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本編
第九話
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階下を走り回る弟の声で目が覚めた。ぼんやりとベッドの上で天井を眺めている陽の耳を、外からの鳥の鳴き声と羽音が掠めていく。頭が徐々に覚醒して、今日は夢を見なかったな、と思った。やはり生活習慣が変わって、自分でも知らないうちに疲労が溜まっていたのかもしれない。
ゆっくりと起き上がろうとしたが、右腕に妙な重みがのしかかっていることに気が付いた。妙に硬い。布団ではありえないその感触に驚いて、一瞬硬直する。恐る恐るそちらを見ると、そこには──。
「あ……?」
レスポールが横たわっていた。艶のある深いワインレッドが、窓からの朝日に照らされている。丁度ネック部分を腕枕するような形だ。陽の体温が移ったのか、若干の温度を持っているように感じる。
昨夜は帰ってすぐ入浴を済ませて夕食を食べた後、ずっとこのレスポールと戯れていた。どうやらそのまま寝てしまったらしい。指先で弦を弾くと、乾いた生音が寝惚けているかのように響いた。
昨日のことを思い出すと、勝手に口角が上がってしまう。
今度こそ起き上がった陽は、クローゼット前に立て掛けられていた黒いギグバッグにレスポールを仕舞うと、ネック部分を固定するベルトを留めて、ファスナーを上げた。通常ギターを買った時に付属してくるものでは無く、晴からこのレスポールを譲り受けた時に、小遣いを捻り出して自分で買ったものだ。バッグの前面に付いた大きめのポケットには、ピックが数枚入った小銭入れやクリップチューナー、五メートルのシールドコードが入っている。
部屋を出て階段を降りて、リビングの扉を開ける。
母が驚いたようにこちらを見て、あら、と声を上げた。弟の昊もそれを真似る。
「珍しい、早いんじゃないの」
「え、そうなの」
付けっ放しのテレビに映った気象予報士が、五時半を告げている。五時半、と呆けたように漏らした陽に、母は朝食を食べてしまうようにと言って、テーブルの左端、陽がいつも座っている場所に目玉焼きと焼いたベーコンが乗った皿を置いた。次いで昨夜の残りの味噌汁と、茶碗に盛られた白米が出てくる。
「ふりかけある?」
「はいはい、のりたまね」
デフォルメされた雛鳥を模した容器が目の前に置かれた。前に初がこの家に遊びに来た時に、これを見て可愛い可愛いと連呼していたのを思い出す。初のことを思い出したついでと、陽は母を呼んだ。
「母さん!」
「今度は何?」
「俺さあ、部活入ったから。帰り六時とかになるし、合宿で学校に泊まったりとかもするからね」
菖蒲ヶ崎高校の一年生は必ず部活動に所属しなければならない、と言う話については、母も知っていた。入学前後にあった、保護者の集まりか何かで説明を受けたのだろうと思う。母は呆れ顔で、やっと決めたの、と腰に手を当てた。
「何部だか知らないけど、ちゃんとやんなさいよ」
「軽音部だよ、ちゃんとやるって」
軽音部、と言う陽の言葉に、母の表情が一気に曇る。晴が所属していたのも軽音部だった。陽は知らなかったが、保護者と言う立場上、母が知らない訳はないだろう。
晴が最後に目撃されたのは学校と言うことから、部活で何かあったのでは無いかと当初の両親は疑っていた。警察の生徒に対する聞き込みによってその疑いは晴れたが、どうにもまだ、完全には飲み下せていないらしい。当時の晴を知る同級生は既に卒業してしまっているし、織や惺が嘘を吐いているとも思えなかった。
「大丈夫なの?先輩とは会った?上手くやれそうなの?」
「大丈夫だって。先輩も優しいし、初も一緒だから」
初の名前を出すと、母は安堵したように胸を撫で下ろす。
「そう、初ちゃんが一緒なら大丈夫ね。……でも、周りに迷惑掛けるようなことはしちゃだめよ、遅くなったり、泊まるとかなら、ちゃんと事前に連絡すること!あんたそそっかしいんだから、初ちゃんにもお願いしておかなきゃ」
「わかってるってば!」
味噌汁を掻き込みながら、母の言葉に返事をする。その時、起き出してきた父親がリビングの扉を開けた。
彼は陽が起きていることに驚いて、テレビと母と陽を代わる代わる見た後、寝坊したのかと思ったよ、と笑った。全く失礼なことだと頬を膨らませて、テーブルに置かれた新聞を手に取った父にも部活のことを話す。父は明確な難色を示すことは無かったが、その心情は知れない。
「打ち込めることが出来るのはいいことだよ、ちゃんと勉強はするようにな」
痛いところを突かれたと、陽は言葉に詰まる。
学期末考査で赤点を取れば補習。その後の再考査で合格するまで、その生徒は一切の部活動を禁止される規則だ。連帯責任ではなく個人の活動の制限であるだけまだ良心的なのだろうが、人数の多い部ならまだしも、軽音部ではその影響は計り知れない。話を聞くところによると、再考査に二回落ちると親が呼び出され、三学期末の再考査では三回落ちると留年が確定するらしい。義務教育とは勝手が違う。
入学後すぐに、学力調査のためと銘打たれて一年生だけの早期考査が行われたが、陽は数学で赤点スレスレの点数を取り、危うく補習の対象になりかけた。
一方初はと言えば、勉強してないなどとぼやいていた割に全教科で九割以上の点数を取っていた。これは学年の中でかなり上の方で、掲示板に大きく貼り出された成績上位者名簿にも、しっかりと名前が載っている。当人は何とも思っていないようで、まぐれだと曖昧に笑っていた。
朝食を終えて一通りの身支度をする。早く起きたせいか、いつもより余裕があった。制服に袖を通しながら、一本前の電車に乗れてしまいそうだなと思い至って、枕元に置いた携帯を手に取る。充電器のコードを引き抜き、発信履歴から初の番号を選んで、二回押した。
三回目のコールが鳴り終わる前に、もしもし、と声がする。朝早いと言うのに、その声音には眠気の一欠片も感じられない。
「はよ!」
「おはよう陽、早いね」
「今日さ、一個前のやつで行ける?」
陽のその言葉を初は快諾して、すぐ行くから待ってて、と言って電話を切った。
陽はギターが入ったギグバッグを背負って、リュックを正面に抱えるようにして肩ベルトを腕に通す。今日はジャージが入っているから、いつもより膨らんでいる。多少不自由だが、こうする以外に思い付かない。こんなことなら肩掛けの通学鞄にすれば良かったと言う考えが、一瞬過ぎる。
軽く前髪を手櫛で梳いて、部屋を出た。
「もう行くの?」
「うん、初ももうすぐ来るって」
開け放たれていたリビングの扉から顔を出した母が、弁当箱の入った巾着袋を差し出してくる。それを受け取った時、インターホンが鳴った。ついで外から、おはようございます、と言う初の声がする。
「初ちゃんだ!」
リビングから昊が飛び出してきて、目一杯背伸びをして玄関の鍵を開けた。扉を開けた初は昊を見ると、その場に屈み込んで愛想良く笑う。母が昊を追うようにして玄関先に向かって、慣れた手付きで昊を抱き上げた。一頻りの挨拶を済ませた後、部活のことを話し出す。
「初ちゃんも軽音部に入ったって」
「ああ、はい、そうなんです」
「本当、陽のことよろしくね?あの子ちょっと抜けてるところがあるから」
「全然大丈夫だと思いますけど、ちゃんと見ときますね」
「母さん!初は俺のお守りじゃないんだから!」
母を制した陽は、先程受け取った巾着袋を右手に持ったまま靴に足を入れて、初を見上げた。
「初」
「何?」
「これ入れて、ここに」
「うん」
巾着袋を手渡すと、初は陽の胴をすっぽりと覆い隠すリュックの一番大きなポケットを開ける。ジャージと教科書の間に挟み込むようにして、しっかりと固定しているようだった。その光景をずっと見ていた母が吹き出す。
「何がお守りじゃないんだか」
「良いだろこのくらい!」
「はいはいそうね、いってらっしゃい」
家を出て、駅に向かう。初の右肩に掛かった通学鞄から、ドラムのスティックの先が四本ほど飛び出していた。何故四本なのかと問うと、予備であるらしい。
駅前は、学生よりも通勤の人々の方が多かった。時間帯のせいもあるのだろう。慌ただしく右往左往するスーツ姿の大人たちに、陽は昨日四番線で見たサラリーマンを重ねる。
あれは死んでからもずっと、ああしているのだ。何があったのかは知らないが、楽になりたいと思って電車に飛び込んだのに、その行き着くところがあれではあまりにも報われない。
ふと、初が陽の制服の裾を引く。
「陽」
「?」
「コンビニ寄っていい?ご飯買うから」
「いいよ」
新豊永駅の隣には、大手チェーンのコンビニが建っている。駅前の店舗らしく中は広々として、品揃えも申し分無かった。朝夕のラッシュ時には行列が出来るほどの賑わいを見せて、そのためにレジの数が普通の店よりも二台ほど多い。
今の時間帯はさほどでも無いようで、客は疎らに店内に散らばっていた。
「また朝飯無かったの」
「うん、部屋のドアにこれだけ貼り付けられてた」
冷蔵庫のドアの前でジュースを吟味していた初は制服のポケットから五千円札を取り出して、指に挟んでひらひらと揺らしてみせる。陽は溜息とも、怒りの発露ともつかない声を上げた。
「はあ?」
「まあ、お金貰えるだけ良いよね」
「そういう問題?」
「そういう問題だよ、……見てこれ、美味しそうじゃん」
初の手に持たれたのは、一リットルのパックだった。丸文字のフォントとデフォルメされた苺のイラストが踊っている。それと五百ミリリットルの水、菓子パンを数個持って、初はレジに向かった。店員に愛想良く袋要らないです、と告げて、定期と兼ねている電子マネーで支払いを済ませる。買ったものを鞄に詰めている初に、教科書は?と聞くと、最低限のもの以外は学校に置いていると言う。
「板書のノートだけあれば十分でしょ」
「それ頭良いやつの台詞だわ……」
言いながら改札を抜けて三番線に立つと、すぐに列車が入線する旨のアナウンスが響いた。
陽は四番線にちらりと目をやったが、あのサラリーマンはいなかった。
ゆっくりと起き上がろうとしたが、右腕に妙な重みがのしかかっていることに気が付いた。妙に硬い。布団ではありえないその感触に驚いて、一瞬硬直する。恐る恐るそちらを見ると、そこには──。
「あ……?」
レスポールが横たわっていた。艶のある深いワインレッドが、窓からの朝日に照らされている。丁度ネック部分を腕枕するような形だ。陽の体温が移ったのか、若干の温度を持っているように感じる。
昨夜は帰ってすぐ入浴を済ませて夕食を食べた後、ずっとこのレスポールと戯れていた。どうやらそのまま寝てしまったらしい。指先で弦を弾くと、乾いた生音が寝惚けているかのように響いた。
昨日のことを思い出すと、勝手に口角が上がってしまう。
今度こそ起き上がった陽は、クローゼット前に立て掛けられていた黒いギグバッグにレスポールを仕舞うと、ネック部分を固定するベルトを留めて、ファスナーを上げた。通常ギターを買った時に付属してくるものでは無く、晴からこのレスポールを譲り受けた時に、小遣いを捻り出して自分で買ったものだ。バッグの前面に付いた大きめのポケットには、ピックが数枚入った小銭入れやクリップチューナー、五メートルのシールドコードが入っている。
部屋を出て階段を降りて、リビングの扉を開ける。
母が驚いたようにこちらを見て、あら、と声を上げた。弟の昊もそれを真似る。
「珍しい、早いんじゃないの」
「え、そうなの」
付けっ放しのテレビに映った気象予報士が、五時半を告げている。五時半、と呆けたように漏らした陽に、母は朝食を食べてしまうようにと言って、テーブルの左端、陽がいつも座っている場所に目玉焼きと焼いたベーコンが乗った皿を置いた。次いで昨夜の残りの味噌汁と、茶碗に盛られた白米が出てくる。
「ふりかけある?」
「はいはい、のりたまね」
デフォルメされた雛鳥を模した容器が目の前に置かれた。前に初がこの家に遊びに来た時に、これを見て可愛い可愛いと連呼していたのを思い出す。初のことを思い出したついでと、陽は母を呼んだ。
「母さん!」
「今度は何?」
「俺さあ、部活入ったから。帰り六時とかになるし、合宿で学校に泊まったりとかもするからね」
菖蒲ヶ崎高校の一年生は必ず部活動に所属しなければならない、と言う話については、母も知っていた。入学前後にあった、保護者の集まりか何かで説明を受けたのだろうと思う。母は呆れ顔で、やっと決めたの、と腰に手を当てた。
「何部だか知らないけど、ちゃんとやんなさいよ」
「軽音部だよ、ちゃんとやるって」
軽音部、と言う陽の言葉に、母の表情が一気に曇る。晴が所属していたのも軽音部だった。陽は知らなかったが、保護者と言う立場上、母が知らない訳はないだろう。
晴が最後に目撃されたのは学校と言うことから、部活で何かあったのでは無いかと当初の両親は疑っていた。警察の生徒に対する聞き込みによってその疑いは晴れたが、どうにもまだ、完全には飲み下せていないらしい。当時の晴を知る同級生は既に卒業してしまっているし、織や惺が嘘を吐いているとも思えなかった。
「大丈夫なの?先輩とは会った?上手くやれそうなの?」
「大丈夫だって。先輩も優しいし、初も一緒だから」
初の名前を出すと、母は安堵したように胸を撫で下ろす。
「そう、初ちゃんが一緒なら大丈夫ね。……でも、周りに迷惑掛けるようなことはしちゃだめよ、遅くなったり、泊まるとかなら、ちゃんと事前に連絡すること!あんたそそっかしいんだから、初ちゃんにもお願いしておかなきゃ」
「わかってるってば!」
味噌汁を掻き込みながら、母の言葉に返事をする。その時、起き出してきた父親がリビングの扉を開けた。
彼は陽が起きていることに驚いて、テレビと母と陽を代わる代わる見た後、寝坊したのかと思ったよ、と笑った。全く失礼なことだと頬を膨らませて、テーブルに置かれた新聞を手に取った父にも部活のことを話す。父は明確な難色を示すことは無かったが、その心情は知れない。
「打ち込めることが出来るのはいいことだよ、ちゃんと勉強はするようにな」
痛いところを突かれたと、陽は言葉に詰まる。
学期末考査で赤点を取れば補習。その後の再考査で合格するまで、その生徒は一切の部活動を禁止される規則だ。連帯責任ではなく個人の活動の制限であるだけまだ良心的なのだろうが、人数の多い部ならまだしも、軽音部ではその影響は計り知れない。話を聞くところによると、再考査に二回落ちると親が呼び出され、三学期末の再考査では三回落ちると留年が確定するらしい。義務教育とは勝手が違う。
入学後すぐに、学力調査のためと銘打たれて一年生だけの早期考査が行われたが、陽は数学で赤点スレスレの点数を取り、危うく補習の対象になりかけた。
一方初はと言えば、勉強してないなどとぼやいていた割に全教科で九割以上の点数を取っていた。これは学年の中でかなり上の方で、掲示板に大きく貼り出された成績上位者名簿にも、しっかりと名前が載っている。当人は何とも思っていないようで、まぐれだと曖昧に笑っていた。
朝食を終えて一通りの身支度をする。早く起きたせいか、いつもより余裕があった。制服に袖を通しながら、一本前の電車に乗れてしまいそうだなと思い至って、枕元に置いた携帯を手に取る。充電器のコードを引き抜き、発信履歴から初の番号を選んで、二回押した。
三回目のコールが鳴り終わる前に、もしもし、と声がする。朝早いと言うのに、その声音には眠気の一欠片も感じられない。
「はよ!」
「おはよう陽、早いね」
「今日さ、一個前のやつで行ける?」
陽のその言葉を初は快諾して、すぐ行くから待ってて、と言って電話を切った。
陽はギターが入ったギグバッグを背負って、リュックを正面に抱えるようにして肩ベルトを腕に通す。今日はジャージが入っているから、いつもより膨らんでいる。多少不自由だが、こうする以外に思い付かない。こんなことなら肩掛けの通学鞄にすれば良かったと言う考えが、一瞬過ぎる。
軽く前髪を手櫛で梳いて、部屋を出た。
「もう行くの?」
「うん、初ももうすぐ来るって」
開け放たれていたリビングの扉から顔を出した母が、弁当箱の入った巾着袋を差し出してくる。それを受け取った時、インターホンが鳴った。ついで外から、おはようございます、と言う初の声がする。
「初ちゃんだ!」
リビングから昊が飛び出してきて、目一杯背伸びをして玄関の鍵を開けた。扉を開けた初は昊を見ると、その場に屈み込んで愛想良く笑う。母が昊を追うようにして玄関先に向かって、慣れた手付きで昊を抱き上げた。一頻りの挨拶を済ませた後、部活のことを話し出す。
「初ちゃんも軽音部に入ったって」
「ああ、はい、そうなんです」
「本当、陽のことよろしくね?あの子ちょっと抜けてるところがあるから」
「全然大丈夫だと思いますけど、ちゃんと見ときますね」
「母さん!初は俺のお守りじゃないんだから!」
母を制した陽は、先程受け取った巾着袋を右手に持ったまま靴に足を入れて、初を見上げた。
「初」
「何?」
「これ入れて、ここに」
「うん」
巾着袋を手渡すと、初は陽の胴をすっぽりと覆い隠すリュックの一番大きなポケットを開ける。ジャージと教科書の間に挟み込むようにして、しっかりと固定しているようだった。その光景をずっと見ていた母が吹き出す。
「何がお守りじゃないんだか」
「良いだろこのくらい!」
「はいはいそうね、いってらっしゃい」
家を出て、駅に向かう。初の右肩に掛かった通学鞄から、ドラムのスティックの先が四本ほど飛び出していた。何故四本なのかと問うと、予備であるらしい。
駅前は、学生よりも通勤の人々の方が多かった。時間帯のせいもあるのだろう。慌ただしく右往左往するスーツ姿の大人たちに、陽は昨日四番線で見たサラリーマンを重ねる。
あれは死んでからもずっと、ああしているのだ。何があったのかは知らないが、楽になりたいと思って電車に飛び込んだのに、その行き着くところがあれではあまりにも報われない。
ふと、初が陽の制服の裾を引く。
「陽」
「?」
「コンビニ寄っていい?ご飯買うから」
「いいよ」
新豊永駅の隣には、大手チェーンのコンビニが建っている。駅前の店舗らしく中は広々として、品揃えも申し分無かった。朝夕のラッシュ時には行列が出来るほどの賑わいを見せて、そのためにレジの数が普通の店よりも二台ほど多い。
今の時間帯はさほどでも無いようで、客は疎らに店内に散らばっていた。
「また朝飯無かったの」
「うん、部屋のドアにこれだけ貼り付けられてた」
冷蔵庫のドアの前でジュースを吟味していた初は制服のポケットから五千円札を取り出して、指に挟んでひらひらと揺らしてみせる。陽は溜息とも、怒りの発露ともつかない声を上げた。
「はあ?」
「まあ、お金貰えるだけ良いよね」
「そういう問題?」
「そういう問題だよ、……見てこれ、美味しそうじゃん」
初の手に持たれたのは、一リットルのパックだった。丸文字のフォントとデフォルメされた苺のイラストが踊っている。それと五百ミリリットルの水、菓子パンを数個持って、初はレジに向かった。店員に愛想良く袋要らないです、と告げて、定期と兼ねている電子マネーで支払いを済ませる。買ったものを鞄に詰めている初に、教科書は?と聞くと、最低限のもの以外は学校に置いていると言う。
「板書のノートだけあれば十分でしょ」
「それ頭良いやつの台詞だわ……」
言いながら改札を抜けて三番線に立つと、すぐに列車が入線する旨のアナウンスが響いた。
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