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40話
しおりを挟む「葵に告白されてからちゃんと考えてたんだけど、ごめんね。私は葵の幸せを分かってなかった。また葵が芸能人だからって引け目を感じてた。葵には幸せになってほしいから私じゃだめだって言い訳して、逃げてた。本当にごめん。…私は、葵が好きだよ。本当に、葵の全部が好きだよ。葵を手放したくないし嫌われたくない、できればそばにずっといたい。
……でも、本当は、自信がないんだよね。好きだけど、葵の気持ちに上手く応えて行けるか分からない。私達は、違いすぎるよ。葵は私の全部が好きだって言ってくれて嬉しかったけど、今日透と歩いてるとこ見たら自信……なくしたんだよね。だからあんなこと言った。同情したんじゃないんだよ。私は、私は……ただ、諦めて、言い訳して、逃げてただけ。ごめん、本当に」
前に話して喧嘩したのに、また同じような内容で自分を蔑んで諦めて逃げて、勝手な幸せを押し付けた。葵の大切な気持ちと向き合っていなかった。自分が本当に嫌になる。葵のためって言いながら私は自分が逃げることしか考えてなかったんだから。呆れてしまう。だけど、だけどちゃんと気持ちを伝えたい。
葵は静かに泣いていて何も言わないから私は掴んでいた手を離した。
「ちゃんと葵のこと、私も見てたよ、最初から。好きだからいつも力になりたかったし支えてあげたかった。葵が話すのが苦手でも私は好きだから気にならなかったよ。私が少し手助けしてあげれば良いと思ったしそんなこと感じないくらい楽しませてあげたかった。葵がね、泣いて不安がるの見るの辛かったから優しくしてた。いつも笑っててほしくて、不安にさせたくなかった。昔、葵が沢山傷ついたんだなって葵の話聞いて思ったから、もう傷つけたくなかったし守ってあげたかった。全部、全部葵が好きだから、そうしてたよ」
気持ちが溢れて思わず涙がこぼれた。私はずっと葵が好きだったんだ。この子のためにと思っていたら、いつの間にか手放せなくなって、本当に大切な存在になっていた。言いながらそれにやっと自覚するなんて、遅すぎて後悔する。だけど、後悔しても今さら無駄だ。こぼれた涙を慌てて拭いた。私が泣いてる場合じゃない。
「ごめん、泣いちゃって。私が言いたいのは、それだけ。もう信じられないならそれで良いし、葵が私を好きじゃなくても良いよ。私がこんなだから葵がそう思うのは当たり前だし、本当に、ごめんね?また嫌な思いさせたよね。本当にごめん」
もう言いたいことは伝えた。全部伝えた。葵が私をもう好きじゃなくても、関係がなくなっても、もう良かった。好きだけど、手放したくないけど、葵の気持ちを今度こそ優先してちゃんと考えたい。葵が好きだから。
泣き止まない葵に思わず手を伸ばしかけたけど、止めた。もう私には遅すぎる。だけど葵は、涙を拭いながら私を見つめてきた。
「……それが、由季の……本当の気持ち?」
「うん。そうだよ」
「私のこと、本当に、好き?」
「うん。好きだよ。本当に葵が好きだよ」
葵は私の言葉を聞いてからゆっくりと凭れるように抱き付いてきた。私はそれに抱き締めて良いのか迷ってそのままにした。葵の温もりが胸に染みるようだった。
「……私も、好き。大好き。信じるよ。さっきは、あんなこと言ったけど、由季を嫌いになんてなれない。……私のこと、いっぱい考えてくれてありがとう。本当に嬉しい」
「…うん」
私はゆっくりと葵を抱き締めた。本当に、良かった。もうダメかもしれないって思ったけど本当に良かった。私の想いは伝わった。葵の暖かさに心底安心していたら私に強く抱きつきながら葵は話しだした。
「由季?…私の仕事はモデルで、たまにテレビにも出るけど、ただそれだけ。それで、お金を貰って生活してる。由季の仕事と変わらないよ。私達はちがくない、引け目を感じることなんて本当にないよ。それにね、私は外見も、中身も、自分が好きじゃなかったけど、由季が好きって言ってくれて私を誉めてくれて、それで好きになれた。由季が私を助けてくれて優しくしてくれて、一緒にいてくれるからいっぱい笑えるようになって嬉しかった。
私、由季に会う前はいつも不安で生きづらくて
、楽しくないことが多かったけど、由季と会ってからそんなことなくなって、本当に楽しくなったの。由季は、本当に凄いよ。私の人生を、私を変えてくれた。……だからね、自信がないなんて言わないで」
慰めてくれる葵の優しさにまた涙が出そうになって、強く私に抱きついてくる葵に少しだけ強く抱き締め返した。
「うん。分かったよ。ありがとう、嬉しいよ」
自然に体を離して見つめあった。葵はもう泣き止んだけど目が赤い。それに安心したけど私の服を掴んで離さない葵の手を優しく握る。泣いても可愛いらしい葵に笑うと、葵は手を握り返して愛おしそうに言った。
「由季がね、自信がないなら私がいっぱい由季の良いところ教えてあげる。私、由季のためなら何でもしたいの。由季が私のために沢山色々してくれるから…返したい。由季が悲しくなったり自信がなくなったりしてほしくないの。……由季が大好きだから」
「その気持ちだけで嬉しいよ。もう、自信がないなんて言わないから。葵を好きな気持ちには自信があるよ。もう諦めたり、逃げたりもしない。葵が好きだから」
気持ちに応えるように私も伝えた。もう言い訳して逃げたくない。この子を失望させたくないし離したくない。葵は、少し驚いて嬉しそうに笑うとまた涙を流した。
「…嬉しい。私、……結婚も子供もどうでもいい。収入とかも関係ない。……由季がほしい。由季の気持ちが、由季の全部がほしい。私の幸せは由季がいないと成り立たないの。由季がいないと幸せになれない。だからね、だから、」
言葉に詰まった葵に私は先に言われる前にキスをして止めた。いつも葵から言ってくれたんだ。今度は私から言いたい。
「私が言いたい」
葵は嬉しそうに小さく頷いた。それを確認してから腰に腕を回して体を寄せる。密着する体は熱くて葵との距離がなくなる。好きな気持ちを伝えたくて葵から目を離さない。
「私も葵がほしいよ。葵の全部が好きだから葵を自分の物にしたい。葵を幸せにしたいよ。葵が幸せじゃないと私は幸せになれない。好きだよ、本当に……愛してる。愛してるから、離したくない。だから、ずっとそばにいて。離さないから」
「うん、ずっとそばにいるよ。私は、由季の物だよ。離れないし、離さないで?全部由季にあげるから」
また涙をこぼす葵に優しくキスをした。何度か繰り返して唇を離すと葵は本当に幸せそうに笑った。
「由季、大好きだよ」
「うん。私も」
また吸い寄せられるようにキスをして葵を抱き締めた。言い訳をして、逃げて、遠回りをしてしまったし気持ちに気づくのに遅れて傷つけてしまったけど本当に良かった。この幸せを、葵を失わなくて本当に、本当に良かった。私は葵の温もりを、胸いっぱいに感じた。
その後、遥が帰って来てから葵が目を赤くしていたから大変だった。私は上手い言い訳が思い浮かばなくて喧嘩をしたと言ってしまったから遥は怒って私を叱ってきたけど、葵が庇ってくれたから説教は長くならずにすんだ。でも、葵を慰める遥からは鋭い視線を感じて居心地が悪かった。
「葵ちゃん、また由季と喧嘩したりしたら私に言ってね?私が由季を懲らしめて、めっためたにしてやるから」
「…遥ちゃん?大丈夫だよ。本当に。由季、謝ってくれたし。あの、私が勝手に泣いただけだし、もう仲直りしたから」
どこまでも優しい葵に対し遥は眉間にシワを寄せるだけだった。
「それでもダメ!葵ちゃん泣かせるなんて本当に信じらんない由季!バカ!分かってるの?!」
「あー、うん。分かってるよ。ちゃんと謝ったよ」
さっきから怒り続ける遥に頭が上がらない。
「謝ったからって良いもんじゃないんです!帰ったら潰すからね!!いっぱいお酒飲ませてやる!寝ても飲ませるからね!葵ちゃん一緒に由季潰そうね?」
「え?で、でも由季がかわいそうだよ」
「葵ちゃん良い子過ぎだよー!由季なんか潰すしかないからいいの!」
本気で言ってる遥に私は苦笑いした。葵は困って私をチラチラ見ているけど私が泣かしたのは事実だし私に非があったから仕方がないので遥に承諾した。すると遥は機嫌を幾分か良くして葵を気にかけていた。
寝る間際まで私は遥から何回か咎められたけど横になったらすぐに寝てしまった遥。やっと終わったと思いつつ昨日のように葵と携帯で話した。
[ごめんね由季、私のせいで]
[いいよ。本当に飲むだろうけど元は私が悪いし。目は痛くない?]
[うん、平気だよ]
[良かった。じゃあ、もう寝よう。明日は仕事でしょ?]
[うん。由季、これからもよろしくね?]
私はその返事にチラリと葵を見て小さく笑った。
[うん。こちらこそ。好きだよ葵]
私の返事にいつも私よりも早く返信してくるのに携帯を見て恥ずかしそうに固まっていた。だけど少し間を開けてから葵は返信をしてきた。
[私の方が大好きだよ]
葵はまた昨日みたいに布団を被ってしまう。それが本当に愛しく感じた。
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