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黒猫ツバキと青い髪の高校生魔女(イラストあり)

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「コンデッサお姉様、勝負ですわ!」

 ここは、ボロノナーレ王国の隅っこにある村。
 ある日、ブルーの髪をツインテールにした10代後半の少女が、魔女コンデッサの家を訪れた。ブラウンの瞳を勝ち気そうに輝かせながら。

 彼女の名はチリーナ。貴族のご令嬢にして、魔女高等学校の2年生。
 5年前、当時高校生魔女だったコンデッサが家庭教師をした相手である。その時のチリーナは魔女小学校6年生。以来、『コンデッサお姉様のような優秀な魔女になること』を目標に、魔法修行につとめている。

 有能なコンデッサが田舎に引っ込んでいる現状に不満があるのか、月に一度、こうして魔法勝負を挑みにくるのだ。

「また来たニャ」

 コンデッサの使い魔である黒猫ツバキが、チリーナを出迎える。

「そこを退きなさい。コンデッサお姉様に寄生して極楽ライフを満喫している、無能な駄猫」
にゃんてこと言うのニャ! 事実無根にゃ、誹謗中傷ひぼうちゅうしょうにゃ、名誉毀損めいよきそんにゃ! 断固として抗議するにゃ!」
「それなら、アンタの存在はお姉様の役に立っているとでも?」
「もちろんニャン」

「どんなことで?」
「時々、ご主人様に言われてお使いに行くのにゃ」
「他には?」
「ご主人様のお散歩に付き合ったり、お昼寝に付き合ったり、お菓子を食べるのに付き合ったり、ぐだぐだダラダラするにょに付き合ったり……」

「やっぱり、アンタが居るせいでお姉様のダメ人間化が進んでますのね」
「そんな訳ないニャ! ご主人様はアタシが居ても居にゃくても、遠い過去から遥か未来まで、ズッとズッとズ~ッとダメ人間のままなのニャ」
「お前達、面白い話をしているな」

 縄で縛りあげたツバキを軒先のきさきに吊るし、コンデッサは来訪の少女と向かい合う。

「で、チリーナ。今日は何の用事だ?」
「当然、お姉様に勝負を申し込みに来たのですわ。今まで50戦50敗だけど、わたくしは絶対に勝つことを諦めません」
「分かったよ。ジャンケンポン! グー」
「パー」
「うわぁ、負けた。チリーナの勝ちだ。良かったな。これで、おしまい」
「違う! 私は魔法の勝負で勝ちたいのです! この1ヶ月、火の魔法特訓に励んできた成果を見せてさしあげますわ。燃え上がれ、私の闘志! 《ファイアボール》!」

 チリーナが突き出したてのひらの前方に、火の玉が現れる。火の玉はフラフラと宙を飛び、Uターンした。チリーナの方向へ。

「火の玉が、YOUユーへターンしたニャ。これがホントの、Uユーターンにゃん」
「キャー! 熱いですわ!」
「お~。闘志ばかりで無く、おのが衣服まで燃え上がらせるとは……やるな! チリーナ」
「助けてー! 燃えちゃいますわ」
「しょ~がないな。《ウォーター》」

 火は消えた。その代償として、チリーナはびっしょりの濡れネズミになってしまったが。

「今日はこれくらいで勘弁してさしあげますわ。それではご機嫌よう、お姉様!」

 びちょびちょチリーナは去っていった。

「いつも何しに来るんだ? アイツ」
「さぁ? それより、ソロソロ下ろして欲しいにゃ。ご主人様」



 1ヶ月後。

「また来たか、チリーナ」
「懲りないニャ」
「私、この一月ひとつきの間に修行に修行を重ねて、土魔法の奥義を会得しましたのよ。覚悟してください、コンデッサお姉様。出でよ、《ゴーレム》!」
『ピギ!』

「わ! 地面から、土で出来たゴーレムがえてきたニャ!」
「私のゴーレムは、屈強なボディに俊敏な手足、賢い頭脳を持つ無敵のモンスターなのですわ!」

 得意気な顔になるチリーナ。

「降参するなら今のうちですわよ、お姉様。マイゴーレムは、眼からビームも出ますのよ」
『ピギ――!』

「いや。でもこのゴーレム、あんまり怖くないし」
「む、負け惜しみを。やっておしまいなさい、ゴーレム! GoGoゴーゴーゴーレムですわ!」
『ピギ――! ピギャ!?』

 ゴーレムは、ツバキによって倒された。チリーナのマイゴーレム、身長が人の小指程度しかなかったのである。
 ツバキの前足による一撃で、無敵のゴーレムはペシャンコになった。

「クッキョーとかシュンビンって、どう言う意味なニョ? あと、ビームは出てにゃかったけど……」
「く……。ゴーレムの眼からは赤外線が照射されていたのですわ。長時間び続ければ、身体のしんより温まりましたのに……」
「健康に良いゴーレムだな」



 翌月、チリーナはコンデッサたちを《わくわく巨大迷路ランド》という名の怪しげな観光スポットへ呼び出した。

「今回は、この巨大迷路で勝負ですわ! 先に出口に着いたほうが勝ち! 言っておきますが、《転移魔法》や《飛行魔法》の使用は禁止ですわよ」
「チリーニャさん、迷路を通り抜ける正解のルートを知ってるにゃんてことは……」
わたくし、そんな卑怯なマネはいたしませんわ! それに、この迷路は2時間おきに内部のルートが自動変更されますのよ。脱出できなくなる挑戦者が続出だとか」
「おいおい。遭難者が多数出る迷路なんて、ヤバすぎないか?」

「心配無用ですわ。迷路には、一定の間隔で食事どころやお風呂付きのベッドルームが出現するカラクリ仕掛けが施されているんですの。迷路の中に安住してしまう方も、少なからず居られるそうです」
「それは、別の意味でヤバい……」
「まさに、人生の迷路にゃ」

「さぁ、スタートですわ。《疾走魔法》!」

 掛け声と共に、チリーナは駆け出した。右手を迷路の壁に触れるか触れないかギリギリの位置に固定しつつ、物凄いスピードで通路を突き進む。

 これが、チリーナの思い付いた『迷路突破の必勝法』であった。右側の壁に沿ってひたすら進めば、確実に出口へたどり着ける。

《疾走魔法》の活用により、踏破とうはに掛かる時間を短縮する。魔力と体力を大量に消費してしまうが、コンデッサに勝つための対価と思えば安いものだ。
 仮にコンデッサがこの方法を知っていたとしても、面倒くさがりな彼女はやりたがらないだろう。おそらくコンデッサは《マップ魔法》で迷路の図面を宙に写し出し、正解のルートを探そうとするに違いない。

(でも、お生憎様あいにくさまですわ、お姉様)

 チリーナは、ほくそ笑む。
 この迷路はとても巨大で複雑に出来ており、全容を一望したところで最適解を導き出すにはおそろしく手間が掛かる。

 コンデッサがマゴマゴしているうちに、チリーナは《疾走魔法》で、いち早く出口に到着するのだ!

「ゴール! ですわ!」
 声高らかに出口より飛び出るチリーナ。彼女が目撃したのは、すでに迷路の外でくつろいでいるコンデッサたちの姿だった。

「おお、チリーナ。ご苦労さん」
「お、お姉様……どうやって出口まで……《マップ魔法》を用いても、そう簡単に迷路を抜けることは出来ないはず……」
「ああ。《ルート 検索けんさく魔法》を使用したんだよ。目的地へ最も短い距離で着くルートを提示してくれるんだ」
「《ルート検索魔法》……そんな魔法があったとは……」
「レアな魔法だからな。まだ学生のチリーナが知らないのも、無理はないよ」

 コンデッサが慰めると、走り続けて汗びっしょりになっていたチリーナはガックリと地面へ膝をついた。

「うう……また、お姉様に負けてしまいましたわ」
「チリーニャさんは、ご主人様に勝ったら、その後どうする気にゃの?」

 ツバキの質問を受けて、チリーナはキョトンとした表情になる。

「おい、チリーナ。もしかして、お前、勝った後のこと、何も考えてなかったんじゃなかろうな?」
「そ、そんな訳ありませんわ! 私が勝ったら……そうですわ! 今度はお姉様が私に勝負を挑むのです! 負けたままなんて、お姉様のプライドが許さないでしょう?」
「それはそうだが……」
「けど、それだとご主人様とチリーニャさんの勝負はいつまでも終わらないニャン」

「それこそ、望むところですわ!」と宣言し、チリーナは晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。



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※チリーナのイラストは、Ruming様(素材提供:きまぐれアフター様)よりいただきました。ありがとうございます! 
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