これが『契約』だとおっしゃったのはあなたです!~貧乏令嬢は、夫の愛は望まない~

りーさん

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4 新たな生活の始まり

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 さて、公爵家の一員となったのはいいけど、どうしようか。今は、もうすぐ正午になるという時間帯。ジルとメイが来るのも、午後になるだろう。
 まずは、お昼を食べるところからかな~。

 ーーコンコン

 私がこれからのことについて考えていると、ドアをノックする音が聞こえる。

「どうぞ」

 私がそう言うと、ドアを開けて入ってきたのは、私と年が近そうな好青年。

「失礼します、奥様。わたくしは侍従長のシアンと申します。公爵家の使用人の管理をしております」

 この人が公爵様が言っていたシアンさんか。まさかの侍従長とは。まぁ、馬車の手配をさせられるくらいなのだから、それなりの立場なのだろうなとは思っていたけど。

「フィリスと申します。よろしくお願いします、シアンさん」

 私がペコリと頭を下げると、シアンさんは注意してくる。

「奥様。女主人たるあなたがわたくしめに頭を下げる必要はありません。そして、わたくしのことはシアンとお呼びください」
「す、すみません……シアン」

 なんか、苦手なタイプだなぁ……。私は、わいわいしたりするほうが好きなんだけど……。こういう真面目なタイプは、苦手な傾向にある。だからといって、不真面目がいいのかと言われれば、そうではないけど。もうちょっと、砕けたように接してくれないかなぁ~……なんて、ね?
 それはさすがにわがままというものかな。

「それでは、奥様の身の回りの世話をする侍女を紹介します」
「レーラと申します」
「ミリスでございますわ!奥様!」

 あっ、この二人がレーラとミリスなのね。公爵様が気を遣って、この二人をつけてくれたのだとしたら、とてもありがたい。身の回りの世話をしてくれるなら、わざわざ探しに行かなくても、近くにいるだろうから、出かけたいときにすぐに出かけられそう。
 それにしても、私に二人も侍女がつくとは贅沢なお方よ。私の家には使用人が一人しかいないから、専属なんてものはなかったのに。
 シアンは、二人を連れてきたら、まだ仕事があるようで、そのまま立ち去った。

「それでは、昼食といきましょう!奥様!」

 ミリスは、笑顔で私を押している。
 ミリスは結構フレンドリーな子みたいで、私にもぐいぐい来る。

「ミリス!奥様に対して失礼でしょ!」

 レーラはそれなりに真面目な子みたいで、ミリスの言動を注意している。

「私は気にしてないからいいですよ」

 むしろ、ユールフェースにいたときみたいで、こっちのほうが気楽だ。

「ですが……」
「ひとまず、お昼を食べに行きましょう?」
「……承知しました」
「奥様!こちらですわ!」

 レーラはなにやら、納得していない様子だけど、ひとまず私を案内してくれるみたい。
 そして、ミリスは笑顔で案内してくれる。本当に対称的な二人だ。こういう二人が、案外仲が良かったりするんだよね。
 食堂?と言っていいのかな。そんな場所に案内されると、そこにはだだっ広いテーブルが一つと、その上にたくさんの料理が置いてあった。

「たくさんあるわね~」

 実家ではこんなに並んでいなかったな~と思いながら席に座る。
 すると、レーラとミリスは、立ったまま。あれ?座らないの?

「えっと……あなたたちは?」
「使用人が奥様と一緒に食事なんてとりませんよ!」
「わたくしたちは後でいただきます」

 つまり、レーラとミリスはもらわないということは、他の使用人ももらわないというわけで、椅子に座るのは、ここでは……私だけ!?
 衝撃の事実に、私は心の中で、あんぐりと口を開けてしまう。多分、顔にも出ているだろう。
 だって、ユールフェースでは、使用人も(一人だけど)一緒に食事していた。それが、当たり前だと思っていた。でも、他の貴族では違うらしい。公爵家だけとは考えられないから、私の家だけなのだろう。
 このたくさんの料理も、あのたくさんの使用人とシェアして食べるものだと思っていたのに、この料理は私だけの分ということなのだ。
 いや、食べられないよ絶対!!こんな食事なんて、我が家では一ヶ月分だ!できることなら、入れ物に詰めて、弟妹たちにおすそわけしたい!私だけで食べきるなんて絶対に無理だって!

「……奥様。食欲がないのですか……?」

 一向に食べようとしない私を不思議に思ったのか、ミリスが機嫌をうかがうように聞いてくる。

「いえいえ!ありますよ!あります……けど……」
「けど……?」
「こんなには食べられなくて……」

 これは、どんなに多くても、一割くらいかな~という感じだから。こんなには食べられないというか、食べられるという人がいたら、逆に教えてほしい。

「食べられないなら、残せばいいではないですか」

 当たり前のようにそう言ったレーラに、私は目を見開く。

「お残しは厳禁ですよ!せっかくおいしく食べてもらうために育てられて、調理もされたお野菜やお肉を残すなんて、私はそんな薄情者ではありません!」
「え、えと……すみません……?」

 私がすごい剣幕で捲し立てたからか、レーラも困惑している。
 それには、ちょっと申し訳ないとは思ったけど、貧乏貴族だった私には、お残しなんて選択肢はないというのは事実。
 ……まさか、公爵様は、毎日こんな感じで、お残しをしているというの?なんて罰当たりなことを!無惨に捨てられた食材たちに呪われてしまいなさい!

「そういうわけで、これとこれとこれ以外は、皆さんが食べてください!」

 私は、机の上に並べてあった、パンと、サラダと、卵料理だけをお皿に乗せた。

「いえいえ!食べられませんって!」
「料理は食べないとダメでしょう!捨てるなんて無駄遣いは許されない罪です!投獄です!」
「いや、法典にはそんな罪状は……」
「どうしても食べないなら、私ががんばって食べますよ!」

 もしかしたら、やってきた弟妹たちと遊んであげられないかもしれないけど、そんなのよりも、お残しのほうが罪だ!弟妹たちには申し訳ないけど。
 なんとか食べ尽くしてやる!
 燃えた私は、トングで料理を取っていって、次々と口に放り込む。
 まだまだいける。
 あっ、このお肉おいしいな。
 まだまだいける。
 この野菜は初めて食べたかも。
 まだまだいける。

「お、奥様!無理しないでください!わかりました!残りは私たちが食べますから!」

 私がさらに食事を進めようとすると、二人が止めてきた。そのとたんに、満腹感が襲ってくる。
 く、くるしい……。これは、倒れるやつだ……。あっ、意識が遠く……なって……きた……。
 そして、私は、そのまま倒れてしまった。
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