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旅立ち
旅立ち
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それからシンたちはしばらくの間、東へ飛び続けた。
東方の砂漠に囲まれた小さな旅人の国を目指して。
「なんかでっかいのがくるよ!」
「こっち来ないでください!!」
「おりゃああああ!」
「とう!」
危ない目に会う時もあったが、動物や人間に襲われたときは、サンが防いでくれたし、レナードとセルは着実にサラの指導の成果が出てきた。毎夜飛び続けて、昼間は眠そうなサラは、シンの背嚢から出るまでもなく、むしろ抑え役に回るようになっていた。
「おいサン、もう気絶してるから、落ち着け。ほらレナードとセルも、あんまり遠くへ投げるな。向こうの動物たちが、盗人が飛んできてびっくりしてるぞ。」
「なあ見ろよサン!すげえ色のキノコ見つけたぜ!うまそう!」
「だから見るからにやばいのは、捕らないでって言ってんじゃん!」
レナードはよくとんでもない食料をとっていたが、セルが観察してくれるおかげで、大事には至らなかった。ただ、怒っているサンの横で、セルは毎回少し嬉しそうに、避けられたものたちをこっそり自分の背嚢に入れていたのを、シンとサラは見逃さなかった。
そんなふうに、サラと子供達のおかげで、概ね順調に進んでいた旅の中で、シンだけは一つの試練を与えられていた。
一つ目の山を越えた頃、一向は山の麓の湖を覗き込んでいた。
「ねえシン、わかる?」
「全然わかんない」
サンの問いに、シンは眉根を寄せてふるふると首を振ったあと、右を見て、サラとセルは?と2人にも聞いてみた。
「違和感がある気はするんだけど・・・」
「サラも分からん」
シンはもう一度湖を覗き込んだ。水面はキラキラと太陽の光を反射していた。
「湖が飛ぶってどういうことだろう」
首を捻りながら、2日前の夢で話した理との話を思い出した。
あの日、いつも通り、夜が明ける少し前にサラが山に降り立ち、みんなで昼まで休息をとるために木陰で横になった後、気がついたら、シンは理のいる白い世界にいた。
この日の理は、顔はシンと同じだったが、少し幼く、薄い水色の髪の毛とワンピースをしていた。
「旅はどう?」
「子供達のおかげでなんとかなってるよ」
「そう、よかったわ。」
シンが、苦笑いで答えると、理は嬉しそうに微笑んだ。
理が聞きたがったので、しばらくは旅の道中の話をしてあげた。理はシンが楽しそうに話すエピソードをうんうんと頷きながら、とても優しい顔をしていた。
ただ、話がひと段落した後、いつもなら、現実に戻されてもおかしくないタイミングで、理は少し黙った。
そしてその後、小さく息を吐いた後、シンを見つめて言う。
「あのね、あなたにお願いがあるの」
「お願い?」
シンが聞き返すと、理はシンとよく似た顔で頷いて、話を続けた。
「あなたがもうすぐ行く湖がね、飛んじゃうから、湖に住んでる子たちが、水がなくて困っているみたいなの」
シンは、真剣な顔の理の言葉を頭で三回くらい繰り返した。
「……え、飛んじゃうの?」
頭の中でいまいちイメージのできなかったシンが戸惑いながら聞くと、理「そう、飛んじゃうの」と難しい顔をしたまま、話を続けた。
「原因はわからないんだけど、様子を見てあげてくれない?きっと誰かがおかしくなっているんだわ。」
ぽんぽんと話す理にちょっと待って、とストップをかける。
「ねえ、理じゃ直せないの?」
「それがね…私は直したり、繊細なことが苦手なの。」
理は、俯いて、ごめんねと謝った。
「本来は力が不完全なあなたにだって頼むべきじゃないのに、頼れるのがあなたしかいなくて」
遠くの国での異常はわかるけど、直すことはできない。
そしてじゃあこの子は一体何者なんだろう。
シンはいつもこの白い世界では感じなかった不思議に思うことが、急に謎に思えてきた。
ただ、それでも、目の前で申し訳なさそうに、必死に話す女の子のお願いは聞いてあげたいとシンは強く思った。
「やってみるよ、場所を教えてくれない?」
シンは自分の直感に従い手助けをすることに決めて、不思議な現象が起こる場所を教えてもらって、夢から覚めた。
そして、夢でのやりとりを伝えると、サラは、「理が言うならきっと行った方がいいんだろう」と言って、その日の夜、大きな湖を見つけて、降りてくれた。
そして、今まで、湖と睨めっこしていた。
ただ、もうそろそろ夕方になろうとするのに、湖は一切微動だにせず、解決の手がかりがないままだった。
湖を見るのに飽きたジェマは、サラを真似してピョーンピョーンと飛び跳ねている。
シンも、湖の観察に疲れて、後ろに倒れ込んで仰向けになった。
私たちが来たから、変な影響があったのだろうか。それとも、別の湖だったのだろうか。
頭の中には、マイナスな思考がぐるぐると回っている。それを振り払うかのように、遠くの景色に目をやると、ちょうど、昨日越えた山のふちに太陽がかかり始めていた。
「夕日が綺麗だなぁ」ぽろっと呟いた時、ぴちょん、ぽちゃん。と水音がした。
目線を下げると、今まで微動だにしなかった水面が揺れて、小さな水玉が浮き上がってきていた。
東方の砂漠に囲まれた小さな旅人の国を目指して。
「なんかでっかいのがくるよ!」
「こっち来ないでください!!」
「おりゃああああ!」
「とう!」
危ない目に会う時もあったが、動物や人間に襲われたときは、サンが防いでくれたし、レナードとセルは着実にサラの指導の成果が出てきた。毎夜飛び続けて、昼間は眠そうなサラは、シンの背嚢から出るまでもなく、むしろ抑え役に回るようになっていた。
「おいサン、もう気絶してるから、落ち着け。ほらレナードとセルも、あんまり遠くへ投げるな。向こうの動物たちが、盗人が飛んできてびっくりしてるぞ。」
「なあ見ろよサン!すげえ色のキノコ見つけたぜ!うまそう!」
「だから見るからにやばいのは、捕らないでって言ってんじゃん!」
レナードはよくとんでもない食料をとっていたが、セルが観察してくれるおかげで、大事には至らなかった。ただ、怒っているサンの横で、セルは毎回少し嬉しそうに、避けられたものたちをこっそり自分の背嚢に入れていたのを、シンとサラは見逃さなかった。
そんなふうに、サラと子供達のおかげで、概ね順調に進んでいた旅の中で、シンだけは一つの試練を与えられていた。
一つ目の山を越えた頃、一向は山の麓の湖を覗き込んでいた。
「ねえシン、わかる?」
「全然わかんない」
サンの問いに、シンは眉根を寄せてふるふると首を振ったあと、右を見て、サラとセルは?と2人にも聞いてみた。
「違和感がある気はするんだけど・・・」
「サラも分からん」
シンはもう一度湖を覗き込んだ。水面はキラキラと太陽の光を反射していた。
「湖が飛ぶってどういうことだろう」
首を捻りながら、2日前の夢で話した理との話を思い出した。
あの日、いつも通り、夜が明ける少し前にサラが山に降り立ち、みんなで昼まで休息をとるために木陰で横になった後、気がついたら、シンは理のいる白い世界にいた。
この日の理は、顔はシンと同じだったが、少し幼く、薄い水色の髪の毛とワンピースをしていた。
「旅はどう?」
「子供達のおかげでなんとかなってるよ」
「そう、よかったわ。」
シンが、苦笑いで答えると、理は嬉しそうに微笑んだ。
理が聞きたがったので、しばらくは旅の道中の話をしてあげた。理はシンが楽しそうに話すエピソードをうんうんと頷きながら、とても優しい顔をしていた。
ただ、話がひと段落した後、いつもなら、現実に戻されてもおかしくないタイミングで、理は少し黙った。
そしてその後、小さく息を吐いた後、シンを見つめて言う。
「あのね、あなたにお願いがあるの」
「お願い?」
シンが聞き返すと、理はシンとよく似た顔で頷いて、話を続けた。
「あなたがもうすぐ行く湖がね、飛んじゃうから、湖に住んでる子たちが、水がなくて困っているみたいなの」
シンは、真剣な顔の理の言葉を頭で三回くらい繰り返した。
「……え、飛んじゃうの?」
頭の中でいまいちイメージのできなかったシンが戸惑いながら聞くと、理「そう、飛んじゃうの」と難しい顔をしたまま、話を続けた。
「原因はわからないんだけど、様子を見てあげてくれない?きっと誰かがおかしくなっているんだわ。」
ぽんぽんと話す理にちょっと待って、とストップをかける。
「ねえ、理じゃ直せないの?」
「それがね…私は直したり、繊細なことが苦手なの。」
理は、俯いて、ごめんねと謝った。
「本来は力が不完全なあなたにだって頼むべきじゃないのに、頼れるのがあなたしかいなくて」
遠くの国での異常はわかるけど、直すことはできない。
そしてじゃあこの子は一体何者なんだろう。
シンはいつもこの白い世界では感じなかった不思議に思うことが、急に謎に思えてきた。
ただ、それでも、目の前で申し訳なさそうに、必死に話す女の子のお願いは聞いてあげたいとシンは強く思った。
「やってみるよ、場所を教えてくれない?」
シンは自分の直感に従い手助けをすることに決めて、不思議な現象が起こる場所を教えてもらって、夢から覚めた。
そして、夢でのやりとりを伝えると、サラは、「理が言うならきっと行った方がいいんだろう」と言って、その日の夜、大きな湖を見つけて、降りてくれた。
そして、今まで、湖と睨めっこしていた。
ただ、もうそろそろ夕方になろうとするのに、湖は一切微動だにせず、解決の手がかりがないままだった。
湖を見るのに飽きたジェマは、サラを真似してピョーンピョーンと飛び跳ねている。
シンも、湖の観察に疲れて、後ろに倒れ込んで仰向けになった。
私たちが来たから、変な影響があったのだろうか。それとも、別の湖だったのだろうか。
頭の中には、マイナスな思考がぐるぐると回っている。それを振り払うかのように、遠くの景色に目をやると、ちょうど、昨日越えた山のふちに太陽がかかり始めていた。
「夕日が綺麗だなぁ」ぽろっと呟いた時、ぴちょん、ぽちゃん。と水音がした。
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