悠と榎本

暁エネル

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サッカー部の試合②

フィールドに選手が出て来て また中央へボールが置かれホイッスルが鳴った


お母さん方や榎本の後輩が声を出して応援していた


大塚君と榎本の傍に ピッタリと相手チームの人が居た





(あれじゃ~大塚君も榎本も 身動きが取れないんじゃ~)





僕は2人が心配でならなかった


榎本のチームが勝っているとは言え さっきみたいにスルスルとパスが通り ゴールを狙われてしまう


相手チームとのボールの取り合いが続き ボールが線から出てしまった


榎本のチームからのスローイン





(頑張れ榎本)





榎本が相手チームのマークを振り切って飛び出し 凄い速さでゴールに向かって走っていた


榎本のところにパスが回り 相手チームをうまくかわして行く





(凄い・・・ まるでボールが吸い付いているみたいだ)





榎本が思い切りボールを蹴った


蹴ったボールはゴールポストの右上に ゴールキーパーが飛びついたけれど


榎本の蹴ったボールはゴールネットを揺らし 応援して居るみんなが一斉に立ち上がった





(凄い凄い 何て言うのこういうの 僕は今凄く高揚しているんだ)





榎本はまたリストバンドをしている左手を 高々とあげていた






(僕が試合している訳じゃ~ないのに 凄く僕も気持ちがいい・・・)






(まだ油断できねぇ~ もう1点出来ればほしい 俺と隆のマークがより一層厳しくなんだろうなぁ~ でも今日は悠が見に来てるんだ 悠にカッコイイとこ見せてぇ~じゃん さっきから何だろういつもより身体が軽い)






(残りの時間は あとどれくらいあるんだろう・・・ みんな凄く苦しそうだよ)





僕は榎本を目に焼き付ける様に見ていた


またピタリと相手チームが 榎本をマークしていた


ボールは榎本から遠い所にあった


大塚君にパスが通りどんどん ゴールに向かってドリブルをして行く





(大塚君凄い)





大塚君がゴールに向かってボールを蹴った


でもそのボールは相手チームに当たり そこへ榎本が走り込んで来た


榎本は勢い余って ボールと共にゴールネットに突っ込んでいた





(榎本)




僕は声も出せず 口に手を当てて榎本を見ていた


榎本はゴールネットが絡まりもがいていた


僕は応援しているみんなの歓声が心地よかった



「な~に~あれ 正臣までゴールに入らなくても・・・」


おばさんはそう言って嬉しそうに 手をたたいて笑っていた


榎本はゆっくりとゴールネットから離れた





(ヤベ~マジカッコ悪り~ 悠に見られたよなぁ~ 勢い付け過ぎて止まれなかった)





試合は続きボールが行ったり来たりを繰り返し 長いホイッスルが鳴った


応援していたみんなが立ち上がって拍手をしていた


僕も拍手をしながら榎本を見ていた


選手のみんなが一列に並び 大塚君の号令で一礼した


試合を見ていた後輩達が思い思いに声をかけていた




「あぁ~終わっちゃったわね 悠君もお疲れ様もう少ししたら みんな戻って来るから そしたら一緒にお弁当食べようね」


「はい」






(そっか・・・ 榎本はこの試合が最後の試合だって言ってた・・・)






「悠君が見に来てくれた試合に勝てて良かったわ 正臣ねぇ~ 朝ちょっといつもと様子が違ってたのよねぇ~ お腹でも痛かったのかしらね」


おばさんはそう言って笑っていた


しばらくすると顧問の先生と選手がぞろぞろと 観客席へとやって来た


「お疲れ様~」


お母さん方が選手に拍手をして声をかけていた


顧問の先生に続いて大塚君と選手が並んで 榎本は僕から遠い1番奥へ一列に並んだ


「一同 礼」


顧問の先生の号令で選手が一礼した


「えー高い所からではありますが 少し話をしたいと思います 3年生は今日で引退となります 3年生の保護者のみなさんにはこれまで いろいろなサポートをしていただき 私の至らないところもカバーしていただき 選手一同本当に感謝しています ありがとうございました 続いてキャプテンの方から挨拶があります」


顧問の先生の話が終わり 大塚君が一歩前へ出た


「3年生は整列してくれ」


大塚君の呼び掛けに 座っていた生徒が列に並んで 選手の何人かの後輩が入れ替わりに座った





(試合に出られなかった 3年生も居たんだ)





「一同 礼」


大塚君の大きな声で3年生が頭を下げた


「俺達3年生は今日の試合をもって引退となります これまでいろいろな事がありました 俺がキャプテンになってから まぁ~キャプテンになる前もなんだけど 俺は言いたい事は言わせてもらってきました その事でチームの雰囲気が悪くなり みんなが嫌な思いをした事 それでも俺について来てくれた事 俺はこのチームみんなに支えられ ここまで来ました このチームで良かったと心からそう思います みんなありがとう・・・ このあとの事は後輩に託します 最後の試合に勝利できた事 応援してくれた後輩 お父さんやお母さん方のおかげです これまでのいろいろな応援やサポート 本当にありがとうございました」


「ありがとうございました」


3年生が一斉に声を出し みんなが拍手をした


僕の目からなぜか 涙がこぼれ落ちていた





(嫌だ僕こういうのダメだ サッカー部でもないのに・・・)





僕は下を向き目を押さえていた


「あら悠君 どうしたの?」


「何?あら高橋君」


おばさんの声と大塚君のお母さんの声が聞こえた






(あぁ~恥ずかしい・・・ 何で僕はいつもこうなんだよ)






「悠君は隆の言葉に感動しちゃったのよ 悠君は優しいから」


「うちの隆に・・・ そんな感動する事話してた?」




みんなが移動をはじめていた


僕は涙をふきながら顔を上げると 大塚君と榎本がこっちへ向かって歩いて来た


「あぁ~腹減った・・・ あれ悠どうしたの?」





(何で悠が泣いてる?)





大塚君と榎本の後ろから後輩が何人か声をかけていた


「キャプテン」


大塚君と榎本が振り返った


「俺キャプテンが褒めてくれた事忘れません」


そう言って下を向く後輩に 大塚君は頭をクシャクシャしていた


その光景を見てまた僕は涙が出た





(もう嫌だ僕 部外者なのに・・・)






「1・2年生は これから学校へ戻ります」


先生が大きな声を出して言った


「お前ら学校へ戻ってしっかり練習しろよ」


「はい」


大塚君の大きな声に後輩達が答えていた




「さすがキャプテンね」


おばさんが大塚君のお母さんにそう言って 2人は嬉しそうに笑っていた




先生がお母さん方に一礼して階段を下りて行った


後輩達も3年生それぞれ 別れを告げて階段を下りた




榎本の周りにもたくさんの後輩が来ていた


「正臣先輩 絶対にまた一緒にやりましょうね」


「あぁ~遊びに行く」


「絶対ですよ」


そう言って後輩達は榎本と離れ 手を振り階段を下りて行った


榎本が振り返り僕を見た


「悠 どうした大丈夫?」






(悠にいったい何があったんだよ)





「うん何でもないよ 大丈夫」





(あぁ~凄く恥ずかしい・・・)





僕が顔を上げると 榎本の心配そうな顔がそこにあった





(悠に話聞きてぇ~けどなぁ~)






「さぁ~お弁当食べよう 荷物取ってくるね」


おばさんがそう言って お母さん方と階段を下りて行った


後輩達も居なくなり 辺りは静まり返っていた





(あんなににぎやかだったのに ウソみたいに静かだ)





「あぁ~腹減った~」


「榎本頑張ってたからね お疲れ様」


僕はそう言って 榎本の隣に座った





(えっどんなところが・・・ 悠にどう俺は映った? そこんとこ詳しく聞きてぇ~)





いつの間にか大塚君が居なくなっていた


「お待たせ~」


おばさんの声に 僕と榎本は振り返った


さっきよりも更に人が少なくなっていた お弁当を食べず帰ってしまった人もいた





「正臣 来る時ね悠君が重いお弁当 持って来てくれたのよ」


おばさんはそう言って 僕と榎本の後ろへ座った


「あぁ~重い・・・ でも帰りは軽くなるわね・・・」


おばさんの隣に大塚君のお母さん その隣に大塚君が座り みんながまとまって座っていた


「はい 悠君おにぎり」


「ありがとうございます」


僕はおばさんから ラップに包まれたおにぎりを受け取った


「悠君 遠慮しないで食べてね」


「はい」


「母ちゃん俺にも・・・」


「正臣のはこっち・・・ 見て特大おにぎり」


そう言っておばさんは 大きなラップに包まれたおにぎりを出した


「な~にそれ」


大塚君のお母さんがラップに包まれた 特大おにぎりを持ち上げ 立ち上がりみんなに見せた


「みんな~見て~ 正臣のおにぎり」


みんなが大きな声で笑ったり 指をさしたりみんなの仲の良さが伝わってきた


榎本も少しも嫌な顔をせず あたたかな空気に包まれた


僕は部活もしていないし 団体競技のおもしろさも知らないけど


何年も一緒に過ごして来た信頼とか絆とか 僕には計り知れないものがそこにあった


僕も仲間になれた様な そんな気にもさせてくれた場所だった


そして榎本はどこにいても やっぱり人気者で話の中心になっていた


みんなのお弁当が食べ終わり 片付けをはじめていた


「悠君 お腹いっぱい食べた?」


「はい いただきました美味しかったです ごちそうさまでした」


「そう それならいいんだけど 悠君にお手伝いさせちゃったから 正臣も悠君にお礼言っときなさいね 正臣の重たいお弁当持って来てくれたの悠君だから」


そう言っておばさんは荷物を詰めていた





(悠にお礼 そんなもんいくらだって言ってやるよあとで 今は邪魔者が多すぎる・・・)





「母ちゃん フィールドバックに悠と写真撮って」


「あっそしたら 母ちゃんも悠君と撮って」





(母ちゃんもかよ・・・)





「悠こっち」


俺はみんなから悠を遠ざけた





(早く悠と2人っきりで話がしてぇ~)





僕は榎本の後ろを付いて歩いた


「母ちゃんゴールポストバックに」


「悠君もう少し正臣に近づいて」


おばさんの声に榎本は僕の肩に腕を回した


僕の心の準備が追いつかないうちに スマホのシャッターが押されてしまった


榎本からおばさんに代わり 僕は緊張したままスマホに顔を向けていた


「悠君ママにまた写真送るわね」


「いつもすいません」


「いいのよ~」


おばさんは笑顔でそう言ってくれた




「そろそろ帰るよー」


お母さん方が僕達の方へ声をかけていた


お母さん方が楽しそうに話をしながら 先に階段を下り 


僕達もあとへと続いて 僕は榎本と最後に階段を下りた





「ねぇ~榎本」


「ううん何?」


僕は前の方で楽しそうに話をしてい サッカー部の人達を見ていた


榎本も話がしたいんじゃないかと思い 僕は榎本に聞いてみた


「榎本 僕は1人で大丈夫だから 榎本もみんなとお話してきなよ」


僕はそう言いながら榎本を見た


榎本は僕に顔を近づけ小さな声でこう言った


「俺は悠の隣がいい 悠の隣に居ちゃ~ダメなの?」


僕の心臓が飛び跳ねた





(何言ってるの榎本は 僕は榎本が・・・)





僕の心臓の音がうるさくて 何も考えられなくなった





(悠の顔かわいい・・・ マジ今日は悠を誘って良かった)





悠は俺を伺う様にまた俺を見ていた





(ヤベ~マジかわいい・・・ 疲れが吹っ飛ぶなぁ~ずっと見ていてぇ~)





僕はドキドキしながら 榎本の隣を歩いた




電車に乗り列が乱れ 榎本はみんなとの会話に加わるも 僕の隣に居てくれた


途中僕に話かけてくれた人が居たけど


榎本が違和感なく僕の間に入り 僕は榎本に助けられていた





駅に着くと僕はおばさんに声をかけていた


「今日は ありがとうございました」


僕はおばさんに頭を下げた


「悠君もお疲れ様ね 気を付けて帰ってね」


「はい」


「母ちゃん俺 悠送って行く」


「そうわかった」


榎本の言葉に僕は何も言えず 榎本をただ見ていた





(榎本も疲れているのに・・・)





「じゃ~ね悠君」


おばさんは僕に手を振ってくれた するとみんなも僕と榎本に手を振ってくれた


「正臣 明日なぁ~」


「じゃ~な正臣」


「高橋もじゃ~な」


僕は小さく手を振り 榎本は大きく手を振った





(やっと悠と話せる)






「悠行こう」


「うん」


僕と榎本は歩き出した


「悠 試合どうだった?」





(悠に俺はどう映った?)





「あのね凄くドキドキした 僕がフィールドに立って試合をする訳でもないのに 僕が緊張してた ボールってあんなに飛ぶんだね凄いよ 凄い迫力だったよ みんなあんなに走っているのに まだ走れるって思ってとにかく凄かったよ」


僕はそう言って榎本を見上げた


「悠 俺は?」


僕は恥ずかしくなり下を向いた





(榎本は・・・)





「榎本 僕のあげたリストバンドしてくれてるの見て 涙が出そうなくらい嬉しかったよありがとう 榎本は凄くカッコよかった」


僕の顔が熱くなり 僕はいたたまれなくなっていた





(あぁ~恥ずかしい ここから早く居なくなりたい)





(悠の顔見てぇ~ 覗き込んだら悠は嫌がるだろうなぁ~)





榎本は それ以上は何も聞かず


僕のマンションの前まで来た


「悠 じゃ~明日」


「うん」


榎本はそう言って走り出した


「あっ榎本」


榎本は振り返ってくれた


「今日は誘ってくれてありがとう 疲れているのに送ってくれて」


榎本は笑顔で僕に手を振ってくれた





(やっぱ悠の顔覗き込んどきゃ~良かったかなぁ~失敗した・・・ でも俺見たらきっとキスしてたなぁ~)





(つづく)



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