毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

りーさん

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第一部 身の程知らずなご令嬢 ~第一章 毒花は開花する~

14. 交流

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 お茶会を終え、エルファーナは、女子寮から去っていった。
 最後のマリエンヌの提案に頭を抱えていたが、断られることはなかった。

 エルファーナのお陰で、交流関係の洗い出しは比較的楽になりそうなので、マリエンヌは、改めてリネアに集中する。

 とはいっても、今は都合が悪いので、リネアに直接は手出ししない。

 まずは、友人たちから片づける。

 リネアが、マリエンヌを見下す発言を聞かせていた者たちも、無傷でいさせるわけにはいかない。
 それに、リネアにとって都合のいい噂を広めているのは、彼女たちである可能性が高い。 

 彼女たちを放っておくという選択肢は、持ち合わせていない。

(向こうがその気なら、同じ舞台に立ってあげないとね)

 マリエンヌは、ある人物に向けての手紙を書くと、シーラに届けさせた。

◇◇◇

 その五日後のこと。

 マリエンヌは、数人の令嬢とともに、サロンでお茶会をしていた。

 その令嬢というのは、ルクレツィアが厳選した友人たちである。
 そのため、ルクレツィアも同席していた。

「ルクレツィアさま。急なお願いでしたのに、聞き入れてくださり感謝しますわ」
「いいえ。こちらこそ、お声がけしてくださり感謝します。いつお誘いしようかと悩んでおりましたので」
「ご迷惑でなかったのなら、安心しました」

 ルクレツィアへの挨拶を終えて、マリエンヌは他の令嬢たちに向き合う。

 彼女たちは、全員が伯爵家以上の中央貴族。マナーには人一倍に気を遣う。
 社交の場では、身分が上の者から声をかける決まりなので、マリエンヌが言葉を発しない限り、なにも始まらない。

 ルクレツィアは主催者なので、個人に声をかけたが、同じ招待客に、個別で話しかけることはしない。 

「わたくしは、公爵家のマリエンヌ・リュークと申します。皆さまの憩いの場にお邪魔してすみません」
「わたくしは、侯爵家のリーフィア・ローネンと申します。マリエンヌさまとお茶会で同席できるなんて、光栄ですわ」

 リーフィアに続いて、身分順にリーフィアに自己紹介していく。
 社交界で顔を合わせたことのある令嬢もいたが、正式に挨拶を交わしたわけではないため、自己紹介してくれた。

 最後に、伯爵家の者が挨拶する。

「わ、わたくしは、伯爵家のす、スージー・トルベンと申します。ほ、本日は、よろしくお願いいたします」

 トルベンは、伯爵家の中でも位が下のほうで、有力な子爵家とほぼ変わらないと言われている家だ。

 そのためか、筆頭公爵家であるマリエンヌといることに、緊張を隠せていない。

(あの様子じゃ、本人は気づいていなさそうだけど……)

 本人は緊張のあまり周りが見えていないようだが、ルーシーと名乗った令嬢を見る目は、とても冷たくなっている。
 それは、スージーの挨拶が問題だったためだ。

 本日はお願いいたします

 これは、本日という日を特別視する言い方だ。
 目上の人のお茶会に招かれたときなどに使われる言い回しだが、今回は別の意味に取られてしまったらしい。

 この言葉の別の意味は、拒絶である。

 本日はと強調してしまうと、今日は仲良くしてあげるけど、と上からの拒絶になってしまう。
 今回は、マリエンヌが最も身分が高いためにそのような発言をしたのかもしれないが、マリエンヌはあくまでも、『お茶会に招かれた』という体でここにいる。
 この言い回しは、主催者にのみ有効であるのだ。マリエンヌに使うと、別の意味で取られてもおかしくはなかった。

 マリエンヌは、自分がどう動くべきか思案する。

 庇うのは簡単だ。マリエンヌが気にしていないと言えば、他の令嬢たちは、これ以上のことはできないし、マリエンヌの築き上げた慈悲深い令嬢から外れすぎていない。
 責め立てるのも不可能ではないが、リューク公爵家の不興を買った者と関わりたがる物好きはまずいない。マリエンヌのイメージからも外れるだろう。

 ならば、取るべき行動はこうだろう。

「ええ。これからお願いいたします」

 マリエンヌが返したのは、この一言だけ。
 それでも、牽制にはなったようで、スージーに向けられていた冷たい視線は散る。

 やはり、令嬢たちとのお茶会は、精神的に疲れる。
 まだ、挨拶を終えただけだというのに、すでに帰りたくなっていた。
 マリエンヌは、はぁとため息をつきたくなるが、目的が達成されるまではと堪えている。

 自己紹介が終わると、本格的にお茶会が始まる。

「マリエンヌさま。わたくしの用意したお茶は、口に合いますか?」
「ええ。味はもちろんですが、とてもよい香りがします。ラジスの南西部で栽培されているものですか?」
「まあ!よくお分かりになりましたね」
「何度か口にしたことがございますから」

 王妃になる者として、各国で栽培されているお茶は、教育の一貫でよく飲まされた。
 ラジス王国の茶葉は、数は覚えていないが、間違いなく三十回以上は飲んでいるだろう。

 王妃として、情報収集を怠らず、相手の話題に乗れなければならない

 何度もそう言われてきた。今考えれば、シーラたちを使って、国の膿を排除するようになったのも、それがきっかけだったかもしれない。

(そう考えると、なんか複雑な感じね)

 マリエンヌは、紅茶を口に含む。その紅茶は、先ほどまで爽やかな味わいであったのに、今はどこか苦味を感じた。

「あ、あの、マリエンヌさま」

 声をかけてきたのは、ルーシア・ロアヌだった。
 呼びかけられたマリエンヌは、紅茶を飲んでいた手を止め、にこりと笑いかける。

「どうしましたか、ルーシアさま」
「こ、このような場でたずねることではないかもしれませんが、その……」

 よほど言いにくいことなのか、それ以上言葉を続けようとしない。
 だが、ごくりと息を飲むような動作をして、再び言葉を発した。

「マリエンヌさまは、リネアさまのことをどう思っていらっしゃるのですか?」

 ルーシアのその言葉に、その場のほとんどの者が、スージーに向けていた以上の冷たい視線が向けられる。
 何てことを聞くのかとでも言いたげな視線だ。
 唯一、スージーだけはあわあわとして落ち着かない様子を見せているが、この言葉に戸惑っているのは変わらない。

 ルクレツィアにいたっては、睨むような視線を向けながら、静かに言う。

「ルーシアさま。あなた、それを聞くために参加したいと我を通したのですか?」

 ルクレツィアの言葉と視線に、ルーシアは体をびくっと震わせる。

(なるほど。ルーシアさまは、本来は参加予定ではなかったのね)

 マリエンヌに対して、リネアのことを話題に出したとはいえ、ルーシアへの扱いが厳しいように見えたが、わがままで参加した挙げ句にあのような発言をしたのなら、わからなくはない。

 マリエンヌは、ルクレツィアを手で制し、ルーシアと目を合わせる。

「ルーシアさま。なぜ、そのようなことを?」

 ルーシアは、少しうつむきながら答える。

「わ、わたくしにも婚約者がいるのですが、最近、リネアさまと交流を深めているようなのです。……友人関係ならば、と最初は目をつむっていたのですが……」
「限界が来て、リネアさまと直接お話しでもされたのですね」

 マリエンヌの言葉に、ルーシアは静かにうなずく。

「マリエンヌさま……!」

 ルクレツィアは、耳を傾ける必要などないとばかりにマリエンヌの名を呼ぶが、マリエンヌは言葉を続ける。

「それで、リネアさまが何かおっしゃられたのですか?」
「わたくし、リネアさまを傷つけるような言葉遣いをしたつもりはありませんでした。ですが、リネアさまは涙を浮かべながら言ったんです」

 リネアの言葉が気になったのか、ルクレツィアもマリエンヌからルーシアに注目する。
 全員の注目がルーシアに向けられると、ルーシアはゆっくりと口を開いた。

「ただの友人です。マリエンヌさまは許してくださったのに、と」
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