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とりあえず横抱きしたら、とりあえず同棲することに。
しおりを挟む「「誤解です!!」」
そう叫び事の経緯を話すと、団長は渋いお顔を更に渋くさせて言う。
「成程……しかしそれでは、そう勘違いされても仕方ないな?」
「あらつまらな……ゲフンゲフン。 でもそうよ、アーヴィング。 潔く責任を取りなさい」
「はい?」
──責任とは。
勿論結婚のことだろうが……致したならまだしも、誤解なのだ。
しかも俺もウィレマも学園はとうに卒業し、成人も迎えている。騎士爵と姓も賜り、一応ながらも一端の騎士。
確かにあまり褒められた事では無いが、仮に致してしまったにせよそれを機に結婚を迫られる立場に非ず。
(「噂を払拭せよ」との仰せなのか? それにしてはニュアンスが)
そう思ったのは当然俺だけではなく、ウィレマもだったらしい。
「え、あの、閣下……畏れながら責任とは一体どういう……?」
「あら、そんなの結婚に決まっているじゃない」
(やはりかァァァ!!!!)
そうは思ったが、特に叫びはしなかった。
変に間が空いたせいで、ちょっと冷静になっていたのだ。
「だっ駄目です! タダの誤解ですから!!」
しかしウィレマの方はそうでもないらしい。
机を叩くように立ち上がり、閣下に迫った。
「ウィレマ、いくら非公式とはいえ不敬だぞ。 弁えろ」
「ですが団長……! こんなこと承服致しかねます!!」
……オイ、なんか必死だな?
なんかそれはそれでイラっとくるんだが。
告白してないのにフラれた人みたいじゃないか。
「アーヴィング、貴方はどうなの?」
イラっとしながら眺めていたら、急に俺に話を振られた。なので俺は恭しく答える。
「……ご命令とあらば」
「アーヴィング!!」
(ああもううるせぇなぁ)
ウィレマの顔は真っ青で、過去最高レベルでイラッとした。だから俺は──
「麗しの閣下のご命令とあらば! 喜んで拝命致しますゥ!!」
思わずおもいきり笑顔を作り、そう宣ってしまったのだ。
(……やらかしたか)
ウィレマはヤバい程顔面蒼白になり、俺は団長にまるで猫の子のように首元を掴まれ、隣の部屋に引き摺り出された。
閣下はウィレマとまだ話すらしい。
「お前……大概にしろ? 満更でもないくせに、全くガキが」
「……うるせぇっす」
満更でもない、と言われると反応に困る。
ウィレマのことはムカつくが、嫌いじゃないからムカつくのだ。わからんままにしておきたいだけで、本当にこれがどういうことかわからん程には俺もガキではない。
「そんな訳でガキ扱いは止めて頂きたい」
「拗らせてんなぁ」
そうは言うが拗らせているのは概ねウィレマが騎士だからであり、ついでにこの人にも一因はある。
昔から団長に褒められた時だけ、ウィレマはちょっと照れるのだ。
まあ俺があんまし褒めないってのはあるけど、それにしても『可愛い』とかでも照れるのはどうなんだ。
そういうの言われるの逆に嫌だろうな、と思って言わなかったというのに。
「ウィレマは閣下の大事な側近候補だ。 不本意なかたちなのはわかるが、どのみち誰かいい家の出身騎士か文官あたりから相手が選ばれていた。 その筆頭がお前なのは最初からわかっていただろ」
「今更その話はやめてください」
確かに当初はそんな話も聞いていた。
だからこそ面倒を見る役目を仰せつかった……と理解した思春期の俺が、ウィレマを意識しないでいられる筈はないというのに。
思春期男子を舐めすぎである。
隠しといてよ、そういうのは。
だがそこは俺も騎士の端くれ。
そういう部分を出さないようにアイツに接していた。
だってウィレマは真剣だったから。
「殿下のお輿入れは関税交渉の拗れの結果、早々に無くなったじゃないですか」
──なのに半年もせず、お国事情によりアッサリ無くなったっていう。
その時に味わった大いなる肩透かし感と砂を噛むようなフクザツな気持ちは、きっと誰にもわからないだろう。
王女殿下だったパトリシア様はそれを機に臣籍降下され、一代限りとはいえ今や公爵閣下である。
この特例の公爵位は今後他国の干渉に御身を煩わすことがない為の配慮であり、国内での地位にそう変わりはない。これが罷り通ったのには、言うまでもなくパトリシア様が王女として以外の自身の価値を示したからだが……その辺は置いといて。
兎にも角にもパトリシア様がもう他国に嫁ぐことはなくなった以上、ウィレマが無理をして結婚する理由はとっくの昔にないのである。
本人も『一生独身だ』と実に爽やかに吐かしていた。
……本当に嫌な女だ。
「それとこれとは別だ」
「別なら余計にです。 見たでしょ、アイツあんなに嫌がってんすよ? ……つーか他人の結婚の世話なんぞ焼いてる場合すか」
かつて仕事人間過ぎたユージーン・クルーズ団長は、それが原因で嫁に逃げられている。
ずっと謝罪し、復縁を求めて早5年。
そのために職を辞そうとした団長をウィレマの剣術指南役として無理矢理残し、ワケありの実力者ばかりが集められるこの『第零騎士団』に入れたのも、当時殿下だった閣下。
丁度前団長が引退したがってた、というのもあったらしいが、そうでなければ団長みたいな実力者がウィレマの剣術指南役とかやってる暇など、本来ならあるわけない。
「他人の縁などいいから、さっさと復縁してください」
俺の安心の為にもね!!
「嫌なヤツだなお前は……」
「これでも割と傷付いてるんですよ! 俺だって自尊心ってモンが存在するんです!!」
「あー捨てろ捨てろ、そんなモンは」
「団長には言われたくないっす!」
「馬鹿、経験則だ。 有難く聞いとけ」
「うっ」
経験則──そう言われてはなんとも返し難い。
(でもいくら寝耳に水にせよ、あんなこの世の終わりみたいな顔をされたらさぁ……)
いくら結婚する気がないったって、流石に凹む。
そこまで嫌がらなくてもいいと思う。
そりゃ俺も、あーいう言い方したのはアレだけど、だからと言って『絶対コイツとは嫌だ!』とか言ったわけでなし。
(いやまあ俺の今までの態度も悪かったかもしれない……)
だからと言って今までだってそんな酷いことは言った覚えない。俺はマウントは取っても、思ってもない悪口は言わんのである。
思っていたら割と言う方だけど。
アイツの悪いところは『スカしてる』とかそんぐらいで、後は特にない。そしてそれが無自覚であり、言ってもどうにもならん類のことなのも知っている。
(傷付いてた素振りもなかったが、我慢していただけなのか……? いやいや)
なんだかんだ、アイツが一番仲良くしているのは俺だと思っていたというのに、勘違いだったのだろうか。
「おっ悩んでるな。 だがアーヴィング、やらかしたのはそこじゃない」
「は?」
「閣下を舐めるな……お前の言動など全部読まれている。 言質を取られたぞ。 馬鹿め、易々と煽られやがって」
「え」
そして団長は半月の休暇申請書と鍵を俺に手渡した。
「結婚の前にとりあえず『まず同棲しとけ』とのお達しだ。 喜んで拝命しろ。 新居はコルゴス二番通り、騎士夫婦御用達のアパルトマンだ。 わかるよな? 405号だとよ。 おめでとう」
「はあぁぁぁぁぁッ?!」
応援ありがとうございます!
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