好きをこじらせて

神風団十郎重国

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54話

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「ねぇ、私も……つけても良い?」

葵は控えめに聞いてきた。それは嬉しいけど見られたら恥ずかしい気持ちはある。だけど葵がしたいなら仕方ない。

「いいよ。でも見えないところね?」

「じゃあ、私と、同じところで…いい?」

「うん、どうぞ?」

私は葵の横に体を横たわらせて葵の方に体を向ける。葵は嬉しそうに笑って私の胸元に来たけど少し戸惑ってやる素振りを見せない。

「どうしたの?つけないの?」

「え、えっと、……由季みたいにやれば、つくんだよね?」

「え?うん、ちょっと強目にやればすぐだよ」

「…うん。分かった」

葵は、緊張したように私の胸に吸い付いてきた。この様子だと初めてなんだろうなと思いながら心配して見守っていたけど、少しするとちゃんとついたようで葵の表情はご満悦だ。

「由季!ついたよ?」

「ん?ついた?」

「うん!…これで一緒だね」

「そうだね」

葵があまりに嬉しそうに笑うから葵の可愛らしい独占欲に私も笑ってしまった。
その後、少し話をしてエッチの余韻にしたってからシャワーを浴びた。その頃にはもう外も暗くなってきていた。明日は葵も私も仕事なので今日は早めに帰ることにする。葵は残念そうに悲しんでいたけど昨日も遅くまで仕事だったのであまり無理はさせたくない。しかし葵はいざ帰ろうと玄関に来ると私の手を握って離さなかった。

「葵?帰れないんだけど…離して?」

「………」

控えめに優しく言っても私の手を引いて離さない。葵のこういう我が儘に私は本当に弱いからあまり強く言えなかった。いつも引き留めてくる葵の気持ちは嬉しいけど本当に困る。

「葵?明日も早いでしょ?昨日も遅かったし…」

「……まだ一緒にいたい」

葵の我が儘に心底困るけど怒れない私は甘過ぎる。分かってはいるけど、葵の寂しそうな表情に胸が痛んで私はどうしても怒れないのだ。

「葵の体が心配だからだめ。また休みの日に泊まりに来るから。ね?」

「しばらく、また会えないもん。…寂しい」

「それは、……しょうがないでしょ?連絡するからさ」

「……」

葵は寂しそうにただ黙ってしまう。どうしよう。頭はそればかりだけど上手い言葉が浮かばない。本当にどうしたら良いんだ。少しお互いに無言になりながら私はふと忘れていたことを話した。

「そういえばさ、こないだのお願いはなんか考えてくれた?」

すっかり聞くのを忘れていたけど思い出して良かった。葵はそれに明るく答えた。

「うん。考えたよ」

「なになに?今日も私のために色々してくれたから本当に何でも聞くよ?」

「うん。色々、考えたんだけど、私…デートしたい」

そんなことで良かったのかと思わず拍子抜けしてしまう。葵はデートという単語に照れていたけど、葵の願いはいつも小さくてすぐに叶えられてしまうものばかりだ。それでも私は頷いた。この子の願いは簡単だけど私が心から楽しませてあげようと思った。

「デートか、いいよ。たまには定番みたいなデートしようか。いつも家にいるのが多いからね。葵は、どこか行きたいとこある?」

「……水族館とか、行きたい」

「うん。分かった。あとはある?」

「あとは、……由季と一緒ならどこでも良い」

葵のリクエストは水族館か。デートじゃ定番と言えば定番で頷ける。今まで行きたいなんて言わなかったのに恥ずかしかったのだろうか。それよりも水族館を中心に他になにか考えないと。ここは私の頑張り処だ。

「なら私が予定組んであげるね。絶対楽しませてあげる。他は私が勝手に決めて良い?」

「うん。いいよ」

「うんうん、楽しみにしてて?忘れられないデートにしてあげるから」

私が意気込むと葵は少し視線を逸らして照れていた。なんか張り切り過ぎたかな?と思っていると葵は嬉しそうに言った。

「由季と一緒の時はいつも楽しいよ。それに、嬉しいから全部覚えてる。全部、忘れられないよ」

葵の呟きに胸が締め付けられるようになる。嬉しいことを言ってくれる。まめな葵のことだからそんなの当たり前かもしれない。私はそれにさらに意気込んだ。

「ふふふ、嬉しいなぁ。じゃあ、今まで以上に最高なデートを提供します!一番楽しかったって言わせてあげるね。私がしっかりプラン練っとくから葵はそれまで体調管理に気を付けて、仕事頑張ってね?」

「うん!仕事がまだ忙しいから、先になっちゃうと思うけど、絶対行こうね?」

「もちろん。仕事が落ち着いてからでいいよ。私もデートも逃げないから」

少しお互いに笑い合った。このデートは気合いを入れないとならないな。葵が喜ぶことを考えてしっかりプランを練らないと。とびっきりの楽しいデートにしてやる。まだ先になりそうだけど今から色々調べないと、と私の頭はもうデートのことでいっぱいになった。

「じゃあ次の予定も決まったことだし、もう帰るね」

「うん。……また、連絡するね」

次の予定が決まったことで葵も寂しそうではあるけど一応は納得してくれた。葵がまた引き留めてきたらどうしようと思ったけど、次のデートのおかげで素直に引いてくれたようだ。寂しそうではあるけど私達はいつもよりすんなり別れた。


そのまま帰ってから私は早速葵から貰った手紙を全て読んだ。それはかなり沢山書いてくれていて私への想いが赤裸々に書かれていた。綺麗な文字で葵は普段は言わないようなことも書いてくれていて、私への純粋な葵の気持ちが嬉しくて読んでて笑ってしまった。
そして、コンプレックスについても前のように深く悩んだりしなくなったと綴っていて私はそれが心から嬉しかった。


それからまた仕事の日々が始まった。生活のためには仕方ないけど楽しい後には必ず現実に戻される。毎日しっかり葵に連絡をして私の行動を伝えていろんな話をした。葵は、映画の撮影を頑張っているようだから私も頑張る気になれた。
しかし、こうやって仕事をして一人でいると思い出すのは優香里のことだ。この暑い季節はどうしても仕方のないことだった。私は少し暗くなる気持ちを振り払うように適当に気分転換をしていた。同期の友達と遊びに行ったり職場の先輩と飲みに行ったりすることで気を紛らわせた。


気分が紛れたのも束の間に、亜美と優香里の親戚の家に線香をあげに行く約束をした日が来た。
まだまだ暑いこの時期に私は亜美と優香里の親戚の家に向かって線香をあげてきた。仏壇には優香里の高校生の時の写真が飾られていて、優香里は笑っていた。私はその写真を見て色々思い出してしまって悲しくて泣きそうになった。

優香里は本当に笑っていたのに死んでしまったんだな。昔はショックで受け入れられなくて悲しんでいたけど昔ほどのショックはない。悲しいけど今はちゃんと受け止められてる。一生私は優香里が死んだこの季節に悲しむだろうけど忘れなくて良かったと思う。優香里を忘れたら優香里が悲しむかもしれないし優香里を覚えている人がいなくなる。それは優香里と一緒に過ごした楽しかった時間も何もかもなくなるような気がした。あの思い出は絶対になくしたくない。本当に、楽しかったから。


私の暗くなった心を察してか、亜美は変わらずに笑顔で話しかけてくれた。亜美の方が私よりちゃんと優香里について踏ん切りがついているようだ。優香里のことを笑って話してくれて悲しい心が明るくなった。そして、亜美は私に優香里のプリクラをくれた。私にも持っててほしいからと何枚か懐かしいプリクラをくれて、帰ってから少し泣いてしまった。全部楽しそうに笑っているプリクラに思い出すのも楽しいことばかりだった。


優香里はどんな気持ちで死んだんだろう。辛かったのは事実だろうけど楽しかったのも事実だ。優香里の心は今も分からない。優香里はいつも笑っていて、頼りになって、優しくて、本当に良い子だった。それなのに、なんで?何年も考えいることに胸が苦しくて、もう考えたくなかった。家族のせいかもしれないという話も胸を締め付けて苦しくなる。こんなに悲しくなるなら考えない方が良い。
そう思ってしまう私は、優香里が死んでから劇的に考え方が変わった。

悲しいことや怒りに我を忘れることは起きないように、深く考えないように、関心を深く持たないようになった。ある日突然その人がいなくなったら嫌だから、そんな嫌な気持ちにならないように立ち回ってきた。敏感に人の気持ちに反応して、人とよく話すようにした。そうすればいきなり死んだり悲しんだりすることがなくなると思った。もうあんな思いをしたら私は立ち直れないから、関わって見せておいてしっかり線を引いて自分を守っていたんだ。
だから、私には飲み仲間のような適当に会って適当に話せる関係が一番合っていた。


だけど、葵は別だった。不器用で泣き虫な葵を放っておけなくて、積極的に関わって、心が動いてしまって、気づけば付き合うまでに発展した。葵は私のかけがえのない愛しい人になった。そして私を良い方向に変えてくれた。今まで避けていた人とちゃんと向き合うことを関わっていく上で私に教えてくれた。

そんな気は葵にはないと思うけど、私は葵のおかげでやっと他人のことをちゃんと考えられるようなってきたんだ。今まで自分のことばかりだったけど、昔の私のように私の考えは変わってきている気がした。自分のための上部だけの関係じゃなくて、深く人と関わって思いやってやれる人間に。

私の心の底は、優香里が占めていることが多かったのに葵は私の心を気づかないうちに満たしてくれていたのか、なんだか無償に葵に会いたくなった。
私の中ではそれくらい葵は大きな存在になっていて、心の安らぎになっているのだろう。
悲しいことも辛いことも、葵を考えると和らいでくれるから。

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