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この世界の事情
しおりを挟む皇城に着いて早々、執事に案内されて物凄く豪華な部屋に通された。
いかにもな調度品が高そうで、スイートルームのような広さの部屋。進められて座ったソファなんか、フワフワだ。渋られながらも一緒の部屋に入れたルークは頑として座らず、私の背後に控えている。疲れていないのか心配したけれど、マスク付き笑顔で否定された。
因みにギルバート皇子とその騎士達は、大広間のような玄関ホール?で、無表情の執事に託して何処かへ行ってしまった。多分、着替えと報告か何かなのだろう。
ルークはあの時以来、多少ぎこちなくはあるけれど何か吹っ切ったのか、私に誠意を見せてくれようとしているのが分かる。なんだろう、距離とか仕草とか、言葉もそう。それが素直に嬉しい。
それにこうして背後に控えて立っていられると、美しさも相俟ってまるでお伽話で姫を護る騎士のようだ。僭越ながら私がお姫様の立ち位置である。こっそりニヤニヤが止まらない。
そう言えばルークの礼儀作法とか、そういうのは親御さんから教えてもらったんだろうか? ギルバート皇子と比べても(不遜な態度はともかく、所作は綺麗だった)、遜色ない気がしたし。少なくとも独学で学んだ訳ではなさそう。
案内してくれた執事が、流れる動作でお茶を入れてくれて目の前に出してくれた。プチフールも添えてある。
私がそれに手を出さず、上目遣いでジッと執事を見つめると、少し目が泳いでからルークの分も追加してくれた。
「ありがとうございます」
満面の笑みで御礼を言うと、目を見開いて半歩後ろに下がってから、直ぐに態勢を立て直して何事も無かったようにまた無表情になった。
そうか、こんな人も反応するのか。
お茶を頂きながら、そっと周りを観察する。私の向かいにあるテーブル近くに控える執事と、入り口のドア右に侍従が2人。執事と比べると此方をチラチラ見て頬を染めているあたり、まだまだという感じ。
当然2人とも男だ。こういう場合、執事はいるとしても残りは普通侍女だよね? 男性のメイドもいるの?あ、男性だから侍従? いや、男女差別してる訳じゃないんだけども。
この流れでいくと、ラノベならドレスに着替えて偉い人と謁見ーーな感じだと思うんだけど。着替えとかする時に手伝ってくれるのも、まさか侍従じゃないよね……? 絶対嫌なんだけど。
コンコンコン。
ノックがして、「失礼いたします」と3人ほど人が入ってきた。40代くらいの男性達と30代くらいの……女性!!この世界に来て初めて逢う女性!!
栗色の髪をアップにして、膨らみの少ない、けれどセンスの良いドレスを纏っている。身に付けているネックレスも、宝石はそれ程大きくないのに繊細で肌に透けるようだ。
私から見てそこそこ美人さんという事は、この世界では普通の容姿の女性。少しぽっちゃりしているけれど、男性達に向ける笑顔がとても愛らしくて素敵!笑顔を受ける男性達も、目を細めて愛しそうに見詰めていた。
この3人が親密なのは見て取れる。
こちらに目を向けた女性が一歩進み出ると、スカートを軽く摘んで綺麗なカテーシーを見せてくれた。それに倣うように後ろの男性2人も深く一礼をする。
「初めてお目にかかります、稀人様。
私の名はイヴリン・ウィングフィールド、この度稀人様のお世話係を拝命致しました。色々至らぬ点もあるかとは思いますが、どうぞ宜しくお願い致します」
頭を上げると同時に、柔らかな笑みを浮かべる。人の良さが滲み出るとは、この事を言うのだろう。子どもや動物に好かれ、友達も沢山いそうだ。
「初めまして、ミレイ・渡辺と言います。こちらこそよろしくお願いします。あの、私まだ状況がイマイチ読めていないので、説明して頂けると嬉しいのですが」
私の言葉をニコニコと聞いていたイヴリンが、『説明』という言葉に反応して男性達に目配せをする。
流れるような歩みでイヴリンさんが私の側に立つ。一瞬ルークに目を向けたような気がするけど、表情は変えないまま男性達に促した。
「初めまして、私はクリストファー・ウィングフィールド。コレは弟のグレゴリー。共にイヴリンの夫になります」
眩しそうに私を見詰めながら、男性の1人が話を始める。しかし私はその言葉に衝撃を受けていた。
……女性が少ないのかな?とはなんとなく思ってた。美醜感覚も私から見たら変だし、異世界に来てしまったのだから仕方ないって受け入れなきゃって思ってはいたけど。
まさかの一妻多夫制!
……いや、女性が少ないのなら必然的にそうなるの?
ギルバート皇子が希少だと喜んでいた意味がジワジワと頭の中を占めてくる。だけど認めたくない自分がいて、軽く混乱した。
クリストファーさんが話を続ける。
「なんとなくお察しかとは思いますが……わが国だけでなく大陸全土において、女性は希少な存在となっております。ですから女性が生まれるとまず国に届け出る事が義務付けられております。その後家族中で守り大切に育てられ、一方男は『女性は敬い護る者』だときつく言われて育ちます。
そして将来的には、複数の夫を持って家族を形成することになるのです。
夫の数は最低でも2人、私が知っている中で多い方は6人の方もいますね。
唯一の例外は皇帝陛下で、陛下には皇后陛下がお2人いらっしゃいます。ここまでは宜しいでしょうか?」
ろ、6人?! お、夫が6人……。
一体どう夫婦を形成しているのか興味が湧くほどに、私の中では想定外の話だった。凄い……。凄いのか?
少なくとも私は1人の人を好きになったら浮気はしないーーと言うか出来ない。その人でいっぱいいっぱいだから、他の人を気にする余裕なんて無いからだ。それとも、一人一人に対する気持ちが軽いのだろうか?でもイヴリンさんを見る限り、そんな風には見えない。
……まさか、私にも強制されないよね?しろって言われても、平等になんて無理だし偏るなんて他の人に悪いし。って言うかやっぱりこの話するからには、私も関わってくるんだよね……。
思わず俯いて溜息が出る。
「ミレイ様……」
後ろからルークが声を掛けてくる。見上げると目が心配の色を帯びていた。そんなルークに大丈夫だと示すように微笑んでみせて、前を向き直した。
ダメだ、ルークに心配させるなんて。しっかりしないと!
先を促すようにクリストファーさんを見ると、静かに頷いて話を続けた。
「先の稀人様も、この世界の理に慣れるのに大変苦労されたと聞き及んでおります。今代の稀人様におかれましても、どうぞ違和感がございましたら何なりと仰って下さい。私の知る範囲ででしたら答えさせて頂きます」
「ありがとうございます。分からない事がありましたら存分に質問させて貰いますね」
私の返事に、クリストファーさんが優しそうな笑みを浮かべて頷いた。
年齢的に私より年上の方に敬語を使われると、めちゃくちゃ緊張する……。イヴリンさんもそうだけど。
ルークやギルバート皇子は何となくまだ年近そうだったから良かったし、付いてきてた騎士達は会話しなかったからな。
「それでは早速ですが皇帝陛下に謁見して頂きます。私達が案内致しますので、どうぞ」
イヴリンさんが笑顔でスッと私に手を差し伸べてエスコートする。
あれ? ここも男性じゃないのね。もしかしたらこの世界は、男性じゃなくて女性がリーダーシップとってるのかな?
特に問題無い気がしたのでイヴリンさんの手を取る。そうして歩き始めてからルークを振り返った。
ルークは頷いて、その場を動かない。流石にいきなり皇帝の前に連れて行くのは不味いだろうか。
「ルーク、私が戻ってくるまでここに居てね? 絶対よ?」
嬉しそうに更に頷くルーク。私は手を引かれて歩きながら、更に続けた。
「私が居ない間に誰かに虐められたら、ちゃんと言うのよ?!
絶対にここに戻ってくるからね?」
私の重ねた言葉に一瞬固まってから、ルークは肩を揺らして笑いを堪えながら何度も頷いた。
ここまで言えば、多分大丈夫。ついでに執事と侍従にも釘を刺す。
「私が戻ってくるまでの間、ルークをくれぐれもよろしくお願いしますね?」
にっこり笑ってみせて、暗に強迫しておく。皆さん即座に頷いてくれたので、ヨシ。
さて、気を引き締めて行きますか!
背筋を伸ばして、前を向く。私の表情を見たイヴリンさんが、軽く驚いてそれから微笑むと、開かれたドアを2人でゆっくりと潜った。
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