これが『契約』だとおっしゃったのはあなたです!~貧乏令嬢は、夫の愛は望まない~

りーさん

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※ちょっと疲れてて休憩していました。更新再開します。

 シアンが持ってきてくれた便箋に、私は筆跡が残りそうなくらいの力で手紙を書く。お兄様のことを書いてはいるけど、弟妹たちの宿泊の許可を聞くのも忘れてはいない。
 ジルとメイには、「こわい……」と怯えられてしまったので、私は相当怖い顔をしていたのだろう。ただ必死だっただけなんだけどね。

「ふぅ……」

 手紙を書き終わった私は、大きくため息をつく。
 手紙を一枚書くだけで、こんなにも体力を使ったのは初めてだ。
 私は、うーんと背伸びをして、机の上にあるベルを手に取る。
 以前に、私が大声でシアンを呼んでいたことがあり、それ以来、用があるときはこれを鳴らして呼ぶようにと言われている。
 まぁ、レーラとミリスが来ることもあるけど、問題はないだろう。シアンに渡すように頼めばいい。
 レーラとミリスは、おそらく私への護衛としてつけられているんだけど、マギルーラもどきをやってから、そこまで頻繁には引っ付かなくなった。理由を聞いてみたら、「奥様ほどの実力でしたら、四六時中でなくとも心配ないかと……」と、ボソッと呟いていた。その代わり、私が眠るときなどに見張りにつくそうだ。ここまで過保護なのも、アリジェントの血筋なのだろう。あの隣国なら、私たちを要求したりとか、普通にありそうだから。でも、そんなことになれば、レンディアお兄様が隣国を滅ぼしているはずなので、まだないのかもしれない。
 
「後は、シアンを呼んで……」
「ねーさま。れんでぃあにーさまにもかいたほうがいいんじゃない?」

 シアンを呼ぶために、ベルを鳴らそうとすると、ジルがそう提案してきた。
 レンディアお兄様にも……書かないとダメなのだろうか?前は、お兄様にも書いていたけど、便箋の行どころか、白いところも見当たらないくらいに、びっしりと書いてある返事が10枚以上送られてきて、目を通すのが大変だから、あまり送らなくなってしまった。
 それに、お兄様に手紙を送ろうものなら、このアルスフェイス公爵家の家紋が入った封をしなければならない。そうなれば、必然とレンディアお兄様に結婚したことどころか、その相手までバレてしまう。そうなると、砦に血の海が出現することになる。

「お兄様には……ちょっと……」

 お兄様には申し訳ないけど、今回は無理そうだ。こんなことになるのなら、家から自分の家紋の印を持ってくるべきだった。
 そうすれば、まだごまかしがきいたかもしれないのに。

「なんで~?」

 理由がわからないのであろう妹が聞いてくる。ちょっと言いにくかったけど、私は理由を説明した。

「だって、アルスフェイス公爵家の家紋で送ってしまったら、お兄様に結婚したことがバレてしまうじゃない」

 もちろん、いつまでも隠し通せるわけではないので、いつかは話さないといけないと思う。でも、隣国がきな臭い動きをしている今は、そのときではない。せめて、隣国などの心配がなくなってから話すべきだ。戦力を減らすようなことをさせるわけにはいかない。

「それなら、めいもってるよ!」

 そうやってお父様の許可証を取り出したのと同じ場所から、印を取り出した。
 うん。本当に、どこにしまってるの?まぁ、私たちの服には、いろいろと仕舞える場所があるにはあるけど……。でも、まだこの子たちが使うようなものではないわよね?

「あ、ありがとう……」

 少し戸惑いながらも、私はその印章を受け取って、お兄様宛への手紙を書く。そして、お父様にも、返事がそっちに届くだろうから、こちらに届けてくれるように頼む手紙も。
 合計3枚。すべて書き終えて、シアンをベルで鳴らして呼んだ。
 数分もしないうちに、シアンがやってくる。

「奥様、お呼びでしょうか?」
「このお手紙を公爵様に。このお手紙をレンディアお兄様に。このお手紙をお父様に届けてくれる?」
「かしこまりました」

 なんで人数が増えたのかなどは聞かずに、淡々と了承して、手紙を持っていくシアンは、ちょっとカッコよく見える。
 物語であるような執事というのは、まさにあのような感じだろう。家には執事がいなかったから、新鮮に感じているのもあるかもしれない。

「とりあえず、終わったところだし、本の続きを読んであげるわ」
「わーい!」

 私がそう言うと、メイは嬉しそうだけど、ジルはあまり嬉しそうではない。まぁ、男の子だから、遊びたい盛りなんだろう。でも、もうすぐ夕方になるというタイミングで外に出すのは、アリジェントの血筋というのを差し置いても危険すぎる。
 たとえ、それが敷地内の庭だったとしても。お母様から聞いた話では、私は敷地内で拐われたそうだから。そんなことを聞いてしまうと、あまり外には出したくない。ジルがボールで遊びたがったのと、まだ外が明るかったこと。ここには、護衛を務められるような騎士がいたから、私は外に出たようなものなのに。

「ジル。そんな不満そうな顔をしないで?ね?」

 私がそう言うと、ジルはじーっと見つめてくるだけ。なんだろうと首をかしげると、「じゃあ」と話し出した。

「ねーさまといっしょにねる」

 ねーさまといっしょにねる……ねーさまと一緒に寝るか!

「ええ、いいわよ」
「えー!じるだけずるい!めいもいっしょにねるもん!」

 私がニコッと微笑むと、メイが駄々をこねだした。う~ん……私とまだ子どもの二人なら、全然寝られるくらいには広いベッドだけど……。
 まぁ、いっか!ベッドの用意をしなくてもいいから、使用人さんたちの負担も軽くなるわよね。

「それじゃあ、メイも一緒に寝ましょうか」
「やったー!」
「えぇ~……。ねーさまとふたりでねたかったのに……」

 私がメイの願いを聞き入れると、またもやジルが不満そうな顔をする。
 これでもダメかい?本当に、子どもふたりのお世話は大変ね……。これをできる人を尊敬するわ。

「めいだって、おねーさまとふたりでねたいもん!でも、じるもいっしょでいいっていってるの!」
「めいはねーさまにほんをよんでもらうからいいだろ!ねーさまはぼくとだけでねるの!」
「じゃあ、ほんはいいからいっしょにねるもん!」
「だめ!」
「ねる!」

 私が軽い現実逃避をしている間に、二人が言い合いを始めてしまった。

(寝てたら、全部終わってないかな……)

 私は、更なる現実逃避を始めてしまった。
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