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後編
40.処罰と褒賞
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朝からプルーメのもとに呼び出されて、何事かと思えば全身をぴかぴかに磨き上げられたうえに見たこともない豪奢な白いローブを着せられて、レーネはどうして自分がこんなところにいるのかよくわからなかった。
目の前の少し開けた場所では、同じように高価そうな服を着た男が青くなったり白くなったりしていて、その横ではティノールトが静かに首を垂れている。
「以上が、西方将軍ティノールト・ヴァリエの奏上にございます」
何枚かの紙にわたって書かれていた報告を読み上げ、文官らしい男が締めくくる。少し下がって他の文官に混ざるともう見分けがつかなくなって、レーネは視線を移した。
ティノールトたちを遠巻きにするようにして、レーネやプルーメと同じように立っているのは貴族たちだろう。見たことのある顔もいる気がするが、どれが誰だか区別はつかないしどういう役職なのかも知らない。きらきらしていたり刺繍がたくさん入っていたりする服を着ているから、おそらく偉い人たちなのだと思う。
少し高くなったところには立派な椅子があって、リオヴァスが座っている。
「ティノールト・ヴァリエ、内容に嘘偽りはないか」
リオヴァスが声を発すると、一気に部屋のざわめきが静まった。文官の報告の間ですら収まらなかったひそひそ声も聞こえない。
レーネの立ち位置からは、顔を上げないままティノールトが口を開こうとしたのが見えたが、別の声が遮った。
「陛下! この者はSubにございます! DomにCommandでも使われようものなら、平然と嘘くらい」
「リーベルト・ヴァリエ」
平坦だったが威圧するには十分な声で、リオヴァスがさらにそれを遮った。プルーメのもとに来ているのとは別人ではないかと疑いたくなるほど、リオヴァスの表情は変わらない。レーたんレーたんとべたべたに甘やかしてこようとするリオヴァスを見慣れているせいで、少し怖いくらいだ。
「私はお前に尋ねていない」
ティノールトから聞いたことはなかったが、ティノールトの兄の名前はリーベルトというらしかった。ティノールトを遮って口を開いたリーベルトが、もにゃもにゃと謝罪のような言葉を並べる。
「静かに」
ぴしゃりと言われてリーベルトが押し黙る。
「ティノールト・ヴァリエ」
「……嘘偽りはございません」
ティノールトの静かな声がして、レーネはそばに駆け寄りたいのを懸命に堪えた。事前に聞かされていたとはいえ、こんなふうにティノールトが晒される必要はないはずだ。
先日、レーネが魔道具を申請した日にティノールトから聞かされたのは、ティノールトの兄が不正を働き、国家に納めるべき税金を自身のために使っている可能性がある、ということだった。提出されている領地経営報告書の内容が実情と違うような気がして、ティノールトが領地の使用人から資料を取り寄せて独自に調べていたのだという。
そこにレーネの魔道具の盗難事件が起きて、捜査の結果、それにも兄が関与している疑いがある。
ティノールト自身はその不正や盗難に一切関わっていないが、同じ伯爵家の人間として、事態を防げなかった、あるいは放置したという責任は問われるかもしれない。どういう処罰が下るかわからないが、将軍職を解かれる可能性も否定できず、ヴァリエ家自体が処分の対象になることもありえる。
そうなったときに、レーネはそれでも自分を捨てないでくれるのか、Claimしてくれるのかと不安になって、つい問いかけてしまった、というのがあの脈絡のない質問だったらしい。
そういう事情を何も知らず、レーネは単純に回答してしまったのだが、かえっていいほうに働いたようだった。おかげでティノールトが、兄の告発を予定していることをレーネたち三人に教えてくれたからだ。
「リーベルト・ヴァリエ、申すところがあれば述べよ」
「ッ……申し上げます!」
リーベルトという男の口から堰を切ったように転がり出てくる言葉を、レーネは半分聞いていなかった。人目に晒されているティノールトが心配で、ほとんど気づかれない程度のGlareを送ることしかできないのがもどかしい。
領地に関する報告書の記載に嘘はなく、実際に損益状況はあまりよくない。なんとか収益が上がるよう努力は続けているが、領民の働きが悪く成果に繋げられていない。ティノールトが提出したものはでたらめな資料に基づいており、自分の報告書こそが正しい。
だいたいそんな主張をしていることがわかれば、リーベルトのことはレーネにはどうでもよかった。ティノールトを守るために、レーネができることを探すほうが忙しい。
「リーベルト・ヴァリエ、今の言葉に嘘偽りはないか」
「ございません!」
薄くうなずいたあと、リオヴァスが口を開く。
「プルーメ」
「はい」
突然、すぐ隣のプルーメが呼ばれて、レーネはびくりと肩を跳ねさせた。安心させるように、そっとレーネに触れてからプルーメがリオヴァスのもとへ歩いていく。きれいな藤色のローブがよく似合っていて、こんな場面でなければ美しさに見とれていただろう。プルーメの首につけられている青いCollarと同じ色の瞳で、リオヴァスが見下ろしている。
「新規の魔道具の申請において、騒ぎがあったと聞いた」
「ご報告いたします」
とある魔術師が自分の開発した魔道具を申請しようとしたところ、それは自分の研究が盗まれたものだという別の魔術師が現れた。確かに双方の提出した試作機はよく似ている。申請書類に含まれている設計図で類似性や盗難の可能性を確かめようとすると、あとから現れた魔術師の書類に、助けを求める走り書きが紛れ込んでいた。受付の魔術師が緊急性を認めたため該当の魔術師を保護し、事情を聞き出したところ、家族を人質に取られて悪事を働かされているのだという。
それを受けて魔術師団で調査を進め、騎士団からも情報提供を受けて、ある貴族の名前に辿りついた。
「リーベルト・ヴァリエさまのご指示のもと、窃盗及び脅迫、監禁が行われたものと魔術師団では結論づけております」
「何をでたらめな!」
とっさにレーネは床を蹴って飛び、ふわりとプルーメとリーベルトの間に割って入った。プルーメにぶしつけなGlareを放ったリーベルトに、強いGlareを返す。プルーメなら自分で自分の身は守れたかもしれないし、リオヴァスが黙っていなかったかもしれないが、プルーメに害をなそうとするものは、ティノールトに対するのと同じくらい許せない。
「なっ……う……貴様……ティノールト! Come! 俺を守れ!」
今度は顔を歪めたティノールトのそばに飛んで、Glareを与えて抱きしめる。ティノールトはレーネのSubで、他のDomに支配させるつもりはない。
「行かなくていい。僕のそばにStay」
「……はい」
返事があったから大丈夫だろう。いい子と撫でて褒めてやって、レーネ自身はリオヴァスに向き直って礼を尽くす。
「申し訳ございません。御前を騒がせました」
「……筆頭魔術師を守った働きに免じて許す」
その言葉にもう一度、プルーメに教えられた通りの作法で頭を下げる。一応、レーネも礼儀作法を知ってはいるのだ。とても気合を入れなければいけないから、あまりやりたくないだけで。
リーベルトは部屋にいた騎士たちが取り押さえ、プルーメはリオヴァスのそばに退避している。これ以上レーネのやることもないだろう。
「レーネ」
元の場所までどうやって戻ろう、と思案していたレーネの耳に、リオヴァスの声がした。
「そこにいるように」
「……仰せの通りに」
何かまだあるらしい。リーベルトは床に押さえつけられているからこれ以上は何かできないだろうし、ティノールトのケアをリオヴァスが命じてくるとも思えない。よくわからないまま、レーネはティノールトのそばで同じように膝をついておいた。少しでもお互いに触れ合っていたほうが、レーネもティノールトも安心できる。
「処分を申し渡す」
ヴァリエ家について、一部自浄作用は認められるものの、当主による情報隠蔽、脱税、窃盗、脅迫、監禁などと、告発により酌量できる以上の罪科を重ねている。また、国王への礼を失した振る舞い、筆頭魔術師に対する同意のないGlare、この場で起こした騒ぎも含めて到底看過できない。よってヴァリエ家は廃絶するものとし、伯爵領は国家が接収する。元当主リーベルトは王国東に建設中である港湾にて労役に服すこと。ティノールトについては告発を行った事実を考慮し、将軍職には留め置く。
「ヴァリエ家については以上だ」
リオヴァスが宣言すると同時に、騎士たちがリーベルトを広間の外に連れ出していく。リーベルトが暴れても、何かをわめいても、おかまいなしだ。国王の権力というものを感じて、レーネは指先から冷えてきたような気がした。
「レーネ」
その国王に名前を呼ばれて、返事をしてから顔を上げる。
「先日の申請で、お前の開発した魔道具と魔法の累計が三百を超えたと聞いた」
そんなに作ったのか、くらいの感慨しかなかったものの周囲がざわついたので、レーネはいたたまれず身をすくめた。借金返済や自分にとって必要だったから作っただけで、さもすごいことのように発表してほしいからではない。
「よって褒美を取らせる」
褒美、という言葉にも戸惑って、レーネは目を瞬いた。言葉の意味はわかっても、魔道具や魔法をたくさん作っただけで褒める、という論理がわからない。
「今後レーネ・シャントゥ子爵を名乗ることを許す。また、旧ヴァリエ領の一部を与える」
周囲に集まっていた貴族がどよめいた。リオヴァスが何をしたいのかわからない。レーネを貴族にして領地を与えることに、リオヴァスにとってのメリットがあるのだろうか。
しかし、断れるものではない、というのはレーネにも理解できて、おずおずとリオヴァスに頭を下げるしかなかった。
「……身に余る栄光と存じます」
「励めよ」
「はい」
リオヴァスが満足げにうなずいて、ティノールトに視線を移す。
「レーネ・シャントゥは領地の経営には不慣れだ。ティノールト、補佐せよ」
「……御意」
ティノールトの返事を聞くと、リオヴァスが立ち上がった。周囲の人が一斉に頭を下げたので、慌ててレーネもそれに倣う。
この場は終わり、ということなのだろうが、レーネには自分が呼ばれた意味がやはりよくわからないままだった。
目の前の少し開けた場所では、同じように高価そうな服を着た男が青くなったり白くなったりしていて、その横ではティノールトが静かに首を垂れている。
「以上が、西方将軍ティノールト・ヴァリエの奏上にございます」
何枚かの紙にわたって書かれていた報告を読み上げ、文官らしい男が締めくくる。少し下がって他の文官に混ざるともう見分けがつかなくなって、レーネは視線を移した。
ティノールトたちを遠巻きにするようにして、レーネやプルーメと同じように立っているのは貴族たちだろう。見たことのある顔もいる気がするが、どれが誰だか区別はつかないしどういう役職なのかも知らない。きらきらしていたり刺繍がたくさん入っていたりする服を着ているから、おそらく偉い人たちなのだと思う。
少し高くなったところには立派な椅子があって、リオヴァスが座っている。
「ティノールト・ヴァリエ、内容に嘘偽りはないか」
リオヴァスが声を発すると、一気に部屋のざわめきが静まった。文官の報告の間ですら収まらなかったひそひそ声も聞こえない。
レーネの立ち位置からは、顔を上げないままティノールトが口を開こうとしたのが見えたが、別の声が遮った。
「陛下! この者はSubにございます! DomにCommandでも使われようものなら、平然と嘘くらい」
「リーベルト・ヴァリエ」
平坦だったが威圧するには十分な声で、リオヴァスがさらにそれを遮った。プルーメのもとに来ているのとは別人ではないかと疑いたくなるほど、リオヴァスの表情は変わらない。レーたんレーたんとべたべたに甘やかしてこようとするリオヴァスを見慣れているせいで、少し怖いくらいだ。
「私はお前に尋ねていない」
ティノールトから聞いたことはなかったが、ティノールトの兄の名前はリーベルトというらしかった。ティノールトを遮って口を開いたリーベルトが、もにゃもにゃと謝罪のような言葉を並べる。
「静かに」
ぴしゃりと言われてリーベルトが押し黙る。
「ティノールト・ヴァリエ」
「……嘘偽りはございません」
ティノールトの静かな声がして、レーネはそばに駆け寄りたいのを懸命に堪えた。事前に聞かされていたとはいえ、こんなふうにティノールトが晒される必要はないはずだ。
先日、レーネが魔道具を申請した日にティノールトから聞かされたのは、ティノールトの兄が不正を働き、国家に納めるべき税金を自身のために使っている可能性がある、ということだった。提出されている領地経営報告書の内容が実情と違うような気がして、ティノールトが領地の使用人から資料を取り寄せて独自に調べていたのだという。
そこにレーネの魔道具の盗難事件が起きて、捜査の結果、それにも兄が関与している疑いがある。
ティノールト自身はその不正や盗難に一切関わっていないが、同じ伯爵家の人間として、事態を防げなかった、あるいは放置したという責任は問われるかもしれない。どういう処罰が下るかわからないが、将軍職を解かれる可能性も否定できず、ヴァリエ家自体が処分の対象になることもありえる。
そうなったときに、レーネはそれでも自分を捨てないでくれるのか、Claimしてくれるのかと不安になって、つい問いかけてしまった、というのがあの脈絡のない質問だったらしい。
そういう事情を何も知らず、レーネは単純に回答してしまったのだが、かえっていいほうに働いたようだった。おかげでティノールトが、兄の告発を予定していることをレーネたち三人に教えてくれたからだ。
「リーベルト・ヴァリエ、申すところがあれば述べよ」
「ッ……申し上げます!」
リーベルトという男の口から堰を切ったように転がり出てくる言葉を、レーネは半分聞いていなかった。人目に晒されているティノールトが心配で、ほとんど気づかれない程度のGlareを送ることしかできないのがもどかしい。
領地に関する報告書の記載に嘘はなく、実際に損益状況はあまりよくない。なんとか収益が上がるよう努力は続けているが、領民の働きが悪く成果に繋げられていない。ティノールトが提出したものはでたらめな資料に基づいており、自分の報告書こそが正しい。
だいたいそんな主張をしていることがわかれば、リーベルトのことはレーネにはどうでもよかった。ティノールトを守るために、レーネができることを探すほうが忙しい。
「リーベルト・ヴァリエ、今の言葉に嘘偽りはないか」
「ございません!」
薄くうなずいたあと、リオヴァスが口を開く。
「プルーメ」
「はい」
突然、すぐ隣のプルーメが呼ばれて、レーネはびくりと肩を跳ねさせた。安心させるように、そっとレーネに触れてからプルーメがリオヴァスのもとへ歩いていく。きれいな藤色のローブがよく似合っていて、こんな場面でなければ美しさに見とれていただろう。プルーメの首につけられている青いCollarと同じ色の瞳で、リオヴァスが見下ろしている。
「新規の魔道具の申請において、騒ぎがあったと聞いた」
「ご報告いたします」
とある魔術師が自分の開発した魔道具を申請しようとしたところ、それは自分の研究が盗まれたものだという別の魔術師が現れた。確かに双方の提出した試作機はよく似ている。申請書類に含まれている設計図で類似性や盗難の可能性を確かめようとすると、あとから現れた魔術師の書類に、助けを求める走り書きが紛れ込んでいた。受付の魔術師が緊急性を認めたため該当の魔術師を保護し、事情を聞き出したところ、家族を人質に取られて悪事を働かされているのだという。
それを受けて魔術師団で調査を進め、騎士団からも情報提供を受けて、ある貴族の名前に辿りついた。
「リーベルト・ヴァリエさまのご指示のもと、窃盗及び脅迫、監禁が行われたものと魔術師団では結論づけております」
「何をでたらめな!」
とっさにレーネは床を蹴って飛び、ふわりとプルーメとリーベルトの間に割って入った。プルーメにぶしつけなGlareを放ったリーベルトに、強いGlareを返す。プルーメなら自分で自分の身は守れたかもしれないし、リオヴァスが黙っていなかったかもしれないが、プルーメに害をなそうとするものは、ティノールトに対するのと同じくらい許せない。
「なっ……う……貴様……ティノールト! Come! 俺を守れ!」
今度は顔を歪めたティノールトのそばに飛んで、Glareを与えて抱きしめる。ティノールトはレーネのSubで、他のDomに支配させるつもりはない。
「行かなくていい。僕のそばにStay」
「……はい」
返事があったから大丈夫だろう。いい子と撫でて褒めてやって、レーネ自身はリオヴァスに向き直って礼を尽くす。
「申し訳ございません。御前を騒がせました」
「……筆頭魔術師を守った働きに免じて許す」
その言葉にもう一度、プルーメに教えられた通りの作法で頭を下げる。一応、レーネも礼儀作法を知ってはいるのだ。とても気合を入れなければいけないから、あまりやりたくないだけで。
リーベルトは部屋にいた騎士たちが取り押さえ、プルーメはリオヴァスのそばに退避している。これ以上レーネのやることもないだろう。
「レーネ」
元の場所までどうやって戻ろう、と思案していたレーネの耳に、リオヴァスの声がした。
「そこにいるように」
「……仰せの通りに」
何かまだあるらしい。リーベルトは床に押さえつけられているからこれ以上は何かできないだろうし、ティノールトのケアをリオヴァスが命じてくるとも思えない。よくわからないまま、レーネはティノールトのそばで同じように膝をついておいた。少しでもお互いに触れ合っていたほうが、レーネもティノールトも安心できる。
「処分を申し渡す」
ヴァリエ家について、一部自浄作用は認められるものの、当主による情報隠蔽、脱税、窃盗、脅迫、監禁などと、告発により酌量できる以上の罪科を重ねている。また、国王への礼を失した振る舞い、筆頭魔術師に対する同意のないGlare、この場で起こした騒ぎも含めて到底看過できない。よってヴァリエ家は廃絶するものとし、伯爵領は国家が接収する。元当主リーベルトは王国東に建設中である港湾にて労役に服すこと。ティノールトについては告発を行った事実を考慮し、将軍職には留め置く。
「ヴァリエ家については以上だ」
リオヴァスが宣言すると同時に、騎士たちがリーベルトを広間の外に連れ出していく。リーベルトが暴れても、何かをわめいても、おかまいなしだ。国王の権力というものを感じて、レーネは指先から冷えてきたような気がした。
「レーネ」
その国王に名前を呼ばれて、返事をしてから顔を上げる。
「先日の申請で、お前の開発した魔道具と魔法の累計が三百を超えたと聞いた」
そんなに作ったのか、くらいの感慨しかなかったものの周囲がざわついたので、レーネはいたたまれず身をすくめた。借金返済や自分にとって必要だったから作っただけで、さもすごいことのように発表してほしいからではない。
「よって褒美を取らせる」
褒美、という言葉にも戸惑って、レーネは目を瞬いた。言葉の意味はわかっても、魔道具や魔法をたくさん作っただけで褒める、という論理がわからない。
「今後レーネ・シャントゥ子爵を名乗ることを許す。また、旧ヴァリエ領の一部を与える」
周囲に集まっていた貴族がどよめいた。リオヴァスが何をしたいのかわからない。レーネを貴族にして領地を与えることに、リオヴァスにとってのメリットがあるのだろうか。
しかし、断れるものではない、というのはレーネにも理解できて、おずおずとリオヴァスに頭を下げるしかなかった。
「……身に余る栄光と存じます」
「励めよ」
「はい」
リオヴァスが満足げにうなずいて、ティノールトに視線を移す。
「レーネ・シャントゥは領地の経営には不慣れだ。ティノールト、補佐せよ」
「……御意」
ティノールトの返事を聞くと、リオヴァスが立ち上がった。周囲の人が一斉に頭を下げたので、慌ててレーネもそれに倣う。
この場は終わり、ということなのだろうが、レーネには自分が呼ばれた意味がやはりよくわからないままだった。
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