黒猫ツバキと魔女コンデッサ(本編完結済み)

東郷しのぶ

文字の大きさ
2 / 64

黒猫ツバキのあやまち

しおりを挟む
 黒猫ツバキは、魔女コンデッサの使い魔だ。
 コンデッサは20代の若さながらボロノナーレ王国を代表する優秀な魔女であり、ツバキはそんなコンデッサの使い魔であることを誇りに思っていた。

 しかし、最近のツバキには心配事がある。
 コンデッサが鏡台の前に座って溜息を吐く光景を、たびたび見掛けるのだ。

 今日もコンデッサは鏡をのぞき込みながら「ア~」とか「ウ~」とかうめいている。
 ツバキは、思い切ってコンデッサに声を掛けてみることした。

「ご主人様、いったいどうしたのニャ? 気になる事でもあるのかニャ? 良ければ、アタシに相談して欲しいのにゃ」
「おお、ツバキか。いや、実は最近、化粧のノリが悪くてな」
「あ、アタシ、それ知ってるニャ。きっとご主人様のお肌は、曲がり角を曲がってしまったのニャ」
「ほほ~、どういう意味だ?」
「友だちのプリンに教えてもらったのニャ。人間の女性には『お肌の悩み』と言われる猫には分からにゃい苦しみがあって、曲がってはいけにゃい曲がり角を曲がった大人の女性は、地獄の業火ごうかに焼かれニャがら永遠の苦悩を味わうことになるのだそうニャ。怖ろしいニャン」

 ツバキの全身を覆っている黒い毛が、逆立つ。

「あ~。プリンは確か、魔女バンコーコの使い魔だったね。今度バンコーコに会ったら、使い魔監督かんとく不行き届きの罰を受けてもらおう」
「でも、大丈夫ニャ、ご主人様。アタシ、そんな絶望のふちたたずむ人間の女性に伝える助言についても、プリンからチャンと聞いてるのニャ。それも、2つ!」
「言ってみろ」
「『あきらめろ。誰もが、いつかは通る道』と『水分蒸発。それは、避けようもにゃい天の摂理せつり』だニャン」
「…………」
「プリンが言ってたニャ! 『固くなったお餅とパサパサのお肌。失った水分は、2度と戻らニャい』って」
「…………」
「どうニャ! ご主人様。アタシ、ご主人様のお役に立てたかニャ?」

 寸時すんときの後、ツバキは大きなたんこぶを頭にこさえていた。コンデッサから、お仕置きのこぶしを喰らったのだ。

「痛いのニャ~」
 涙目で頭をこするツバキに、コンデッサはお使いを言いつける。

「ツバキ。雑貨屋に行って、ファンデーションとアイブロウセットを買ってこい」

 コンデッサとツバキのおうちは、小さな村の外れにあるのだ。

「ファンデーションとアイブロウセット。何かニャ? それ」
「化粧の品さ。肌の乾燥を防いで整えてくれるファンデーションと、眉毛メイクをナチュラルに仕上げてくれるアイブロウセット。どちらも、今の私には必要だ」
「無駄にゃ努力……」
「何か言ったか?」
「そ、そんニャものを買うより、ご主人様は魔女にゃんだから、魔法でチャッチャとお肌を若返らせれば良いんじゃニャいの?」
「ツバキ……確かに、私は魔女だ。魔法で肌を美しく変化させようと思えば、容易に出来る。だがな、私は魔女になったあの日から『魔法は世のため人のために使う。私利私欲のためには使わない』と心に誓っているのさ」
「ご主人様!」

 ツバキは感動した。

「ご主人様は、素晴らしいニャ! アタシ、ご主人様の使い魔になれて、本当に幸せにゃ!」
「ハッハッハ。そうだろう、そうだろう」

 高笑いするコンデッサの懐から、一冊の本がバサリと床に落ちた。
 本の題名は《貴方も今すぐ出来る! お手軽簡単アンチエイジング魔法~これで貴方のお肌は10歳若返る~》だった。

「…………ご主人様」
 ジト眼になるツバキ。

「い、良いから、サッサと行ってこい!」



 お使いの途中、ツバキは道端のタンポポを猫じゃらし代わりについつい遊んでしまった。
 夢中になって楽しんだあと、ツバキは「ハ! アタシ、そう言えば、お使いの途中だったのニャ!」と気付き、慌てて雑貨屋へ向かった。

 村の真ん中にある雑貨屋に着いたツバキを、店番をしていた奥さんが出迎えてくれる。

「あらあら、ツバキちゃん。コンデッサ様のお使いなの? エラいわね~」
「アタシは子供じゃ無いのニャ! 立派な使い魔なのニャ」
「あらあら、ごめんなさい。それで、今日は何を買いにきたの? おばちゃんに教えてね」
「忘れちゃったのニャ」
「あらあら、困ったわね~」
「すぐに思い出すのにゃ。ご主人様は2つの品を買ってくるように、アタシに言ったのニャ。1つは『ボロボロになった表面を覆い隠すモノ』にゃん。そうそう! 『劣化を防ぐ』働きもあるそうなのニャ」
「あらあら、それはきっとコレね~」
「コレにゃ! もう1つは、何か描くモノにゃ。『薄くなったところをハッキリさせるために使用するアイテム』にゃ」
「あらあら、それはコレじゃないかしら~」
「コレにゃ! 思い出せて良かったニャン。ありがとさんにゃのニャ~」
「いいえ~。お買い上げありがとうございます。また、いらしてくださいね~」

 ツバキは意気揚々いきようよう、おうちに帰ってきた。

「ただいまニャのにゃ~」
「おお。戻ってきたか、ツバキ。頼んだ品は買ってきたか?」
「もちろんニャ! アタシは、仕事が出来る使い魔なのニャ」
「それじゃ、見せてくれ」
「これニャ」

 ツバキは自信満々、雑貨屋で購入した品物をテーブルの上に並べた。

「…………これは何だ? ツバキ。私には、錆止さびどめと鉛筆に見えるんだが」
「錆止めと鉛筆にゃ」
「どうして、こんなモノを買ってきたんだ?」
「え! だってご主人様、アタシに『ボロボロの表面に塗って誤魔化ごまかすモノ』と『薄くなった部分に描いて誤魔化すモノ』を買ってこいって言ったニャン?」
「ふ~ん」

 コンデッサのこめかみに、青筋ができる。

「私は、ファンデーションとアイブロウセットを買ってくるように伝えたはずだが? そうかそうか。ツバキは、私が化粧品を使うことについて、そんな風に思っていた訳だ」
「ニャ!? ち、違うのにゃ! それは、大きな誤解にゃ、ご主人様」

 ゴチン!
 ツバキの頭に、今日2度目となるコンデッサの拳が落ちてきた。

「あイタタなのニャ~」
「まったく……何が、誤解だ。どんな勘違いをしたら、錆止めと鉛筆なんてもんを買ってくるんだ」
「ゴメンナサイなのニャ。ご主人様」
「鉛筆はともかく、錆止めなんて門扉もんぴの補修くらいにしか使えんぞ」
「やっぱり、錆止めはファンデーションの代わりにはならないニョ?」
「当たり前だ!」
「どっちも、似たようにゃモノだと思うんだけどニャ~」
「ツバキ。今、聞き捨てならないことを言ったな。私の肌と門扉の表面は似たようなモノだと、お前は考えているのか?」
「そ、そんな訳、無いニャ! どっちも日光と風雨に昼夜さらされてボロボロだとか、手当てしても手遅れだとか、もはや重ね塗りで誤魔化すしかニャいとか、そんニャこと、ちっとも思っていないのニャ」
「…………」
「ご、ご主人様。アタシの真剣な気持ち、分かってくれたかニャ?」
「ああ。お前の私への思い、ハッキリ伝わったぞ」
「良かったニャ」

 魔女と使い魔は、微笑みあった。



 翌日、ツバキは買い物の品を間違えた罰として、草むしりと屋根修理と物置の片付けと家中いえじゅうの掃除とゴミ捨てと門扉への錆止め塗りを命じられた。

「ご主人様~、作業が終わらないニャ~。もう許してニャン~」

 ツバキの哀願が、一日中、家の内外で響いていたそうな。



 あと、結局コンデッサはアンチエイジング魔法に手を出した。

「私の美貌は、世界の宝。つまり私がスキンケアに励むのは、世のため人のためなのだ」

 そう言って高笑いするコンデッサの肩にツバキは跳び乗り、前足でポンポンと叩いた。

「ご主人様を見ていると、アタシ、何故だか涙が止まらなくなるのニャ」
「やかましい!」

 コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ
ファンタジー
亡き祖父母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。 困っている人がいればすぐに駆け付ける。 人が良すぎると周りからはよく怒られていた。 「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」 それは口癖。 最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。 偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。 両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。 優しく手を差し伸べられる存在になりたい。 変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。 目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。 そのはずだった。 不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……? 人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...