戸籍なし!異世界極道記

青波なつき

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序章

元サラリーマン極道 いつものキャバクラへ

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「・・・あ、すまんレオン」
先ほどの仕事が終わって街に帰る途中だった。キラキラした夜の街の光が目に入ったとき、俺は大事なことを思い出し、車を運転中のレオンに話しかけた。
「俺の顔を戻しておいてくれ」
「そうですね、そろそろ街に到着しますからね。戻しておきましょう。・・・もしかして、トラさん。いつもの店に行くつもりなんですか?」
「ははっ、流石だなレオン。俺の考えはお見通しってことか」
「・・・相変わらず元気な方ですね。金のほうは私が事務所のほうに届けておきますよ」
「お前も相変わらず気が利く男だな!」
 街へ急いで帰りたい気持ちもあったが、一度レオンに車を停めさせ、<元の顔>に戻してもらうことにした。
 そうだ、顔を戻してもらいながら、レオンの能力のことを説明しないとな。レオンは、自分と自分が触れた人間の顔を変える能力者だ。顔の変化は自由自在で、例えば、この国の現国王の顔にも、誰も見たことがないような絶世の美女にだって変身できる優れものだ。そういえば、直接解除しない場合の変化の効果時間は24時間だった気がする。まあ、説明しといてなんなんだが、だいたい切れる前にもう一度変化をかけてもらうことが多くてあんまりちゃんと憶えてないなぁ。
 俺はこのレオンの能力を借りて、「正体不明の暗殺者」で活動している。レオンのおかげでびっくりするほど簡単に、戸籍もなく、誰も顔を知らない男に扮してヒットマンができるようになった。おまけに、気も効く男だから、ヒットマンという面倒な仕事もサクサクできて大助かりって感じだ。
 さて、能力紹介も済んだことだし、急いで街に帰りますかね。欲望渦巻く繁華街「ベルローズ・ストリート」に。


 件の街に到着した後、いつもの店の前で車を停めてもらった。店に入る前にレオンへ、明日の朝いつもの場所に迎えに来るように言付けておいた。了解ですという答えたレオンは、そのまま龍王会の事務所に向かっていった。
 レオンの乗った車を見送った俺は、いかにもって感じのキャバクラ「ノクティカ」のドアの前にたった。ただ、この「ノクティカ」という店、現代の日本の繁華街でよく見るキャバクラと外装こそ似ているが、店のキャストは全く違うんだ。どんな女の子が在籍してんのかっていうと、異世界ならではなんだが、エルフやオーク、サキュバスなどなどの多種多様な種族が、俺たちをお出迎えしてくれるんだぜ。異世界はなかなかに不便で困ることも多いんだが、いろんな種族の女の子とキャバで駆け引きできるっていう点では、こっちに来てよかったと思えるな。
 さあ、ドアを開けていつものあの子に会いに行きますか!


「いらっしゃいませ。・・・あ、トラさんじゃないですか!最近、お忙しいとのお話を耳にしたので、てっきり本日も来られないかと思っておりました。」
「ああ、ちょっと面倒ごとがあって忙しかったんだが、今日ぜーんぶ終わらせて、急いできたぜ。今アネッサは空いてるか?」
「アネッサさんですね、トラさんのことをずっとお待ちしておりましたよ。・・・すぐにお連れいたしますので、いつものルームで少々お待ちください。」


 いつもの個室に通された後、仕事の痕跡をしっかりと消すために、顔や手をおしぼりで拭き、香水を軽く振っておいた。女の子に会う時はキレイな身体でいなくっちゃあな。
 そんなことを考えていると、部屋のドアが開いて、聞きなじんだアネッサの声が聞こえた。
「トラくん、お久しぶりだねーー!1か月ぶりだっけ?会えてうれしいよ!」
「アネッサ!見ないうちにまたいい女になったな、俺も会えてハッピーだぜ」
「相変わらず褒め上手なんだから、トラくんは~。もしかして、お店に来てない間に、ほかの女の子にもいいまわったりしてたんじゃないの~~?」
「いやいや、たしかに俺はモテ男だが、そんな俺が本気なのはアネッサだけ。世界中の女の子が君に嫉妬してるぜ?」
「またまた~、調子のいいことばっかり言うんだから~。でも、変わってなくてほんとに安心したよ」
 あははと楽しそうに笑いながらアネッサは俺の隣に腰かけた。そのまま肩を抱き寄せると彼女は俺に顔を近づけながら、笑顔を向けてくれる。最高に素敵な笑顔だ。緑色の肌も人間離れしたエロさを感じるぜ。
 そう、アネッサの肌は緑色だ。アネッサも異世界ならではの種族の女の子で、肌の色で察しが付いた諸君もいるかもしれない。彼女はゴブリン族の女の子だ。
 ゴブリンっていうと、いろんなファンタジー作品に出てる定番のモンスターだよな。背は低いし、小狡くて顔もどちらかというと醜い。そういった嫌な印象で語られることも多いんじゃないか。ただ、この世界ではそういうステレオタイプな種族は、彼女を含むゴブリンもだが、あんまり多くない。
 たしかに、アネッサの肌の色は、ゴブリン族によくみられる緑だし、背も低い。ただ、わし鼻ではあるが、たぬき顔でかわいいし、何より胸が大きい。世の中の男が愛してやまないタイプの女の子だ。いやいやそんな女はタイプじゃないねという君に、俺からアドバイスをプレゼントしよう。早く自分の欲望に正直になったほうがいいぜ。
 さて、俺が迷えるオス羊を導いている間に、アネッサが俺の分の酒を造ってくれていた。バランタイン12年っぽい味がするウイスキーのハイボールだ。ただ、まだ乾杯には早いな。
「そういやぁ、ボトルは持ってきてもらったが、アネッサ、君の酒がないな。」
「さすがトラ君!わたし喉かわいちゃったよ~。今日はそうだなぁ~、久しぶりにトラ君の顔見られたから、いいお酒でちょっとお祝いしたい気分」
「そう言うんじゃないかと思って、もう支配人に頼んでおいた。久しぶりに会えたんだ、いい夜にしようぜ」
「えっ、ほんとーーー!とってもとっってもうれしい!今日はお店終わるまで一緒にいてくれるよね!?」
「ああ、もちろんさ。ただ、店が終わるまででアネッサはいいのか?」
 アネッサは答える代わりに、首に腕を回してきて俺に口づけた。もう数えきれないくらい重ねてきた唇。何度も交わしてきた安心感とこのブランクの間に募った寂しさが同時に伝わってくる。
 その時、ノックの音と同時に、失礼しますと支配人の声が聞こえた。さあ、お待ちかねのシャンパンが届いたぜ。アネッサ、グラスに酒を注ごう。音を鳴らして乾杯をしよう。そして、この一か月の空白を言葉でも身体でも埋めることにしよう。
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