ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環

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第十六話

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モーガンとの契約内容は、逃がすだけでなくジェリーの安全も含まれていた。

粛清から逃れても、違うかたちで危険に晒されては元も子もないので、確実に保護する必要があったのだ。


「生憎予算が潤沢にあるわけじゃないモンで」とボヤかれてしまえば何も言えない。

元々保護先での生活費は、それなりに働かせ自分で捻出して貰う予定でいたようだ。


またいくつかの候補地から選ぶ際、ジェリーが市井で暮らしていけるとも思えなかったらしいモーガンは、その辺りをとても気にして選んでいたという。


「君達は似ているよね。 潔癖が故に愚かなところが」


そう言って、ウォーレンは笑う。


「でも、それをちょっと尊いと思っちゃったんだよ、大人の僕は」




ジェリーの未来の為に非情になるべきと思いながらも、モーガンが彼女を傷付けることがどうしてもできなかったのは、彼の誓った『守る』の中には彼女の心も含まれていたからだろう。

実のところ、婚約の経緯だけは元々ジェリーが知る通りだった。故にそれが別の計画として動き出し加担することになった際、彼がどれだけの我慢と葛藤を強いられたか想像に難くない。

逆にだからこそ、ジェリーを逃がすことや、ウォーレンの協力が許されたのだけれど。


全く知らなかったジェリーだが、心変わりであることを疑いながら家を出た時も、モーガンは誓いを守ってくれたのだと思ってはいた。


学園で揶揄から『氷の姫君』と囁かれることや興味関心からの声掛けはあっても、それ以上なにもなかったのは、彼がジェリーの悪口を許さなかったから。

そして、モーガンの字のメモ。

義母の目論見からもわかるように、あの家に残ってもろくなことにはならない想像は容易にできた。


ウォーレンのてのひらの上だったにせよ、あれが救いであり後押しになったのは、ひとえにこれまでのモーガンありき。


ジェリーもまた、モーガン本人になにも聞けず自分の思いも話せなかったのには『彼のすることを邪魔しないように』という配慮があったから。そこに自己否定や卑屈さがあったにせよ、それは問題ではない。

結局のところ、ジェリーは愛や自分が信じられなくとも、モーガンのことは信じていたのだ。


未来を不安に思いながらも、彼の言葉を信じ示そうとしたジェリーの明後日の努力は、結果としても、なにも間違ってはいなかった。

そのお陰でギリギリだった計画は誰に漏れることなく、ジェリーは予想した範囲内でも対処しなければならないような行動を取ることがなかったので、比較的スムーズに進んだのだから。

また当然ジェリーの突然の退学や『駆け落ち』に信ぴょう性はなく、婚約者の挿げ替えは当面秘密裏にせねばならなかったのも良かった。

婚約を公にするまでの期間が伸びたことで、必然的に結婚も伸び、細かく調べることができたそう。


「全て結果論だけど、なんかイイじゃない? 奇跡っぽくて」


そうカーヤに言うと、ウォーレンは彼女が淹れてくれた珈琲を飲んで目を細める。


「でもいいんですか? ひとりで行かせて」

「もう流石に大丈夫だよ、護身用のアーティファクトも持たせたし市井の常識も──」

「いえ、戻ってこないかもしれませんよ?」

「いや、戻ってはくるよ。 やりかけの仕事があるもの」

「まあそうですけど……そういう意味でなく。 気に入ってたでしょう、社長」

「ああ、ははっ。 そういう意味で? 馬鹿だなぁ、あんなの僕には手に負えないよ。 プラトニックで兄のような立場だからいいんじゃないか」

「……そういうモノですか?」

「そういうモノです」


ジェリーはウォーレンを『ロマンスを介さない合理的な現実主義者』などと吐かしていたらしいが、彼にも彼なりに感じるものはある。

ただロマンスの優先順位が合理性や現実より低いだけで。(なのでジェリーの表現は割と合っている)



──ジェリーは休暇を申請し、今は母国に向かう船の上。



アレコレ教えて貰ったけれど。

彼女がウォーレンに聞きたかった一番のことは『もう会っても問題はないのか』である。


それさえわかれば、今のジェリーは『会うためにどうしたらいいか』など尋ねることはない。続くのは『会いに行くから、連絡を取って』という決定からの要請。

日時と場所は向こうの指定。



聞きたいことや言いたいことは沢山ある。


『必ず君を守るよ』


あの誓いは守ってくれていた、そう思っているけれど、ひとつだけ。

続けられた『ずっと』の部分。

もし、今もその気持ちが変わっていないなら──


不安と期待にソワソワした身体と心を落ち着ける為、デッキを歩く。


モーガンから貰ったペンダントが、潮風に揺れて煌めいていた。


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感想 4

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みんなの感想(4件)

hiyo
2025.11.26 hiyo

う~ん、やっぱり再開する処まで読めたら嬉しかったです。
え?ここで終わりなの?って思ってしまいました。

素敵な物語を有難うございました。

解除
karen-marie
2025.11.24 karen-marie

途中までウォーレンとくっつくのかなあと思いながら読んでいたので、モーガンの一途で深~い愛情がわかって良かったです(やっぱり初志貫徹する男がいいですね)!
欲を言えば、もう二話ぐらい足してモーガンサイドと二人が再会するシーン&ハッピーエンドまで読みたかったなと。
素敵なお話をありがとうございました!

2025.11.24 砂臥 環

karen-marieさん、感想ありがとうございます!
ウォーレンはプロットでは『当て馬』と書かれてたんですが(酷い)、実際は当て馬としてもあまり活躍しなかったですね💦

モーガンはステルスヒーローになってしまったので、彼への温かいお言葉は私の心も温かくしてくれます……☺️☀️

ハピエンが大好きなのですが、自分で書くのだと終わりを見せないパターンが好き過ぎて……物足りなく感じたのならそこは申し訳ないです~!

解除
しまこ
2025.11.23 しまこ

なんとまぁ!ここで終わっちゃった。

楽しく読ませていただきました。
再会まで読みたかったなぁ。うまくいきますように!

2025.11.24 砂臥 環

しまこさん、感想をありがとうございます!
楽しんで頂けてとても嬉しいです♪
再会まで書かないのは私の好みです(笑)
申し訳ない……!
でもきっとうまくいきます!

解除

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