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黒猫ツバキのあやまち
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黒猫ツバキは、魔女コンデッサの使い魔だ。
コンデッサは20代の若さながらボロノナーレ王国を代表する優秀な魔女であり、ツバキはそんなコンデッサの使い魔であることを誇りに思っていた。
しかし、最近のツバキには心配事がある。
コンデッサが鏡台の前に座って溜息を吐く光景を、たびたび見掛けるのだ。
今日もコンデッサは鏡をのぞき込みながら「ア~」とか「ウ~」とか呻いている。
ツバキは、思い切ってコンデッサに声を掛けてみることした。
「ご主人様、いったいどうしたのニャ? 気になる事でもあるのかニャ? 良ければ、アタシに相談して欲しいのにゃ」
「おお、ツバキか。いや、実は最近、化粧のノリが悪くてな」
「あ、アタシ、それ知ってるニャ。きっとご主人様のお肌は、曲がり角を曲がってしまったのニャ」
「ほほ~、どういう意味だ?」
「友だちのプリンに教えてもらったのニャ。人間の女性には『お肌の悩み』と言われる猫には分からにゃい苦しみがあって、曲がってはいけにゃい曲がり角を曲がった大人の女性は、地獄の業火に焼かれニャがら永遠の苦悩を味わうことになるのだそうニャ。怖ろしいニャン」
ツバキの全身を覆っている黒い毛が、逆立つ。
「あ~。プリンは確か、魔女バンコーコの使い魔だったね。今度バンコーコに会ったら、使い魔監督不行き届きの罰を受けてもらおう」
「でも、大丈夫ニャ、ご主人様。アタシ、そんな絶望の淵に佇む人間の女性に伝える助言についても、プリンからチャンと聞いてるのニャ。それも、2つ!」
「言ってみろ」
「『あきらめろ。誰もが、いつかは通る道』と『水分蒸発。それは、避けようも無い天の摂理』だニャン」
「…………」
「プリンが言ってたニャ! 『固くなったお餅とパサパサのお肌。失った水分は、2度と戻らニャい』って」
「…………」
「どうニャ! ご主人様。アタシ、ご主人様のお役に立てたかニャ?」
寸時の後、ツバキは大きなたんこぶを頭にこさえていた。コンデッサから、お仕置きの拳を喰らったのだ。
「痛いのニャ~」
涙目で頭をこするツバキに、コンデッサはお使いを言いつける。
「ツバキ。雑貨屋に行って、ファンデーションとアイブロウセットを買ってこい」
コンデッサとツバキのお家は、小さな村の外れにあるのだ。
「ファンデーションとアイブロウセット。何かニャ? それ」
「化粧の品さ。肌の乾燥を防いで整えてくれるファンデーションと、眉毛メイクをナチュラルに仕上げてくれるアイブロウセット。どちらも、今の私には必要だ」
「無駄にゃ努力……」
「何か言ったか?」
「そ、そんニャものを買うより、ご主人様は魔女にゃんだから、魔法でチャッチャとお肌を若返らせれば良いんじゃニャいの?」
「ツバキ……確かに、私は魔女だ。魔法で肌を美しく変化させようと思えば、容易に出来る。だがな、私は魔女になったあの日から『魔法は世のため人のために使う。私利私欲のためには使わない』と心に誓っているのさ」
「ご主人様!」
ツバキは感動した。
「ご主人様は、素晴らしいニャ! アタシ、ご主人様の使い魔になれて、本当に幸せにゃ!」
「ハッハッハ。そうだろう、そうだろう」
高笑いするコンデッサの懐から、一冊の本がバサリと床に落ちた。
本の題名は《貴方も今すぐ出来る! お手軽簡単アンチエイジング魔法~これで貴方のお肌は10歳若返る~》だった。
「…………ご主人様」
ジト眼になるツバキ。
「い、良いから、サッサと行ってこい!」
♢
お使いの途中、ツバキは道端のタンポポを猫じゃらし代わりについつい遊んでしまった。
夢中になって楽しんだあと、ツバキは「ハ! アタシ、そう言えば、お使いの途中だったのニャ!」と気付き、慌てて雑貨屋へ向かった。
村の真ん中にある雑貨屋に着いたツバキを、店番をしていた奥さんが出迎えてくれる。
「あらあら、ツバキちゃん。コンデッサ様のお使いなの? エラいわね~」
「アタシは子供じゃ無いのニャ! 立派な使い魔なのニャ」
「あらあら、ごめんなさい。それで、今日は何を買いにきたの? おばちゃんに教えてね」
「忘れちゃったのニャ」
「あらあら、困ったわね~」
「すぐに思い出すのにゃ。ご主人様は2つの品を買ってくるように、アタシに言ったのニャ。1つは『ボロボロになった表面を覆い隠すモノ』にゃん。そうそう! 『劣化を防ぐ』働きもあるそうなのニャ」
「あらあら、それはきっとコレね~」
「コレにゃ! もう1つは、何か描くモノにゃ。『薄くなったところをハッキリさせるために使用するアイテム』にゃ」
「あらあら、それはコレじゃないかしら~」
「コレにゃ! 思い出せて良かったニャン。ありがとさんにゃのニャ~」
「いいえ~。お買い上げありがとうございます。また、いらしてくださいね~」
ツバキは意気揚々、お家に帰ってきた。
「ただいまニャのにゃ~」
「おお。戻ってきたか、ツバキ。頼んだ品は買ってきたか?」
「もちろんニャ! アタシは、仕事が出来る使い魔なのニャ」
「それじゃ、見せてくれ」
「これニャ」
ツバキは自信満々、雑貨屋で購入した品物をテーブルの上に並べた。
「…………これは何だ? ツバキ。私には、錆止めと鉛筆に見えるんだが」
「錆止めと鉛筆にゃ」
「どうして、こんなモノを買ってきたんだ?」
「え! だってご主人様、アタシに『ボロボロの表面に塗って誤魔化すモノ』と『薄くなった部分に描いて誤魔化すモノ』を買ってこいって言ったニャン?」
「ふ~ん」
コンデッサのこめかみに、青筋ができる。
「私は、ファンデーションとアイブロウセットを買ってくるように伝えたはずだが? そうかそうか。ツバキは、私が化粧品を使うことについて、そんな風に思っていた訳だ」
「ニャ!? ち、違うのにゃ! それは、大きな誤解にゃ、ご主人様」
ゴチン!
ツバキの頭に、今日2度目となるコンデッサの拳が落ちてきた。
「あイタタなのニャ~」
「まったく……何が、誤解だ。どんな勘違いをしたら、錆止めと鉛筆なんてもんを買ってくるんだ」
「ゴメンナサイなのニャ。ご主人様」
「鉛筆はともかく、錆止めなんて門扉の補修くらいにしか使えんぞ」
「やっぱり、錆止めはファンデーションの代わりにはならないニョ?」
「当たり前だ!」
「どっちも、似たようにゃモノだと思うんだけどニャ~」
「ツバキ。今、聞き捨てならないことを言ったな。私の肌と門扉の表面は似たようなモノだと、お前は考えているのか?」
「そ、そんな訳、無いニャ! どっちも日光と風雨に昼夜晒されてボロボロだとか、手当てしても手遅れだとか、もはや重ね塗りで誤魔化すしかニャいとか、そんニャこと、ちっとも思っていないのニャ」
「…………」
「ご、ご主人様。アタシの真剣な気持ち、分かってくれたかニャ?」
「ああ。お前の私への思い、ハッキリ伝わったぞ」
「良かったニャ」
魔女と使い魔は、微笑みあった。
♢
翌日、ツバキは買い物の品を間違えた罰として、草むしりと屋根修理と物置の片付けと家中の掃除とゴミ捨てと門扉への錆止め塗りを命じられた。
「ご主人様~、作業が終わらないニャ~。もう許してニャン~」
ツバキの哀願が、一日中、家の内外で響いていたそうな。
♢
あと、結局コンデッサはアンチエイジング魔法に手を出した。
「私の美貌は、世界の宝。つまり私がスキンケアに励むのは、世のため人のためなのだ」
そう言って高笑いするコンデッサの肩にツバキは跳び乗り、前足でポンポンと叩いた。
「ご主人様を見ていると、アタシ、何故だか涙が止まらなくなるのニャ」
「やかましい!」
コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。
コンデッサは20代の若さながらボロノナーレ王国を代表する優秀な魔女であり、ツバキはそんなコンデッサの使い魔であることを誇りに思っていた。
しかし、最近のツバキには心配事がある。
コンデッサが鏡台の前に座って溜息を吐く光景を、たびたび見掛けるのだ。
今日もコンデッサは鏡をのぞき込みながら「ア~」とか「ウ~」とか呻いている。
ツバキは、思い切ってコンデッサに声を掛けてみることした。
「ご主人様、いったいどうしたのニャ? 気になる事でもあるのかニャ? 良ければ、アタシに相談して欲しいのにゃ」
「おお、ツバキか。いや、実は最近、化粧のノリが悪くてな」
「あ、アタシ、それ知ってるニャ。きっとご主人様のお肌は、曲がり角を曲がってしまったのニャ」
「ほほ~、どういう意味だ?」
「友だちのプリンに教えてもらったのニャ。人間の女性には『お肌の悩み』と言われる猫には分からにゃい苦しみがあって、曲がってはいけにゃい曲がり角を曲がった大人の女性は、地獄の業火に焼かれニャがら永遠の苦悩を味わうことになるのだそうニャ。怖ろしいニャン」
ツバキの全身を覆っている黒い毛が、逆立つ。
「あ~。プリンは確か、魔女バンコーコの使い魔だったね。今度バンコーコに会ったら、使い魔監督不行き届きの罰を受けてもらおう」
「でも、大丈夫ニャ、ご主人様。アタシ、そんな絶望の淵に佇む人間の女性に伝える助言についても、プリンからチャンと聞いてるのニャ。それも、2つ!」
「言ってみろ」
「『あきらめろ。誰もが、いつかは通る道』と『水分蒸発。それは、避けようも無い天の摂理』だニャン」
「…………」
「プリンが言ってたニャ! 『固くなったお餅とパサパサのお肌。失った水分は、2度と戻らニャい』って」
「…………」
「どうニャ! ご主人様。アタシ、ご主人様のお役に立てたかニャ?」
寸時の後、ツバキは大きなたんこぶを頭にこさえていた。コンデッサから、お仕置きの拳を喰らったのだ。
「痛いのニャ~」
涙目で頭をこするツバキに、コンデッサはお使いを言いつける。
「ツバキ。雑貨屋に行って、ファンデーションとアイブロウセットを買ってこい」
コンデッサとツバキのお家は、小さな村の外れにあるのだ。
「ファンデーションとアイブロウセット。何かニャ? それ」
「化粧の品さ。肌の乾燥を防いで整えてくれるファンデーションと、眉毛メイクをナチュラルに仕上げてくれるアイブロウセット。どちらも、今の私には必要だ」
「無駄にゃ努力……」
「何か言ったか?」
「そ、そんニャものを買うより、ご主人様は魔女にゃんだから、魔法でチャッチャとお肌を若返らせれば良いんじゃニャいの?」
「ツバキ……確かに、私は魔女だ。魔法で肌を美しく変化させようと思えば、容易に出来る。だがな、私は魔女になったあの日から『魔法は世のため人のために使う。私利私欲のためには使わない』と心に誓っているのさ」
「ご主人様!」
ツバキは感動した。
「ご主人様は、素晴らしいニャ! アタシ、ご主人様の使い魔になれて、本当に幸せにゃ!」
「ハッハッハ。そうだろう、そうだろう」
高笑いするコンデッサの懐から、一冊の本がバサリと床に落ちた。
本の題名は《貴方も今すぐ出来る! お手軽簡単アンチエイジング魔法~これで貴方のお肌は10歳若返る~》だった。
「…………ご主人様」
ジト眼になるツバキ。
「い、良いから、サッサと行ってこい!」
♢
お使いの途中、ツバキは道端のタンポポを猫じゃらし代わりについつい遊んでしまった。
夢中になって楽しんだあと、ツバキは「ハ! アタシ、そう言えば、お使いの途中だったのニャ!」と気付き、慌てて雑貨屋へ向かった。
村の真ん中にある雑貨屋に着いたツバキを、店番をしていた奥さんが出迎えてくれる。
「あらあら、ツバキちゃん。コンデッサ様のお使いなの? エラいわね~」
「アタシは子供じゃ無いのニャ! 立派な使い魔なのニャ」
「あらあら、ごめんなさい。それで、今日は何を買いにきたの? おばちゃんに教えてね」
「忘れちゃったのニャ」
「あらあら、困ったわね~」
「すぐに思い出すのにゃ。ご主人様は2つの品を買ってくるように、アタシに言ったのニャ。1つは『ボロボロになった表面を覆い隠すモノ』にゃん。そうそう! 『劣化を防ぐ』働きもあるそうなのニャ」
「あらあら、それはきっとコレね~」
「コレにゃ! もう1つは、何か描くモノにゃ。『薄くなったところをハッキリさせるために使用するアイテム』にゃ」
「あらあら、それはコレじゃないかしら~」
「コレにゃ! 思い出せて良かったニャン。ありがとさんにゃのニャ~」
「いいえ~。お買い上げありがとうございます。また、いらしてくださいね~」
ツバキは意気揚々、お家に帰ってきた。
「ただいまニャのにゃ~」
「おお。戻ってきたか、ツバキ。頼んだ品は買ってきたか?」
「もちろんニャ! アタシは、仕事が出来る使い魔なのニャ」
「それじゃ、見せてくれ」
「これニャ」
ツバキは自信満々、雑貨屋で購入した品物をテーブルの上に並べた。
「…………これは何だ? ツバキ。私には、錆止めと鉛筆に見えるんだが」
「錆止めと鉛筆にゃ」
「どうして、こんなモノを買ってきたんだ?」
「え! だってご主人様、アタシに『ボロボロの表面に塗って誤魔化すモノ』と『薄くなった部分に描いて誤魔化すモノ』を買ってこいって言ったニャン?」
「ふ~ん」
コンデッサのこめかみに、青筋ができる。
「私は、ファンデーションとアイブロウセットを買ってくるように伝えたはずだが? そうかそうか。ツバキは、私が化粧品を使うことについて、そんな風に思っていた訳だ」
「ニャ!? ち、違うのにゃ! それは、大きな誤解にゃ、ご主人様」
ゴチン!
ツバキの頭に、今日2度目となるコンデッサの拳が落ちてきた。
「あイタタなのニャ~」
「まったく……何が、誤解だ。どんな勘違いをしたら、錆止めと鉛筆なんてもんを買ってくるんだ」
「ゴメンナサイなのニャ。ご主人様」
「鉛筆はともかく、錆止めなんて門扉の補修くらいにしか使えんぞ」
「やっぱり、錆止めはファンデーションの代わりにはならないニョ?」
「当たり前だ!」
「どっちも、似たようにゃモノだと思うんだけどニャ~」
「ツバキ。今、聞き捨てならないことを言ったな。私の肌と門扉の表面は似たようなモノだと、お前は考えているのか?」
「そ、そんな訳、無いニャ! どっちも日光と風雨に昼夜晒されてボロボロだとか、手当てしても手遅れだとか、もはや重ね塗りで誤魔化すしかニャいとか、そんニャこと、ちっとも思っていないのニャ」
「…………」
「ご、ご主人様。アタシの真剣な気持ち、分かってくれたかニャ?」
「ああ。お前の私への思い、ハッキリ伝わったぞ」
「良かったニャ」
魔女と使い魔は、微笑みあった。
♢
翌日、ツバキは買い物の品を間違えた罰として、草むしりと屋根修理と物置の片付けと家中の掃除とゴミ捨てと門扉への錆止め塗りを命じられた。
「ご主人様~、作業が終わらないニャ~。もう許してニャン~」
ツバキの哀願が、一日中、家の内外で響いていたそうな。
♢
あと、結局コンデッサはアンチエイジング魔法に手を出した。
「私の美貌は、世界の宝。つまり私がスキンケアに励むのは、世のため人のためなのだ」
そう言って高笑いするコンデッサの肩にツバキは跳び乗り、前足でポンポンと叩いた。
「ご主人様を見ていると、アタシ、何故だか涙が止まらなくなるのニャ」
「やかましい!」
コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。
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