俺は小悪党でいい!

黄ばみばなな

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善いことはコレっきりだ!

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 目が覚めると目の前には廃ビルや人気のない住宅が映った。また、地面のアスファルトには、枝分かれして亀裂が入っており、荒廃した世界を想起させる。
 視界が低く、視界に映る自身の手や腕は小さく細い。足下にある水溜まりで自身の容姿を確認すると、髪型は前世と変わらないが童顔になっており、肩幅も前世より遥かに小さく、7~9歳ほどの肉体に若返っているのを確認する。

 目が覚めたら全く知らん場所にいて、なぜか若返っている!?
 俺は目覚める前の記憶を頑張って呼び起こした。そうだ、俺、死んだんだわ。
 俺の名前は、蛇道 治じゃどう おさむ。26歳、福祉施設で働いてる平凡な男だ。夜勤明けの退勤時、居眠り運転して海に突っ込んで死んじまった。
 記憶は思い出したものの、全く知らない場所、若返った体についての疑問は晴れない。だが、そんな疑問も吹っ飛ぶほど腹の虫が鳴いていた。そのため、辺りの散策をすることにした。

 空は赤く、陽が沈みかける頃、少し遠くで火のようなものを視界に捉える。火がある場所に、人はいる、そう考えた治は目を光らせて一目散にその場に駆け寄る。

 
 結果から言うと、人がいた。大人の男性2人に、縄でぐるぐる巻きにされた自分(の肉体年齢)と同い年くらいの少女に。少女の方は、自分の目の前にある大きなお寺に向かって「助けてぇ!」「やめて!離して!」と甲高いが、何度も叫んだのが推測できるほど嗄れた声で助けを求めていた。これ絶対誘拐だろ。誘拐犯の方は、2人ともサーベルやらメリケンサックなど様々な凶器を装備しており、血痕も付着している。
 周りを見渡すと、誰もがその現場から目を逸らしていた。彼らの棲処であろう廃ビルに逃げるように入っていく。他人よりも我が身が大事か。この世界ここ前世の世界とおんなじだ。きっと皆思ってるんだろうな、「自分が助けに行かなくても、誰かがきっと助けてくれる」って。ムカつくが、そーゆー態度を取れる人たちを羨ましくも思う。
 俺の目標は食料確保だったはずなのに、自然と身体は囚われた少女のもとに向かっていた。


「ジャハハハハ、やっとから連れ出すことができたぜぇ!この少女、容姿見てくれ良し、高く売れる!」

「ゼヒゼヒ、ダンナァ、ソイツだけでよかったんすか?あそこには、ガキがもっといたのに!」

「バカ言え、コイツの他に拉致ったらすぐに追いつかれちまう!追いつかれたら俺らの生存確率は1里もねぇよ!」

 マンバンヘアに口髭を生やしたリーダー格の男は、肩に捕縛された少女を担ぎ走りながらそう語る。太った2mを超える巨躯のドレッドヘアの男は納得してなさそうな不満のある表情で相槌をしている。

 突然「ブヒィッ」と巨躯の男は声を上げ、盛大に転ぶ。男の足元には何枚にも束ねられ耐久性が増した枯れ草のトラップ。治は倒れた巨躯の男から警棒とポケットナイフを奪い、咄嗟にリーダー格の男の弁慶の泣き所を警棒で叩く。リーダー格の男はひるんで少女を地面に落とす。治はその隙を狙い、誘拐犯である2人に目掛けて砂を投げ、目潰しをし、少女の縄をポケットナイフで解き、逃避行の声掛けを行い、町の入り組んだ個所へ必死に走った。

 俺にできるのはここまでだった。今の子どもの俺の身体で武器を持ったガタイの良い男2人を相手取ることなんてできやしない。時間を稼いで、逃げることしかできなかった。助けた少女は混乱しながらも俺の後をついてきている。だが、俺の2度目の人生に運はついていなかったらしい。逃げた先は、行き止まり。そこにあるのは、登るための溝が一切ない大きな壁と食糧を保管する大量の木箱だけだった。
 俺は無我夢中でひとつの木箱の中身を他の木箱の中へ移した。もう助かるためには

「君、木箱の中に入ってやりすごすんだ。」

「隠れるのですね。でも、貴方の分の木箱は用意しないのですか?」

「これからするさ。もし間に合わなかったら木箱を足場にして壁を乗り越えるから大丈夫だ。」

 これは強がり、この少女を安心させるためのブラフ。もう誘拐犯の怒声が大きくなり、かなり近づいていることがわかるし、俺が隠れる分の木箱を準備する時間はない。そして、目の前にある大きい壁を登れるほどの数の木箱はない。
 これから自分にできることは、できるだけ時間を稼いでいるかもしれないヒーローを待つことだけだった。


 荒々しく大地を踏みしめる音と怒声が近距離まで近づく。誘拐犯の男たちは、行き止まりであることを知り、顔を合わせてニヤリと笑みを浮かべる。

              まだだ。

「お~い、さっきのガキぃ。今顔出して謝るなら肺と腎臓ひとつずつで勘弁してやるよぉ。出てきなぁ。」

              まだだ。

「ここに居るのはわかってんだよぉ。10数える前に出てこなかったら、キンタマ片方も取っちゃうよーん。」

              まだだ。

 誘拐犯たちは、散らばった木箱の中や死角を確認しだす。リーダー格の男が隠れている治に背を向けた。

              今しかない!

 その隙を見計らって、治はうなじに警棒で渾身の一撃を叩き込む。


「へ…………?」


 叩き込んだ警棒が「く」の字に曲がっていた。それだけではない、リーダー格の男は叩かれてもピンピンしていたのだ。叩いたときの感触がまるで鋼鉄だったのだ。治の手は硬いものを叩いた反動でしびれていた。

「そうくると思ってたぜぇ。さっきは不意を突かれたが、今は違う。てめぇが居るのが分かりきってるから、防御ガードしてたのよ!」

 氣?なんだそりゃ?この世界では魔力みてーなものが存在するのか!?今の俺には氣の使い方がわからないし、これ以上太刀打ちできないぞ。

「もうひとつ良いこと教えてやるよ。氣は防御以外にも、攻撃にも使えるんだ、ぜぇッ!!」

 巨躯の男が大振りで構え、治に張り手を命中させる。治は壁に叩きつけられる。

 クソ痛ぇ……!!これが人間が出せる馬力なのかよ!?これも氣ってやつのおかげなのか?

 誘拐犯2人は、壁に張り付いていた治を地面に叩きつけ、蹴る、踏むなどのリンチを行う。ドチャッ、ゴニィ、ドッなど治の身体から鈍く重い音が響く。

 治はリンチされる中、後悔を抱いていた。

 前世でもそうだった。
 誰もやらないから、俺が進んでやった。
 それで毎回苦しんで、俺だけが損をする。
 誰も助けてくれなかった、周囲は保身ばかりだった。

 2度目の人生をもらえたのに、もうゲームオーバーか。
 なんで俺だけこんなに苦しまなきゃいけないんだろう。
 もし、もしも、次また機会があれば、今度は俺自身の為に生きよう。
 俺は皆のために動くヒーローじゃなくていい、自分が楽に生きれるように少しばかりワガママに、小悪党になってやろう。
 …もう善いことはコレっきりだ。

 ………あれ?攻撃がおさまった?
 ダンゴムシのように縮ませていた身体を起こして目を開けると、誘拐犯の2人が気絶していた。
 そして、覇気のある少年少女たちと大人がそこにいた。先ほどまで隠れていた少女がその集団に何かを話している様子であった。
 その集団にいた大人の男性がこちらに歩み寄ってくる。


「話はダンネから聞いた。
 本当にありがとう。積もる話はあるが、とりあえず君を道場まで運ぶ。
 それまで安心して眠ってなさい。」

 威厳のある風格だったが、声色はとても温かく優しいものであり、俺は安心しきってしまったのかすぐ眠ってしまった。
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