君の幸せを祈っている

phyr

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28.手練手管

「っ……」

 後ろにいるヴィセオにぐり、と頭を押しつけて、ラジレはヴィセオの腕を強く握った。ただ、いくら身悶えても、ラジレはヴィセオの手の中だ。
 ヴィセオの前に座らされて、背中を預けるように言われた。素肌で触れ合うことに羞恥はあったが、どのようにしたらいいかわからないラジレは、ヴィセオの言う通りに動くしかない。その体勢で足を開かされ、性器に手を伸ばされて擦られるなどと想像もしていなかった。

「ん、っ、ヴィ、セオ……っ」

 本来なら他人に触れられるような場所ではないし、露わにするようなところでもない。ラジレ自身、あまり自分で触れたこともない。

「ラジレ、そういう時は何て言うか、教えただろ?」

 性器だけではなくて、空いた手でラジレの体のあちこちに触れ、撫でさすりながら、ヴィセオがラジレに言葉をねだる。

「イ、く、ヴィセオ、イ、きそ……」

 この感覚になったら、イきそう、ということらしい。

「ん」
「あ、っァ、ぁ……!」

 手の動きが速くなって、ラジレは二度目の精を放った。もたれかかるラジレを撫で、ヴィセオが耳元に唇を寄せてくる。

「気持ちよかったな、ラジレ」

 貞淑の誓いは正しい、とぼんやり考え、ラジレはヴィセオの声で意識を引き戻した。
 こんな快楽を知っては、人は堕落する。

「ヴィセオ……」
「うん?」

 しかし相手は魔王なのだから、人を堕落させもするかもしれない。
 自分を抱えている男にすり、と頬を寄せて、ラジレは小さく笑みを浮かべた。
 神官としてあるまじき行為をしているが、ラジレはすでに神官とは言えないし、罪深いことのはずなのに、心は満たされる。元々神官に向いていなかったのかもしれない、とすら思って、少しおかしくなったのだ。

「お前は、いいのか」

 そうしてラジレを堕落させ、心を満たしてくれる男に向かって、問いかけた。

「……ずっと、当たっている」

 ラジレもヴィセオもともに裸で、ラジレはヴィセオの腕の中に抱え込まれている。必然、ラジレの尻にヴィセオの屹立したものが当たり続けることになる。
 ラジレはヴィセオの手によって二度ほどイっているが、ヴィセオはまだ一度も出していない。

「……ラジレ、こっち向いて」

 言われるままヴィセオに向き直って、ラジレは目を瞬いた。じっとラジレを見つめている男は、珍しく無表情だ。ヴィセオは、必要のない時には喜怒哀楽をはっきり顔に出すはずだが、今は表情を消している。

「……ご馳走か」

 思い至って、ラジレは苦笑した。
 本当なら今すぐにでも喰らいつきたい相手を目の前にして、欲望を抑えるために、全力で自身を押し込めている。
 そうまでして守られていることに胸は温かくなるが、ラジレは壊れ物というわけでもない。

「ヴィセオ、ちゃんと、教えてくれ」

 自分から、深いものは自信がなかったので唇を触れ合わせるだけだが口づけて、ラジレは緑の瞳と視線を合わせた。

「何をそんなに躊躇っている?」

 行動は緩いわりに、しっかりとラジレの体を抱き寄せて、肌を撫でたり、尻を揉んだりと、いささかいやらしいことはやめないのだから、その気がないというわけでもないだろう。

「……お前に嫌われるの、やだなーって……」

 ただ、口づけたり、抱きついたり、ラジレが思いつく程度の甘え方で引き出した答えは、よくわからないものだった。

「……私が嫌がることをするのか?」
「いや……わからない。嫌がるかもしれないし、許してくれるかもしれない」

 ばつが悪そうな顔で、そのくせ不埒な手つきでラジレの体を撫で回し、甘い疼きを呼び起こしてくるヴィセオが、よくわからない。

「……ヴィセオ、教えて」

 聞いてから判断しよう、と即座に決めて、ラジレはもう一つ、甘え方の手札を使った。

「……おいで」

 ヴィセオはどうやら、ラジレが子どもの頃のような言葉遣いをするのが好きらしい。いかがなものかと思わなくもないが、子ども相手には優しいヴィセオのことだし、気が緩むのかもしれない。

 素直に、ヴィセオに体を乗せるようにしてくっついたラジレの背中を撫で、ヴィセオの手が下りていってむにむにと尻を揉んでくる。それがいかがわしい行為なのはラジレにも理解できているが、不快でもない。素肌をさらしたり、口づけをしたり、普段のラジレであれば許せないはずの数々の行為が、ヴィセオ相手ではなし崩しになってしまう。
 だからヴィセオがすることで嫌なことはないだろう、と思っていたラジレは、身を強張らせた。

「……ここに、挿れたい」

 性行為が、男性器を女性器に挿入し、子孫を作る仕組みなのはラジレも知ってはいた。概要的な理解であって、具体的なことは何一つ知らなかったから、ヴィセオの問いには知らないと答えたが。それに、同性同士で子は生せないし、男女の営みがどう置き換わるのか、想像もできなかった。

「……二つ」

 すりすりと、遠慮なくそこに指で触れてくるヴィセオを好きにさせつつも、ラジレはぶに、とその頬を引っ張った。目線で続きを促してくるが、ヴィセオはラジレの体をまさぐる手を止めない。

「……衛生的じゃない」
「人間同士ならいろいろ準備がいるが、俺はその辺り無視できる」

 ミミズのようなおぞましいあれや、自在に動く蔦を出していたのと同じように、魔法によってどうとでもなるらしい。人が思っているより、魔族の使う魔法はもっと自由なものなのかもしれない。

「入らない」
「そのままはな。だから慣らす必要があるし、潤滑剤もいる」

 慣らす、とは異物を受け入れることに慣れさせる、ということだろうか。そもそも不要なものを排泄するための場所なので、入れようとすること自体がおかしいのではなかろうか。
 しかし、潤滑剤、とヴィセオが当然のように口にしたということは、同性同士で行為をするならば、それが普通なのかもしれない。

「……そこまでして……」
「俺は貞淑も誓ってないし、今は魔王だし、欲望を優先する」

 うなじを掴まれて引き寄せられ、ラジレはヴィセオに口づけられた。後頭部を撫でられながら口腔を貪られると、体に力が入らなくなっていく。

「ヴィセオ……」
「今日の今日で挿れるのは無理だろうし、今日は慣らすだけ。痛くないよ、気持ちよくなるだけだ」

 とろんと見つめるラジレに甘く囁いて、ヴィセオが腰を撫でてくる。
 元々魔王らしいところがあったのではなかろうか、と思いつつ、ラジレはヴィセオに体を預けた。

「……教えて、ヴィセオ」
「ん」

 ぬるりとした感触にラジレは眉をひそめたが、すぐに口づけで絡め取られて、そちらに意識を傾けた。
 体内に侵入してきた異物感を味わうより、教えられたキスに溺れるほうがよほど気持ちいい。

「ふ……っ、ぁ……」

 経験がないから、ラジレにはヴィセオのキスを他と比べることはできない。教えられたことと、自分の考えを合わせて受け入れ、応えるだけだ。
 ただ、時折後ろをいじる指が意識に引っかかって、気を取られてしまう。

「ん……っ」
「少し我慢な」

 指がいくらか強引に動いて、ラジレはヴィセオにしがみついた。
 痛みはないが、気持ちよくなるだけというのは嘘ではないか。抗議しようと顔を上げて、ラジレはまた身を強張らせた。

「ちゃんと気持ちいいだろ?」

 口づけとも、体に触れられた時とも、性器を擦られた時とも違う。

「っ、あ……っ」

 ヴィセオの指が、掠るように動くだけで今までとは違う感覚が走る。

「ヴィ、セオ……っ」
「……大丈夫だから」

 そう言われて撫でられると、戸惑いも不安も消えて、落ちつかされてしまう。

「気持ちいいだけだよ、ラジレ」

 これも快感なのだと、導かれて紐づけられて、ラジレは震えながらヴィセオに縋った。初めは、はっきりと名づけられないような微かなものでしかなかったのに、言葉にされてからは明確にラジレの思考を絡め取ってくる。
 体の中に、こんなふうに触れられて気持ちいい場所があるものなのだろうか。

「大丈夫、男ならだいたい、ここ気持ちいいから」

 じわじわと、体に力が入らなくなりながら考える。

「……他の、誰かも、そうだった……?」

 ラジレは、ヴィセオしか知らない。
 けれど、ヴィセオもそうとは限らない。

「……魔王の知識。俺自身は、ラジレ以外の男は抱いたことないからわからない」

 苦笑したヴィセオに撫でられて、ラジレはそっと息を漏らした。中をいじりながらも、ヴィセオが宥めるように撫でたり、口づけたりしてくれる。

「お前だけだよ」
「……う、ん……っ」

 そう言った後に指を大きく開くのは、いかがなものか。いつのまにか、指も増えている。慣らすだけとは言っていたが、こんなふうに拡げられるとは聞いていない。
 震えて睨むラジレを、また口づけや愛撫でヴィセオが宥めてくる。

「挿れたいって言っただろ?」
「ひ、ろげっ……ぁ、う……っ」

 拡げなければ入らないことは、言われてみればわかる。ただ、拡げるなんて聞いていない、と言いたくても、ヴィセオの指が動くと体がぞくぞくして、まともに会話ができない。
 浅い息でしがみつくラジレを、ヴィセオが口づけで甘やかしてくる。

「ん、ん……」
「……ラジレ、もうちょっと頑張ろうな」

 問う余裕もなく視線だけ向けると、ヴィセオの縦に裂けた瞳孔の瞳が、じっとラジレを捉えていた。

「……もっと、見たくなった」
「……な、にを」

 ずる、と指を抜かれて、体が震える。
 入れない、つもりのはずだが、どうするのだろう。

「俺の、花嫁」

 ベッドの上に横たえられて、ラジレは無意識に眉をひそめた。
 ヴィセオのまとう空気が、かなり、普段と違う。

「ヴィセオ……?」
「……悪い、今、かなり魔王かも」

 噛みつくような、キスだった。
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