江戸咲く花にて

暁エネル

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別れ

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おいらは 目を覚まし 布団を いつもの様に畳んだ

荷物は 風呂敷に入れ 布団の上へ置いた





(もう ここで おいらが寝る事はない・・・ いろんな事があったなぁ~)





かまどには 水仙が もうすでに 忙しそうに 朝ご飯の用意をしていた


「水仙 おはよう」


「あっ おはよう 玄太 今日は 皆さんへ 挨拶に行きましょう」


「うん そうだね・・・ 昨日 柳田さんを待っていたんだけど 結局 おいらの所へは 来なかったよ」


「そうですか 柳田さんも 最後にやっと 気を使うという事を 学んだんですね 良かった 良かった・・・ これで 玄太も 安心して行けますね」


水仙は ひにくたっぷりに そう言った


「水仙・・・ おいら 柳田さんとは うまくいってるし 嫌いじゃないよ」


「玄太は 優し過ぎます・・・ そんな事では この先・・・ 私は 玄太が心配です それに 柳田さん達のした事は 許してはいけません」


水仙は 手を休めて そう言った


「水仙・・・ ありがとう おいらは 水仙の方が 優しい人だと思うよ」


「玄太 早くよそって 皆さんの所へ 挨拶に行きますよ」


水仙は 恥ずかしさを隠す様に そう言った






おいらと水仙は 朝ご飯を持って 大広間へ


珍しく 壮志郎さんも お侍さん達と一緒に居た


「壮志郎さん 壮志郎さんも こちらで 食べられすか」


水仙は 壮志郎さんの前に


「水仙・・・ 玄太も 朝ご飯を ここで一緒に いただきましょう」


「では 壮志郎さんのと 私達のお膳を持ってきます」




いつもなら あぐらをかき 雑談をしているお侍さん達も


壮志郎さんを前にしては 姿勢を正し 皆さん黙っていた


おいらと水仙も お膳を持って 大広間へ


「水仙 みんな揃って食べるの 初めてだね」


「そうだね 最後だから 壮志郎さんも 一緒に食べたかったのかもしれないね」


おいらと水仙は 小さな声で話た




初めて お侍さん達が勢揃いした この光景は おいらは 忘れないと思った




壮志郎さんが 立ち上がった


「皆そろっていますね これまで こんな私に 皆は 良くついてきてくれました 心からお礼を言いたい ありがとう 今日 これから 柳田と会合に行きます 皆の事は けして悪い様にはしない どうか 安心して待っていてほしい・・・ 水仙と玄太は これから ここを離れます・・・ 水仙 玄太 長い間 いろいろとありがとう 皆に 代わり お礼を言う 本当に 何度も 助けられた ありがとう これからは 自由に生きてほしい では 皆で 食べる最後の食事です 皆 本当に ありがとう いただきます」


「いただきます」



みんなが 声を揃えた



お侍さんの中には 涙している者も居た



壮志郎さんにも 笑顔が見え そうそうに 部屋を出て行き


それでも 雑談をする人は 誰も居なかった






みんなで お膳を片付けた

いつも 動かない人も 今日は 自分でお膳の片付けをしていた




おいらが 井戸に居ると 柳田さんが 声をかけてくれた


「玄太・・・」


「柳田さん」


おいらは 手を止め 立ち上がった


「玄太・・・ 玄太は その・・・ 帰るのか?」


「おいらは 水仙と一緒に行くんだ」


「そうかぁ~ 玄太・・・ 玄太を ここへ連れて来たのは かしらの指示じゃ~ねぇ~よ・・・ かしらの名誉の為に言っておく かしらは 何も知らねぇ~んだ けど・・・ スゲー 責任を感じてて・・・ でも 俺らを 責めたりしなかった かしらは そういう人なんだ・・・ 玄太は 小さかったし なおさらだ・・・ 悪かった・・・ 俺にも その・・・ 言えねぇ~事情があって・・・」


「柳田さん もういいよ・・・ なんやかんや おいら ここでの生活 楽しかったし・・・ 何も知らなかったから かえって良かったと思うよ お侍さん達とも 仲良くなれたし・・・ 柳田さんとも・・・ 柳田さん 壮志郎さんと頑張って来てね・・・」



「あぁ~ もう 俺は 腹をくくった・・・ かしらと行って来る・・・ 玄太には 世話になった・・・ 玄太に会えて 俺は 良かったよ ありがとう 玄太」


「柳田さん おいらも 柳田さんに会えて 良かった・・・ 柳田さんも 元気で」


「あぁ~ 玄太も・・・」


そう言って笑って 柳田さんは 行ってしまった

柳田さんの後ろ姿は とても 頼もしく見えた








水仙とおいら お侍さん達みんなで 壮志郎さんと柳田さんを 送り出した


「皆・・・ では いってまいります 留守を頼みます・・・ 水仙 玄太も カゴ屋さんの手配は 済んでいますから 気を付けて 行って下さい」


「はい」


「柳田・・・ かしらを頼んだぞ・・・ 道中 お気を付けて・・・」


みんなは 壮志郎さんと柳田さんに そう言って頭を下げた


「それでは いってまいります」






「さぁ~ 玄太 もうそろそろ カゴ屋さんが来ます・・・ 私は おむすびを持って来ます 玄太は 自分の荷物を・・・ 大広間のお侍さん達に 挨拶をしに行きましょう」


「うん 分かった」


おいらと水仙は 別れた





荷物と言っても おいらは 風呂敷を一つ持ち 大広間へ 

水仙は おいらを 待っていてくれた


「失礼します」


そう言って 障子を開けた



お侍さん達は おいらと水仙の顔見ると 号令もなく 一斉に 皆 姿勢を正し座った


水仙は 慣れた様に お侍さん達の前に座った


おいらは お侍さん達に 見惚れ 慌てて 水仙の隣に座った



「長い間 お世話になりました・・・ 私と玄太は ここで お別れです」


そう言って 水仙は 頭を下げた 


おいらも 水仙と同じ様に ちょっと 遅れて頭を下げた


「俺らの方こそ 世話になった」


「水仙 玄太 たっしゃでなぁ~」


「たまには 思い出してくれ」


いろんな人から 声が飛び交った


「では 皆さん お元気で」


水仙の言葉に おいらも また 頭を下げ 大広間を後にした






おいらと水仙は カゴ屋さんが来るのを待っていた


「玄太・・・ これおむすび お腹が空いたら 食べて下さい」


「ありがとう 水仙」


「道中 長いので 寝てしまうかもしれないね」


「そうなの? ねぇ~ 水仙 柳田さんには 挨拶 出来たんだけど おいら 壮志郎さんに 挨拶してないよ どうしょう」


「それなら 大丈夫・・・ 壮志郎さんも 全てが片付いたら 萬斎寺に来るはずだから」


水仙 嬉しそうに そう言った





お屋敷の前に カゴが二台 到着した


「玄太・・・ じゃ~ あとでね・・・ お願いします」


そう言って 水仙は カゴに乗り込んだ


おいらは 水仙の後ろのカゴへ


「お願いします」


おいらは ぞうりを脱ぎ カゴに乗ると カゴ屋さんは おいらのぞうりを カゴの中へ入れてくれた


カゴは 思ったよりも揺れ おいらは 中のヒモに しがみついていた






(水仙は 寝てしまうかもって 言ってたけど・・・ 寝られるどころじゃ~ない これじゃ~ おむすびも 食べられないよ・・・)






おいらは そう思いながら カゴに揺られていた



しばらくすると カゴが止まった







(どうしたんだろう・・・)







おいらのカゴが 開いた


「お客さん 乗り換えて下さい・・・」


息を切らしながら カゴ屋さんは そう言った


おいらが 外に出ると 水仙が 身体を伸ばしていた


「玄太・・・ もう一息だよ」


水仙の顔が とても嬉しそうで おいらも 元気が出た


カゴを下りたついでに 水仙とおむすびを食べ 再び カゴへと乗り込んだ





カゴが止まり 萬斎寺の着いた頃には どっぷりと日が沈んでいた


「玄太・・・ 着いたよ」


水仙の 元気な声が聞こえた


おいらが カゴから下りると 月のあかりに照らされた 長い階段が・・・


木に覆われて 途中までしか 見えなかった






(凄い高さ・・・ この上・・・)







「玄太・・・ 玄太は ゆっくりおいで・・・ 私は この上で 待っています」


そう言って 水仙は 凄い速さで 階段を上って行った



(つづく)


 
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