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黒猫ツバキの夏の日々
黒猫ツバキと打ち上げ花火――国王陛下即位20周年記念式典――
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登場キャラ紹介
ミミッカ……ボロノナーレ王国の第8王女。17歳。とても賢い。
国王……ボロノナーレ王国の国王。親しみやすい性格で、国民から人気がある。
ジンキミナ……魔女たちの長老。コンデッサの魔法の師匠。
♢
季節は夏。
ここは、ボロノナーレ王国の端っこにある村。
魔女コンデッサ(20代の美人さん!)と彼女の使い魔である黒猫のツバキは、仲良く暮らしていた。
ある日、彼女たちの家にミミッカが訪ねてきた。
ミミッカは、17歳。ボロノナーレ王国の第8王女である。
「これはこれは、王女殿下。わざわざこのような田舎までいらっしゃるとは、どうなされたのですか?」
「お願いがあって、まいりました。コンデッサ様は、古代世界の空の芸術〝打ち上げ花火〟を、ボロノナーレ王国に甦らせた《花火復活プロジェクトチーム》の一員であると伺っております」
「ハイ」
2人の会話を聞いていたツバキが、誇らしげに言う。
「ご主人様は、何でも出来るのニャ」
「ツバキ。いくら本当のことでも、そんなに褒めるな」
「ご主人様は、何にでも関わっているのニャン」
「まぁな」
「ご主人様は、あらゆる事に頭をツッコむのにゃ」
「その表現は、どうかと思う……」
♢
コンデッサたちが生きている世界は、実は現代より数億年経ったあとの地球なのである。そのため古代の地層より、しばしば《用途不明となってしまった、過去の地球の遺物――オーパーツ》が見付かるのだ。
数ヶ月前にコンデッサは、オーパーツの1つを入手した。それは、古代世界の書物。――《解読魔法》を使用してみた結果、タイトルは『みんなで楽しむ、打ち上げ花火』である事が分かった。
〝打ち上げ花火〟とは如何なるモノか、その実態は、コンデッサたちの時代に伝わっていない。そんなわけで、コンデッサによる〝謎の本〟解読を契機に、《花火復活プロジェクトチーム》が結成されたのである。
メンバーは、コンデッサを始めとする魔女数人、古代世界を研究している考古学者数人、火薬の専門家数人、色彩の芸術家数人、そして黒猫のツバキ。
なぜツバキがメンバーに入っているのかは、当時から疑問とされていた。現在でも、その理由は全くもって不明なままである。
で。
文献にもとづいて試作してみた〝花火玉〟を、コンデッサたちは空へ打ち上げてみた。
ドーン!
バン!
ドン! ドン! ドン!
ドドドドド
バババババ
バーン!
パラパラパラ
「う~ん」
「音は、凄いんだけどね」
「思っていたよりも、イマイチだな」
「もうちょっと、こう……」
「ニャ~」
不評であった。
しかしコンデッサは諦めずに『みんなで楽しむ、打ち上げ花火』を再解読してみた。すると、なんと〝花火は、主に夜に打ち上げていた〟という新事実が判明したのである。
前回の実験は、昼に行っていたのだ。
で。
「けれど、なぁ……」
「実験時刻を昼から夜にしたところで、そんなに変わるものなのか?」
「過度な期待は、やめておきましょう」
「やるだけ、やってみるか」
「ニャン」
夜。
ドーン!
「うおおおおお!」
バン!
「凄い!」
ドン! ドン! ドン!
「ビューティフル! ワンダフル! ファンタスティック!」
ドドドドド
「夜空の奇跡! 光彩の芸術! 典雅な大輪!」
バババババ
「うわ~! うわ~! うわ~!」
バーン!
「感激、感嘆、胸いっぱい」
パラパラパラ
「にゃ~! にゃ~! にゃ~!」
大好評であった。
♢
「ご主人様、大手柄だったニャン」
「うん」
「それで、《復活の花火魔女》との名声を得られているコンデッサ様にワタクシが頼みたいことと言うのは――」
「チョットお待ちください、王女殿下。私を《復活の花火魔女》と呼ぶのは、やめていただきたいのです」
「どうしてですか?」
不思議そうな顔になる、ミミッカ。
ツバキが説明する。
「《復活の花火魔女》との呼び方が長いにょで、《復活のハナビウィッチ》を略して《復活のビッチ》って言う人が居るのニャン」
「復活のビッチ……」
ミミッカは呟き、それから黙り込んでしまう。
コンデッサは、無表情だ。
「…………」
「…………」
「……ニャ~」
「王女殿下。私への用件とは?」
「あ。そ、そうですね。コンデッサ様。今月末に、父の即位20周年記念式典が開催されることはご存じでしょうか?」
「国王陛下の即位20周年記念式典……もちろん、承知しております」
ボロノナーレ王国の現在の国王は気さくな人柄で、国民からとても高い人気を得ている。コンデッサとも、知り合いだ。
「ワタクシは娘として、式典で父へ贈り物をしたいのです」
「なるほど。それで〝打ち上げ花火〟なのですね」
「ええ。協力していただけないでしょうか?」
「分かりました」
「ありがとうございます!」
「アタシも、手伝うニャン!」
「ツバキさん……そのお気持ちが、嬉しいです」
「猫の手を借りるほど、忙しくはなりませんよ。王女殿下」
「ご主人様は、いけずニャン」
♢
《国王陛下の即位20周年記念式典で花火を打ち上げよう臨時委員会》が、発足した。メンバーは、かつての《花火復活プロジェクトチーム》と一緒である。
「本来の花火だけでも充分に美しいんだが、せっかくの式典だし、なにか新しい工夫が欲しいな」
思案中のコンデッサに、ツバキが提案する。
「それニャら、花火を使って夜空に〝文字〟を描いてみるのはどうかニャ?」
「文字か。難しそうではあるが……」
コンデッサがメンバーに相談してみると、『花火玉に魔法を掛けることで、可能になる』との返事を貰った。
「ツバキさん。素晴らしいアイデアです!」
ミミッカは喜び、自ら文字を選定した。
「『祝』『幸』『聡』『寿』『恋』『栄』にいたします」
コンデッサが王女に尋ねる。
「『祝』『幸』『寿』『栄』は分かりますが、『聡』と『恋』は――」
「『恋』は式典に来られる恋人たちへ……古代世界では、花火をカップルや家族で見るケースが多かったと聞きましたから。国民へのアピールです」
「さすが、王女様ニャン。『聡』は、ナンなニョ?」
「『聡』は〝聡明な国王陛下〟――早い話、父へのおべんちゃらです」
「ミもフタも無いニャン」
コンデッサは、更に王女に告げる。
「委員会に確認してみたところ、打ち上げ花火の文字が平仮名だったら、文章にすることも出来るそうですよ」
「では、『おめでとうございます』と『およろこびもうしあげます』の2つをお願いします」
「了解しました」
※注 ボロノナーレ王国の公用文字は『漢字・平仮名・カタカナ・ローマ字』の4種類です(でも、古代の文字とは違います)。本作はコメディーなので、ツッコミは無しで……(作者からの嘆願)。
♢
国王陛下即位20周年記念式典の日。
祝賀パレード。
豪華な昼食会には貴族のみならず、商人などの庶民も招待された。
演劇や合唱。さまざまな催し物。
国王への奉祝メッセージが読み上げられるとともに、各界功労者への表彰も行われる。
王城の外では、便乗の出店や、値引き販売。
仮装して街中に、くり出す人も居たりして。
――王都はもちろん、国中がお祭り騒ぎになった。
夜。
いよいよ、〝打ち上げ花火〟の時間だ。
花火見物の特別専用会場には、貴族・庶民の階級を問わず、多くの国民が集まり、凄い熱気となっている。
国王やミミッカの姿は、主賓のための席にあった。
「この目で花火を見られるとは……ミミッカよ、余は嬉しいぞ」
「いつも政務に励んでおいでのお父様へ、ささやかですが、ワタクシからのプレゼントです。《花火を打ち上げよう臨時委員会》の皆様には、本当に助けてもらいました」
「メンバーの中には、コンデッサ殿も居られるんだったな。いずれ、恩に報いねばならんな」
コンデッサとツバキは、観客席に居る。
「ご主人様は、花火の打ち上げを手伝わなくても良いにょ?」
「メンバーの皆より、『今日は自分たちで万事を行うから、花火の観覧をゆっくり楽しんでくれ』と言われているんだ」
「大丈夫かニャ?」
「不安なことを今更、口にするな! ……お、始まるぞ」
ド~ン!
「「「わ~!!!」」」
バ~ン!
「素敵~!」「きれい~!」
ボ~ン!
「何故か『たまや~』『かぎや~』と叫びたくなる」
王都の夜空に巨大な花火が次々と打ち上がり、そのたびに観客たちが大喜びする。
コンデッサとツバキも、華麗なる天空のショーを存分に楽しんだ。
「さて、ツバキ。そろそろ、お待ちかねの『〝特製・文字〟打ち上げ花火』だぞ」
「ワクワクするにゃんネ、ご主人様」
「まず最初は『おめでとうございます』だ」
ドーン!
【おめ】
「あれ? ご主人様。『おめ』だけ、打ち上がったニャン」
「…………」
バーン!
【でとうございます】
観客がざわめく。
「『でとうございます』って、なんだ?」
「『出とうこざいます』……『出国したい』ってことか?」
「どうして、こんな楽しい日に、国を出なくちゃならないんだ!?」
ドーン!
【およろ】
「ご主人様。今度は『およろ』だけ、打ち上がったニャン」
「…………」
バーン!
【こびもうしあげます】
観客がどよめく。
「『こびもうしあげます』って、なんだ?」
「『媚びもうしあげます』……『ヨイショしまくります』ってことか?」
「陛下の治世を称える気持ちはあるが、媚びるつもりは無いぞ!?」
ツバキとコンデッサは――
「ご主人様!?」
「だ、大丈夫だ、ツバキ。次は〝漢字・一文字〟の打ち上げだ。タイミングが、ズレることは無い」
「『祝』『幸』『聡』『寿』『恋』『栄』の順にゃよネ?」
「ああ。おめでたい字ばかりだ」
ドーン!
【呪】
「ご主人様! 『祝う』が『呪う』になってるニャン!」
「…………」
バーン!
【辛】
「ご主人様! 『幸せ』が『辛い』になってるニャン!」
「…………」
ドーン!
【恥】
「ご主人様! 『聡い』が『恥ずかしい』になってるニャン! これじゃ、まるで王様が〝国の恥〟みたいニャン!」
「…………」
バーン!
【痔】
「ご主人様! 『寿』――『寿』が『痔』になってるニャン!」
「いくら何でも、間違いすぎだろ!?」
ドーン!
【変】
バーン!
【労】
「ご主人様。『恋』が『変』に、『栄える』が『労る』にニャって――」
「くそ! ツバキは、ここで待っていろ!」
コンデッサは箒に乗って、夜空に飛び立った。
主賓席に居るミミッカは、さすがに無言になっていた。
国王が、おもむろに口を開く。
「ミミッカよ……」
「ハ、ハイ」
「余は、素晴らしい娘を持った」
「ええ!?」
「余が隠していた尻の病について、ミミッカは知っていたのだな」
「???」
「夜空に浮かび上がった、光の文字……あれは『呪ってしまうほど辛く、恥ずかしい痔。その大変さを、お労り申し上げます』という意味で――」
「お父様が、痔……」
「『早く治療をしてください』とのミミッカの願いは、シッカリと余に届いたぞ」
「良かったです」
「親孝行な娘だ、其方は」
「結果オーライ」
「ん? 何か、申したか? ミミッカ」
「いいえ。何も」
その時、夜空に鮮やかな光の文章が描き出された。
【国王陛下、即位20周年おめでとうございます。国民一同、心よりお喜び申し上げます】
箒に乗って空を飛び回る、コンデッサ。彼女が光の魔法を使って、見事な演出をしてみせたのである。
夜空を彩る輝きの芸術に、観客の全てが歓声を上げた。いつまでも鳴り止まない、拍手喝采。
その後も花火の打ち上げは続き、国王陛下即位20周年記念式典は大盛況のうちに幕を下ろした。
♢
《回復魔法》による国王の尻の治療は、若き乙女(!)のコンデッサに代わり、コンデッサの魔法の師匠である老魔女ジンキミナが引き受けた。
「コンデッサ。治療は終わったよ」
「お師様。ご苦労さまでした」
「やれやれ。この歳で、弟子の尻ぬぐいをするハメになるとはね」
「お師様が拭ったのは、私の尻では無く、陛下の尻だと思うのですが……」
「黙らっしゃい!」
♢
『〝特製・文字〟打ち上げ花火』の失敗について、臨時委員会の実行メンバーたちはミミッカ王女へ平謝りに謝った。ミミッカは、笑って許した。
尻を回復させた国王が、ミミッカに質問する。
「ミミッカよ。記念式典での其方の働きに対し、余は返礼がしたい。何を望む?」
「お父様。それは――」
ミミッカ王女の申し出により、ボロノナーレ王国の王都では今後も年に一回、夏の季節に花火大会が開かれることになった。費用は王室持ちで、国民に楽しんでもらうのだ。
ミミッカ王女の評判は高まり、漢字の当て字で《美美っ花》――『美しい、花火の王女様』と人々から呼ばれるようになる。
♢
王国に、花火が普及して――
「ツバキ、おもちゃの花火を買ってきたぞ。庭で遊ぼう」
「わ~い。嬉しいニャン」
「どの花火にする?」
「ねずみ花火が良いニャン! 追いかけるのニャ」
「ねずみを……猫っぽいな」
「アタシは猫にゃ!」
夏の夜も、コンデッサとツバキは仲良しである。
・
・
・
♢おまけ
ツバキ「王女様は『美美っ花』って呼ばれてるんニャって」
コンデッサ「そうか」
ツバキ「ご主人様の呼び名『復活のビッチ』とは、エラい違いニャン」
コンデッサ「良いのか? ツバキ。私が『復活のビッチ』なら、お前は必然的に『ビッチの使い魔』ということになるぞ」
ツバキ「ご主人様を『復活のビッチ』と呼ぶニャンて、アタシ、絶対に許さないニャ!!!」
コンデッサ「…………」
ミミッカ……ボロノナーレ王国の第8王女。17歳。とても賢い。
国王……ボロノナーレ王国の国王。親しみやすい性格で、国民から人気がある。
ジンキミナ……魔女たちの長老。コンデッサの魔法の師匠。
♢
季節は夏。
ここは、ボロノナーレ王国の端っこにある村。
魔女コンデッサ(20代の美人さん!)と彼女の使い魔である黒猫のツバキは、仲良く暮らしていた。
ある日、彼女たちの家にミミッカが訪ねてきた。
ミミッカは、17歳。ボロノナーレ王国の第8王女である。
「これはこれは、王女殿下。わざわざこのような田舎までいらっしゃるとは、どうなされたのですか?」
「お願いがあって、まいりました。コンデッサ様は、古代世界の空の芸術〝打ち上げ花火〟を、ボロノナーレ王国に甦らせた《花火復活プロジェクトチーム》の一員であると伺っております」
「ハイ」
2人の会話を聞いていたツバキが、誇らしげに言う。
「ご主人様は、何でも出来るのニャ」
「ツバキ。いくら本当のことでも、そんなに褒めるな」
「ご主人様は、何にでも関わっているのニャン」
「まぁな」
「ご主人様は、あらゆる事に頭をツッコむのにゃ」
「その表現は、どうかと思う……」
♢
コンデッサたちが生きている世界は、実は現代より数億年経ったあとの地球なのである。そのため古代の地層より、しばしば《用途不明となってしまった、過去の地球の遺物――オーパーツ》が見付かるのだ。
数ヶ月前にコンデッサは、オーパーツの1つを入手した。それは、古代世界の書物。――《解読魔法》を使用してみた結果、タイトルは『みんなで楽しむ、打ち上げ花火』である事が分かった。
〝打ち上げ花火〟とは如何なるモノか、その実態は、コンデッサたちの時代に伝わっていない。そんなわけで、コンデッサによる〝謎の本〟解読を契機に、《花火復活プロジェクトチーム》が結成されたのである。
メンバーは、コンデッサを始めとする魔女数人、古代世界を研究している考古学者数人、火薬の専門家数人、色彩の芸術家数人、そして黒猫のツバキ。
なぜツバキがメンバーに入っているのかは、当時から疑問とされていた。現在でも、その理由は全くもって不明なままである。
で。
文献にもとづいて試作してみた〝花火玉〟を、コンデッサたちは空へ打ち上げてみた。
ドーン!
バン!
ドン! ドン! ドン!
ドドドドド
バババババ
バーン!
パラパラパラ
「う~ん」
「音は、凄いんだけどね」
「思っていたよりも、イマイチだな」
「もうちょっと、こう……」
「ニャ~」
不評であった。
しかしコンデッサは諦めずに『みんなで楽しむ、打ち上げ花火』を再解読してみた。すると、なんと〝花火は、主に夜に打ち上げていた〟という新事実が判明したのである。
前回の実験は、昼に行っていたのだ。
で。
「けれど、なぁ……」
「実験時刻を昼から夜にしたところで、そんなに変わるものなのか?」
「過度な期待は、やめておきましょう」
「やるだけ、やってみるか」
「ニャン」
夜。
ドーン!
「うおおおおお!」
バン!
「凄い!」
ドン! ドン! ドン!
「ビューティフル! ワンダフル! ファンタスティック!」
ドドドドド
「夜空の奇跡! 光彩の芸術! 典雅な大輪!」
バババババ
「うわ~! うわ~! うわ~!」
バーン!
「感激、感嘆、胸いっぱい」
パラパラパラ
「にゃ~! にゃ~! にゃ~!」
大好評であった。
♢
「ご主人様、大手柄だったニャン」
「うん」
「それで、《復活の花火魔女》との名声を得られているコンデッサ様にワタクシが頼みたいことと言うのは――」
「チョットお待ちください、王女殿下。私を《復活の花火魔女》と呼ぶのは、やめていただきたいのです」
「どうしてですか?」
不思議そうな顔になる、ミミッカ。
ツバキが説明する。
「《復活の花火魔女》との呼び方が長いにょで、《復活のハナビウィッチ》を略して《復活のビッチ》って言う人が居るのニャン」
「復活のビッチ……」
ミミッカは呟き、それから黙り込んでしまう。
コンデッサは、無表情だ。
「…………」
「…………」
「……ニャ~」
「王女殿下。私への用件とは?」
「あ。そ、そうですね。コンデッサ様。今月末に、父の即位20周年記念式典が開催されることはご存じでしょうか?」
「国王陛下の即位20周年記念式典……もちろん、承知しております」
ボロノナーレ王国の現在の国王は気さくな人柄で、国民からとても高い人気を得ている。コンデッサとも、知り合いだ。
「ワタクシは娘として、式典で父へ贈り物をしたいのです」
「なるほど。それで〝打ち上げ花火〟なのですね」
「ええ。協力していただけないでしょうか?」
「分かりました」
「ありがとうございます!」
「アタシも、手伝うニャン!」
「ツバキさん……そのお気持ちが、嬉しいです」
「猫の手を借りるほど、忙しくはなりませんよ。王女殿下」
「ご主人様は、いけずニャン」
♢
《国王陛下の即位20周年記念式典で花火を打ち上げよう臨時委員会》が、発足した。メンバーは、かつての《花火復活プロジェクトチーム》と一緒である。
「本来の花火だけでも充分に美しいんだが、せっかくの式典だし、なにか新しい工夫が欲しいな」
思案中のコンデッサに、ツバキが提案する。
「それニャら、花火を使って夜空に〝文字〟を描いてみるのはどうかニャ?」
「文字か。難しそうではあるが……」
コンデッサがメンバーに相談してみると、『花火玉に魔法を掛けることで、可能になる』との返事を貰った。
「ツバキさん。素晴らしいアイデアです!」
ミミッカは喜び、自ら文字を選定した。
「『祝』『幸』『聡』『寿』『恋』『栄』にいたします」
コンデッサが王女に尋ねる。
「『祝』『幸』『寿』『栄』は分かりますが、『聡』と『恋』は――」
「『恋』は式典に来られる恋人たちへ……古代世界では、花火をカップルや家族で見るケースが多かったと聞きましたから。国民へのアピールです」
「さすが、王女様ニャン。『聡』は、ナンなニョ?」
「『聡』は〝聡明な国王陛下〟――早い話、父へのおべんちゃらです」
「ミもフタも無いニャン」
コンデッサは、更に王女に告げる。
「委員会に確認してみたところ、打ち上げ花火の文字が平仮名だったら、文章にすることも出来るそうですよ」
「では、『おめでとうございます』と『およろこびもうしあげます』の2つをお願いします」
「了解しました」
※注 ボロノナーレ王国の公用文字は『漢字・平仮名・カタカナ・ローマ字』の4種類です(でも、古代の文字とは違います)。本作はコメディーなので、ツッコミは無しで……(作者からの嘆願)。
♢
国王陛下即位20周年記念式典の日。
祝賀パレード。
豪華な昼食会には貴族のみならず、商人などの庶民も招待された。
演劇や合唱。さまざまな催し物。
国王への奉祝メッセージが読み上げられるとともに、各界功労者への表彰も行われる。
王城の外では、便乗の出店や、値引き販売。
仮装して街中に、くり出す人も居たりして。
――王都はもちろん、国中がお祭り騒ぎになった。
夜。
いよいよ、〝打ち上げ花火〟の時間だ。
花火見物の特別専用会場には、貴族・庶民の階級を問わず、多くの国民が集まり、凄い熱気となっている。
国王やミミッカの姿は、主賓のための席にあった。
「この目で花火を見られるとは……ミミッカよ、余は嬉しいぞ」
「いつも政務に励んでおいでのお父様へ、ささやかですが、ワタクシからのプレゼントです。《花火を打ち上げよう臨時委員会》の皆様には、本当に助けてもらいました」
「メンバーの中には、コンデッサ殿も居られるんだったな。いずれ、恩に報いねばならんな」
コンデッサとツバキは、観客席に居る。
「ご主人様は、花火の打ち上げを手伝わなくても良いにょ?」
「メンバーの皆より、『今日は自分たちで万事を行うから、花火の観覧をゆっくり楽しんでくれ』と言われているんだ」
「大丈夫かニャ?」
「不安なことを今更、口にするな! ……お、始まるぞ」
ド~ン!
「「「わ~!!!」」」
バ~ン!
「素敵~!」「きれい~!」
ボ~ン!
「何故か『たまや~』『かぎや~』と叫びたくなる」
王都の夜空に巨大な花火が次々と打ち上がり、そのたびに観客たちが大喜びする。
コンデッサとツバキも、華麗なる天空のショーを存分に楽しんだ。
「さて、ツバキ。そろそろ、お待ちかねの『〝特製・文字〟打ち上げ花火』だぞ」
「ワクワクするにゃんネ、ご主人様」
「まず最初は『おめでとうございます』だ」
ドーン!
【おめ】
「あれ? ご主人様。『おめ』だけ、打ち上がったニャン」
「…………」
バーン!
【でとうございます】
観客がざわめく。
「『でとうございます』って、なんだ?」
「『出とうこざいます』……『出国したい』ってことか?」
「どうして、こんな楽しい日に、国を出なくちゃならないんだ!?」
ドーン!
【およろ】
「ご主人様。今度は『およろ』だけ、打ち上がったニャン」
「…………」
バーン!
【こびもうしあげます】
観客がどよめく。
「『こびもうしあげます』って、なんだ?」
「『媚びもうしあげます』……『ヨイショしまくります』ってことか?」
「陛下の治世を称える気持ちはあるが、媚びるつもりは無いぞ!?」
ツバキとコンデッサは――
「ご主人様!?」
「だ、大丈夫だ、ツバキ。次は〝漢字・一文字〟の打ち上げだ。タイミングが、ズレることは無い」
「『祝』『幸』『聡』『寿』『恋』『栄』の順にゃよネ?」
「ああ。おめでたい字ばかりだ」
ドーン!
【呪】
「ご主人様! 『祝う』が『呪う』になってるニャン!」
「…………」
バーン!
【辛】
「ご主人様! 『幸せ』が『辛い』になってるニャン!」
「…………」
ドーン!
【恥】
「ご主人様! 『聡い』が『恥ずかしい』になってるニャン! これじゃ、まるで王様が〝国の恥〟みたいニャン!」
「…………」
バーン!
【痔】
「ご主人様! 『寿』――『寿』が『痔』になってるニャン!」
「いくら何でも、間違いすぎだろ!?」
ドーン!
【変】
バーン!
【労】
「ご主人様。『恋』が『変』に、『栄える』が『労る』にニャって――」
「くそ! ツバキは、ここで待っていろ!」
コンデッサは箒に乗って、夜空に飛び立った。
主賓席に居るミミッカは、さすがに無言になっていた。
国王が、おもむろに口を開く。
「ミミッカよ……」
「ハ、ハイ」
「余は、素晴らしい娘を持った」
「ええ!?」
「余が隠していた尻の病について、ミミッカは知っていたのだな」
「???」
「夜空に浮かび上がった、光の文字……あれは『呪ってしまうほど辛く、恥ずかしい痔。その大変さを、お労り申し上げます』という意味で――」
「お父様が、痔……」
「『早く治療をしてください』とのミミッカの願いは、シッカリと余に届いたぞ」
「良かったです」
「親孝行な娘だ、其方は」
「結果オーライ」
「ん? 何か、申したか? ミミッカ」
「いいえ。何も」
その時、夜空に鮮やかな光の文章が描き出された。
【国王陛下、即位20周年おめでとうございます。国民一同、心よりお喜び申し上げます】
箒に乗って空を飛び回る、コンデッサ。彼女が光の魔法を使って、見事な演出をしてみせたのである。
夜空を彩る輝きの芸術に、観客の全てが歓声を上げた。いつまでも鳴り止まない、拍手喝采。
その後も花火の打ち上げは続き、国王陛下即位20周年記念式典は大盛況のうちに幕を下ろした。
♢
《回復魔法》による国王の尻の治療は、若き乙女(!)のコンデッサに代わり、コンデッサの魔法の師匠である老魔女ジンキミナが引き受けた。
「コンデッサ。治療は終わったよ」
「お師様。ご苦労さまでした」
「やれやれ。この歳で、弟子の尻ぬぐいをするハメになるとはね」
「お師様が拭ったのは、私の尻では無く、陛下の尻だと思うのですが……」
「黙らっしゃい!」
♢
『〝特製・文字〟打ち上げ花火』の失敗について、臨時委員会の実行メンバーたちはミミッカ王女へ平謝りに謝った。ミミッカは、笑って許した。
尻を回復させた国王が、ミミッカに質問する。
「ミミッカよ。記念式典での其方の働きに対し、余は返礼がしたい。何を望む?」
「お父様。それは――」
ミミッカ王女の申し出により、ボロノナーレ王国の王都では今後も年に一回、夏の季節に花火大会が開かれることになった。費用は王室持ちで、国民に楽しんでもらうのだ。
ミミッカ王女の評判は高まり、漢字の当て字で《美美っ花》――『美しい、花火の王女様』と人々から呼ばれるようになる。
♢
王国に、花火が普及して――
「ツバキ、おもちゃの花火を買ってきたぞ。庭で遊ぼう」
「わ~い。嬉しいニャン」
「どの花火にする?」
「ねずみ花火が良いニャン! 追いかけるのニャ」
「ねずみを……猫っぽいな」
「アタシは猫にゃ!」
夏の夜も、コンデッサとツバキは仲良しである。
・
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♢おまけ
ツバキ「王女様は『美美っ花』って呼ばれてるんニャって」
コンデッサ「そうか」
ツバキ「ご主人様の呼び名『復活のビッチ』とは、エラい違いニャン」
コンデッサ「良いのか? ツバキ。私が『復活のビッチ』なら、お前は必然的に『ビッチの使い魔』ということになるぞ」
ツバキ「ご主人様を『復活のビッチ』と呼ぶニャンて、アタシ、絶対に許さないニャ!!!」
コンデッサ「…………」
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空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
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