好きをこじらせて

神風団十郎重国

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55話

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葵に恋い焦がれて会いたくて、最近はなんだか寂しかった。いつもは葵がしつこく言ってくるのに私がこんなにこんなことを思うなんて今までなかったなぁ、と思いながら葵との連絡のやり取りを携帯で眺める。葵は忙しく仕事をしているみたいで電話はできないことが多く文面でのやり取りががほとんどだけど、こまめに連絡をしてくれる。だけど最近は前よりも減った。ドラマに出てから葵はゲストとしてテレビに出たりすることが増えたみたいで映画の撮影もまだあるし本当に忙しいみたいだ。連絡も日が空いてから来ることもあった。

私としては葵の仕事が軌道に乗って良いけど体も心配だし少し寂しい。付き合う前から分かっていたけどこればっかりは気持ちがなんだか付いてきてくれない。
これが、改めて葵のことが好きなんだと実感する。一人でいると、葵や優香里のことを考えてしまう。優香里は特に私の頭を占めてくる。私はそんな気持ちを紛らわせるように今日もまた飲みに出かけていた。
酒をある程度飲んでから、私は本当にどうでも良い話を聞かされた。

「俺さ、こないだフィリピンパブに行って超酔っぱらわせて持ち帰ってきたんだけど……あ、ちゃんと同意の上だぞ?それがまじで凄かったんだよ!…」

「あのさ、聞いてないしあんたのそういう話興味ないんだけど」

今日は以前、透達と行ったミックスバーに来ている。透は私に興味もないような近状を話してきてうんざりした。こいつは私をなんだと思っているんだ。

「いや、聞けって!まじでヤバかったんだよ!すっげー巨乳でさぁ、何も言ってないのにAVみたいに…」

「うん、分かった、止まって。あのさ、私まず女なんだけど。見て分かるよね?目は大丈夫?女の私にそんな話しないでくれる?」

何でこいつとそんな話をしないとならないんだ。私は呆れながら遮ると隣に座っていたニューハーフのアケミちゃんが口を挟んできた。

「そうだよ!酔っぱらって動けない女を狙うとかサイテー!くず!……でも、まぁ私ならいつでも狙ってくれてオッケーだけど」

アケミちゃんは怒ってたくせに満更でもなさそうだ。アケミちゃんはミックスバーの店員で見かけは凄い綺麗で美人だけど背がかなり高いしがたいが良い。おまけに声が低くて男の名残があるけど女にしか見えない。

「いや、おまえなんか狙うかよ!俺は理想が高いんだよ!」

頭悪いくせに透は何言ってんのか呆れるけどアケミちゃんは透に低い声でキレている。顔と声が合ってなくて少し笑える。

「はぁ?私、綺麗にしてんだろうが!なんなら脱いで見せてやろうか?」

「見たくねーよ!」

「何で?!ほら!おまえが好きなおっぱいも触らせやるよ!」

アケミちゃんはテーブルを挟んで前に座っていた透の手を強引に掴んで自分の胸を触らせている。やってることが女じゃなくて怖いけどおもしろかった。

「おまえ!やめろ!力が強いんだよ!!」

「ほら!好きなだけ揉め!好きだろおっぱい!喘いでやるから!」

「やめろ!まじで離せ!」

透は嫌がって抵抗しているけどアケミちゃんはたぶん凄い力で離さないんだろう。怒鳴りながらやってるからそれが軽い喧嘩みたいだけど、よくやっているから笑ってみていた。すると耳元で私にしか聞こえないようにレイラが耳打ちしてきた。

「葵ちゃんと付き合ってるんだって?」

「?!ゴホッ!ゴホッ!……なに?!」

私は思いがけないレイラの発言にむせてしまった。何で知ってるの?驚いて目で問いかけるとレイラはにやにや笑うだけだった。

「葵ちゃんから聞いちゃった~。教えてくれないなんて酷いじゃん!」

「いや、だって別に言うことでもないし…」

誰にも言うつもりが私にはなかったけど葵はレイラのマシンガントークに負けたんだろう。レイラは偏見とかはないけどめんどくさくなりそうだ。にやにや顔は変わらない。

「そんなこと言って照れちゃって!この、モテ女!なんか魔術でもかけたの?それか詐欺みたいなずるしたんじゃないの?てか、なんか変なもん飲ませたんでしょ!吐け!教えろ!」

「……そんなことする訳ないでしょ」

酷い言われようだけどここで乗ると大変な目に合いそうだから適当にあしらう。するとレイラはまた耳打ちしてくる。

「初エッチはどうだった?」

「はぁ?!」

「エッチくらいするでしょ?」

葵どこまで話てんの?あの子のことだからレイラに迫られてちょっと話してるかもしれない。仕方ないとは思うけどこれは焦る。動揺してしまう私にレイラは首に抱きついてきた。

「逃がさないよ!白状しろ!エロ魔神!」

「話す訳ないでしょ!」

「なんでー?聞きたいー」

「だめだから!ていうかいつ聞いた訳?葵に根掘り葉掘り聞かないでよ、あの子そういうの弱いんだから」

本当に勘弁してほしいけどレイラは少し私から残念そうに離れてお酒を飲む。レイラは恋愛話が好きだから止まらなくなることが多いけど、これは絶対に止める。

「レイラ株式会社の企業秘密は言えませーん。葵ちゃん聞いた時ずーっと照れてて本当に可愛かったよ」

照れてたというか困って恥ずかしがってたんだろうに。これは、少し葵を叱らないと。レイラは本当に楽しそうだ。

「私は何も言う気ないからね」

「なんでよー!けち!教えてくれても良いじゃん!気になる!」

「レイラめんどくさいんだもん」

「だって楽しくなっちゃうんだもん!由季教えてよ!」

これ以上餌をあげるなんて私はしたくない。しつこいレイラをかわしながら酒を飲んでいたらアケミちゃんが透との喧嘩を止めたのか私に寄りかかって来た。

「由季ちゃん!透が私を抱いてくれない!」

低い声で私に嘆かれても、困って苦笑いするけど透はまた言い返してきた。

「抱く訳ねーだろ!!」

それにアケミちゃんはまたキレだした。

「だから、何でだって言ってんだよ!!おっぱいもでかいだろ!楽しめんだろ!好きなようにして良いって言ってんだろーが!」

「だから俺は前から断ってんだろ!!気持ちとか色々あんだよ!」

「酔わせて無抵抗な女犯したやつに言われたくねーんだよ!くず!男のくず!でもあんたがタイプだよ!!抱けよバカ!」

「同意はあったって言ってんだろ!」

「ある訳ねーだろ!このイケメン!!顔が好みなんだよバカ!」

透との会話が下品だけど最終的にアケミちゃんの正論がブレなくてアケミちゃんらしくて好きだ。それにアケミちゃんは透への暴言を言うわりに大好きみたいだし。こんなバカ止めといた方が良いのにアケミちゃんが好きなら、私もまぁ、助けてやろうと思う。

「透、一回抱いてあげたら?」

「はぁ?由季までどうしたんだよ?」

透は信じられないみたいな顔してるけど私は最初からアケミちゃん側だ。

「アケミちゃん美人だし良いじゃん。一回くらいやってあげなよ」

私のそれにアケミちゃんはすかさず乗ってきた。

「由季ちゃん!優しい!そうだよ!抱けよバカ!一回と言わず二、三回抱け!そんで付き合え!」

「フュー!透モテモテ!抱け抱けー!」

レイラも加わって三対一だ。これは楽しい流れになってきた。だけど透はなぜか自信ありげに言った。

「おまえらがその気なら俺にも考えがある!…俺を潰してみろ!!」

あぁ、やっぱり透は本当にバカだ。
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