたいだったよ」

「おい、失礼なこと言うな」

透は感慨深そうに頷くけど侮辱の他ない発言に咎めるように言うが聞いていない。さっきはレイラに言われてたくせにムカつく。

「透!透!葵ちゃんはね、モデルなんだよ!こないだドラマにも出てたんだけどそのドラマの続編もやるんだよ!」

「へぇー!まじか、でもあんだけ可愛いけりゃ頷けるな」

「でしょでしょ?外見も可愛いけど中身もすっごく良い子なの!でも由季ばっかり遊んでるんだよ。ムカつくよね、由季のくせに生意気」

テンションが上がって嬉しそうにしていたのに急にムスッとした顔をしたレイラ。私に言われても困る。

「……レイラも遊んでるでしょ?」

「そうだけど、葵ちゃんいっつも由季とどこ行ったーとか、何したって話してるよ?本当悔しい!」

「え、そうなの?」

私がいない所で私の話をしているのか、葵はどうせレイラにしつこく聞かれて、照れて大変になりながら話してるんだろうなと想像ができる。

「そうだよ!もー、腹立つから早くお酒飲んで!」

「おうおう!俺も由季が飲まなくて腹立つから飲め!!」

なぜか二人から反感を買って煽られる。レイラは分かるけど何でこうなったんだ。するとカウンターにいた軽く女装をしたママが寄ってくる。随分久しぶりだが私を覚えているようだった。来るなりママはでかい声で怒鳴るように話し出した。

「あんた!!最近来ないと思ったらどこの店に行ってたのよ?!浮気?浮気よね?!言いなさい!!その店燃やしてやるから!!燃やしてなくしてやるわ私が!それより、あんたさっさと飲みなさいよ!まだ全然飲んでないじゃない!」

「そーだそーだ!!」

よく分からない言われようにレイラは嬉しそうに便乗している。止めてくれ。うるさくなってきたからとりあえず声をあげた。

「分かった分かった!飲めば良いんでしょ?うるさいから黙って!飲むから!」

ママにも煽られて私は仕方なくグラスの酒を飲み干した。これで満足したかと思いきやママは私の前の椅子に座って酒を作り出す。これでは終わらないらしい。

「あんたね、全然やる気を感じられないわ。どうしちゃったの?前はあんなに飲んで騒いでたのに、今日は何しに来たの?」

「え、それは…」

「飲みに来たであります!ね、由季?」

ふざけながら余計な口を挟むレイラは笑顔だ。何かもう疲労を感じる。レイラは絶好調みたいだ。

「え、あぁ、うん」

「あんたが飲まないとお通夜よ!とりあえず歌って飲みなさい!あんたの話はそれから聞いてあげるわ!!」

「はい!分かりました!!由季!カラオケ入れるよ!」

「あ、うん、…分かった」

なんかもうよく分からないし流されてるけどもう良いと思う。なるようになれ。とりあえずお酒を飲んで楽しめれば今日はオッケーな気がする。私達はそれから飲んで歌って騒いでそれはそれは大いに賑わった。

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