天才一家の落ちこぼれに転生しました~スキル『心眼』で家族の役に立ちます!~

りーさん

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第一章 落ちこぼれみたいです

2.

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 部屋で寝ていた僕にバンと大きな音が聞こえる。

「リード!大丈夫?」

 入ってきたのは白金色の髪に金色の瞳をした女の子。次女のエステル姉さんだ。

「大丈夫です、エステル姉さま」

 エステル姉さまという呼び方が自然と出てきた。
 やっぱり、記憶を取り戻したところで僕は僕なのだ。

「でも、ローラが苦しそうにしていたと言っていたもの。一応治療しておきましょ」

 エステル姉さんは僕に手をかざして魔法をかけてくれる。
 白くて淡い光を放ち、とても温かく感じた。

「姉さま……聖女としてのお仕事は大丈夫なんですか?」
「えっ?……ええ、大丈夫」

 エステル姉さんはわかりやすいくらいに目が泳ぐ。それだけで抜け出したんだと悟るには充分すぎた。
 でも……なんか変だ。エステル姉さまの周りがどこかぼんやりと薄暗い。なんだと思って目を擦ってよく見るも、その瞬間にぼんやりとしたものは消えていた。
 気のせいだったのかな?

「リード、どうかした?」
「う、ううん。なんでもありません。それより姉さま、本当はお仕事を放ってきたんですよね?」

 エステル姉さんは現在は十歳ではあるものの、聖女として認められてからはかなり忙しい日々を送っている。
 聖女は神殿に所属する象徴のようなものであり、信仰を集める現人神のようなものである。
 聖女としての仕事は王族や貴族の治療はもちろん、平民相手への治療や貧民への炊き出しなどのボランティアのようなものも行っており、家を留守にすることも多い。

 この国では十五歳以下は保護者の同伴なしに国外に出ることはできないため、まだ十歳であるエステル姉さんが国外に行くことはないものの、それも残り五年だけ。

 だから姉さんもなるべく家族との時間を取りたいのだろうし、今回は僕が怪我をしているから、なおさら離れたがったのだろう。
 でも、それとこれとは話が別だ。

「姉さまを待っている人もたくさんいるんですよ?」
「わ、わかってるって。もうちょっとリードの顔を見たら戻るわよ」
「本当ですか~?」
「ほんとだってば!」

 どうも信用ならない。
 そう思ったのは僕だけではないようで。

「エステルのその言葉は信用ならん」
「あなたはいつも先延ばしにするではありませんか」
「もうちょっと自分の立場に責任を持ったら?」

 一番上の兄のアルフォンス、二番目の兄のジルベルト、一番上の姉のエルルーシアが揃って部屋に入ってくる。

 あなたたちもお仕事はどうしたんですか?

「そういうお兄さまたちこそ仕事はどうしたのよ!」

 エステル姉さんが代わりに聞いてくれた。
 さて、理由を聞こうじゃないか。

「俺は非番」
「殿下から帰宅の許可を得ているに決まっているでしょう。仕事もすでに終わらせています」
「私も休暇届出したから問題ないわ」

 あっ、よかった。ちゃんとしていた。エステル姉さんみたいにすっぽかしていたら呆れるどころじゃなかった。

「お兄さまたちはいいよね。代わりがいるんだもの」
「あら、あなただって事前に話を通せば問題ないんじゃないかしら?」
「その度に聖女の自覚がどうのって説教されるから嫌なの!向こうがどうしてもって言うから聖女になったのに自覚がどうとか言われたくないの」

 確かにそれは嫌すぎる。神殿って清らかなイメージがあるけど、内情はかなりブラックなのだろうか。
 今回は仕事を途中放棄しているみたいだから擁護はしないけど。

「でも、聖女になると決めたのは姉さまでしょう?仕事はちゃんとしないと」
「わ、わかってる。今から行けばいいんでしょ」

 その後もぶつぶつ言いながらエステル姉さんは部屋を出ていく。ちょっと言いすぎたかな?でも、姉さまのためにならないし。

「それで、リード。体調はどうなの?」
「いえ、もう痛みもないです」

 姉さまの魔法はちゃんと効いていたようで、先ほどまでの頭痛がきれいさっぱり消えていた。さすがは聖女さま。

「それなら、私たちも出ていくから、ゆっくり休んでいなさいね」
「はい、ありがとうございます。」

 エルルーシア姉さんは手を振って部屋を出ていく。アルフォンス兄さんやジルベルト兄さんも後に続くように出ていった。

 家族の対応に僕は心が暖かくなるのを感じた。これ以上心配をかけないためにも、早く元気にならないと。
 前世のことはその後に考えても遅くない。僕は再び体を横にする。少し休めるだけのつもりが、疲れていたのかそのまま眠りについてしまった。
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