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41話
しおりを挟む旅行最終日はあっという間に解散になった。チェックアウトを済ませてからお土産を買えそうな所に寄って昼には帰ってこられた。皆各駅で降ろしてもらって葵も無事仕事に間に合った。
楽しい思いでもできたけど、私達はこの旅行で付き合うことになったんだ。それは私を心から喜ばせた。
それから一ヶ月経って夏本番だ。あの旅行から皆には会ってないけど遥はまた旅行に行きたがっていた。葵はあれから映画の脇役が決まったらしく多忙な日々を過ごしているようだった。
一応あの旅行で葵と私は正式にお付き合いを始めることになったのだが、今までと連絡も電話もそこまで変わらなかった。葵は葵で恥ずかしがっていることが多くて、それはいつも通りだけど電話や文面のやり取りの最後には愛の言葉を囁きあっていた。あれから会えてはいないけどそれは心から嬉しくて癒されて好きな気持ちが強くなった。
もうすぐ夏休みに入る。私は特に予定は立てていないけど、また適当に飲んで終わるのかなと漠然と考えていた。葵は夏休みに会いたいと言っていたがそれも葵の仕事次第だ。私も会いたいけど彼女は忙しいから仕方ない。それよりも、お盆が近付くと自殺をしようとした時のことを思い出して、胸が少しざわつく。私が死にたいと思ったのはこの時期だった。もうあれから六年経つのか。時間の流れは早い。この時期は嫌いだ。嫌でも思い出すから傷心して重い気分になる。私の親友が死んだのはこの時期だから。
夏休みが始まって、私は早速飲みに出掛けていた。その日は歩美と普通のショットバーを夕方からはしごしてまた最後に立ち飲み屋で締めてそれはそれはかなりの量を飲んだ。早めに解散したものの私は何回か吐いてふらつきながら歩いて葵の家に向かっていた。それは葵が私の休みを知っていたから前日に泊まりに来ないかと誘ってきていたから。本当は飲みに行くのは止めようと思っていたけど、葵は仕事が夜まであるからと言っていたから私は飲みに行ったのだ。
しかし、本当に飲みすぎた。歩美は変わらずにホストに行った時の話やアニメの話をしていて楽しくておもしろかったけど前回と同じようによく飲んでいて付き合って飲まされたらこの様だ。やっとの思いで葵の部屋についたけど私は力尽きて玄関で靴を脱いでそのまま床に寝そべる。暑いけどもう起きれない。頭がくらくらするし熱いし意識がぼーっとしてしまう。葵は部屋にいないから携帯を確認すると葵から連絡が来ていた。まだ時間がかかるから先に寝ていてほしいとのことだった。なんだこれなら丁度良い、私はもう眠いし疲れたしそのまま眠りについた。
「ねぇ、起きて?由季?起きて?」
体を揺さぶられる。うっすら目を開けるとさぞ心配したような葵がいた。そういえば床で眠っていたのか、体が痛いけどまだ眠い。
「由季?大丈夫?」
「あぁ、……うん」
「ここで寝てたら体痛くなっちゃうから起きて?もう、飲みすぎだよ?」
体を起こそうとする葵。私を引っ張ってくるけどもう動きたくないから止めてほしい。もう目を開けたくないし私は眠い。
「……ここで寝るから、ほっといていいよ」
「何言ってるの?だめだよ。お風呂入ってベッドで寝よ?凄く汗かいてたよ」
「ん、だいじょうぶ……」
「由季寝ないの!だめだよ、起きて?」
寝そうになったところを葵に顔を軽く叩かれてまた起きた。なんなんだいったい。目を開けると葵が困ったように私を見ていた。
「お願いだから寝ないで?」
「もう、ねむい…よ」
「もう!早く起きて?起きないと、……起きないと、怒るよ?」
「ん…いいよ」
「だめ由季!もう本当に起きて!本気で怒るよ?」
葵があまりにしつこいから、私は引っ張られながら上半身を起こした。怒る怒る言うくせに葵は困った声しか出さない。あぁ、眠い。体を起こしても眠いし酒のせいで頭がぼーっとしてしまう。
「由季?寝ないで?」
「うん、起きてるよ」
「本当に飲みすぎだよ?飲みすぎちゃだめって言ったじゃん。お風呂入れる?」
「うん。……先に入っていいよ」
「だめ、由季が先に入ってきて?どうせまた寝ちゃうでしょ?」
「うん…分かったよ」
葵は注意するように言うからとりあえず頷いた。めんどくさいけど入らないと葵はたぶん怒るだろう。開かない目を開けながら今日来ていたシャツを脱ごうとしたら葵が物凄い勢いで止めてきた。
「な、なにしてるの?!」
「?おふろ入るから脱ぐんだよ」
「だ、だめ!ここで脱がないで!」
「なんで?」
さっきから葵がうるさくて困る。よく分からないし、楽だから良いじゃないか。なぜ慌てているのか理解に苦しむ。
「なんでって、なんでも!だめなの!いいから立って?と、扉閉めてやって!後で服置いとくから」
「?はぁ、分かったよ」
やっと重い腰を上げて仕方なく洗面所に向かうと葵がしっかり扉を閉めてきた。全くよく分からないやつだ。服を脱いで風呂に入ったけど足元は覚束ないし意識が少し朦朧とする中私はなんとかシャワーを浴びて歯を磨いて葵が用意してくれた服に着替えた。居間の方に向かうと葵は慌てて私に近寄って体を支えながらベッドに座らせてくれた。
「ちゃんと洗ったの?」
「うん、たぶん」
「なんで髪乾かしてこないの?」
「めんどくさいから、今日はなし」
「だめ。私がやってあげるから待ってて?」
かわそうとしたのにまただめだった。寝るまでまだ時間がかかりそうで少しうんざりする。葵は洗面所からドライヤーを持ってきて私の髪を乾かしだした。うるさいけど暖かくて葵の手が頭を撫でるようで気持ちが良くてまた眠かった。ほとんど目を閉じていたら葵が話しかけてきた。
「終わったら寝て良いから、もう少し頑張って?」
「うん。……なんか、気持ちよくて眠い」
「え?……ふふ、由季可愛い」
葵は笑っていたけど私は眠気が限界だった。時おり目を開けながら何とか起きていた。髪を乾かし終わると葵はしゃがんで頭を撫でてきた。どうしたんだろうか。その顔はとても笑顔だ。
「ほら、終わったよ?ふわふわ。可愛い。もう寝てていいよ?私もお風呂、入ってくるから」
「うん、ありがと」
「ふふ、本当に可愛いなぁ。由季」
なぜか可愛いと嬉しそうに笑っていて、よく分からないけど機嫌が良さそうだった。
それよりも、とりあえず眠かったから私は葵に促されるままベッドに入るとすぐに眠ってしまった。だけど眠ったのも束の間に葵がベッドに入ってきて目が覚めた。私を起こさないように気を使ったであろうがいつものように抱き付いてきたから背中に腕を回した。
「ごめん起こしちゃった?」
「へいき、良い匂いする」
眠いけど近くに来た葵からいつもの良い香りがして思わず一瞬強く抱き締めてから顔を見合わせる。葵は嬉しそうに笑っていた。
「由季、久しぶりだね」
「うん、そうだね…仕事お疲れさま」
「うん。由季見たら疲れがなくなっちゃった」
「…ふふ、そっか」
可愛い葵の頭を撫でる。久々に会えた葵に嬉しくて、おもむろに顔を近付けてキスをした。啄むようなキスに葵も応えてくれて何回か繰り返して顔を離すと葵が胸に擦り寄ってきた。可愛いらしい行動に頭にキスをする。
「好きだよ、会いたかった」
「うん、私も。寂しかったよ、由季」
全身で表現するような葵の背中を優しく撫でた。葵は旅行から帰ってから私に凄く会いたがっていたし寂しがっていたからうんと甘えさせてあげないと。だけどまた眠気が襲ってきて、眠りそうになりながらなんとか頑張って話した。
「明日、なにしたい?出かける?」
「明日は、うちで……一緒にいたい。でも、由季がどこか行きたいとこあるなら、そこに行っても良いよ?」
「私は葵がしたいことでいいよ。葵がいるなら、なんでも楽しいから」
「じゃあ、明日は……一日くっついてても良い?」
それに少し笑ってしまった。それは前からやっていることだから。
「ん?うん、それ、いつもと同じだけど……いいの?」
「いいの」
「じゃあ、いいけど」
どこか行きたがると思ったけどそんなことで良いのか。葵は前から欲が無さすぎて少し心配になる。だいたい家にいる時はくっついてくる葵を甘やかしてゲームをしたりする流れで終わるのにせっかくのオフがそれとは。まぁでも嬉しそうだから良いか。
「由季、もう寝よ?」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
葵の促しに葵の温もりを感じながらすぐに眠りについた。
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