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第一部 身の程知らずなご令嬢 ~第一章 毒花は開花する~
26. 増えた頭痛の種 (レオナルド視点)
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ミルレーヌとの話し合いを終えたマリエンヌは、約束通りレオナルドの元を訪れ、内容を報告していた。
「……と、こう言ったことを話していたのです」
「それは、ミルレーヌ嬢を連れてきた理由にはなっていないが?」
レオナルドは、マリエンヌの隣で座っているミルレーヌに視線を向ける。
ミルレーヌは、レオナルドと目が合うと、にこりと微笑んできた。
その微笑みは、普通なら暖かみを感じるはずだが、レオナルドは寒気しか感じない。まるで、毒花状態のマリエンヌのようだ。
当のマリエンヌは、レオナルドに毒花特有の寒々しい笑みを向けて言う。
「ミルレーヌさまは協力者ですわ。ライオネルさまの対処をしてくれるのだとか」
「ええ。あの紳士の風上に置けない男に仕置き……失礼、躾できるまたとない機会ですから」
「後半のほうが言葉がひどくなっているぞ」
レオナルドは、深くため息をつく。
マリエンヌだけのときも、暴走しないようにと常に神経を尖らせていたのに、同じような存在が増えたことで、見張る対象が二人になってしまった。
しかも、ミルレーヌはマリエンヌの友人であり、ライオネルの婚約者だ。アリスティア嬢に頼んだところでどちらかしか止められないだろうし、男性のアレクシスを近づけるわけにはいかない。リネアのときの二の舞となるだろう。
自分がマリエンヌと共にいようとしても、マリエンヌは女性であるため、男女別の寮での行動までは制限できない。
マリエンヌのことだ。ここぞとばかりに動くだろう。
レオナルドが好きにしていいと言ったからか、隠す気は欠片もなくなり、余計に突っ走っているような気もする。
だが、やり方は毒花らしいのだ。リネアを追いつめてはいるが、表向きには友人を気遣っての言葉なので、マリエンヌの評判は悪化するどころか、むしろ上向きになっている。
リネアの評判も大して変わってはいないが、これからは下がる一方だろう。
それは、リネア本人もわかっているはずなのだが、特に目立った動きがないのが気になる。
まぁ、マリエンヌなら大丈夫そうな気がするが。たかがぽっと出の小花程度が大輪の花には敵わないというのは、レオナルド自身がよく知っている。
だが、少し気になることもある。
「マリエンヌはいいのか?自分の手でやらなくては気が済まないといつも言っていただろう」
話し合いでどのような心境の変化があったのかはわからないが、こんなにもあっさりと獲物を譲るなど、毒花らしくないように思えた。
「わたくしは、ライオネルさまに関しては、思うところあっても、特に実害があったわけでもないので、そこまで重要な相手ではないのですよ。友人たちが傷つくならと思って動いているだけですから、当の本人が」
「それで、具体的にはどうしようと言うのだ?」
「基本的には正攻法で行きますわ。リネアさまの妨害が入ると面倒なので、もう一人のほうも同時進行しておこうかと」
「もう一人というと……ルクレツィア嬢のか?だが……」
レオナルドは言葉を濁すが、マリエンヌはわかっているとばかりに目を伏せる。
ルクレツィアの婚約者……ジルヴェヌスは、ライオネルほどの問題を起こしていない。ルクレツィアを蔑ろにしてはいないし、きちんと友人としての節度を保っている。
勉学を疎かにしているわけでもなく、マナーも問題がない。
そんな相手は、いくらマリエンヌでも一筋縄ではいかない。
「ですが、ジルヴェヌスさまはリネアさまの行動を咎めていないと聞いておりますわ。むしろ、力添えなさっていると」
影を使って調べたのだろう。話し方は淡々としており、自分の得た情報に疑いは欠片も持っていないようだ。
「それが事実として、どう対処するつもりだ。彼は、わかりやすい証拠を残すような者ではないぞ」
「……証拠など、必要ありませんわ」
マリエンヌは、ニヤリと笑みを浮かべる。あのあくどい顔をするのは、毒花を咲かせる直前だけだ。もう止めるつもりがないとはいえ、あのような状態にマリエンヌには、どうしても不安を覚えてしまう。
今回は学生間のトラブルだからそこまでの心配はいらないと思うが、今まで何度も命の危機があったのだ。頭ではわかっていても、不安に思う気持ちがなくなるわけではないのだ。
「……なら、リネア嬢には特になにもしないのか?」
「ええ、今のリネアさまの肩を持つような令嬢は存在しないでしょうから、共犯を疑う必要はないと思われますわ。いくらなんでも、男爵令嬢が二人を同時に邪魔できるとは思えませんもの」
「そうですわね。できることなら、ジルヴェヌスさまのほうの妨害してもらいたいものですわ。アレとリネアさまが共にいられると面倒ですもの」
「それはそうかもしれないな」
この場にいる誰も、ミルレーヌが婚約者をアレ呼ばわりしていることを指摘しない。それは、言っても無駄と思っているわけでもなく、マリエンヌに幼い頃から振り回され続けた者しかいないため、気にすることもなかった。
むしろ、ライオネルのあの状態を見てしまうと、ミルレーヌに同情する思いのほうが強い。
「では、ライオネルとリネア嬢が共にいることのないようにこちらから手を回しておこう」
「わたくしも協力いたしますわ」
「ありがとうございます。アリスティアさまとルクレツィアさまにも助力いただけるように頼んでおきましょうか」
「そうですわね……」
マリエンヌは、どこか歯切れが悪い。無理もないだろう。ルクレツィアはともかく、アリスティアは感情的になりやすいところがある。
特に、リネアのこととなると。
「では、アレクシスさまからもそれとなくお話しいただきましょう。わたくしたちだけでは誤解させかねませんもの。ルクレツィアさまは、ジルヴェヌスさまの件に協力してもらったほうがいいかもしれません」
「そうだな。私からも頼んでおこう」
マリエンヌの言う通り、アレクシスから直接伝えられたなら、いらぬ誤解は招かないだろう。ルクレツィアは、ジルヴェヌスの婚約者であるから、どちらかといえばジルヴェヌスのほうがいい。
「お二人がそうおっしゃるなら……」
ミルレーヌも、しぶしぶではあるようだが、納得してくれたようだ。
「では、わたくしはアリスティアさまに話を通しておきますから、マリエンヌさまはルクレツィアさまにお話ししていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんわ。念のため、シェリーナさまにも話は通しておきましょうか」
これからのことを嬉しそうに話す二人に、レオナルドは頭を抱えることしかできない。今後は、薬剤師に頭痛薬と胃腸薬の量を増やしてもらったほうがいいかもしれない。それか、もう少し強い効能のをもらうべきだろうか。
「マリエンヌ。楽しそうなのはいいが、一人で動くなよ?」
「わかっております。一人で動くときはきちんと報告いたしますわ」
「いや、そもそも一人で動くなと言っているんだが」
「それは了承いたしかねますわ」
「レオナルド殿下。リネアさまの件とは別に、少し協力してもらいたいことがあるのですが」
「別に好きにすれば……って、協力?」
てっきり、手出しの許可を求められるものだと思っていたレオナルドは、用意していた言葉を途中まで口にしたが、すぐに聞き返した。
「はい。ライオネルさまのことに関しては、のんびりしてなどいられません。早めにけりをつけるべきだと思うのです」
「それは否定しないが……私にどうしろというのだ?」
「陛下に奏上したいことがあるのです」
そう言うと、ミルレーヌはフフッと軽やかに笑う。
それに、レオナルドは今まで以上の悪寒を感じた。
「……と、こう言ったことを話していたのです」
「それは、ミルレーヌ嬢を連れてきた理由にはなっていないが?」
レオナルドは、マリエンヌの隣で座っているミルレーヌに視線を向ける。
ミルレーヌは、レオナルドと目が合うと、にこりと微笑んできた。
その微笑みは、普通なら暖かみを感じるはずだが、レオナルドは寒気しか感じない。まるで、毒花状態のマリエンヌのようだ。
当のマリエンヌは、レオナルドに毒花特有の寒々しい笑みを向けて言う。
「ミルレーヌさまは協力者ですわ。ライオネルさまの対処をしてくれるのだとか」
「ええ。あの紳士の風上に置けない男に仕置き……失礼、躾できるまたとない機会ですから」
「後半のほうが言葉がひどくなっているぞ」
レオナルドは、深くため息をつく。
マリエンヌだけのときも、暴走しないようにと常に神経を尖らせていたのに、同じような存在が増えたことで、見張る対象が二人になってしまった。
しかも、ミルレーヌはマリエンヌの友人であり、ライオネルの婚約者だ。アリスティア嬢に頼んだところでどちらかしか止められないだろうし、男性のアレクシスを近づけるわけにはいかない。リネアのときの二の舞となるだろう。
自分がマリエンヌと共にいようとしても、マリエンヌは女性であるため、男女別の寮での行動までは制限できない。
マリエンヌのことだ。ここぞとばかりに動くだろう。
レオナルドが好きにしていいと言ったからか、隠す気は欠片もなくなり、余計に突っ走っているような気もする。
だが、やり方は毒花らしいのだ。リネアを追いつめてはいるが、表向きには友人を気遣っての言葉なので、マリエンヌの評判は悪化するどころか、むしろ上向きになっている。
リネアの評判も大して変わってはいないが、これからは下がる一方だろう。
それは、リネア本人もわかっているはずなのだが、特に目立った動きがないのが気になる。
まぁ、マリエンヌなら大丈夫そうな気がするが。たかがぽっと出の小花程度が大輪の花には敵わないというのは、レオナルド自身がよく知っている。
だが、少し気になることもある。
「マリエンヌはいいのか?自分の手でやらなくては気が済まないといつも言っていただろう」
話し合いでどのような心境の変化があったのかはわからないが、こんなにもあっさりと獲物を譲るなど、毒花らしくないように思えた。
「わたくしは、ライオネルさまに関しては、思うところあっても、特に実害があったわけでもないので、そこまで重要な相手ではないのですよ。友人たちが傷つくならと思って動いているだけですから、当の本人が」
「それで、具体的にはどうしようと言うのだ?」
「基本的には正攻法で行きますわ。リネアさまの妨害が入ると面倒なので、もう一人のほうも同時進行しておこうかと」
「もう一人というと……ルクレツィア嬢のか?だが……」
レオナルドは言葉を濁すが、マリエンヌはわかっているとばかりに目を伏せる。
ルクレツィアの婚約者……ジルヴェヌスは、ライオネルほどの問題を起こしていない。ルクレツィアを蔑ろにしてはいないし、きちんと友人としての節度を保っている。
勉学を疎かにしているわけでもなく、マナーも問題がない。
そんな相手は、いくらマリエンヌでも一筋縄ではいかない。
「ですが、ジルヴェヌスさまはリネアさまの行動を咎めていないと聞いておりますわ。むしろ、力添えなさっていると」
影を使って調べたのだろう。話し方は淡々としており、自分の得た情報に疑いは欠片も持っていないようだ。
「それが事実として、どう対処するつもりだ。彼は、わかりやすい証拠を残すような者ではないぞ」
「……証拠など、必要ありませんわ」
マリエンヌは、ニヤリと笑みを浮かべる。あのあくどい顔をするのは、毒花を咲かせる直前だけだ。もう止めるつもりがないとはいえ、あのような状態にマリエンヌには、どうしても不安を覚えてしまう。
今回は学生間のトラブルだからそこまでの心配はいらないと思うが、今まで何度も命の危機があったのだ。頭ではわかっていても、不安に思う気持ちがなくなるわけではないのだ。
「……なら、リネア嬢には特になにもしないのか?」
「ええ、今のリネアさまの肩を持つような令嬢は存在しないでしょうから、共犯を疑う必要はないと思われますわ。いくらなんでも、男爵令嬢が二人を同時に邪魔できるとは思えませんもの」
「そうですわね。できることなら、ジルヴェヌスさまのほうの妨害してもらいたいものですわ。アレとリネアさまが共にいられると面倒ですもの」
「それはそうかもしれないな」
この場にいる誰も、ミルレーヌが婚約者をアレ呼ばわりしていることを指摘しない。それは、言っても無駄と思っているわけでもなく、マリエンヌに幼い頃から振り回され続けた者しかいないため、気にすることもなかった。
むしろ、ライオネルのあの状態を見てしまうと、ミルレーヌに同情する思いのほうが強い。
「では、ライオネルとリネア嬢が共にいることのないようにこちらから手を回しておこう」
「わたくしも協力いたしますわ」
「ありがとうございます。アリスティアさまとルクレツィアさまにも助力いただけるように頼んでおきましょうか」
「そうですわね……」
マリエンヌは、どこか歯切れが悪い。無理もないだろう。ルクレツィアはともかく、アリスティアは感情的になりやすいところがある。
特に、リネアのこととなると。
「では、アレクシスさまからもそれとなくお話しいただきましょう。わたくしたちだけでは誤解させかねませんもの。ルクレツィアさまは、ジルヴェヌスさまの件に協力してもらったほうがいいかもしれません」
「そうだな。私からも頼んでおこう」
マリエンヌの言う通り、アレクシスから直接伝えられたなら、いらぬ誤解は招かないだろう。ルクレツィアは、ジルヴェヌスの婚約者であるから、どちらかといえばジルヴェヌスのほうがいい。
「お二人がそうおっしゃるなら……」
ミルレーヌも、しぶしぶではあるようだが、納得してくれたようだ。
「では、わたくしはアリスティアさまに話を通しておきますから、マリエンヌさまはルクレツィアさまにお話ししていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんわ。念のため、シェリーナさまにも話は通しておきましょうか」
これからのことを嬉しそうに話す二人に、レオナルドは頭を抱えることしかできない。今後は、薬剤師に頭痛薬と胃腸薬の量を増やしてもらったほうがいいかもしれない。それか、もう少し強い効能のをもらうべきだろうか。
「マリエンヌ。楽しそうなのはいいが、一人で動くなよ?」
「わかっております。一人で動くときはきちんと報告いたしますわ」
「いや、そもそも一人で動くなと言っているんだが」
「それは了承いたしかねますわ」
「レオナルド殿下。リネアさまの件とは別に、少し協力してもらいたいことがあるのですが」
「別に好きにすれば……って、協力?」
てっきり、手出しの許可を求められるものだと思っていたレオナルドは、用意していた言葉を途中まで口にしたが、すぐに聞き返した。
「はい。ライオネルさまのことに関しては、のんびりしてなどいられません。早めにけりをつけるべきだと思うのです」
「それは否定しないが……私にどうしろというのだ?」
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