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謁見と最初のお願い

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「異界より遥々ようこそ参られた、稀人殿!
 おお、ギルバートに聞いてはいたがこれ程とは!皆が色めき立つのも頷ける」

 私が謁見の間と呼ばれるレッドカーペットの敷かれた部屋に扉を開かれて入った途端、目の前にいた煌びやかなおじ様が、満面の笑みで私に両手握手していた。

 な、何?!

 いきなりの事に引いていると、更にハグするべく両手を広げられた。

 ペシン!
 ……とっても良い音。

 おじ様が頭を叩かれ、襟首を掴まれてそのまま後ろに引きずられて行く。そうして一段高くなった、これまた豪奢な椅子に、放り投げるように座らされた。
 ……位置からして、このおじ様が皇帝らしい。

 皇帝を引きずった女性が、少々皇帝に睨みを効かせながらその隣の一段低い席に座った。皇帝を挟んだ反対側の席には、大人しそうな女性が座ったまま2人にオロオロしている。

 ドレスの豪華さ、装飾品の宝石いしの大きさ、更に異世界美人3点セット持ちなのでこのお2人が皇后陛下なのだろう。皇帝の顔は普通の顔なので、ギルバート皇子はお母さん似らしい。どちらの息子かは知らないけど。

「……いきなりの無礼、大変失礼致しました。ようこそエスファハンへ。我が国は稀人様を歓迎致しますわ」

 皇后陛下のうち銀髪のどちらかと言えばやや切れ長ツリ目気味の女性(皇帝引きずった方)が、私に向かって深くカテーシーをした。続けて金髪切れ長タレ目のもう1人の女性も、ゆっくりカテーシーをしてくれる。
 もっと気位の高い人を想像していただけに、どちらの皇后陛下も好意的な笑顔だったので少しホッとした。
 ……皇帝陛下にはビックリしたけどね。

「儂は歓迎の意を示したかったのだがーーやはり女性には失礼だったか。稀人殿、驚かせて済まなかったな。
 エスファハン皇国皇帝、アーノルド・エスファハンだ」

 最初だけ近所のおじさんっぽかったが、名乗ると貫禄が見えてくる。年齢は多分40代くらい。金髪碧眼の持ち主で、笑顔が可愛らしくなる。年上の男性に可愛いは失礼かな。
 銀髪の皇后陛下はコーネリア、金髪の皇后陛下はシャルロットと名乗ってくれた。同じく40代くらいで見た目は……だけど仕草や所作が優雅なので高貴な生まれの女性という感じ。全く違和感はない。

 私も頭を下げながら自己紹介した後、何処からか椅子が運ばれてきたのでそれに座らせて頂く。
 いつの間にかイヴリンさん達は、背後の扉の所に控えて立っていた。


「大陸全体の女性が希少となり、嫁不足であると言う話は聞いたか?」

 アーノルド陛下がニコニコと私を見詰めて問いかける。
 嫁不足?

「は、はい……ここにいる前にいた世界は男女ほぼ半々だったと思うので、変な感じですが」

「先代の稀人殿もそう言っておられた。……儂らには想像も出来んがな。
 さて、稀人は滞在する国に、富と繁栄をもたらすと言われておる。
 エスファハン先先代の皇后は運良く稀人であったのだが、姫を多く輩出しその知識で我が国は豊かになった。今代の稀人殿も出来れば我が国に滞在し、婚姻を結んで貰えると嬉しい」

 『富と繁栄をもたらす』なんて何処ぞの神様みたい。私知識チートも無ければ、姉妹ばかりの家系でもないのに。
 そんな事で私は期待されてるの?

「あの、先先代の皇后陛下が素晴らしい人だったのは分かりましたが、私に先先代の皇后陛下程の知識があるとも思えません。
 もしかしたら、不妊かもしれないし……」

 口籠もって俯いた私の手を、そっと包み込む暖かい手があった。顔を上げるとシャルロット様が側まで来ていて、私に手を重ねていた。優しい笑顔が向けられる。

「もし、万が一稀人様に子どもが臨めなくとも、貴女様はそこに居るだけで良いのですよ。
 女性は男性にとっての生きる希望であり、癒しなのですから」

 シャルロット様の口調からも、女性が神格化されてるのが分かる。
 アーノルド陛下がウンウンと肯定していたけど、隣のコーネリア様に「余計な事言って! 稀人様のお気が変わられたらどうなさるおつもり?!」とコッソリ叱られ、やっぱりパシンと叩かれていた。

 えーっと。
 私が稀人で国民になるかもしれないと言う気安さから、そういうお姿をお見せ下さってるんですよね? 他国の人がいたら、お二人共凛々しい王族なんですよね?

 まるで夫婦漫才のボケとツッコミを見せられているようで、ちょっと不安になる。
 急に「ふふふ」と控えめな笑い声がしてそちらを見ると、シャルロット皇后陛下が2人を微笑ましそうに見詰めていた。

「仲がお悪そうに見えるけれど、お二人は想いあってらっしゃるのよ? コーネリア様が恥ずかしがり屋なだけで、本当はとてもお優しくていらっしゃるから」

 先程助けて頂いた時点で、コーネリア皇后様がちゃんとした方だと言うのはよく分かっている。ただ想いあっているかどうかを推し量るのは、第三者の私には荷が重い。
 多分コーネリア様はツンデレ属性なんだろう。
 アーノルド陛下の天然はーー流石に一国を統べているのだから、養殖が混じっている可能性がある。飄々としてても裏の顔とかありそうだし。
 腹の探り合いとかあるんだろうなぁ。

 暫くして漸くコーネリア様の気が収まったのか、説教を受けてきたアーノルド陛下がこちらを向き直る。シャルロット様も立ち上がってポンポンと私の肩を叩くと席に戻っていった。
 コホンと軽く咳払いをしてから、口火を切った。

「まぁその話はおいおい考えて貰うとして。
 稀人が大陸に召喚された際、世界に披露せねばならぬという決まりがあってな。稀人殿には申し訳ないのだが、1ヶ月後にこのラバンで稀人殿の披露宴を行う。それには各国の要人や、王家に連なる者が妃として娶りたいと大量に押し寄せてくることになるだろうから、その心つもりでいて欲しい」

 お見合い? 皇家公認のお見合い大会になるの?!
 考えただけでもグッタリする。スルーしたいけどこの世界にいる稀人である以上、逃げられないんだろう。

 逃避したくなって、ふと思い出す。
 そうだ! この機会にルークの事お願いすれば、聞き入れてもらえるんじゃ?!

 居住まいを正すと、正面からアーノルド陛下を見詰める。私の表情に真剣さを見たのか、片方の眉を上げた。

「皇帝陛下に、1つお願いがあります」

「何だ? 稀人殿を保護する国としては、出来る限り願いを叶えてやりたいが」

「『召喚の森の管理人』であるルークを、私にください。そして彼を私の専属護衛騎士にして頂きたいのです」

 ガタン!

 驚きの余り椅子から立ち上がったアーノルド陛下は、キョトンとする皇后様達に見詰められて我に返ったらしい。
 後ろ手に椅子を確認して座りなおすと、落ち着かないように眼を瞬かせる。よほどの不意打ちだったらしい。

「どうされたのです、陛下。
 稀人様がお気に召した者ならば、召し上げて護衛の任務に就かせるなど、容易いではありませんか」

「コニー、それはそうなのだが……」

 いまいち歯切れの悪いアーノルド陛下に、推してくれたコーネリア様も不思議そうに小首を傾げている。シャルロット様が立ち上がってアーノルド陛下の背中をさすり、落ち着かせようとしていた。

「ロッティ……。
 稀人殿、申し訳ないがこの願いは少し考えさせては貰えないか?  周囲への根回しもある、一両日には答えを出そう」

 シャルロット様の手を取りつつ、アーノルド陛下が眉を潜めて答えた。
 明らかに嫌そうだけど、ここは引けない。

「それでは、答えを頂くまで間、ルークに私と共に滞在する許可を下さい」

「やつは、ルークはこの城にいるのか?!」

「私が強引に連れてきました」

 譲る気のない私と、狼狽するアーノルド陛下。暫く無言のせめぎ合いがありーーアーノルド陛下が折れた。

「仕方あるまい、『召喚の森の管理人』の滞在を許可しよう……」

 絞り出すようなアーノルド陛下の声が、苦渋の選択である事を物語っている。
 小さく首を振ってグッタリ椅子に崩れた。

 そんなに美形は受け入れられない訳?拒否反応が出る程、ルークの容姿は酷い扱いなの?!
 釈然としないながらも、取り敢えず言質は取れたので良しとする!

 すっかり疲れたアーノルド陛下が終わりを告げたので、謁見は終了。
 去り際にコーネリア様とシャルロット様からお茶会のお誘いも快く了承し、私は部屋を出てルークの下へ戻る。なんだったらちょっと小走りになってる。

 ルーク、待ってて。
 絶対に貴方の立場、改善してみせるからね!
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