転生王子はあくまでも楽したい~面倒事はごめん被ります~

りーさん

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第二章 あくまでも一人でいたい

17. 九条琉夏

 フェリクスを連れて部屋に戻った僕を、メアリーが出迎える。

「アレクシスさま。まだ授業の時間ですが」
「それよりも大事な用事ができたから、今日は終わりにして。残りの分は後日に回していいから」
「……かしこまりました。では、お茶のご用意をいたします」

 メアリーは元々用意してあったのであろう茶器に茶葉とお湯を入れる。魔道具のポットをクローディル兄さんからもらったお陰で温かいお茶を飲めるようになったのに加えて、お茶が用意されるまでの時間を短縮できるようになったのだ。

 時間の短縮は何も意識してなかったけど。

 しばらくして、お茶を淹れ終わったメアリーが気遣いからか部屋を出ていってくれたので、ようやく本題を切り出せる。

「それで、さっきのロボットについてなんだけど」

 僕がそう言うとフェリクスが硬直する。さっきから思ってたけどわかりやすいな。

「この国にはない言葉だから気になってさ。僕と同じなのかなって」
「僕と同じ……って、まさか?」
「そう。僕も転生者。君もそうなんでしょ?」

 フェリクスはゆっくりと頷く。転生者に関しては僕という前例があるのだから他にいてもおかしくない。
 でも、同年代の子どもとは。僕みたいに途中で思い出したのか生まれたときからなのか少し気になる。

「僕は日本人だったんだけど君はどうなの?」
「俺も日本人。大学生だった」

 相手も転生者だと気づいたからか当たり前のようにため口になっている。僕が前世で年上だったらどうするんだ。
 一応注意しておくか。

「誰もいないように見えても、常に僕の側には人がいるよ。気をつけておいて」
「……かしこまりました、殿下」

 僕の言葉の意味を理解してくれたようで、言葉遣いが直る。
 王子の僕が直接的な言葉で指摘するといろいろと大げさなことになるからね。こういう遠回しの注意がちょうどいい。

「話を戻すけど、僕も大学生だったと思う。アレクシスになる直前のことはあまり覚えてないけど、社会人の記憶はないから」
「俺はなんか落ちたような感覚があるのは覚えているんですけど……」
「マンホールの下にでも落ちたの?」
「そこまでアホじゃない!」

 そこまでってことは、少しはアホとして自覚しているみたいな言い方になるんだけど、気づいているのかいないのか。
 それにしても、なんか懐かしい感じがする。よくこういうくだらない掛け合いをしていたっけ。

「それでさ、君の言ってた昔の友人ってどんな奴?」
「先ほども言ったようにロボットみたいな奴です。記憶力が高くて、一度見たものを再現することができる。殿下のやっていたように、相手の動きを予測して剣を避けるなんてこともできるでしょうね」

 呆れたようにそう言う彼だが、途端に悲しげな表情を浮かべる。

「でも、寂しい奴でもあります。相手の行動を予測できても、その理由は理解できないそうですから。人を見ているようで、本当の意味では見ることができない、そんな感じがして」
「……そいつの名前って……なに?」

 気づいたらそう聞いていた。ほとんど無意識だったように思う。
 フェリクスはきょとんとしたような顔をしたけど、ゆっくりと答えてくれる。

綾目哉斗あやめかなとです」

 心臓がドクンと大きな音を立てた気がした。それは、かつて僕が呼ばれていた名前。
 人とあまり関わりを持たなかった僕にとって友人と言えるのは二人。
 僕は前世での記憶能力や性格をそのまま引き継いでいるし、相手も受け継いでいる可能性が高い。それでフェリクスのように運動能力が高くて人情味に厚い奴はあいつのほうだろう。

「僕のことそんな風に思ってたのか。九条琉夏くじょうるか

 フェリクスはぽかんとしたものの、言葉の意味を理解したらテーブルをバンと叩いた。その衝撃でほとんど手つかずだったフェリクスの紅茶が溢れてしまう。
 ああ、もったいない。

「お前、哉斗なのか!?」

 今までで一番の大声をあげて僕に詰め寄る。あの、近いんですけど。

「僕、王子なんだけど」

 僕がよく口にする言葉で注意を促すと、フェリクスはソファに座り直した。
 うむ、素直でよろしい。

「そ、それで……哉斗なんですか?」
「そうだよ。その反応だと琉夏のほうで当たりだったみたいだね」

 まぁ、もう一人のほうなら詰め寄ったりなんてしないだろうし、僕が相手でも愛想を振り撒いて対応するだろう。
 立場を弁えるということに関しては琉夏よりもあいつのほうが上だ。

「それで、その顔はなに?」

 先ほどとはうってかわって、露骨に嫌悪感を示した顔になっている。まぁ、答えは想像つくけど。

「いや、哉斗に跪いて敬語を使ったかと思うと……!」
「僕が王子だからしょうがないじゃん」

 僕は王子で琉夏は侯爵令息。生まれた時点で上下関係ができてしまっているのだから。僕が臣籍降下しても公爵だろうからフェリクスが下なのは変わらない。嘆いたところで意味はないのだ。

「……せめて、アレクシスさまじゃいけませんか?」
「公の場じゃなかったらね。むしろアレクさまでもいいよ。僕もお前に殿下と言われるのは気持ち悪いし」

 さらにフランクにしていいと言ったのに、フェリクスはなぜかじとっとした目で僕を見る。

「言葉遣いを指摘したのはアレクさまのほうでしょう?」
「そうだっけ?最近どうも記憶が……」
「十年前のことも細かく覚えられるような奴が数分前のことを忘れるわけないだろうが!」

 フェリクスの反応に僕は笑みを浮かべてしまう。懐かしい感じがするわけだ。昔はよくやっていたんだから。

「……もしかしたらの話なんですけど」
「なに?」
「あいつもいるかもしれません」

 琉夏があいつというのは一人しかいない。琉夏や僕とよくつるんでいたもう一人の友人。
 付き合い始めたのは中学生からだけど、琉夏とは反対に勉強とか座学が得意な奴で、三年間ずっと首席をキープしていた天才だ。

「どうしてそう思うの?」
「アレクさまは覚えていないようですけど、あの時は俺と一緒にアレクさまとあいつもいたんですよ。俺とアレクさまがここにいるならあいつもいるかなと思って」
「それはありそうだね」

 何かに落ちたような感覚があると言っていたけど、それがこの転生の原因なのだとすれば、一緒にいたというあいつもいる可能性は高い。そして、僕たちと同年代だろう。

「同年代に勉強が得意な奴っていたかなぁ……?」
「俺は知りません。もしかしたら平民の可能性だってありますし」

 平民か……。もしそうなら、僕が気軽に会える存在ではないな。いるんだとしたらちょっと会ってみたいんだけど。

「僕も気にしておくから、ちょっとお前のほうでも探ってみてよ。王子の僕よりはお前のほうが接触しやすそうだし」
「かしこまりました」
「それじゃあ、話は終わったから副団長のところに戻りなよ。今後も剣の授業はほとんど騎士団でやるだろうから、その時にいろいろと話せるだろうし」
「では、そうさせていただきます」

 フェリクスはペコリと頭を下げて部屋を出ていった。
 翌日、剣の授業で今日の分が延長になったお陰で筋肉痛で死にかけたのは別の話である。
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