君の幸せを祈っている

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29.願い事

 魔王、というものについて、女神ヒュリネ、あるいはそれに属するものを滅ぼしたがっている存在、とラジレは理解していた。だからこそ、女神ヒュリネを信奉する人々を侵略せんと攻撃し、女神ヒュリネの坐すダルヒス湖へ向けて進撃しようとする。
 ただ、その情念が、別の存在に向かったらどうなるか。

「ッ……!」

 ぐちぐちと体内をいじられ続け、性器からはもう何も出ない。
 その状態で何度イくという感覚を味わったか、ラジレは数えていなかった。もう少し正確に言えば、そこまで思考を結ぶ余裕がない。

「気持ちよかったな、ラジレ」

 一度のけぞった体をぐったりとベッドに沈めたラジレに口づけ、ヴィセオが甘い声音で労うように撫でてくる。

「ぁ、ぁ……っ」

 その刺激ですら、浮かびかけたまともな思考を、白い靄の中に沈めていく。

「ああ、すぐ触ったら辛いか」

 口ではそう言いつつ、ヴィセオはラジレを抱きしめて横になった。その腕の中で、ラジレがびくびくと震えている。明確な愛撫でなくても、今のラジレには全て、大きすぎる熱情だ。

 そろそろやめておいたほうがいいか、と思いつつ、ヴィセオはじっと視線でラジレを舐め回していた。
 自分が魔王として強大な力を持っている自覚はあり、ただの人間であるラジレが、耐えきれるとは思っていない。もし子種を注げば、毒にすらなるかもしれない。
 それでも、恋というものを自覚する前から思い定めていた相手を手の中にして、欲を抑えきるのも難しい。本人も、それに応えようと、受け入れようとしてくれるからなおさらだ。
 髪に口づけを落として、そのわずかな身動ぎも刺激になったのか、ラジレが震えたのでまた大人しくする。

 今日の目的は、十分に達した、と思う。ラジレの後孔はきちんとヴィセオの指を飲み込んで、柔軟に広がるようになった。そればかりか、後ろで快楽を拾うこともできていたから、何回か教え込めば、後ろだけでイけるようになるかもしれない。

「……可愛いな、ラジレ」

 ヴィセオ自身にも自覚はなかったが、子どもの頃から、ヴィセオはラジレを仕込んでいたらしかった。ヴィセオが大丈夫と言いながら撫でてやればラジレが落ちつくのは、その一つだ。
 ラジレがそれに気づいているかわからないが、どちらにせよ、従順に反応してくれるのが可愛くて堪らない。
 その学習性が色事にも発揮されるなら、ラジレはヴィセオが教え込む通りの、素直で淫らな魔王の伴侶になるだろう。

 ひとまずはそろそろ眠らせてやらなければ、とヴィセオが視線を外すと、ラジレがわずかに動いた。
 すぐに顔を戻したヴィセオを、まだ少し茫洋とした目で見つめている。

「悪い、無理させた」

 触れるだけの口づけを受け入れて、柔らかく、笑みを浮かべている。
 それだけで、可愛い。

「……ヴィセオ」

 少し掠れた声になっているのは、散々喘がせたからだろう。もぞもぞとぎこちなく動いて、ヴィセオに抱きついてくる。
 それがヴィセオを喜ばせる行為だと、おそらく、ラジレも理解している。

「……お前は、満足、できたのか」

 尋ねられて一瞬動きを止めたヴィセオを撫でて、ラジレはそっと体を離した。

「……すまない、私では不足だったか」
「そんなはずないだろ、こっちが何年お前狙ってたと思ってるんだ」

 言った後に顔を逸らした相手に笑って、ラジレはもう一度ヴィセオを撫でた。視線だけ戻ってきてくれたヴィセオに、どう伝えれば的確なのか言葉を探して、伝える。

「……ヴィセオ、私は、愛玩動物ではない」

 魔王とただの人間を比べれば、愛玩動物に近いかもしれない。ヴィセオがその気になれば、ラジレは次の瞬間、頭と体が離れ離れになっていても不思議ではない。
 ヴィセオはそうしないとわかっているが、ラジレは、そうされても別に構わない、とも思っていた。

「お前の隣に立つものだ」

 ただ、ヴィセオが自分を伴侶としているうちは、たとえ聖法も魔法も使えず、ヴィセオのためにできることが何もなかったとしても、傍にいる。人類の敵だと罵られようが、攻撃されようが、揺るぎなくヴィセオを守るものとして傍に居続ける。

 それくらいの覚悟は、持っている。

 顔の向きを戻したヴィセオに、教えられたばかりの拙い口づけで触れて、子どものように額を合わせる。

「……私は、お前の喜ぶ顔が見たいんだ、ヴィセオ」
「……俺、魔王だぞ」

 一瞬虚を突かれて、ラジレは小さく笑いを漏らした。

「私は、魔王の花嫁だ」

 今度は、ヴィセオが苦笑する。

「お前、結構頑固だよな……」
「それも含めて私を愛せ。魔王だろう」
「魔王かそうじゃないかって問題じゃないだろう、それ」

 軽口を叩き合いながら、ヴィセオがラジレの上に覆いかぶさり、下腹部を撫でる。

「魔法使っていいか」
「どういう?」
「……全部気持ちよくなるやつ?」

 ラジレは明確に眉をひそめた。

「……痛いかもしれないから」

 弁明するように口にして、ヴィセオはラジレの体の荊をなぞった。それだけで、ラジレの体が浮き立っていく。

「慣らしたけど、たぶん突っ込めばまだ痛い。散々俺がイかせた後だし、しんどいと思う。だから、全部快感に変えられるように、魔法かけたい」

 ラジレはヴィセオをじっと見上げて、ため息を漏らした。方法はいかがなものかと思うが、ヴィセオが約束した、痛くないよ、という言葉は達成されるのだろう。
 表情を曇らせたヴィセオに手を伸ばして、ぶに、と頬を引っ張る。

「いいよ」

 ヴィセオがぱっと顔を明るくして、ラジレの下腹部に触れ、何かが伝わってくることだけはラジレにもわかった。
 遅れて、ヴィセオに触れられているところが重く疼く。熱っぽい息を漏らしたラジレの手を導いて、ヴィセオが自分に抱きつかせる。

「掴まってて。爪立てて、いいから」

 その声だけで、体の力が抜けそうになる。

 喋るな、ばか。

 普段なら思い浮かべもしない悪態をついて、ラジレは必死でヴィセオに縋った。足に触れられるだけで、ぞくぞくと頭が痺れる。宛がわれたものの熱さに、吐息が漏れる。

「ッ……!」

 入ってきた衝撃だけでイきそうになって、ラジレはかろうじて耐えた。もう、イったとしても何も出ないが。
 ラジレが爪を立てたのに反応して、ヴィセオが、動きを止める。

「痛いか」
「……早く」

 囁くように、手短に答えたラジレに応え、ヴィセオが腰を押し進める。
 ばちばちと、頭の中で何かが弾けるようだった。

「ぁあァ……!」

 全部気持ちよくなる、というヴィセオの言葉から推測するなら、おそらくこの行為は、結構な痛みと苦しみに襲われるのだろう。それが全て快楽に変換されて、ラジレの思考を焼き切ろうとしている。

「ヴィセオ……っ」
「……大丈夫だから、ラジレ」

 ぐちゅ、と押し込まれる言葉とともに恐怖が安堵に変わり、ずるずると引き抜かれるのに合わせて、ラジレが取り繕ってきたものも剥がれ落ちていく。

「ヴィセ、オ……ッ」

 翻弄されながらも見上げて、大事な、緑の瞳にねだる。

「……いっしょに、いたい」

 律動を行っていたヴィセオが動きを止めて、ラジレの目元を拭った。

「ああ……一緒に、いよう」

 ラジレが表情を緩めたのを確認して、ヴィセオが動きを再開する。

「あ、ァ、ア……!」

 与えられる快楽にほとんど抗えなくなっていたラジレは、すぐに呑み込まれていった。

 それを十分確信してから、ラジレをイかせて、ヴィセオは素早く自身を引き抜いた。寸前で引きずり出されたものは、荊の体に白い液体をぶちまける。

「……っぶね……」

 思わずこぼして、ヴィセオはやれやれとラジレを撫でた。すでに魔法は解除しており、何より、ラジレは疲れ果てて眠りに落ちている。

 魔王の子種など植えつければ、人間であるラジレには毒になるかもしれない。ぎりぎりまで体を繋げていたから、多少はラジレを苦しめることになっていたかもしれないが、本人の意識があるうちは魔法で快楽にすり替えられていたはずだ。残りは、負担をかけるようだがラジレの回復力に委ねるしかない。
 今までの魔王の記憶から、魔王に犯されて死んだ人間と死ななかった人間がいることはわかっている。ただ、条件までは誰も調べていないし、人間が一人死んだところで、誰も気にしていない。ヴィセオにとっても、他人の記憶なので過去の話だ。
 ただ、ヴィセオにとってたった一人のラジレを実験台にするつもりはない。その他のどうでもいい一人に手を出せば、たぶんラジレに浮気とみなされるし、その危険を冒す気もなかった。他の方法で確かめるにしろ、実験のタイミングは今ではない。

 魔王と化してから便利に使えるようになった魔法で、ラジレの体を綺麗にする。起きていたら、誰にも見られずに体を清められる場所を欲しがるだろうから、風呂場は早めに確保したい。
 少し考えて、ヴィセオはラジレに服を着せず、そのまま布団をかけておいた。神官をやめたとはいっても、すぐに今までの習慣や意識を変えられるものではない。素肌を隠す手段がなければ、ラジレはベッドから出たがらないはずだ。そもそも、全裸でうろつくタイプでもないが。

 脱ぎ捨てた装備を整え、ヴィセオはベッドに腰かけてまたラジレを撫でた。起きる様子はないが、ヴィセオのほうにも起こすつもりはない。ひとまず、今からやることは、ラジレが眠っているうちに片づける予定だ。

 今、ヴィセオにとって本拠地と言える場所は、実のところこの寝室しかない。この部屋を出ない限りは、ヴィセオは誰にも倒せない。ただし、寝る以外の生命活動を封じられるようなものなので、引きこもっているわけにもいかない。
 そして、この部屋を出た先では、魔王になり代わったヴィセオを倒し、自分が魔王になろうという魔族が待ち構えている。負ける気はないが、そこにラジレを連れて行きたくない。守りきれる自信はあっても、危ない目に遭わせたくない気持ちは両立する。

「……ついでに手頃なやつ探そう」

 ヴィセオが傍にいてやれない間に、ラジレの話し相手になれる知性を持っていて、護衛になるだけの実力もある魔族。力で従えられれば、力で敵うと確信できるまで逆らわないのが魔族だ。今回適任が見つからなくても、見つかるまでの繋ぎにすればいい。
 ラジレがいつ起きるかわからないので、まずは寝室のあるこのフロアの掌握。
 目標を定めると、ヴィセオは眠っているラジレの額に口づけた。

「行ってきます」

 愛しい伴侶の一緒にいたいという小さな願いを叶えるために、魔王は一歩を踏み出した。
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