黄金のリンゴは幸せを映す

砂臥 環

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『冬の魔女と黄金のリンゴ』

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冬の谷には冬の魔女が住んでいます。



大昔、そこには冬の国がありました。

冬の国の王様は、冬の魔女の怒りをかってしまい、冬の国は氷に埋もれてしまったので、今はありません。
全部が氷に埋もれたなか、谷だけが残り、魔女は今もそこに一人で住んでいるそうです。

そんなおそろしい魔女ですが、とても言葉じゃ表せないほど、美しい姿をしているそうです。



昔、とはいっても冬の国がなくなったあとでのこと。
この国の王子様のひとりが、『そんなに美しい人なら会ってみたい』と思い、舞踏会の招待状を送ってみることにしました。

みんなに『来るはずない』と言われましたが、魔女はきまぐれだ、というので、ものは試しです。
もしかしたら気がむいて、来てくれるかもしれませんものね。


魔女はどうやら気がむいたようで、舞踏会に来てくれました。

この国だけでなく、どんな国の、どんな美しい人よりも、もっともっと美しい魔女。
王子様は一瞬で恋に落ちてしまいました。

王子様はひざまずいて『わたしの妻になり、ずっとこの国にいてください』とお願いしましたが、魔女は聞いてくれません。
ですが、王子様があまりに真剣で、熱心だったので、魔女も悪い気はしませんでした。

魔女は仕方なく、少しの間だけ、この国にいてあげることにしました。



王子様は魔女といられて幸せでした。

ですが、困ったことになりました。いつまでたっても、この国に春がやってこないのです。

それは、魔女がいるからです。
だって、彼女は冬の魔女なのですから。

もちろん王様は王子様を怒りました。
このままではみんな、飢えてしまいます。

王子様は魔女のことが諦められませんでしたが、自分のせいでみんなにひもじい思いをさせるわけにはいきません。

悩んでいる王子様に、魔女は氷のように冷たい視線をなげると

「だから言ったじゃないの。 アナタがお願いするから、わたしはいてあげただけよ。 悩むくらいなら帰るわ」

そう言って、さっさと帰ってしまいました。



魔女が帰ると、ふり続いていた雪が嘘のようにやみ、あたたかい陽射しが国中を包みます。

まちにまった、春の訪れです。

若葉は芽吹き、鳥が歌い、閑散としていた街には人々があふれています。

みんなが待ち望んでいた春にうかれるなか、王子様の心だけは、吹雪の夜のように寒々さむざむしいものでした。

王子様はどうしても魔女のことが忘れられなかったのです。

とうとう王子様は、王様にお願いをしました。

「わたしのかわりに、どうか弟を次の王にしてください」

これには王様も驚きました。
ですが、確かにみんなを飢えさせずに魔女のそばにずっといるには、魔女のそばに自分が行くしかありません。

王子様は真剣ですが、冬の谷は全てが凍るような寒さです。

王様は王子様の覚悟が本物かわからなかったので、『弟王子がもう少し頼りになるようになったら』という条件をつけることにしました。
旅立つ時間を遅くすることで、決意がゆらぐかもしれない、と思ってのことです。

しかし5年たっても、王子様の心は変わりませんでした。

観念した王様は、可愛い息子のために、国の宝のひとつである『黄金のリンゴ』と手紙を持たせてあげることにしました。

「これを持っていけば、きっと魔女も喜んでくれるだろう」

お願いをして、いっしょにいてくれた魔女ですが、帰るときには王子様が悩んでいたのを知っています。
魔女は、自分が冬の魔女だとわかっていて帰るのをとめたくせに、今さら悩む王子様にガッカリしていたに違いありません。

それは王子様があさはかだったのですが、追いかけると決めたあと、5年もひきとめたのは王様です。
手紙には、王様が5年王子様をひきとめたこと、その5年の間、王子様は片時も魔女のことを忘れなかったことなどが書いてあります。

「ありがとうございます」

王子様は涙を流しながら、王様に頭を下げ、魔女の住む冬の谷へと向かいました。



冬の谷はとても寒く、深い雪と氷におおわれています。
白い息を吐きながら、王子様は懸命に魔女のもとへと向かったことでしょう。

ですが、他の人が王子様の姿を見たのは谷の手前まで。

その先を知るものは、誰もいないのです。

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