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第一章 末っ子姫は離れたい
第4話 冷宮のほうが……
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フロー姉様に言われて、私はシトリン宮へと戻ってきた。
フェレスはいなくなっていて、ハリナに理由を聞いたら、笑みを向けられるだけで終わってしまったので、それ以上は聞かなかった。
とりあえず、違和感なく外に出れるようにしようと始めたこの作戦だけど、フロー姉様に見つかるならあまり意味がないかもしれない。
もしかしたら、見つけたのは偶然なのかもしれないけど、ここの人たちなら、必然だった可能性もある。
それなら、どうやったら、自然と一人で行動できるのだろう。兄姉に言うという選択肢は、元からない。適当に言い訳されるに決まっているから。
う~ん……どうしよう。
◇◇◇
そんな風に悩んでいた翌日。その悩みを膨れさせる存在がやってきた。
「ティアー!久しぶり~!」
そう言って抱きついてくるのは、マリー姉様。フルネームは……アマリリス姉様、だっけ。
アマリリス姉様は、皇太子に一番近いと言われるフェリクス兄様と同じ、第一皇妃様の娘らしい。言われてみれば、顔立ちは似ているような気もする。
でも、性格は正反対だ。特に、私に対する態度が。
フェリクス兄様は、あまりベタベタしてきたりはしないけど、マリー姉様は、ローランド兄様と同様、隙あらば私に抱きついてきたり、私と手を繋いだりしようとしてくる。
私は、石ころのように扱って欲しい訳ではないけど、あまり馴れ馴れしくされるのも苦手だ。
フェリクス兄様や第一皇女のトリリウム姉様のような、ある程度の距離感を置いて接してくれるほうがありがたい。
「マリー姉様、何の用?」
「ティアに会いに来たのよ。前まではローラが独り占めしてたせいで、全然会えなかったじゃない」
ローラというのは、ローランド兄様のことだ。まるで、女の子みたいな呼び方だからか、ローランド兄様は嫌がっているけど、マリー姉様は、それを気にも止めずに呼び続けている。
そんなだから、仲は悪いのかなと思ったりしてたけど、一緒に私の服を買ってくれたり、私にはよくわからない話をしていたりして、意外と仲はいいのかもしれない。
「……ティアは、一人がいい」
「ええ!!でも……私は毎日でも一緒にいたいのに……」
姉様は、う~んと考える。
姉様たちは、私の言葉を無視したりはしない。きちんと聞いた上で、聞かなかったことにされることはあるけど。
マリー姉様が私に会いたがる理由は、よくわからない。私自身は、特に愛されるような子どもではないし、可愛げなんて欠片もない自覚がある。
私にとっては魅力的ではないところが、マリー姉様にとっては魅力的に映っているのかもしれないけど、それとこれとは話が別だ。
「冷宮のほうがましかな……」
ルメリナや使用人たちが私をサンドバッグにはしてくるけど、それ以外は、私が何をしていても、邪魔することはない。
たとえ、ボーッと座っていようが、一日中寝ていようが、それを咎めたりする人はいなかった。
普通なら、暴力を振るう時点で、そこにいたくないと思うものかもしれないけど、私は、叩かれることに慣れている。
痛いとか止めてよりも先に、今日も機嫌が悪いのか、なんて気楽に考えてしまうくらいだ。
今世だけでなく、前世でも、嬉しさや楽しさよりも、怒りや憎しみを向けられたことのほうが多かったのも、理由の一つかもしれない。
私がふわぁとあくびをして、マリー姉様のほうを見ると、目を見開いていた。どうかしたのだろうか?
「そ、そんなに私たちがここに来るのが嫌だったの……?」
マリー姉様は、瞳に涙を浮かべながらそう言う。
そんなにがどれくらいかはわからないけど、嫌だったのは事実なので、こくりと頷いてみる。
すると、マリー姉様は誰が見てもわかるくらいに落ち込んだ。
側に立っていたハリナとセリアは、少し慌ててしまっている。
私はというと、そんなみんなの様子に、首をかしげていた。
「それじゃあ、他の姉様たちにも相談してみるわ……」
そのままのテンションで、マリー姉様は私の部屋から出ていった。
「姉様、どうしたのかなぁ……?」
そう呟いた私に、ハリナとセリアが信じられないといったような顔をする。
「えっと……なんででしょうね?」
セリアが顔をひきつらせながらそんなことを言った。
フェレスはいなくなっていて、ハリナに理由を聞いたら、笑みを向けられるだけで終わってしまったので、それ以上は聞かなかった。
とりあえず、違和感なく外に出れるようにしようと始めたこの作戦だけど、フロー姉様に見つかるならあまり意味がないかもしれない。
もしかしたら、見つけたのは偶然なのかもしれないけど、ここの人たちなら、必然だった可能性もある。
それなら、どうやったら、自然と一人で行動できるのだろう。兄姉に言うという選択肢は、元からない。適当に言い訳されるに決まっているから。
う~ん……どうしよう。
◇◇◇
そんな風に悩んでいた翌日。その悩みを膨れさせる存在がやってきた。
「ティアー!久しぶり~!」
そう言って抱きついてくるのは、マリー姉様。フルネームは……アマリリス姉様、だっけ。
アマリリス姉様は、皇太子に一番近いと言われるフェリクス兄様と同じ、第一皇妃様の娘らしい。言われてみれば、顔立ちは似ているような気もする。
でも、性格は正反対だ。特に、私に対する態度が。
フェリクス兄様は、あまりベタベタしてきたりはしないけど、マリー姉様は、ローランド兄様と同様、隙あらば私に抱きついてきたり、私と手を繋いだりしようとしてくる。
私は、石ころのように扱って欲しい訳ではないけど、あまり馴れ馴れしくされるのも苦手だ。
フェリクス兄様や第一皇女のトリリウム姉様のような、ある程度の距離感を置いて接してくれるほうがありがたい。
「マリー姉様、何の用?」
「ティアに会いに来たのよ。前まではローラが独り占めしてたせいで、全然会えなかったじゃない」
ローラというのは、ローランド兄様のことだ。まるで、女の子みたいな呼び方だからか、ローランド兄様は嫌がっているけど、マリー姉様は、それを気にも止めずに呼び続けている。
そんなだから、仲は悪いのかなと思ったりしてたけど、一緒に私の服を買ってくれたり、私にはよくわからない話をしていたりして、意外と仲はいいのかもしれない。
「……ティアは、一人がいい」
「ええ!!でも……私は毎日でも一緒にいたいのに……」
姉様は、う~んと考える。
姉様たちは、私の言葉を無視したりはしない。きちんと聞いた上で、聞かなかったことにされることはあるけど。
マリー姉様が私に会いたがる理由は、よくわからない。私自身は、特に愛されるような子どもではないし、可愛げなんて欠片もない自覚がある。
私にとっては魅力的ではないところが、マリー姉様にとっては魅力的に映っているのかもしれないけど、それとこれとは話が別だ。
「冷宮のほうがましかな……」
ルメリナや使用人たちが私をサンドバッグにはしてくるけど、それ以外は、私が何をしていても、邪魔することはない。
たとえ、ボーッと座っていようが、一日中寝ていようが、それを咎めたりする人はいなかった。
普通なら、暴力を振るう時点で、そこにいたくないと思うものかもしれないけど、私は、叩かれることに慣れている。
痛いとか止めてよりも先に、今日も機嫌が悪いのか、なんて気楽に考えてしまうくらいだ。
今世だけでなく、前世でも、嬉しさや楽しさよりも、怒りや憎しみを向けられたことのほうが多かったのも、理由の一つかもしれない。
私がふわぁとあくびをして、マリー姉様のほうを見ると、目を見開いていた。どうかしたのだろうか?
「そ、そんなに私たちがここに来るのが嫌だったの……?」
マリー姉様は、瞳に涙を浮かべながらそう言う。
そんなにがどれくらいかはわからないけど、嫌だったのは事実なので、こくりと頷いてみる。
すると、マリー姉様は誰が見てもわかるくらいに落ち込んだ。
側に立っていたハリナとセリアは、少し慌ててしまっている。
私はというと、そんなみんなの様子に、首をかしげていた。
「それじゃあ、他の姉様たちにも相談してみるわ……」
そのままのテンションで、マリー姉様は私の部屋から出ていった。
「姉様、どうしたのかなぁ……?」
そう呟いた私に、ハリナとセリアが信じられないといったような顔をする。
「えっと……なんででしょうね?」
セリアが顔をひきつらせながらそんなことを言った。
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