黄金のリンゴは幸せを映す

砂臥 環

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クリス

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あるところにクリスとセーラという男の子と女の子がいました。

クリスとセーラは幼馴染おさななじみです。早くに両親を亡くしたふたりは、兄妹のように支え合って暮らしてきました。

クリスは凛々りりしく、明るい男の子で、みんなから人気があります。
控え目なセーラは少し寂しい気持ちになりながらも、そんなクリスを誇らしく思っていました。

セーラはよく気の利く、優しい女の子です。
クリスはいつも自分がみんなに褒められたり、ちやほやされていることが、本当はセーラがさり気なく手を貸してくれているからだと知っています。

セーラには言えないけれど、とても感謝しているのです。



ある時、ふたりの住むところをおさめる領主様が、娘をつれて街にやってきました。領主様の娘、マリーはとても綺麗な女の子です。

街に出て、ほんの少しだけ一人になったばっかりに、マリーは悪い人にさらわれそうになりました。
一人になったのは本当に少しだけの短い時間だったのですが、悪い人たちは、お金持ちで綺麗なマリーがちょっとでも一人になった時を、狙っていたのです。

たまたま通りかかったクリスは、自分の危険などまったく考えずにマリーを助けようとしました。
悪い人は、数人でマリーをさらおうとしていたので、クリス一人では敵いません。
でもクリスがいち早く助けに動いたことで、みんなが気づき、マリーは無事でした。

「助けてくれてありがとう」

殴られて倒れたクリスに、マリーが手を差し出します。

「いいえ、ボクはなにもしてません」

そう言いながら、顔を上げたクリスは、初めてマリーの顔を見ました。

(なんて綺麗な人だろう!)

クリスは一目見て、マリーに心を奪われてしまいました。



それからクリスはなにをしていても、マリーのことばかり考えるようになりました。
聞けば、マリーはお婿さんにふさわしい人を探しているというではありませんか。

でもマリーは領主様の娘です。
平民のクリスでは、とても釣り合いません。

ですが、マリーもクリスを素敵だと思っていました。マリーはお父様である領主様に、思い切って相談してみることにしました。

領主様は悩んでしまいました。

領主様はマリーを、それは大事に思っています。だからできれば好きな人と結婚させてあげたいのです。
でも領主様には難しいお役目がありました。
お婿さんに迎えるには、それをできる人ではないと、みんなが困ってしまうのです。



考えた末、領主様はクリスをお屋敷に呼び出しました。

「クリスくん、君はマリーと結婚したいかね?」

なにも知らないでお屋敷に来たクリスは、領主様の質問にビックリしました。
ですが、当然したいに決まっています。

「はい、したいです!」

クリスはハッキリとそう言いました。
マリーはおもわず頬を赤らめてしまいます。

「だが、マリーと結婚するには、領主としてふさわしい男じゃないといけない。 マリーは大事な娘だが、みんなの暮らしを守るために尽くすのが領主の役目だ。 そのためには意地悪な他の貴族たちも納得させないとダメなのだ。 君にはお金もないし、学もない」

「……はい」

貴族の子供はたくさんお勉強をさせられます。みんなを守るために、たくさんのことを覚えなければならないからです。
それにみんなを守る、とはいっても、『みんな』とは、自分の土地に住む人たちのことです。
自分の土地を豊かにするために他人を蹴落としたり、仲良くない人とも仲良くしているフリをしたりしなければなりません。

平民でもそれはありますが、たくさんの命を背負っているので『自分のこと』だけじゃすみませんし、貴族の人たちは頭がいいので、上手に立ち回るのがとても難しいのです。

「それでもマリーの婿になりたいなら、クリスくんがすごいことを、みんなに見せるしかない」

「ボクにできることがあるなら、なんでもします!」

「では、冬の谷にあるという、『黄金のリンゴ』を持ってきなさい」

『黄金のリンゴ』は、それは美しく、光り輝リンゴと言われています。みんな知っていますが、だれも見たことはありません。

古い歴史書には、この国の宝のひとつだった、と記されています。



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