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火炙りの魔女
魔女の怒り
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ーーー痛い熱い苦しい辛い怖い
ーーーいったい私が何をしたというんだろうか。
足元の炎が勢いを増すなか、磔にされたシリンは、怒りに身を震わせながら広場の見物人を睨みつけていた。
半年前から、エジムという国の辺境の領地、イレーンでは、日照り不足による飢饉が起きていた。
シリンが暮らしていたププルという村も例外ではなく、しかも、飢饉が起きた時、彼女の両親は村で一番初めに死んでしまった。一番貧しい家だったから仕方がないのかもしれない。
しかし、その後も続く日照り不足を、シリンの村の人たちは、両親を亡くしたばかりの彼女の所為にして、容赦無く責め続けた。
「お前のせいで太陽が出ないんだ」
「お前が悪魔と話しているところを見た」
「お前は魔女だから、みんなを殺したんだ」
噂を聞きつけた神官はすぐにシリンを街へ連れ去った。
そして、大した調査もされないまま、二日後の今日、悪魔と契約した魔女として、広間で火炙りにされている。
「コホッ」
息を吸うと、肺が焼けるように痛い。
広間に集まった人たちは、シリンが火炙りにされているのを見ながら何か囁いている。
「これで飢饉がおさまるのかしら」
「いや、魔女や異端は刈っても刈っても出て来るからな」
そんな言葉と合わせて、ジュッという音がシリンの耳に入ってきた。そしてすぐに自分の肉が焼ける匂いがした。
「うぐ…」
足先の痛みに顔を顰めていると、また別の囁きが聞こえる。
「まぁ、火炙りなんて怖いわ」
「あの子の次はあんな子供よ、かわいそうに…」
「あり得ないけれど、うちの子じゃなくて本当に良かったわ」
ささやく見物人の視線をたどり、ちらりと右を見やると、いつの間に連れてこられていたのか、シリンよりもさらに幼い子どもたちが、鎖に繋がれたまま、震えながら身を寄せ合っている。
この子たちも別の村で飢饉の罪をなすりつけられたのだろうか。
そいつらは、こんなに痛くて苦しい思いを、物心がついたばかりの子供にさせるということを知っていたのだろうか。知っていても悪魔の使いなら、やってしまうんだろうな。
シリンは顔を歪めて、吐き捨てた。
「…そもそも何だよ、悪魔って。」
いるかどうかも分かんないやつと、どうやって契約すんだよ。
そんないいかげんな理由で火炙りなんてふざけるな。
理不尽な世の中への不満が募るたび、シリンは足元の炎とは別に、自分の体の中から熱いものが込み上げてくるのを感じた。
そして、広場にいる同じ村の村人や、連行や取り調べを行った神官を一人一人睨みつける。
お前らだって、一歩間違えたら、自分の肉が焼ける匂いを味わう羽目になるんだぞ。
でも…あそこにいるやつ、屋台で買ったご飯たべながら見てるじゃん。
金持ちはいいな、ああ、お腹減ったな…最後までひもじいや。
それにやっぱり怖い、痛い、熱い、悲しい、すごく苦しい…
なんで私たちだけが…私たちが何かしたのか。
こんな理不尽、許さない。
「絶対許さない。」
シリンが呟いた途端、曇りだった空から、ポツリと雨がふってきた。
ーーーいったい私が何をしたというんだろうか。
足元の炎が勢いを増すなか、磔にされたシリンは、怒りに身を震わせながら広場の見物人を睨みつけていた。
半年前から、エジムという国の辺境の領地、イレーンでは、日照り不足による飢饉が起きていた。
シリンが暮らしていたププルという村も例外ではなく、しかも、飢饉が起きた時、彼女の両親は村で一番初めに死んでしまった。一番貧しい家だったから仕方がないのかもしれない。
しかし、その後も続く日照り不足を、シリンの村の人たちは、両親を亡くしたばかりの彼女の所為にして、容赦無く責め続けた。
「お前のせいで太陽が出ないんだ」
「お前が悪魔と話しているところを見た」
「お前は魔女だから、みんなを殺したんだ」
噂を聞きつけた神官はすぐにシリンを街へ連れ去った。
そして、大した調査もされないまま、二日後の今日、悪魔と契約した魔女として、広間で火炙りにされている。
「コホッ」
息を吸うと、肺が焼けるように痛い。
広間に集まった人たちは、シリンが火炙りにされているのを見ながら何か囁いている。
「これで飢饉がおさまるのかしら」
「いや、魔女や異端は刈っても刈っても出て来るからな」
そんな言葉と合わせて、ジュッという音がシリンの耳に入ってきた。そしてすぐに自分の肉が焼ける匂いがした。
「うぐ…」
足先の痛みに顔を顰めていると、また別の囁きが聞こえる。
「まぁ、火炙りなんて怖いわ」
「あの子の次はあんな子供よ、かわいそうに…」
「あり得ないけれど、うちの子じゃなくて本当に良かったわ」
ささやく見物人の視線をたどり、ちらりと右を見やると、いつの間に連れてこられていたのか、シリンよりもさらに幼い子どもたちが、鎖に繋がれたまま、震えながら身を寄せ合っている。
この子たちも別の村で飢饉の罪をなすりつけられたのだろうか。
そいつらは、こんなに痛くて苦しい思いを、物心がついたばかりの子供にさせるということを知っていたのだろうか。知っていても悪魔の使いなら、やってしまうんだろうな。
シリンは顔を歪めて、吐き捨てた。
「…そもそも何だよ、悪魔って。」
いるかどうかも分かんないやつと、どうやって契約すんだよ。
そんないいかげんな理由で火炙りなんてふざけるな。
理不尽な世の中への不満が募るたび、シリンは足元の炎とは別に、自分の体の中から熱いものが込み上げてくるのを感じた。
そして、広場にいる同じ村の村人や、連行や取り調べを行った神官を一人一人睨みつける。
お前らだって、一歩間違えたら、自分の肉が焼ける匂いを味わう羽目になるんだぞ。
でも…あそこにいるやつ、屋台で買ったご飯たべながら見てるじゃん。
金持ちはいいな、ああ、お腹減ったな…最後までひもじいや。
それにやっぱり怖い、痛い、熱い、悲しい、すごく苦しい…
なんで私たちだけが…私たちが何かしたのか。
こんな理不尽、許さない。
「絶対許さない。」
シリンが呟いた途端、曇りだった空から、ポツリと雨がふってきた。
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