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64話
しおりを挟む「嫌いになんて……絶対ならない」
今度は小さく呟いた葵は私から目を逸らさない。両手を頬に添えて私を逃がさないようにすると不安そうな顔をして口を開いた。
「由季こそ、……私のこと、本当に……本当に、好きなの?」
「好きだよ。エッチの時も言ったでしょ?私は葵を愛してるよ。好きじゃなきゃこうやって触ってないよ」
「…………」
「葵?」
葵は何度も私の気持ちをこうやって尋ねてくる。好きだと言ってもこうやって葵が確かめるのはもう慣れたことだし性格的に仕方ないのだけど私はその度にもどかしくなる。私の愛は伝えても伝わりきれていない気がしてしまう。伝えても伝えても葵は心のどこかで不安でいるから。それでも、私は何度でも伝えていきたいと思っている。葵の不安を拭いたいし葵が好きだから。
葵は私の頬から手を離して思い詰めたように黙った。その表情は葵の中で色々気持ちがせめぎあっているようで、これ以上何も言えなくなる。好きだけど好きだけじゃない。女には色々あるのだ。私はそんな葵にキスをして優しく言った。
「ちょっとシャワー浴びてからお風呂入ろっか?」
「……うん」
私達はお互いにもう一度シャワーを浴びてから湯船に浸かった。少しお湯は冷めているけど今の私達にはそこまで気にならなくて、後ろから葵のお腹に片手を回してくっつきながら入る。嫌がらない葵にまだいつも通りじゃないけど少し距離が縮まってなんだか安心した。
「明日、仕事なのにごめんね?体、どっか痛いとこない?」
「……大丈夫だよ。……由季は、……痛くない?……私が噛んじゃったとこ…」
葵は申し訳なさそうに呟いたけどそんなこと気にしていなかった。葵は途中で我慢できなくて肩を噛んできたけど私にはその痛みさえも愛しくて快感を感じるようだった。葵が私を求めて離さないような気がして寧ろ嬉しかった。でも、こんな変態みたいなことは言わない。私も恥ずかしいし葵が困るだろうから葵に笑って答えた。
「平気だよ。でも、次からはちゃんとベッドでしよっか?葵の可愛い声聞きたいし、やっぱり誰にも聞かせたくないから」
葵の夜の姿は私だけの物だ。エッチな顔も声も全て。これは誰にも教えたくない。最後は囁くようにちょっと恥ずかしいけど伝えると、葵はお腹にある私の手を上から控えめに握ってきた。
「……うん。……私も……由季以外に聞かれたくない」
「うん、良かった」
「………由季?」
「ん?なに?」
「……私……」
言いづらそうな葵は何か考えてるようで、見かねて私は顔を横から寄せて頬にキスをする。表情はさらに暗くて悩んでいそうな葵に優しく言った。
「なあに?私には何でも言って良いんだよ?前から言ってるでしょ?」
何を言いたいんだろう。私は葵のことを知ってあげたいし気持ちを伝えてほしくて空いていた手で葵の手を握る。葵はそれに握り返してきた。
「……私、」
「うん。どうしたの?なに?」
また優しく聞くと葵は私を見つめた。
「私、由季を……一番信用してる。由季が言ってくれること全部私には正しいことだと思うし疑ったこともない。由季になら全部任せて良いって思えるくらい由季の言葉は私には大きいの。……でも、気持ちがぐちゃぐちゃして、こないだから……由季を、信用できない。由季は謝りに来てくれて、私に説明してくれたけど……本当、なのかなって。……不安で分かんなくて考えて…やっぱり、私のせいかなって思うと悲しくなっちゃう。……由季が私を好きって言ってくれて触ってくれて、由季の気持ち伝わって嬉しいし信用したいけど、これが、……嘘だったら耐えられない。本当は私以外に目を向けて、由季が興奮したり、エッチな目で見てたら……本当にやだ。それがエッチなビデオでも嫌。私以外、見ないでほしい。私以外を見てる由季を、想像もしたくない」
葵はやっと本音を言ってくれた。悲しそうな顔に私の胸が痛くなる。あれに相当傷ついた葵に私もちゃんと話をしようと思う。葵を安心させたいから。
「葵は、エッチのこと友達と話したことある?」
「……そんなの、ないよ…」
性格的にも葵は下ネタとかは苦手だから思った通りだけど私はそれでも目を見ながら話した。
「そっか。私はね、飲みに行くバーとかで話すことあるんだけどさ、皆が皆同じじゃないんだよ。体を触ったり、舐めたり、入れるだけで気持ち良いって子もいるよ?だけど、そうじゃない子もいる。エッチは特に気持ち良くも何ともないから適当に演技してただ終わるのを待ってるって子もいれば、全く気持ち良くなくて痛くて嫌だけど恋人は好きだから我慢してるって子もいる。一般的には気持ち良いこととして認識されてるけど人によって違いがでるのは当たり前なのに、実際には気を使わせるようなことが起きててさ、好きだけどエッチは別って思ってる子もいるんだよ。葵もそんな風に思われて気を使われたら嫌じゃない?」
葵はうん、と頷く。大事なことなのにAVとかを見ただけで分かった気になっている。大事なことなのに話さないからこうなってしまうのは私は嫌だった。
「私も嫌だよ。だから参考になるように調べたりしてた。ちゃんとこの話はしようと思ってたけど、私達は女同士ってゆうのもあって私も少し不安だったから。でも、エッチって人によって感じる所とかも様々だからお互いに話していって私たちのやり方でやっていけば良いと思ってね。大事なことだし、何かから学んだりするのは良いと思うけど、お互いに気持ちがないと意味がないし私の相手は葵しかいないから、恥ずかしいけど葵に聞いていこうとは思ってるよ。だから、本当に大丈夫だよ。私は、ちゃんと葵のこと考えてるし他の人に興奮したりエッチな目で見たりなんかしない。そういう風に見るのは葵だけだよ」
エッチに関しては長く付き合っていく上で重要になってくる。私は改めて自分の考えも伝えたけど葵はそれに少し考えるように黙ってから口を開いた。
「……じゃあ、約束して?」
「約束?」
「うん」
葵は私の方に体を向けると肩に手を置いて顔を寄せてくる。暗い表情は悲しんでいるようにも見えて私は切なくなった。
「私以外に興奮したりしないで。私以外見ないで。私にしか触らないで。由季がしたくなったら私が相手をするから、由季が満足するまでちゃんと私がする。だから本当にやめて?エッチなビデオだったとしても……本当にやだ。ムカムカしてイライラして悲しくて、どうにかなりそう。私のためにそういうの調べたりとかしてくれたのは嬉しいし由季が本当に見てないのは分かるけど、凄くショックだったから…分かってるんだけど…分かれないよ」
葵はそう言うと肩に置いていた手を首に回して抱きついてきた。私のことをちゃんと信じようとしてくれて、分かってはいるけど心が初めてのことに動揺してしまっている葵は自分の中で上手く解釈できないみたいだ。私が不用意に不安を煽って、ショックを与えて傷つけてしまったからこんな風に思わせてしまって改めて悪く思う。
葵は気持ちが行き過ぎてる分ちょっとした何かで傷つきやすい。でも、葵が私を信じようとしてくれて分かってはいるのが少し嬉しかった。これはまだ時間がかかりそうだけど時間を惜しむつもりはない。この子が不安なら私は何回でも言って聞かせるつもりだ。私は葵を抱き締めながら答えた。
「分かった、約束する。葵が言ったこと全部守る。葵がまだ心の整理がつかないのは分かるから、葵がしっかり頷けるように私は待つし、ちゃんと反省する。でも、悪い方向にはあんまり考えないで?葵との今までの約束もちゃんと守るし、浮気なんか絶対ないし葵しか見ないから」
「………破ったら、本当にやだよ?」
小さい呟きに一度強く抱き締めてから少し体を離すとおもむろにキスをする。葵はキスをするとこんな時でも愛しそうな眼差しを向けてくる。葵は本当に私を嫌いにはなるつもりはない。それが分かって安心する。
「分かってるよ。絶対破らないから」
「……うん」
「ふふ、好きだよ。本当に」
ちょっと不安げな葵にまたキスをして本当であることを伝える。啄むように何度かすると葵はやっと少し笑ってくれた。久々に葵が笑った顔を見た気がして私も笑いかけると今度は恥ずかしそうに話し出した。
「由季?あの、私がね、由季の相手が…できなかったら、わ、私で、……私のこと思って、してほしい」
「……え?なに言ってんの葵?」
たぶんオナニーのことを言ってるんだろうけど急にこんなこと言われるとこっちまで何だか恥ずかしくなる。私は思わず聞き返してしまったけど葵は恥ずかしがりながら続ける。
「だ、だから、……一人でエッチする時も、私でして?……他の人とか、その時も見ないで?私、あの、エッチな写真とか、ど、動画とかも……由季のためなら用意するから。何か、してほしいポーズとか格好とかあれば」
「あ、葵!分かった!分かったから止まって」
私は顔が少し熱くなるのを感じながらとんでもないことを言い出す葵を止めた。葵の気持ちは分かったけど、そこまでさせる気はないしそんな変態みたいなこと私の性格的に無理だ。本気で言っている葵に私は少し照れながら話した。
「あの、葵の気持ちは分かったけどそこまでしなくても大丈夫だよ。私はそこまで性欲が強くないからあんまりしないけど、……あの、ちゃんと葵のこと思ってしてるから。……うん。そこは本当に大丈夫」
「…そ、そうなんだ。……良かった…」
恥ずかしいなと思いながらこんなことまで話してしまったけど葵はほっとしたようで安心する。葵の独占欲と言うか嫉妬深さは大きいけどこんなことで不安が拭えるなら私が恥ずかしい思いをしても構わない。
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